勇者絶対条件 一章 安価な命と再生 二話「再生者 壱」
こんにちは、含水茶吹です。
今回初めての前後編です。
長すぎるので、二つに分けただけですが最後まで読んでいただけるとありがたいです。
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俺こと、三滝兼政は面倒ごとに巻き込まれたらしく、小鳥遊華蓮という少女を俺の元で匿う事になってしまった。
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俺はいろいろあり入院していたのだが一晩のうちに勝手に治され、退院させられた。
その副産物というか、なんというか。
その帰りに華蓮という居候がついてきた。
その上、華蓮と抱き合わせセットなのか、否か、送迎の車が用意されていた。
それに俺はただただ茫然と立ち尽くしていると、
「初めまして。君が三滝兼政君かい?」
と、連とした声が耳に入り、その方向へ体を向けるとスーツをしっかりと、着こなした二十代前半だろうか、とても頼れそうな顔だちの女性が立っていた。
「…あの、反田さんに手紙をもらったんですが、あなたって、もしかして…」
「はい、反田上官の命によって、今日からあなたの身の回りを手伝わせていただくことになりました、『クナイ』と申します」
俺の戸惑ったような質問に軽い礼をしてとても爽やかな笑顔で『クナイ』とその女性は名乗った。
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そこから間もなく、俺と華蓮はされるがまま、成すがまま、流されるままで車に乗せられ、自宅方面に輸送されていた。
「あ、あのそんなに固くならなくていいんじゃないですかね…」
そんな状況にカチカチに固まる俺たちを見て、さすがのクナイさんも先ほどの爽やかさを失い、困ったように苦笑いを見せた。
「イエイエ、ソンナオカマイナク」
俺は出来るだけ、そんな素振りを見せないように返したのだが、
「そんな棒読みじゃ、完全に白を切れてないのがバレバレになりますよ」
と、完全にばれていた。
それもそうだ知らない人に、あれしろこうしろと言われた挙句、自宅がバレ、その知らない人の仲間に輸送されているのだから、緊張や警戒をしない訳がない。
むしろ、居るのならその人を同じ状態にしてぜひ見てみたいものだ。
そんな固まる俺たちをを乗せた車が俺の自宅へと排気ガスを排出しながら行動を走り抜けていく。
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そんなこんなで、自宅につき、クナイさんを乗せていた車はクナイさんを置いてどっかに走り去っていった。
という事は、当然、反田さんの話し通りになるという事だった。
「それでは改めて、これから、三滝家の家事やその他の手伝いをさせていただく、クナイと申します。どうぞ何なりとお申し付けください」
クナイさんは、そういってビシィッ、と敬礼を決めた。
さすが本職の敬礼だといいたいところだが、どうしたことか、そんなことを言いたい気がしない。
そもそも、いろいろありすぎて頭が現状に着いていけないというのに更に変なことっが降りかかった所為で、もはや何が何だかの俺は、ひとまず、
「あの、クナイさん。とっても言いにくいんですけど、今日は一旦帰って、明日からきてください」
と、何なりと、と言われたので何なりと、命令したのだが。
「申し訳ございません、それは出来ません。私情も込めて、その命令は丁重にお断りしたいと言う意向です」
と、威圧感たっぷりの断り方をされた。
それに、私情も込みで。
「…そうですか…。ならいったん上がって、リビングのソファーでゆっくりしてください」
「ありがとうございます」
とりあえず、もう俺は全体的に折れなければならなかった。
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前回までの緊張感都かはどこ吹く風、なぜか俺はお茶を用意して、クナイさんと普通に話していた。
「そうなんですよ、あの反田の野郎、他人をこき使いやがって…」
「あはは」
普通、と言っても色々種類はあり、この場合の普通とは会話がまともに成立していることを指している。
そう、現在僕はクナイさんの上司に対する愚痴をただ聞くだけだった。
「聞いてくださいよ、反田の野郎、この仕事がなかったらアイツがやんなきゃならない書類を処理しなきゃならなかったんですよ?」
「それはひどいですね…」
それにしても話を聞けば聞くほど、反田一という人物が浮き上がってくるも、あまりに多様な面が見えてくるせいでわからなくなっていく。
やはり最初に感じた、掴みどころのない飄々とした感覚そのままの人物らしい。
だが、そういったモノが浮かび上がっていてもわかることが一つあった。
それは彼がトンデモなくダメな人だという事であった。
そして改めて、変なものに目をつけられた、と認識した。
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そこからまた少し達、クナイさんは一通り愚痴を言い終わり、
「失礼しました。其れでは現状のお話をさせていただきます」
と取り直す。
先ほどの空気など無かったかのように、詰めたい空気が流れ始めた。
「これからか話すことは、あなたの隣にいる、小鳥遊華蓮ちゃんに関係している話しであり、あなたへの商談でもあります。そして、国家の機密事項でもあることを肝に銘じておくことです。まぁ、それほど、難しい話ではないと思います」
クナイさんは少し緩い表情で話す。
おそらく、変に真面目に話せば話すほど難しく聞こえてしまうような話なのだろう。
「…わかりました。そのお話聞かせてください」
それを理解し、追いつけていない思考を追いつかせるため、俺はソレに肯定した。
今、俺が置かれている状態、そして、小鳥遊華蓮という存在の正体。
俺はソレを知らなければならなかった。
