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勇者絶対条件 一章 安価な命と再生 (完全版)

こんにちは、含水茶吹です。

一章のまとめです。

良ければ読んでください。

   プロローグ


 人間は個が弱い生き物だ。

 すぐ、その本分を見失う。

 唯一、個として識別するためのアイテムである『名前』ですらもすぐ変えることのできてしまう。

 それでは人間は何を本分を見失うことの無いようにするための指針にすればよいのだろうか。

 そもそも、人間の本分とは何なのだろうか。

 それすらもわからないとなると、滑稽な話であるのだが、どうしても我々、人間には大きな課題が課されているのである。

 生物としては種を増やし、繁栄させることに本来の姿があるのだが、唯一、感情がある人間にはもう一つ、姿があることを忘れているのだ。

 感情がある故に、それを持て余すが故に、命が有限だと知るが故に、死を恐れるが故に、死後のことを考えれるが故に。

 だから、思い出さなくてはいけない。

 本来の姿を、人間としての姿を。

 それが人間に課された課題なのである。

 課題という言葉を使ったのはそれをもうクリアした人間がいるからだ。

 人はそれを英雄やら、ヒーローやら、勇者と呼んでいる。

 彼らの出した答えはそれぞれ違う。

 形も出し方も人それぞれだ。

 人を殺すことによって出す人もいれば、人を救うことによって出す人もいる。

 そして、彼らは一つの答えにたどり着く。

 それは救ったモノと切り捨てたモノの矛盾による絶望なのだ。

 そして、ここから始まる物語は一人の少年が一つの少女と出会い、その絶望に辿り着くだけの簡単な話だ。

 一人は何かを捨てる選択をし、一つは水に映る月を取ろうとするかの如く無謀を働き、一人と一つは絶望のムコウへと行こうとする、そんな物語だ。

 絶望をして、人間の本来の姿を見る、いや、その本来の姿になる、そういう結末が待っている、始まりと終わりが決まった物語である。



 一章 安価な命と再生



  零話 出会い

   1


 西暦20××年、四月三日。

 その日はとても寒かった。

 そんな日の夜、俺、三滝兼政(みたき かねまさ)は街を歩いていた。

 時刻は八時二十分を指し示す。

 ただ目的もなく街をぶらつくという、計画性など皆無な行動に興が乗ってしまったせいでこの時刻に至ってしまった。

 今から帰るにしてはここから家まで相当距離がある。

 まぁ、徒歩で帰れる距離なのだが。

 しかし、さすがに夕飯を食べないで徒歩で帰るにしては少しキツイ距離な訳で。

 仕方なく、ファミレスかなんかで済ませようかと行動を移した。

 俺の両親は少し変わっていて、子供について何も口を出さないという方針を取っているらしく、門限などもなく、そもそも、帰宅時間について何も言われたことが無い。

 それに両親自体、家に居ることがほとんどなく、大体、仕事でどちらも基本的に家にはいない。

 そんなこともあり、俺は家に帰るという考えがあまり無いのである。。

 だから、街をぶらつくという行動もちょっとしたノリで出来てしまう訳だが。

 それはさておき、目当てのファミレスらしき店は見当たらず、俺は気付けば小さな路地にいた。

 その路地は薄暗く、シャッターの閉まった店のような建造物が立ち並んでいた。

 やはり景色が寂れているせいなのか、そうだからこう寂れているのか、その路地には人気が一切なかった。

 しかし、俺はその路地に引き寄せられる。

 自分の身体がそうしたいと脳に命令を与えさせているかのように、俺の足はその路地の先へと歩く。

 歩いて少し経った。

 そこで俺はあるモノを見つける。

 それは一つの大きな塊。

 人に見えなくもないその塊は小さく不自然な動きをしていた。

 それこそ、先ほどに言った『人』のような。

 俺はそこに近付く。

 そこには黒い、いや、汚れて黒みががった白い毛布のようなものに包まった子供だった。

 黒く、まともに洗っていないようなぼさぼさと下長い髪、毛布のようなものの隙間から見える、白いと言えども限度を越している肌、そして、小さく漏れるように聞こえる高い吐息交じりの声。

 それらで、この子供が少女だという事が分かった。

 しかし、蹲(うずくま)っていいて、実際の身長などは定かではないが、おそらく百十から二十センチメートルほどの身長だろう。

 そんな小さな少女がどうして、こんな時間に、そんな状態で、こんな所にいるのだろうか。

 そもそも、そういう家庭があるだろうか。

 いや、そういう家庭があったとしても、外を巡回する警官やそれなりに常識のある善人、偽善者辺りが行動を起こすはずだ。

 そして、黒い毛布のようなものはともかくとして、その隙間から見える肩や足を見ると、長袖やら、長ズボンやらと言ったものを履いている様子には見えない上に、靴下や靴すらも履いていない。

 いくら少し暖かくなり始めたと言えど、四月の上旬。

 春が始まったと入っても、まだまだ冬と変わらない服装でも良いくらいの気温のはずだ。

 なのに、この少女はそんな服装どころか、夏に家でするような恰好をしているように見える。

 そんな彼女を見て俺は違和感に似た何かを覚え、

 「…ねぇ、そんなところで何をしてるんだい?」

 そう、優しく話し掛けた。

 その声に俺が彼女の眼の前にいることに気付いたのか、少女は驚いたように顔を上げ、震えていた。

 そして、小さな声で、彼女は呟く。

 「…ごめんなさい、ごめんなさい、僕が悪いです、女の子に生まれたから、お父さんが僕のことが好きじゃなかったから、生まれたから、悪いんです、僕が、ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい…………………」

