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青春の刺激物

「お、おお! おおー? おぅ……ぉー!」


王子がやばい。30分前から「お」しか発してない。

おれはほら、身分が低いから言えないんだけど、婚約者の刃丞はツッコめよと思ってる。


「うーん? これは可愛いけどセクシーさがないわね。太って見えるし」


その刃丞は自分の屋敷のサロンでリラックスしながら触手ちゃんに縛られていた。

今日は王子が来てるから部屋の壁に護衛がいていつもと違うのにすごいよおまえは。

屋敷のメイドさんに大きい姿見もニ枚も用意させるやる気ぶりだ。


「着てる服によるんじゃね、ないです?」

「ああーたしかに。胸の上が見えてるドレスならこの圧迫具合がいい感じに見えるかも」


王子たちがいるから言葉遣いがちょっと面倒くさいが趣味が似通ってるので同志として「第二回触手ちゃんしばり研究会」に参加してる。あと王子だからね、断れないよね。


すごく真面目な顔で始めたからか、護衛たちも無反応である。


いまは刃丞を直立させて両手を祈るようなポーズで、触手ちゃんも三つ編みみたいにデザインして縛ってる。このままちょっと浮かせてたら「神秘的ー!」ってはしゃぐ予定なのだが、刃丞のこだわりがすごい。


二の腕はシンプルに結んだほうがいいかなぁ。いやいや、肩周りのデザインを変えたらセクシーさが……とか色々やってみてると王子がフラフラ近づいてきた。


「ローズマリー、苦しくはないのか……?」


なんかちょっと涙目なんだけど大丈夫か。恐怖なのか興奮なのか、目元は赤いのに顔色が青白いぞ。

それでも縛られている令嬢を心配してるのがさすが紳士だ。


「ふふっご安心なさって。メルも加減しているので全く苦痛はございませんの」

「そうか……」


か細い声で返事をした王子が、足取りもあやうい感じでソファにどさりと座るのでこっちが心配になってきた。

手で顔を覆って俯いてる王子に刃丞と顔を見合わせ、触手ちゃんをいったん消して服を整えてる。


「お加減が悪くなりまして?」

「お茶などご用意いたしますか……?」


ソファの両端にしゃがみ込み両方から声をかける。

手をはずし、床を見つめた王子がぽつりとこぼした。


「……刺激がつよすぎた」


プリンスフェイスから鼻血。

一瞬目を見開いた刃丞だったが、すぐにハンカチを取り出して優しく王子の鼻を抑える。手慣れているのは前世で女子の介抱をよくやってたからなのを、おれは知ってる。


「レキサ殿下、外の空気を吸ってはいかがでしょうか」

「でしたらサロンの外に景色がよい涼しいガゼボがございますわ」


いつの間にかそばにいた護衛の人がいうと、刃丞がメイドさんに案内するように指示をだした。

サロンからつづく庭へ王子たちが去ったのでおれと刃丞もなんとなくティーテーブルに座る。メイドさんがササッとお茶の用意を済まし、心得たようにティーテーブルから遠い扉で待機してくれる。


「想像よりも純情な方だわ」

「モテメンだと思ってたけどあの感じ、好感が持てる」

「前世だったら友達になってるわね」

「いまは婚約者だけどな」


ぷふー! ちっちゃく笑い合って紅茶を飲む。

ピチチ……と小鳥の声が聞こえてなごやかな時間だ。


「あの感じなら、年明けのイベントいけそうだな」

「一回目の聖女選択ね、わたくしを選んでくれるのを祈るわ」


年明けに王城で新年の祝がある。

そこで現状、聖女候補はどちらが相応しいか攻略対象者がアンケートを取られるらしい。ゲーム画面を知らないおれたちはどうやって選ばれるのかを字面でしか知らない。


唯一プレイして知識のあるウィステリア先輩にくわしく聞きに行かなければなと思ってるうちにもうすぐ冬だ。


「そのまえに聖夜祭ね」

「冬季試験の結果次第ではヒロインをやいやい言えるけど?」

「翔義、ありえない未来を語るのはムダというものよ」

「おまえ……」


清々しいな。


「聖夜祭、うちにくる? いつも通りパーティーの予定よ」

「んー……考えておく」


聖夜祭はいわゆるクリスマスみたいなものだ。刃丞のところでは毎年パーティーを開いている。


この国の冬は雪が降る。とくにおれの地元ではフワフワの雪がしっかり降るので、お父様はそのまえに帰るって言ってた。お母様がおひとりで心配だからおれもそれに賛成。


おれは夏とは違って王都に残ることにした。帰省したら雪で王都に戻って来られないし、なにより年末年始にはヒロインにイベントがかなり用意されてるから。王子とヒロインになんかあったらやばいので、刃丞とガードしていこうなって話し合ったんだ。


「気が向いたらいらっしゃい。招待状は渡しておくから」

「さんきゅー」


小声で話ていると王子が戻ってくるのが見えた。鼻血は止まったみたいだが、調子はどうだろうか?


触手ちゃんのおしりのしばり研究はまた今度がよさそうだなと、おれは立ち上がりながら考えていた。

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