「…それでは、話しましょう。長い話にはなりますが、これから起こることを引き受けるとすれば、こんな説明些細な時間と思えてくることでしょうから」
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「それではまず、小鳥遊華蓮ちゃんについての事です。反田上官の手紙を読んだはずなので、言葉だけは知っていると思いますが、彼女は一度死にそして、突如蘇るように出現した人間を超えた存在、『再生者』です。彼等は二年前に第一発見が報告され、今ではその数を着々と伸ばしています。死者が蘇るというだけでも相当ぶっ飛んだ話だとは思うのですが、彼等はもっとぶっ飛んだ存在でした。彼等は人間の数十倍の筋力、臓器の機能、骨格の強度、自然治癒力、五感を保有しており、それに加え、『特殊能力』を持っています。その特殊能力というのはわかりやすく言うと、発火能力、念動力、念話、発電能力、気体操作など、俗に言う、超能力というやつです。あなたの銃創を完治させたのも、治癒強化という特殊能力を持った私たちの仲間が直したものなんです。それに、私もその『再生者』なんで…」
そういって、掲げた手の平から、ボゥ、と火がでた。
「こんな感じに私の場合、発火能力だったりと、それぞれ、各々に能力が違うんです。その個人差についてはそれにそんなぶっ飛んだ存在が目の前にいてもそれなりに安心感を持てるように努力すれば、普通の人間と何ら変わりなく生活することもできる。だから、そこまで驚く事じゃない。そう思ってくれると『再生者』も何も心配せず暮らせると私は思います。例えるなら、すごい特殊な隠し芸を持つ人くらいの感覚が近いと思います。
で、『再生者』についてはこんなもんだと思うけど、どうでしょうか?」
そういって、一度、クナイさんは紅茶を飲んだ。
「…そうですね、なんというか、クナイさんの能力を見せてくれたおかげというか、何となく、そういうものがいるってことが分かりました。でも、やっぱり、そういうものはわかっていても受け入れられないというか…」
クナイさんはコトンとグラスを置き、こう言った。
「私自身死んだって理解してるのですが、こうして今、生きているときと何ら変わらない状態でこの世にいることはどうも納得していないところがあります」
それは、クナイさん自身も、俺と同じ場所に立っていると、言う事を示していた。
「ですから、それを受け止めていくことから始めましょう。華蓮ちゃんも、わかりましたか?」
「う、うん…」
華蓮はわかっているのか、いないのか。
それとも話についていっけてないのか、曖昧な返事をした。
それを聞き、苦笑いをしてクナイさんは話を続け始めた。
「それでは、『再生者』を取り巻く状況について話していきましょう。私含め、彼等は現在総人口八十億人に対し、まだ九十万人と少なく感じるかもしれませんが、結構、確認されているだけでもいるのです。実際、確認されていない方もいるので、九十万人は優に超えているでしょう。ですが、私たちのような部隊、『再生者による犯罪対策課』のような連中が存在するという事は、『再生者』全てが私のように何とか生活しているわけではないという事を言葉に出さなくても理解していただけるでしょう。物によりますが、その異質な特殊能力などの実験に捕らえられ、非人道的な凄惨な研究をされている方や、そんな実験場から逃げ出そうと人を殺したりする方、人間世界に馴染めずに差別を受ける方、意味もなく殺害される方、上げるだけでもまだまだあります。そして、犯罪を起こす再生者の存在です。私たちの部隊が発足した理由は『再生者』の取り巻く環境の改善、彼等が悪に落ち、またはその性質によって引き起こされる犯罪へ対策のために存在します。犯罪者が『再生者』として再び世界に出ることだって少なくはありません。その中でも、『蘇者教』という、宗教的犯罪グループの存在です。奴らは通常の人間も含まれた、『再生者』を神様として見ている集団です。奴等はとにかくトップの意に従わなければ残虐な殺害を行う、狂っている集団です。そいつらのせいで、私たちの仲間もたくさん亡くなりました。私も何度も殺されかけましたからね。奴らのイカれ方は相当なものですよ。それに彼等は無駄に高い科学力を持っています。『再生者』は基本、毒などは効かないのですが、『再生者』に訊く、特殊な毒を開発したりしています。そして、特に奴らのおそろしいところは、奴らの信徒の数です。わかっている人数、殺害した人数含め、八百万人は少なくとも存在します。総信徒数と言えばおそらく、それの四倍の三千八百万人は少なくともいるでしょう。そういった犯罪者や犯罪集団に対抗する特殊組織こそが我々、『再生者による犯罪対策課』です。三滝くん、君を撃った人物、というかは、そうなってしまた経緯にもそれはつながります。あなたを撃った人物も再生者なんですよ。確か彼の能力は探知能力でした。例えばカーナビでコンビニを検索して、点々とそこを回るような、そんな内容の能力だったはずです。その時、彼が追っていたのは犯罪を犯した小さな少女の『再生者』でした。彼はその少女を追っているうちに、あなたと出会ってしまい…。今のようになってしまいました。そういった経緯であなたはこうなり、私という存在が配属されたという事です。
少し難解な説明になってしまいましたが、要するに『再生者』はまだ存在と祖手の地位を確立できていないという事、そして、犯罪を犯す『再生者』が存在するという事です。
お分かり頂けたでしょうか。」
そういってクナイさんはコトンと紅茶をほんの少しだけ飲み置いた。
おそらく、一段落着く旅に何かを口ん含みただる性質なのだろう。
クナイさんはふぅとため息を吐き、目を瞑った。
俺はそんな姿を見ながら、クナイさんに質問する。
「現状はわかりました。ですが、なんでそんな話を俺にするんですか?」
それは素朴な、そして根幹に対する疑問だった。
それに対して、クナイさんは目を開き、先ほどの少し緩い表情を取り外したように、真面目な表情に変わる。
「それはですね、いまから話そうと思っていたんですよ」
そして、一つ間を置き、
「商談、と行きましょうか」
そう言って、俺と華蓮を見つめた。