 その言葉を繰り返す。

 その言葉の連続は、呟きなどではなく、自分を守る呪文の様な、相手に向かって確かに言っている言葉だった。

 そして、少女は言った。

 「お願いだから…叩かないでぇ…」

 自分の頭を守るような仕草をしながら今にも泣き出しそうな、恐怖に震える声で、その少女は言った。

 その時、俺はなんとなく察した。

 この少女は親かそれ以外の親せきからか、どちらにせよ、家庭内での理不尽極まりない暴力を受けているのだろうということを。

 俺はソレに同情した。

 そして、しゃがみ込み、少女と同じ目線になって言う。

 「酷い事はしないよ、俺は。叩かないし、君が悪いなんて、絶対に言わない」

 そういって、少女の肩に両手を優しく置く。

 そんな俺をキョトンとした表情で見て、少女は不安げに問い掛ける。

 「…本当に…、酷い事しない…?」

 その問いに俺は間など空けずに答える。

 「あぁ、俺は絶対に酷い事はしない」

 だから、と俺は言葉を繋ぐ。

 「君が安心できるように俺が君を守るよ。だから、一旦、家においでよ」

 そう言って頭を撫でた。

 少女はじっと俺の顔を見ていた。

 怖がっているような、驚いているような、どちらとも言えない表情で。

 だが―――、

 その小さい体からは震えが消えていた。

 そして、少女は言う。

 「うん」

 その声は先程とは違った。

 泣き出しそうな声でも、恐怖で震えた声でもなかった。

 安堵と戸惑いの声だった。

 そして、彼女の目にはただ期待だけが宿っていた。


  2


 彼女が俺の家に来るという事になり、その場から彼女を立ち上がらせると、案の定、まともに服を着てはいなかった。

 黒い毛布のようなものの下には下着と言っても差し支えがないような物しか来ておらず

毛布で隠されていた部分にはところどころ傷痕の様なものが見えた。

 俺はソレをできるだけ見ないように、彼女の手を引き歩き出した、その時。

 パン。

 と、渇いた音と、

 キン。

 と、鉄と地面のアスファルトが勢いよくぶつかる音が耳に付いた。

 足元を見ると、まるで銃弾のような形の物が転がっていた。

 いや、『ような』ではなかった。

 銃弾そのものだった。

 俺はこの事態を理解できずに唖然としながら、その銃弾が飛んできたであろう方向を見ると。

 そこには、一人の男が何かを構えて、立っていた。

 冷たい月明かりに照らされ、黒く、そして鈍く反射する、それは、拳銃だった。

 俺は銃なんかに詳しい訳でもなく、そもそも興味などない人間だが、ただ二つだけわかった。

 一つは、俺、またはこの少女が狙われていると言う事。

 そして、二つ目は、相手は確実に殺す気でいるという事だけだ。

 銃口の角度、そして相手から発される、腹に重しを乗っけるような殺気。

 それだけで分かった。

 だから、俺は少女を抱え一目散に男がいる方向から逃げる。

 それと同時に数発の銃声が聞こえ、俺の周りの物から火花やかけらが散る。

 ふと、ある事を俺は思い出す。

 それは一般的に拳銃は秒速四メートル台から二百メートル台の間の速度で射程が基本的に五十メートル前後だという事だ。

 要は、男から五十メートル以上、少なくとも百メートル離れれば、何とかなるという事だ。

 もっと簡単に言えば、『逃げるが勝ち』という事になる。

 自慢ではないが走ることにおいては、ちょっとした自信があるのだが。

 だが、少女を抱えながら走るとなれば状況は変わってくる。

 それでも、ここはやらなければならない。

 くだらない約束をしてしまったと思う。

 酷い事をしないと。

 そんな曖昧模糊な内容の約束をしてしまったことを少し後悔するが。

 子供には、嘘はつけないだろう。

 俺は、全力で、持てる全てを、懸けて、走る。

 そして、そして、そして。

 パン。

 その銃声が聞こえた時。

 俺に背中に冷たい物がのめり込んだ感触と、肉と欠陥がねじ切れる痛みと、骨が削られる痛みがナイフに突き刺さる。

 その痛みと衝撃で体制を崩し地面が近づく。

 俺は、少女に怪我をさせない為に倒れる身体を反転させ、少女と地面の間のクッションになるのが精一杯だった。

 そして、倒れた。

 その時、俺は撃たれたと理解した。

 かすむ意識の中、すぐそこまで近づいていた男の声だけが耳に入った。

 「任務失敗」と。


  3


 ピ、ピ、ピ、ピ、ピ…。

 電子音が耳に響く。

 朦朧とする意識の中、目を薄く開けるとぼやけた視界に白い服の人々が俺を囲んで…、

 そして、また俺の意識が途切れる。


  4


 そして、再び目を開いたのは意識が途絶え、目を覚ました時だった。

 俺はうつ伏せに寝ころがり、口元には人工呼吸器のようなものが取り付けられていた。

 天井は白く。首だけを動かして辺りを見回せば、心電図と点滴が二本吊るされていた。

 点滴から伸びるチューブは俺の右腕の肘の内側の血管に繋がっていた。

 そこで、俺は思い出す。

 俺は見覚えのない路地で少女に出会ったことを。

 俺はそこで拳銃を持った男に背中を撃たれたことを。

 少女はどこにいるんだ。

 何よりも先に俺は、彼女を探した。

 首を動かして見回す程度じゃいけない、体を起こして探すべきだ。

 そう考え身体を起こした時、

 「んぐぅッ…!?」

 背中に尋常ではない痛みが走り、またうつ伏せの体勢に戻る。

 そうだった。

 俺は背中を拳銃で。

 それは確かに痛いだろう。

 だが、それでも、俺は痛みを堪え、身体を起こす。

 そして、立ち上がる。

 意外なことに姿勢さえ、一定に保てば起き上がるときよりも痛みは少なかった。

 歩くことはたいして難しくなかった。

 確かに多少の振動だけで、背中の痛みが激しくなるが我慢できないほどではない。

 俺は点滴スタンドを杖代わりにして、それに縋るように体重を掛け、病室の外へと出た。

 そして、病室を出てすぐ、俺は呼び止められる。

 なんとも軽そうな言い方で、呼び止められる。

 「意識戻ったんですね。でも、お探しの方ならここにいませんよ」

 その声の主へと目を向けると。

 色褪せた黒いスーツを崩してきている、見た目二十歳前半の男性がそこに飄々とした態度で立っていたのだった。

 そして、その男性は俺に目を向け言った。

 「初めまして、『再生者リプレイヤーによる犯罪対策課』本部課長、反田一(たんだ はじめ)です。少しお話があるので、一旦、病室に戻って下さい。そこで話しましょう。」

 反田一と名乗った男性はそこのない作り笑いを浮かべ、浅く頭を下げた。


  5


 再び病室の場所は移り、俺は反田さんの話とやらを聞くことにした。

 「まず、この度は私共の部下が誤認であなたに発砲したこと、および、それによる傷害について、心よりお詫び申し上げます。申し訳ございませんでした。」

 まず、反田さんの第一声は、心がこもった謝罪の言葉だった。

 深々と頭を下げ、見えなくてもその表情はとても申し訳なさそうな表情をしている気がした。

 だが、俺は何も言うことは出来なかった。

 なぜなら、全てが理解できない間に始まり、勝手に進んで言った挙句、一区切り付いてしまっているのだから。

 何が悪くて、何がいいのか。

 何が問題で、何がどうされているのか。

 それすらも、わからない。

 だから、俺は何も言う事も、反応することすらも出来ない。

 ただ唖然と、今ある景色を眺めるだけだった。

 そんな僕を見兼ねてなのか否か。

 反田さんは頭を上げ、俺にこんなことを言った。

 「…、実はあなたのお探しの少女の事なんですが、この階のホールであなたを待っているんです。話をしようにも全く聞いていない様子でしたので。どうですか?」

 それは、俺が話の理解をさせるためのちょっとした箸休めのような提案だった。

 いきなり謝罪をさえれても訳が分からないだろうと、一旦、この話を有耶無耶にしておいて日を改めようという考えなのだろう。

 そんな作戦だが、俺はその作戦がただの反田さんの善意としてしか感じられなくなっていた。

 俺はそれほどまで、事態に頭が追いつけてなく、何かにすがっていたかった。

 そして、少女に言いたかった。

 『守れなくて、ごめん』、と。

 酷い事はしないと言ったのに、俺は先に倒れ、彼女を一人にしてしまった。

 見た目からして十一歳か十二歳くらいだろう。

 その年だったら、いや、その年じゃなくてもだ。

 一人取り残されるのはとてもつらい事だろう。

 それは、取り残される辛さは俺が一番『知っている』。

 だから、俺は頷いた。

 「出来るのであれば…、お願いします」


  6


 「…お兄さん?」

 俺が少女の元にやっとの思いで辿り着き、彼女が俺を見ての第一声がこれだった。

 お兄さんという呼ばれ方は少しむず痒いモノを感じたが、それよりも、彼女に言いたかったことを伝える。

 「…ゴメン、約束守れなくって…」

 俺は頭を下げることもできない身体に嫌気が差しながらも、ただその言葉を繰り返した。

 勝手に約束と思い込んでしまっていたものだが、意外にもそうではなかった。

 「ううん、お兄さんは悪くないよ。だって、僕の事、助けてくれたもん」

 そう言って、彼女は俺に近付き、年相応の笑顔で、

 「ありがとう、お兄さん」

 と、言った。

 その時、俺は救われた。

 短い時間だったが、俺のことを信じてくれたことを。

 彼女が俺を『信じていい人間』だと認めてくれたことを。

 わかったから、俺は救われた。

 「…えーと、水を差すようですが、あの、チョットした手続きをしていただけませんか?」

 と、申し訳なさそうに、反田さんを俺たちに話しかける。

 「え、あ、す、すみません。で、その、手続きって何ですか?」

 俺は疑問に思い、質問する。

 それに反田さんは飄々とした口調で答える。

 「えぇ、簡単なものですよ。私たちが原因でこうなってしまったんですから、家庭と、おそらく学生でしょうから、所属の学校に連絡するために個人データを少しだけ」

 そう言って、にこりと反田さんは笑った。

 作り笑いなのか本当に笑っているのかわからない底の見えない不気味な笑顔で。


  7


 一日が過ぎた。

 時間が過ぎるのは早いものだった。

 昨晩、病院で手続きという、書類の記入作業を終え、その後、俺の元に両親から連絡があった。ついでに高校の担任と学校の方からも連絡があった。

 現在、俺はと言うと、まだ入院していた。

 いくら、命に別状はなかったといえど、医者からは拳銃で撃たれ、肋骨にのめり込み、そこにひびが入るという大怪我としか言えない自身の状態を聞かされた。

 銃弾は手術で取り出されたというのも、今、聞いても背筋に寒気が走る。

 そんな大怪我を負った俺はもう少し入院すべきと医者に言われた。

 はずなのだが、何がどうしてか、寝て覚めると骨のヒビはすっかり治り、今日の午後の検診で異常がなければ即退院になるらしい。

 そんなこんなで、その検診まで、暇を持て余している俺の病室に、あの少女がやってきた。

 「お兄ちゃん、大丈夫?」

 「あぁ、大丈夫だよ」

 「あのね、昨日おじさんがこれ渡してって」

 そういいながら、少女はずっとその手に持っていたであろう手紙を俺にに渡してくれた。


  8


 『こんにちは、三滝兼政君。

 昨日、書いて貰った書類で名前を覚えさせてもらいましたが、また会う時にちゃんとした自己紹介をしましょう。

 それはさておき、まず謝罪の言葉を。

 先日、私共の失態により、貴方に障害を加えたこと、重ね重ねお詫び申し上げます。

 任務の誤認により、貴方を撃ってしまった私の部下を無期限の謹慎処分、そして、私はその責任を取るため、今の立場から一つ降格します。そして、貴方の怪我の治療の促進。

 私共に出来る現在の謝罪の意はこれが精一杯表明であり、これ以上、何もできない事を残念い思います。

 それでは本題に入るとしましょう。

 まずこの話に入る前に、これだけは述べておきます。

 私達の組織は政府直轄の極秘組織であること。

 私達の表の顔は警察の特別捜査班であること。

 これから話すことはすべて事実であり、現在起こっていることで貴方の身の回りに関わるであろうという事こと。

 この三つを頭に入れてこれを読んでいたいだきたいと思います。

 本題は二つあります。

 まず一つ目はあなたの現状についてです。

 あなたの周りには事件にまきこまれたと連絡しました。

 その口裏合わせのカンペのような物ですが、貴方の周囲には「貴方が現在捜査中の犯罪グループに捕まり、それを知らなかった部下がその構成員と勘違いし発砲してしまった」という事にしてあります。

 そして、貴方が気に掛ける少女については「その時ともに誘拐された身寄りのない少女」という事になって居ますが、現在、貴方の両親がその少女を家族が見つかるまで預かりたいと申し出がありましたのでそういう事にしました。

 我々も些細なことながら、色々と手伝わせていただきます。

 なんせ、ご両親との連絡で「兼政君は一人で女の子くらい面倒見れると思うからこのまま出張行くからね」と伝言を預かってしましましたので。

 では、二つ目です。

 これについては極秘事項なので他言無用という事でお願いします。

 今、恐らく貴方の目の前にいる少女がこの手紙を届けてくれているでしょう。

 彼女は人間ではありません。

 厳密に言えば、一度死んで再び不思議な力を持って甦った人間です。

 それについてはここでは細かく説明することはできませんが、私たちは彼らのことを再び生きるものという意味を込め、「再生者(リプレイヤー)」と呼んでいます。

 彼等は二年前の冬頃から遭遇報告があり、そこから一年後の冬頃から彼らによる犯罪が発生し、現在ではその件数も増え、ここ日本でも専門の部隊を創設しなければならない状態になり、私がトップに立つ「再生者による犯罪対策課」が作られました。

 貴方に危害を加えたあの日、私たちは犯罪を起こした再生者を追っていました。

 そして、その犯罪者とあなたの体格が近かった所為で貴方が狙われてしまったという事です。

 これ以上の細かい話は手紙など残るような物には記せません。

 ですので、検査が終わり帰る際、一つ目の話で言った些細な手伝いの一環で貴方達の身の回りの補助役として私の部下を配属しておきましたので、その人から話を伺っておいてください。

 ついでに言いますと、病院の前で部下の車が停まってあるはずなので、帰りはそれを利用してください。

 では、また会えることを願って。』


  9


 文面を読み終わり俺は粗方のことは理解した。

 さすがについてこれない事ばかりが書いてあったが要は俺は変なことに巻き込まれてしまったらしい。

 そして、何よりも、今目の前にいる彼女が『人間ではない事』が受け入れられない。

 理解をしても受け入れられない。

 だから、受け入れるのは後回しにした。

 彼女が人間ではないことは一旦、忘れる。

 俺は少女にふと、思い出したことを話す。

 「そういえば、自己紹介してなかったな。俺の名前は三滝兼政だ。君の名前は?」

 話というよりは質問と言った方が良い俺の問い掛けに少女は答える。

 「僕の名前はかれん、小鳥遊華蓮たかなし かれん。カネマサお兄ちゃん、は華蓮て呼んで」

 「わかったよ。俺の事も兼政だけでいいよ。お兄ちゃん呼びはちょっと嫌だから」

 そう言って、俺たちは、目線を合わせて、握手を交わした。

 「よろしくな華蓮」

 「うん、カネマサ」

 これが僕たちの出会いであり、これから全ては始まった。


  10


 俺はいろいろあり入院していたのだが一晩のうちに勝手に治され、退院させられた。

 その副産物というか、なんというか。

 その帰りに華蓮という居候がついてきた。

 その上、華蓮と抱き合わせセットなのか、否か、送迎の車が用意されていた。

 それに俺はただただ茫然と立ち尽くしていると、

 「初めまして。君が三滝兼政君かい?」

 と、連とした声が耳に入り、その方向へ体を向けるとスーツをしっかりと、着こなした二十代前半だろうか、何というか気真面目そうな雰囲気を醸(かも)し出す女性が立っていた。

 「…あの、反田さんに手紙をもらったんですが、あなたって、もしかして…」

 「はい、反田上官の命によって、今日からあなたの身の回りを手伝わせていただくことになりました、『クナイ』と申します」

 俺の戸惑ったような質問に軽い礼をしてとても爽やかな笑顔で『クナイ』とその女性は名乗った。


  11


 そこから間もなく、俺と華蓮はされるがまま、成すがまま、流されるままで車に乗せられ、自宅方面に輸送されていた。

 「あ、あのそんなに固くならなくていいんじゃないですかね…」

 そんな状況にカチカチに固まる俺たちを見て、さすがのクナイさんも先ほどの爽やかさを失い、困ったように苦笑いを見せた。

 「イエイエ、ソンナオカマイナク」

 俺は出来るだけ、そんな素振りを見せないように返したのだが、

 「そんな棒読みじゃ、完全に白を切れてないのがバレバレですよ」

 完全にばれていた。

 それもそうだ、知らない人に、あれしろこうしろと言われた挙句、自宅がバレ、その知らない人の仲間に輸送されているのだから、緊張や警戒をしない訳がない。

 むしろ、居るのならその人を同じ状態にしてぜひ見てみたいものだ。

 そんな固まる俺たちをを乗せた車が俺の自宅へと排気ガスを排出しながら行動を走り抜けていく。


 12


 そんなこんなで、自宅につき、クナイさんを乗せていた車はクナイさんを置いてどっかに走り去っていった。

 という事は、当然、反田さんの話し通りになるという事だった。

 「それでは改めて、これから、三滝家の家事やその他の手伝いをさせていただく、クナイと申します。どうぞ何なりとお申し付けください」

 クナイさんは、そういってビシィッ、と敬礼を決めた。

 さすが本職の敬礼だといいたいところだが、どうしたことか、そんなことを言いたい気がしない。

 そもそも、いろいろありすぎて頭が現状に着いていけないというのに更に変なことが降りかかった所為で、もはや何が何だかの俺は、ひとまず、

 「あの、クナイさん。とっても言いにくいんですけど、今日は一旦帰って、明日からお願いします」

 と、何なりと、と言われたので何なりと、命令したのだが。

 「申し訳ございません、それは出来ません。私情も込めて、その命令は丁重にお断りしたいと言う意向です」

 と、威圧感たっぷりの断り方をされた。

 それに、私情も込みで。

 「…そうですか…。ならいったん上がって、リビングのソファーでゆっくりしてください」

 「ありがとうございます」

 とりあえず、もう俺は全体的に折れなければならなかった。


  13


 前回までの緊張感都かはどこ吹く風、なぜか俺はお茶を用意して、クナイさんと普通に話していた。

 「そうなんですよ、あの反田の野郎、他人をこき使いやがって…」

 「あはは」

 普通、と言っても色々種類はあり、この場合の普通とは会話がまともに成立していることを指している。

 そう、現在僕はクナイさんの上司に対する愚痴をただ聞くだけだった。

 「聞いてくださいよ、反田の野郎、この仕事がなかったらアイツがやんなきゃならない書類を処理しなきゃならなかったんですよ?」

 「それはひどいですね…」

 それにしても話を聞けば聞くほど、反田一という人物が浮き上がってくるも、あまりに多様な面が見えてくるせいでわからなくなっていく。

 やはり最初に感じた、掴みどころのない飄々とした感覚そのままの人物らしい。

 だが、そういったモノが浮かび上がっていてもわかることが一つあった。

 それは彼がトンデモなくダメな人だという事であった。

 そして改めて、変なものに目をつけられた、と認識した。


  14


 そこからまた少し達、クナイさんは一通り愚痴を言い終わり、

 「失礼しました。それでは現状のお話をさせていただきます」

 と取り直す。

 先ほどの空気など無かったかのように、緊張した空気が流れ始めた。

 「これからか話すことは、あなたの隣にいる、小鳥遊華蓮ちゃんに関係している話しであり、あなたへの商談でもあります。そして、国家の機密事項でもあることを肝に銘じておくことです。まぁ、それほど、難しい話ではないと思います」

 クナイさんは少し緩い表情で話す。

 おそらく、変に真面目に話せば話すほど難しく聞こえてしまうような話なのだろう。

 「…わかりました。そのお話聞かせてください」

 それを理解し、追いつけていない思考を追いつかせるため、俺はソレに肯定した。

 今、俺が置かれている状態、そして、小鳥遊華蓮という存在の正体。

 俺はソレを知らなければならなかった。

 「…それでは、話しましょう。長い話にはなりますが、これから起こることを引き受けるとすれば、こんな説明些細な時間と思えてくることでしょうから」


  15


 「それではまず、小鳥遊華蓮ちゃんについての事です。反田上官の手紙を読んだはずなので、言葉だけは知っていると思いますが、彼女は一度死にそして、突如蘇るように出現した人間を超えた存在、『再生者』です。彼等は二年前に第一発見が報告され、今ではその数を着々と伸ばしています。死者が蘇るというだけでも相当、ぶっ飛んだ話だとは思うのですが、彼等はもっとぶっ飛んだ存在でした。彼等は人間の数十倍の筋力、臓器の機能、骨格の強度、自然治癒力、五感を有しており、それに加え、同じ『再生者』の仲間を感知することができる第六感と『特殊能力』を持っています。その特殊能力というのはわかりやすく言うと、発火能力、念動力、念話、発電能力、気体操作など、俗に言う、超能力というやつです。あなたの銃創を完治させたのも、治癒強化という特殊能力を持った私たちの仲間が直したものなんです。それに、私もその『再生者』なんで…」

 そう言って、クナイさんの掲げた手の平から、ボゥ、と火がでた。

 「こんな感じに私の場合、発火能力だったりと、それぞれ、各々に能力が違うんです。簡単に言えば、個人差ってやつがあるんですよ、ぶっ飛んだ存在の癖に。おかしな話でしょう?そんなぶっ飛んだ存在が目の前にいてもそういうことを理解して接すれば、普通の人間と何ら変わりなく生活することもできる。だから、そこまで驚く事じゃない。そう思ってくれると『再生者』も何も心配せず暮らせると私は思います。例えるなら、すごい特殊な隠し芸を持つ人くらいの感覚が近いと思います。で、『再生者』についてはこんなものだと思いますけど、どうでしょうか?」

 そういって、一度、クナイさんは紅茶を飲んだ。

 「…そうですね、なんというか、クナイさんの能力を見せてくれたおかげというか、何となく、そういうものがいるってことが分かりました。でも、やっぱり、そういうものはわかっていても受け入れられないというか…」

 クナイさんはコトンとグラスを置き、こう言った。

 「私自身死んだって理解してるのですが、こうして今、生きているときと何ら変わらない状態でこの世にいることはどうも納得していないところがあります」

 それは、クナイさん自身も、俺と同じ場所に立っていると、言う事を示していた。

 「ですから、それを受け止めていくことから始めましょう。華蓮ちゃんも、わかりましたか?」

 「う、うん…」

 華蓮はわかっているのか、いないのか。

 それとも話についていっけてないのか、曖昧な返事をした。

 それを聞き、苦笑いをしてクナイさんは話を続け始めた。

 「それでは、『再生者』を取り巻く状況について話していきましょう。私含め、彼等は現在総人口八十億人に対し、まだ九十万人と少なく感じるかもしれませんが、結構、確認されているだけでもいるのです。実際、確認されていない方もいるので、九十万人は優に超えているでしょう。ですが、私たちのような部隊、『再生者による犯罪対策課』のような連中が存在するという事は、『再生者』全てが私のように何とか生活しているわけではないという事を言葉に出さなくても理解していただけるでしょう。物によりますが、その異質な特殊能力などの実験に捕らえられ、非人道的な凄惨な研究をされている方や、そんな実験場から逃げ出そうと人を殺したりする方、人間世界に馴染めずに差別を受ける方、意味もなく殺害される方、上げるだけでもまだまだあります。そして、犯罪を起こす再生者の存在です。私たちの部隊が発足した理由は『再生者』の取り巻く環境の改善、彼等が悪に落ち、またはその『再生者』が持つ能力を使い、引き起こされる犯罪へ対策のために存在します。犯罪者が『再生者』として再び、世界に現れることだって、少なくはありません。その中でも、『蘇者教(そしゃきょう)』という、宗教的犯罪グループの存在です。奴らは通常の人間も含まれた、『再生者』を神様として見ている集団です。奴等はとにかくトップの意に従わなければ残虐な殺害を行う、狂っている集団です。そいつらのせいで、私たちの仲間もたくさん亡くなりました。私も何度も殺されかけましたからね。奴らのイカれ方は相当なものですよ。それに彼等は無駄に高い科学力を持っています。『再生者』は基本、毒などは効かないのですが、『再生者』に訊く、特殊な毒を開発したりしています。そして、特に奴らのおそろしいところは、奴らの信徒の数です。わかっている人数、殺害した人数含め、八百万人は少なくとも存在します。総信徒数と言えばおそらく、それの四倍の三千二百万人は少なくともいるでしょう。そういった犯罪者や犯罪集団に対抗する特殊組織こそが我々、『再生者による犯罪対策課』です。三滝くん、君を撃った人物は、そうなってしまた経緯にもそれはつながります。あなたを撃った人物も『再生者』なんですよ。確か彼の能力は探知能力でした。例えばカーナビでコンビニを検索して、点々とそこを回るような、そんな内容の能力だったはずです。その時、彼が追っていたのは犯罪を犯した小さな少女の『再生者』でした。彼はその少女を追っているうちに、あなたと出会ってしまい…。今のようになってしまいました。そういった経緯であなたはこうなり、私という存在が配属されたという事です。

 少し難解な説明になってしまいましたが、要するに『再生者』はまだ存在とそのの地位を確立できていないという事、そして、犯罪を犯す『再生者』が存在するという事です。お分かり頂けたでしょうか。」

 そういってクナイさんはコトンと紅茶をほんの少しだけ飲み置いた。

 おそらく、一段落着く旅に何かを口ん含みただる性質なのだろう。

 クナイさんはふぅとため息を吐き、目を瞑った。

 俺はそんな姿を見ながら、クナイさんに質問する。

 「現状はわかりました。ですが、なんでそんな話を俺にするんですか?」

 それは素朴な、そして根幹に対する疑問だった。

 それに対して、クナイさんは目を開き、先ほどの少し緩い表情を取り外したように、真面目な表情に変わる。

 「それはですね、いまから話そうと思っていたんですよ」

 そして、一つ間を置き、

 「商談、と行きましょうか」

 そう言って、俺と華蓮を見つめた。


 16


 「商談、と行きましょうか」

 俺と華蓮を見つめ、クナイさんは言った。

 「商談ですか」

 俺は言葉を復唱する。

 商談、何かを売られるのか、買い取られるのか。

 俺はこの話から考えられる商談の材料をチェックする。

 そして、有力候補として、小鳥遊華蓮の存在が思い浮かび、

 「華蓮、ですか?」

 確認として訊く。

 「そうですね、確かに小鳥遊華蓮の回収というのは案としてありました」

 と、クナイさんは言う。

 その言葉に俺の隣に座る華蓮も何を話しているのかなんとなくわかったらしく、ギュッと俺の服の袖をつかんできた。

 それを見て、クナイさんは少しだけ頬を緩め、

 「ですけど、今のところはあなたにしか、なついていないみたいですからね。さすがに無理に引き離すようなことはしませんよ」

 と、言った。

 では、何なのか。

 材料として上がるモノがない。

 そんな疑問に満ち溢れた目線をクナイさんに向けると、少し笑いながら、俺を指さした。

 「君だよ。君を買い取ろうと、我々は決めました」

 「へ?」

 その言葉に俺はただただ、阿呆みたいな声を上げるしかなかった。


  17


 商談の材料とは俺、三滝兼政自身だった。

 「我々は君を四千万で買い取り、『再生者による犯罪対策課』に引き入れるという事で、現在、四千万の前払いで百万程持ってきております」

 そういいながら、クナイさんは自らの荷物として持ってきたジュラルミンのケースを取り出しロックを解除し、それを開けて僕らに中身を見せた。

 大きさとして、大きいと満場一致で答えれるであろうケースにぎっしりと詰まった札束を見た。

 正直、初めて見る札束の山に呆然とするだけだった。

 そして、一通り見せた後、再び閉めロックを掛ける。

 「どうでしょうか。売られに行きますか?」

 クナイさんは意地悪そうな笑いを含めた表情で俺を見た。

 その意図はわからなかったが、俺はただ唯一、わかる事だけを言う。

 「クナイさん、俺は売られるほど、愚かな生き物ではないです。俺は華蓮になつかれているとクナイさんは言いましたよね。なら一層、そんな事、出来ないじゃないですか。それに、俺は華蓮(かのじょ)を守ろうって決めてるんです」

 俺のその答えにクナイさんは笑った。

 それも大笑い。

 最初の雰囲気など微塵もないくらいの大笑いをした。

 「はははははははははははははははははははははは。…正解です、三滝君。大正解」

 その笑い声に再び唖然とする。

 そんな俺にクナイさんこう言う。

 「あなたは正解です。そして、合格です。実はあなたを試しました。もし自分を売るなんていたらこの任務も効力切れでしたし、札束でボコボコに殴ってから何も払わずに帰ろうと思ってました」

 良かったです。

 そう言った。

 そして、続ける。

 「なので、四千万の半分の二千万ですが、契約料として、あなたの口座に振り込んでおきます。そして―――」

 俺に手を差し伸べ、

 「これから、よろしくお願いします、新参(おなじあなのむじな)さん」

 そして、俺はすべてを受け入れ、これはもう逃げれない話を聞いてしまったのだと、この申し出は絶対に断れないのだと。

 理解した、そして。

 彼女の手を握り、

 「よろしくお願いします」

 握手を交わした。


  18


 時間は進み、夜。

 クナイさんは反田さんとの連絡を取り、いろいろな細かいことについて、後日、反田さんを交えて話しあうことになった。

 その報告の後、クナイさんは「夕飯でも作りますよ」と現在、何か作ってくれている。

 手の空いた俺は華蓮と話していた。

 「カネマサ、これからどうなるんだろう」

 「そうだな。もうどの道、逃げれないからな。あのとき、断ることもできたのだろうけど、その先が恐らく、言えないようなことだろうから」

 「…そっか」

 華蓮は少し何かに怯えるような仕草を見せた。

 俺はそんな彼女の頭に尾案と手を置き、撫でた。

 「でも、俺は華蓮をまもれればなって思って引き受けたんだ。お前が心配するようなことにはならないよ」

 そういって、笑う。

 そして、彼女もつられた様に笑う。

 今はそれでいいのだと。

 俺はそう思った。


  19


 時間は大幅に過ぎ、華蓮とクナイさんのいる生活が十日経過した。

 周り人間からこの十日間の間、色々な連絡があったが何とかそれを落ち着かせ、安定して生活を送っている。

 そして今日、四月十四日。

 反田さんが家に来る。

 玄関のインターホンが鳴り、俺は玄関のドアを開け、その先の反田さんが俺を見るなり、

 「どうですか?女の子に囲まれる生活は?クナイさんは二十歳らしいですし、華蓮ちゃんは十歳位でしょう、いいですねぇ。おっと、もし遅れました。お久しぶりです、三滝兼政君、反田一たです」

 「お久しぶりです、再会早々、苛立ちしか感じさせない自己紹介ありがとうございます」

 殴りたくなるような長ったるしい挨拶を俺にしてくれた。


  20


 「それでは我々、『再生者による犯罪対策課』の仕事やらについて話すとしましょうか」

 ソファに座った反田さんは書類Bの束を俺に渡しながらそう言った。

 「恐らくクナイよりは話を短くできると思うので華蓮さんもよく聞いてください。おっと、名刺が燃える燃える」

 と、取り出した名刺が突然、燃え出しそれを即刻、携帯灰皿のようなものの中に入れた。

 おそらく、突然罵倒されたクナイさんの仕業なのだろう。

 それにしても、いまにも僕に渡そうと手に持っていた名刺が燃えたのに異常な落ち着き方である。

 「はは、慣れていましてねぇ。とにかく、こういうことくらいで驚かないようにしてるんですよ。驚いているだけ仕事の時間が減っちゃいますからね」

 そう言って、快活に笑う。

 やはり、底のない人だと思う。

 「少し始まるのに時間がかかりました。ではいきなり本題でも話したほうが良さそうなので、そうさせていただきましょう」

 一度、場を仕切るように声のトーンをほんの少しだけ上げ、話す。

 それによって、少し騒がしくなりかけていた周囲が静まる。

 そこには重みのある空気が流れ、その中でへらへらと笑う反田さんだけが異質に目立つ。

 そして、反田さんは口を開いた。

 「では、まずは我々、『再生者による犯罪対策課』に入隊おめでとうございます。そして、いきなりですがあなたには重要な役割について貰いたいと思います」

 反田さんはそういってニコリと笑った。

 その笑顔は裏に何かありそうな、仮面のような笑いだった。


  21



 「重要な役割、ですか」

 俺は反田さんの言葉を繰り返すように呟く。

 「えぇ、そうです。あなたには我々の視点の一つ、いわゆる、第三者の立ち位置についてほしいのです」

 反田さんは書類を指さし、書類に目を通せ、と言外に促す。

 それに乗っかり俺は資料に目を通す。

 そこには『一般人の代表意見発表者』と、書いてあった。

 「見てわかる通り、書いてわかる通りです」

 そういって、俺の目をじっと見つめる。

 「貴方には、『再生者』と共に一般的な生活をしていただきます。そして、事件や、。問題が発生した場合その生活で手に入るはずであろう知識を生かして、そういた方面からの意見を取り入れようという我々の試みです。もしあなたや華蓮さんに危害が降りかかった場合、我々、私やクナイさんをはじめとした『再生者による犯罪対策課』が全力を尽くしてあなたたちを保護します」

 その話しは僕にとっても、彼らにとっても悪くないモノではあった。

 だが、

 「俺はソレをやるとして、何があるんですか?経緯も経緯ですし」

 質問するしかなかった。

 それに反田さんは答える。

 「そうですね。我々の失態であなたに被害を与えて、仕事を手伝って貰うと申し出すのは確かに立場をわきまえていない事でしょう。ですが、我々も、あなたのような出会い方をし、そして、貴重な『再生者』と共存する集団を探し出し仕事を手伝って貰わないといけないほど、切羽詰まっていまして」

 …。

 俺は黙り込み、ただ反田さんの顔を見た。

 反田さんのその表情は先ほどまでの飄々とした雰囲気からはかけ離れた、苦虫を噛むようなモノだった。

 「ですから、身勝手も重々承知で出たこの行動です。これを引き受けろとは言いませんし、我々もそうなれば潔く手を引きます。ですが、これを引き受けてくれる、そう答えるのであれば、それに見合った報酬と、状況を用意します。どうでしょうか、これは最後の判断です。クナイさんとの会話が申込窓口だとすれば、これは最終判断です。道を間違わないようにして下さい。これはあなたの人生です」

 その表情を張り付けたまま、反田さんはそう言った。

 わかっている。

 知っている。

 だけど、俺は、もうクナイさんに言ったはずだ、華蓮(かのじょ)を守る、と。

 そして再び、一つの意思が沸き起こった。

 子供に嘘は吐けない。

 例え、ありえないような成り行きだとしても。

 俺は決めた。

 すべて受け入れる覚悟はできている。

 ならば答えは一つだろう。

 俺は、俺は―――、

 「わかりました。俺はその仕事を引き受けます」

 答えるだけだった。


  22


 数時間経ち。

 反田さんは帰った。

 俺は自分の部屋で資料に目を通し、仕事の内容を確認し、ざっとまとめる。

 俺に任される仕事の内容は一言でいうと『再生者の相談役』らしい。

 基本的に自宅での勤務で、自宅を事務所として、様々な悩みを持つ再生者の相談に応じ、その悩みに助言を与える、というものらしい。

 それにしてもこの仕事を引き受けると決めた瞬間から、再生者という言葉に特別なモノが感じなくなった。

 その理由はまだわからないが、いつかは見えてくるのだろう。

 遠くとも、近くとも、どの道知る事だろう。

 だから今はそのことについて、考えない事にした。

 それは反田さんで言う、仕事に対しての無駄な時間だから。

 自分のベットに仰向けに倒れ、資料を床にポト、と落とす。

 そして、ちいさい声でつぶやく。

 「衝立でも買っておこうかな」

 と、今やるべきことを忘れないように。


  23


 勢いよく話が進み、やっとそれらに理解が追いつき、現状を理解し始めた、今日この頃。

 俺が華蓮と出会って、一カ月が経った。

さらに護衛として、クナイさんも家にやってきて、生活がかなり変化した。

 家事全般は俺とクナイさんが作業分担で行うようになったり、華蓮の部屋がないので僕の部屋を使っていたり、クナイさんはソファを寝床にしていたり、夕方まで女児向けアニメやらがつけっぱなしになったり、電気代が増えたり、水道代が増えたり、増えた分の生活費がなぜか数割割引になっていたり。

 かなりどころか、百八十度、変化した。

 唯一、変わらないとすれば、最近、春休みが開け、学校が再び始まり、新学期のクラス替えで、一年の友人とまた同じクラスになりそいつらと話す時、位だろう。

 そして、現在。

 俺は学校の授業を普通に受けていたのだった。

 授業も一年のころとは変わって難易度が上がって、できる奴とできない奴がはっきりと別れ始めていた。

 そして自分の立ち位置が学生で、もともとは普通のどこにでもいるはずの一人なんだと、認識した。

 決して、『再生者による犯罪対策課』の特別枠を務めるような今迄を送ってきたわけではない。

 だけど、小鳥遊華蓮という少女と出会い、守ると決めてしまったからこうなってしまった。

 偶然と自業自得でこうなった。

 こうやって、心にゆとりが出来てからわかる世界もあるのだなと思った。

 そんなことを頭の中でぐるぐると巡らしながら、ノートの端をシャーペンで塗りつぶす。

 黒鉛が幾度となく塗り重ねられ、光を奪うかのように表面が光りだす。

 そして、その上にほんの少しづつ、黒鉛のカスが乗り出した。

 それでも、まだ俺はシャーペンの動きと思考を止めなかった。

 今を受け入れた俺自身を客観的に評価しながら思った。

 子供には嘘が吐けない性格はアレがあったからよくわかっている。

 アレがあったからこうなった。

 そして、今。

 普通とはいいがたい所はあるが生活が出来ていて、現に生きている。

 だから、今を享受する。

 それでいい。

 それでいいのだ。

 俺が決めたことに忠実に生きているだけなのだから。

 俺はそんなことを思いながら授業を受けていると、授業終了を告げるチャイムが鳴り、気付けば、昼休みに入っていた。

 最近、大体こんな感じに時間を過ごす。

 変わらないのは友人の存在だけだったらしい。

 過ごし方が変わっていた。

 漫画みたいなことが現実に、それも、身近な存在としてある事実が俺をそうさせている。

 そんなことはわかっていた。

 だけど、アレの事もあり、元から俺の思考は狂っていたのかもしれない。

 受け入れてしまう性格。

 そして子どもには嘘を吐けない性格。

 それが俺自身だった。

 あとは空っぽなのかもしれない。

 …。

 …、……。

 俺は自分の頭を抱える。

 「おい、兼政、そこで食っていいか?」

 と、そんな時ふと後ろから声をかけられた。

 顔を上げ、売り向くとそこには、僕の古くからの友人、西本暁浩(にしもと あきひろ)がいた。

 彼とは中学からの中で親友と言っても過言ではない人物である。

 そして、常に人の中心に立つ才能の持ち主で男女問わず彼の支持は大きい。

 そんな彼は、僕の後ろの空いた席の机の天板をバンバンと叩きながら、そう聞いてきた。


  24


 彼のそんな彼の言葉に俺はそっけなく、

 「適当にすわりゃいいんじゃねーか?」

 と一言返すと、彼はその言葉通りにニヤッと笑いながら椅子に座った。

 そして、一言。

 「兼政、なんかあった?」

 その一言で俺は息が止まった。

 そして、いままでの全部を走馬灯のように思い出し、深呼吸を無理やりにでもして、動揺した心を落ち着かせた。

 そしてその問いに、出来るだけ平然とした態度で、

 「あぁ、別に、なにもねぇよ」

 と、返す。

 それに対し、西本は「そうか」とだけ返し、持ってきていたのだろうか、弁当箱を広げ、それをパクパクと食べ始めた。

 それを見て、思い出したように、コンビニで買った弁当を彼同様に広げ、食べ始めた。

 そんないつもの昼休みの途中。

 担任の先生が急に俺の前に現れ、俺にこう告げた。

 「三滝、お前の保護者が来ている、今日は早退しなさい」

 その一言に、俺と西本含め、教室の空気が止まった。

 そして、先生が教室の出入り口を指さしているのに気付きそこを見ると―――、

 反田さんがいた。


  25


 僕は彼の存在に気付き、荷物をまとめ、教室を出て、反田さんにまず一言浴びせた。

 「俺の人生崩壊させたいんですか?」

 それに対して、反田さんは、

 「はははははは、そんな気は微塵もありませんよ。今回は入院している親戚の容体が急変した~、っという事で通してあります」

 と、いつも通りの、快活な笑いと共に返した。

 それもまた演技でもないことを理由として作ってくれたもんだ。

 そんなことを思いつつ、

 「なんでこんなことしたんですか?」

 と質問すると、反田さんはよくぞ聞いてくれたというような表情をしながら、言った。

 「初仕事の客が来るんですよ」

 その言葉に一瞬ポカンとしたが、それがすぐに自分の現在の立ち位置と共にやるべきことに切り替わる。

 「判りました。ですけど、今度からこういうことやめてください。お客さんは緊急ではない限り学校の圧とかに調整してくれると嬉しいです」

 と、クレームを言いつつ、反田さんと共に学校を後にする為、歩き始めた。


  26


 校門前には見知った車があり

 クナイさんが僕らを迎えに来てくれていた。

 その車内で、僕は今回の客の資料があるという事でその資料に目を通していた。

 仕事の内容

 相談の応答。


 依頼主

 南波(なんば) 双木(そうき)


 年齢

 十九歳


 現在職業

 アルバイター


 相談内容

 社会の目などに関しての事。


 備考

 ・少々、心配性な面もあり、会話中しつこいと思える部分多々あり。

 ・受け答えはしっかりと出来、敵言わない模様。

 ・怖がりな面が垣間見えるのが時々あり、少し優しめの口調が執拗かと思われる。


 それには事細かく、とは言えないが相談の相手をするにあたって、必要不可欠で最低限の部分が書いてあった。

 おそらく反田さんが書いたのだろう。

 病院で呼んだ手紙とよく似た字が並んでいた。

 俺はソレを読んで、反田さんに少し訊ねてみる。

 「…俺、どう相談の相手すりゃいいんですかね」

 そんなざっくばらんとした質問に反田さんは、ヒントのように答える。

 「そうですねぇ…。私としてはですが、あなたがクナイさんや華蓮ちゃんと暮らして、どう思ったのか、それをもとに発言すればいいじゃないでしょうか。罰に、ハーレム構築中みたいなこと言ってもいいんですよ」

 俺はその反田さんの一言に、そうかと、納得しながら、

 「誰がハーレム作るんですか、んなことしません」

 と、ツッコミを入れた。


  27


 そこから少し経ち、帰宅すると、さっさと制服から私服に着替えた

 その後、リビングで華蓮を着替えさせ、僕はソファに座り、その横にクナイさん、僕の膝の上に華蓮、そして適当な位置に反田さんが立っていた。

 反田さん曰く、依頼者は午後一時三十分に来るといっていた。

 現時刻、一時二十五分という事は、残り五分という事か。

 人に依るが、いつ来てもおかしくない時刻である。

 俺は緊張により少し宙に浮いた気分になっていることを自覚する。

 その緊張が華蓮にも伝わったのか彼女もそわそわし始めた。

 それを見てクナイさんは小さく笑い、

 「肩の力を抜いて、深呼吸。…三滝君、子供を膝に乗っけて仕事する人なんていないんだから、そう思えば気が楽でしょ?」

 と、肩を叩いて、アドバイスを言ってくれた。

 それにより、ほんの少し気が軽くなり、笑いが薄っすらと込み上げた。

 そして、俺は華蓮の頭にトンと手を置いた。

 その手を華蓮は小さな両手で掴み不思議そうにこちらを見た。

 「カネマサ、どうしたの」

 彼女の質問に俺はこう答える。

 「いや、なにもないよ」

 彼女に対して笑顔を忘れずに。

 そうしていると、玄関の呼び鈴がなりインターホンに何者かの映像が映し出される。

 それを見て反田さんは、

 「来ましたね。大体の雑用は私がやります。なので、クナイと三人で頑張ってやってください」

 と言って、インターホンに出てから、すぐさま玄関へ向かった。

 その姿を見て、俺はいよいよだと、覚悟を決めた。


  28


 反田さんが連れてきた青年は、少し痩せ形ながらも、ヒョロヒョロとはしておらず、ただ単にやせ型というような感じの人物だった。

 俺等は立ち上がり、彼に挨拶をすると、彼は小さく「こ、こんにちは」と細い声で返した。

 俺は彼に、座ることを促すと、彼はすんなりと俺等とは対面に位置するソファに座り、その後を追うように反田さん以外、ソファに座った。

 取り敢えず、俺は会話を切り出してみる事にした。

 「初めまして、俺は三滝兼政って言います、気軽にどう呼んでくれても構いません。よろしくお願いします」

 と、握手の手を差し出しながら、自己紹介をしてみると、

 「こ、こちらこそ、は、初めまして、南波双木、といいます。僕もどう読んでくれても構いません」

 と、またか細い声で自己紹介しながら、俺の握手に答えた。


  29


 初仕事の依頼者、南波双木(なんば そうき)がこの家に着て十分くらいだろうか。

 まずはと、世間話を振っているのだが、全くもって会話が続かなかった。

 別に話が通じていないわけではないのだが、尽く会話が途切れてしまう。

 俺が悪いのか、彼がそういう人なのか。

 途中でクナイさんがフォローを入れてくれたり、反田(たんだ)さんが気をまわして色々としてくれているのだが、どうにもこうにも、話が短いままだった。

 そのうち、俺も焦ってゆき、まともな会話が出来なくなり、クナイさんもソレ同様に陥った。

 そして今、沈黙が始まった。

 この十分間、またはそれ以上の時間、膝の上に座っている華蓮と言えば、俺たちの話をただ聞くだけで、口を出すことなく、この時間に飽き始めていた。

 反田さんは、相変わらず訳の分からない笑みを張り続けていた。

 おそらく、反田さんも俺同様に、どうにかしなければとは考えているのだろう。

 南波さんの会話を続かなくさせる話術に反田さんは自分のその考えが通じるのか考えているらしい。

 その証拠に口をほんの小さくパクパクと動かしている。

 さて、俺もどうしたものなのだろうか。

 そう考え、ふと思う。

 どうして、俺はこうも世間話などの前座の話をすることにこだわっているのだろうかと。

 相談の内容を聞きソレについて話していけばなんとなくその人が自然に話し、そうなれば、臨機応変にやっていけば無問題ではないのかと。

 それに気付き、己を悲観しながら。南波さんに相談内容を伺うとにした。

 「南波さん、あの、こう何も話さないで終わるのは意味がないんで、その、相談の内容を伺ってもよろしいでしょうか…?」

 俺は少し、弱めの口調で南波さんに訊くと、

 「は、はい、そうですね。そうさせていただきます」

 と、答え、その内容を話し出した。


  30


 「この体でまたこの世界のものに触れたのは一年前の事です。それから、『再生者による犯罪対策課』に拾われ、いまの世界の事や、生活に必要な物、居ますんですアパートの一室を用意してくれました。そして、家賃は自分で払えという事で、バイトを探していたんですが、履歴書になにもかけないんです。なんせ、一度死んでから、八年もたっているんですよ?それに見た目も死んだときと全く変わってないんです。年齢を詐称する事もできなければ、事実を掻くこともできない。どうにかなりませんかねぇ…」

 南波さんは、さっきまでの黙り込む事はせず、饒舌に以来の理由を語ってくれた。

 それを聞き、俺はまず、

 「そうですか…」

 と、反応するしかなかった。

 生年月日を偽ったところで、亡くなった年代が古ければ古いほど、今のものに対しての違和感や適用の難易度が上がり、不自然に見えてしまうだろう。

 俺がどうこう言えるものではないだろう。

 そこで、俺はクナイさんに耳打ちで質問する。

 「…あの、俺みたいな学生にはかなり厳しい案件なのでは…」

 そう訊くと、クナイさんは小さく笑い、俺ではなく、南波さんに向かってこういった。

 「南波さん、『再生者優先雇用職業』というものはご存知でしょうか?」

 その単語に聞き覚えがなかった俺とそうらしき反応を見せる南波さんにクナイさんはその単語を説明する。

 「『再生者優先雇用職業』というのはですね、社会に出れる年齢、又は状態を持った再生者であれば、ほぼ優先されて雇用される職業のことです。一応、雇用する側の企業は我々、政府側なんですけど、表向きでは生活困窮者の支援の一環として作られたものなんですが、再生者が現れてから、そうなってはならないという理由で、この制度が半年ほど前に採用されました。ですが、ご存知のように再生者は国家秘密、いや、世界機密の存在なので、その採択された報告を堂々とできない状態にあります。ご存じない事も致し方無いでしょう」

 そういって、申し訳なさそうな顔で小さく頭を下げる。

 俺はソレを見て、このままでは話が途切れてしまう事を危惧して、こんなことを言ってみた。

 「…南波さん、簡単にこんなことを言うのは図々しいとは思うんですが、再生者の組合みたいのを作ってみたいと思いませんか?」

 南波さんは俺の顔を見て、ただただ、どういうことだと目で訴えてきた。

 それに俺は答えるように、その理由を明かす。

 「クナイさんの話を聞いて思ったんですが、情報網が薄いのが問題なんですよね。それなら、その情報網を確立させて、繋げればいいんです。

 途中で途切れさせるのではなくて、中心を作って、大量の枝をつくるんですよ。反田さん、僕が住むこの地域っを一区切りとして考えて、一地域につき何人の再生者がいますか?」

 そう反田さんに訊くと、

 「そうですねぇ、その区切りで行くと一地域につき、二人か一人くらいですかね。区切るとするならば一国に一人くらいではないでしょうか」

 と、すぐさま、俺の意見を汲み取り、アドバイスと共に情報を提供してくれた。

 「それなら、一国に一人でトップを決めて、そういう会議ではないですけど、法案の改定、協定の決議決定を行えばいいんじゃないでしょうか。そして、その下に地区のトップがいて、その地区のトップが任せられている地区の人々の意見を聞き、一つの案として、トップに報告、またはほかの地区のトップを集め、会議、集会選挙など様々なものを行う。簡単に言うと、『再生者の政府』ですよ。この考え、どう思います?」

 俺は南波さんに、いや、反田さんやクナイさんも含めた人達に向かっていった。

 最初は誰一人と反応しなかったが、南波さんは初めに口を開いて俺にこういった。

 「そ、その考え、いい、いいと思います。僕等の声がちゃんと届いて、僕らの耳にも届いてくれる声があるのなら」

 彼のその目には希望が見た。

 そして、俺は実感した。

 再生者の現状(イマ)を。

 再生者の立ち位置を。

 こんな子供がかんがえた小さな案でもここまで反応するのだ。

 それが、再生者のそれを表しているのは、目に見えている。

 そして、俺はそんな考えを持ちながら、反田さんを見つめた。

 反田さんも俺に視線を合わし、小さく頷くと、

 「わかりました、上に掛け合ってみましょう。ですが、それが受け取られるとは関係ありませんよ」

 と、少々面倒臭そうに言った。

 そして、クナイさんも、

 「私も何とかしてみます」

 と、俺に参ったといった表情で視線を送ってきた。

 俺は一旦その視線には何も返さず、南波さんにこう伝えた。

 「とにかく、俺たちは上層部の方々に掛け合ってみます。一応、『一般人の代表意見発表者』なんで、発言力はなくはないと思います」

 そして、一度区切り、

 「少なくとも俺は再生者の諸問題には何とかやっていくつもりです。まだまだ、若輩者もいいところですが、善処に善処を貸せ寝させていただきます」

 そう、真っすぐ南波さんに向かっていった。


  31


 そこから一時間後の事、南波さんは相談が終ったという事で帰宅した。

 そして、話のいつからか寝てしまっていた華蓮を俺の部屋のベッドに寝かせ、俺と反田さんとクナイさんで反省会と今後の活動二ついての話をしていた。

 「…まぁ、今回は合格点でしたが、一発初回から、国に意見させようとするなんて、恐ろしいこと考えますよ」

 反田さんは溜息をつきながら、俺に注意というか、何というか、あまりよろしくないと説教をしていた。

 「ははは…、すみません…」

 俺はソレにただただ、苦笑いを浮かべ、謝るしかできなかった。

 「ですが、三滝君の意見は国に報告するレベルに値することは確かです。とはいえ、貴方がいったものをそのまま形にすると穴が出来るなんてものではありませんからね、そこは覚えておいてください」

 反田さんをそういうと立ち上がり荷物をまとめ出した。

 「あ、もう帰るんですか?」

 俺は普通にそう訊くと、反田さんはいつもの底のない笑顔で

 「えぇ。帰るといっても職場にですけど。相談の受付時間固定化と貴方の意見の報告書を出すのでね」

 と、俺の顔をじっと見て言った。

 俺は静かに頭を下げ、それを見た反田さんは、玄関へと向かい、職場へと帰っていった。


  32


 「人間に助けを求めたやつ?」

 三滝宅から自分の住まうアパートに帰ろうと暗くなり始めた人気のない道を歩いていた南波双木の前に一人の少女が立っていた。

 「あ、あなた、どちら様ですか?」

 南波はその少女の君の悪さに突き放すような言い方で問い掛ける。

 その少女は、、漆黒のローブから顔だけを出しており、ローブの下には何かがもぞもぞと動いていたからである。

 そして、南波の問いかけに対し少女は口を真横二転がした三日月のようににたりと広げ、笑う。

 そして、答える。

 「『蘇者教』って知ってる?」

 その答えは質問ではあったものの答えには十分だった。

 南波はその単語に震えあがり、体は動くことを諦めていた。

 なぜなら、その少女から『再生者の気配』が漂っていたからだ。

 「…あ、…あぁ………、うぅぁ………」

 南波の口からはただうめき声と生暖かい吐息だけが漏れ、その口、手、足、身体のすべてが震え、震え過ぎて、痛みを発していた。

 その理由は単純で、答えはそのその少女がわかっているのに告げてくれた。

 「神様なんだよ、再生者は?なのに人間に助けを求めるなんて駄目だよ。堕天したものは殺処分しなきゃ」

 少女がそう言った時、南波の目の前は真っ赤に染まっていた。

 そして、次第に視界が暗くなり、身を裂かれたような激痛と共に声など出す余裕もなく意識が途切れた。

 南波が意識が失うまでのわずかな時間の間に、彼の身を裂き、止めの手刀を心臓に突き刺し、引き抜く、この一連の動作が超高速で行われていた。

 おそらく、少女が南波に近づき、体を素手で引き裂き、手刀で心臓を突き刺した一連の動きを見切れる人間はいない。

 なぜなら、この間、○.八秒。

 人間ではとらえられない速度。

 残像の領域。

 それが、南波を殺した。

 南波の死体からは大量の血があふれ出し、その血をなめ始めた。

 「じゅる…、ん、酸っぱい。やっぱり、人間の肉は酸っぱいなぁ」

 そういって、南波の死体を抱え直すと、その場から消滅した。


  33


 三滝兼政の初仕事が終った二日後。

 『再生者による犯罪対策課』本部課長の反田一は人気がない道に数十人の部下をつれ、一つの肉片を見て、それを睨んでいた。

 それは、肉片ではなく臓器と言ったほうが正しい。

 そう、反田の眼の前にあったのは、『心臓』だった。

 それ以外のものは見るからない。

 ただ心臓がまるで車に轢かれたまま道に放置されるカラスの死体のように。

 回収される時を待っているかのように。

 ただそこにコロンと、ぐちゃりと、あった。

 まるでところてんのように押し出されたかのような血管の千切れた切り口、そして、辺りにまき散らされた血と恐らく、その心臓の持ち主の身体を引きずったような跡とそれが途中で途絶えた、汚れのない道。

 そして、一番に心臓に付いている刺殺したかのような跡。

 しかし、その跡はどんな刃物でもそんな跡はつかない。

 手のような、もっと言えば手刀のようなそんな傷痕。

 そんな惨状を見て、反田は呟く。

 「…三滝君は戦わせてはならないですねぇ…」


  34


 反田が心臓が残った現場に立ち会っているその時と同じ頃。

 三滝の住む街の片隅に忘れ去られた様に存在する廃工場があった。

 少し前間では誰もいなかったが、最近、そこにある人物が住み始めた。

 いや、住み着いたではなく、住み憑き始めたといったほうが正確か。

 それは、女性という性別を持っていた『再生者』で、漆黒のローブを身に纏い、その手には人の腕があった。

 その腕はあるべきはずの身体~切り離されており、その切り口は引きちぎられたようなそんな跡が残され、彼女が手にする腕には彼女の口ほどの噛み千切ったような跡があった。

 そして、廃工場にブチブチッ、と繊維を引き裂き、千切るような音とねちゃねちゃ、と唾液がナニカに絡まり糸を引くようなしまった音が混ざり、響く。

 その音の中で少女は呟く。

 血にまみれた口、潤いのある唇をゆっくりと動かして、虚空を見上げ呟く。

 「…悪食、ですねぇ…。あ・く・じ・き。私の力はどうしてこんなにも食べなければならないのでしょうか」

 その声は震えているのにも関わらず、はっきりとしっかりと辺りに響き渡る。

 その時、ローブのフードがずり落ち、彼女の顔が露になる。

 そう、彼女は南波双木を殺した蘇者教の信徒を名乗る少女だった。

 金色の綺麗な長髪を無雑作に垂らし、口からわ赤い粘着質の唾液を垂らし、み和樹を転がしたような不気味な口の形を作り、目を見開き、焦点はズレ、その表情は笑っていた。

 「…くけけけけけけけけけけけけけけ、けけけ、くけけけ、ひゃはっはっはっはっはっはっはぁ、っは、ふひひひひひひひひひッ!!」

 そして、工場には笑い声だけが響いた。

 彼女の考えていることをわかるモノがいる訳でもそれをわかろうとするものがいる訳でもない、そういう立ち位置に辿り着いてしまったそんな、悲しくも狂っている笑い声が。

 人々に捨てられ忘れ去られ、死んだ建造物の中で悲しく響く。


  35


 朝と言っても遅く、昼と言っても早いころ合いのことである。

 三滝家にて、兼政のいないそこにはクナイと小鳥遊華蓮が残されていた。

 その間に流れるのはなんともない空気のみ。

 クナイはソファに座り彼女の膝の上で眠る小鳥遊を眺めるように見ながら、ただ一人考える。

 (…やはり、普通の人間と再生者との共存は難しいわねぇ…)

 三滝の初仕事の相手の南波のように小さなことのように見えて意外と大きなことがあったりする。

 なぜなら、生きていた時代と、生き直させられた時代との文明の進歩の差、置かれている立場の変化、境遇の変化に付いていけないからだ。

 クナイも初めはそうだった。

 ある時、気付けば道ばたで倒れていて、そこに偶然、再生者による犯罪対策課の骨組みとなった『特殊案件捜査班』という特設チームの巡回中だった反田に拾われた。

 それから自分が再生者と呼ばれていること、自分に特殊な力が備わっていること、自分が死んだ時代から二十年過ぎていること、再生者という存在の扱いや現状すべてを余すところなく教えてもらった。

 そして、クナイは自らの意志で反田に協力することを選び、二年の時を経て今ここにいる。

 二年前は形態の概念は知っていたものの、スマホの扱いやらが慣れなかったり、パソコンが進化していたりとか、見たことのないモノばかりだった。

 二年で覚えれたのも、物覚えが元々よかったというのがあったお陰なのだが、どの道、小さい事でも問題になりやすいのだ。

 だから、そう思う。

 共存が難しいのだと。

 小さな思い出とともに、大きな思い出となったものを思いながら、そう、難しいと思う

 今いる小鳥遊もそんな時代の変化に戸惑う日が遅かれ早かれ必ず来るのだろう。

 そして、クナイは今の自分のできることとは何かを考えるのであった。


  36


 クナイが小鳥遊を見ながら考えに更けていたその頃、三滝は彼の通う学校で授業を受けていた。

 だが、彼のシャーペンは動いておらず、ノートは白紙のままだった。

 いま彼は、眠気に襲われいる訳でも、体調が悪いわけでもなく、ただ単に集中が出来ずにいた。

 その理由は、ノートの上に敷くようにしておかれたのそれなりに分厚い紙の束だった。

 その紙の最上部には少し大きな文字サイズで『再生者の生活保障などに関する法律の提案に関する書類』と長ったるいタイトルがあった。

 そう、先日の南波の案件で、反田が寄越したいわばカンペのようなものだった。

 だが、それはあくまで提案の束奈だs家であり、実際今現在採用されているのは、覚えたところで十個ほど、実際それ以上あるのだが、どれもこれも内容も長ければ、呼称も長い。

 南波に反田が紹介した、『再生者優先雇用職業』のような、なんとなく頑張れば内容も名前も覚えられるような法案ばかりではない。

 例えば、『再生者に対する住宅提供および、就職までの一定期間に付与される補助金および非労働者に対しての保護法』という、要は生活保障制度のようなないような法律なのだが、その説明汚分も長かった。

 ここで紹介する気も失せるような長さなので紹介まではしないが、恐らく原稿用紙酸四枚分の長さは優に越しているだろう。

 そんなの暗唱どころか、暗鬼もできない物など覚えても仕方がない。

 しかし、気付けば国家がかかわることに巻き込まれてるのは確か。

 やらなければならない。

 そう思い、一度授業に集中すべく机の中にその書類を仕舞い込んだ。


  37


 そこから時間は経ち、三滝は帰宅し、夕暮れ時となった頃、反田一は再生者による犯罪対策課のオフィスの自分の机の前で例の心臓のDNA鑑定の結果を見て、頭を抱えていた。

 その鑑定結果の用紙には『再生者:南波双木』、と書かれていた。

 そして、反田は机をバン、と叩く。


  38


 三滝が帰宅し、一時間がたった頃、クナイのスマホに連絡が入った。

 発信主は反田一。

 何事かと思い彼女は三滝たちのいるリビングから気付かれないように抜け出し、通話状態にし、耳に当てた瞬間、反田の重い声で

 『例の南波双木が殺害されました。恐らく、例の少女が犯人でしょう』

 と、衝撃的な事実を発した。

 「南波が…、ですか?」

 その事実に驚き、耳を疑ったクナイはもう一度、反田に訊き返す。

 それに対し反田は声のトーンを一切変えることなく繰り返す。

 『えぇ、南波双木が殺されたんですよ』

 その声に、嘘などはないと、聞き間違えはないとクナイは確信した。

 「…そう、ですか…。それで、犯人はあの少女で間違いないと…」

 そして、頭を瞬時に整理し、安定させ、反田に確認を取る。

 『恐らく、ですけどね。ですけど、まずいですねぇ。こんなに早くも、ましてやありえない程早い。クナイさん、私も今から、報告書をまとめるので、それが終ったら駆けつけます。三滝君、華蓮ちゃんの護衛任務をしっかりと果たしてください』

 その確認に対し反田は、できる範囲の支持を言い渡す。

 「了解」

 それに何の疑いもなくクナイは了承した。

 『あぁ、あと…、このこと、二人には秘密にしておいていてください。もし、あちらから被害を与えてきた場合は別ですが。ですが、私がそちらに到着するまでは、秘密にしておいてください』

 そして、と付け足すような言い方で、反田はクナイに少し煮え切らないような言い方でそんあ命令を付け足した。

 クナイは、その理由が汲み取れず、

 「いいんですか?」

 と、質問した。

 反田はゆっくりとその質問に答える。

 『…これは仕事とは関係のない理由ですが、初めて会った日、僕は病室から抜け出す彼の目を見たときに思ったんです、『この子は正義感とかではなく自分のためにすべてをやっている』ってね。だから、そういうことを訊けば勝手に動くjかどうか心配になるんですよ。それに、何んとなく彼を見てると他人事とはおもえなくってねぇ』

 たはは、と笑いながら反田は語り、クナイはその言葉の中でみたきをこの組織に本当に入るのかと、確かめた日のことを思い出しながら、

 「…そうですね。…、了解しました」

 と、頷き、諦めたような笑顔で答えた。

 反田はその答えを聞き、

 『では、彼らを頼みますね』

 と、言い残し、通話が途切れた


  39


 忘れ去れレた廃工場にて、クナイが反田と電話をしている同時刻に、漆黒のローブの少女の元に二人の男が招かれていた。

 一人は季節に合わないアロハシャツを来たやせ型の見た目四十歳ほどのおっさんともいえる風貌をした男の再生者。

 もう一人はどこにでもいそうな、コートを来た体格のいい、三十差ほどの人間の男。

 そんな二人は、漆黒のローブの少女の前にめんどくさそうに立っていた。

 そして、三人のうち、体格のいい人間の男が先に口を開いた。

 「…なぁ、暖加鮮芽はるか あざめさんよぉ、アンタのトップからまた報告もらってきたんだが、本当に信徒じゃない同族リプレイヤーの奴等、一人一人に監視がついてるのかって思うくらい、情報が早ぇなぁ。ほんっと、気持ち悪ぃよ」

 そういいながら、人間の男は暖加鮮芽と呼ばれた少女に少し大きめの封筒を投げてワタ足、鮮眼はソレを受け取る。

 そして、中にある命令分を読みにたりと笑う。

 そこには、ある二人、再生者一人と人間二人の名前と現在の住所が書かれていた。

 小鳥遊華蓮と雛沢大智の情報が。


  40


「やっぱりですか」

 『再生者による犯罪対策課』のオフィスにて、反田一は溜め息と共に、そう呟いた。

 そして、反田は同僚であり、『再生者(リプレイヤー)』である犬鳴訊覚(いぬなき とおぼえ)にこんなことを訊いた。

 「犬鳴さん、やっぱり、彼等(みたきくんとたかなしちゃん)の街に再生者はいるんですね?」

 それは、確認でもあり、これから練ろうとしている作戦の重要な疑問であった。

 「あぁ、厳密に言えば、その郊外だが。それでも、再生者は二人いることは確定している。なんだ、俺の能力に不満でもあるのか?」

 犬鳴は自らの能力での結果を反田に、しっかりと伝え、不服ではないかと尋ねた。

 「犬鳴さんの能力は、再生者の同族検知能力の範囲を無制限にし、任意の場所や区域に絞り込みそこから同族を探し出す能力ですものね。間違いはないだろうとは思いますが、一応と思いまして」

 犬鳴の質問に反田はそう答え、いつもの軽薄な笑顔に戻った。

 そしてそんな反田に犬鳴は肩を落として、一言。

 「お前はそんなんでよく仕事ができるよな」

 そして、二人は作戦を練ろうかと、気楽に声を掛け合いながら、武人と呼ばれた元殉職警官の犬鳴訊覚とピエロと呼ばれた天才の反田一は長机に向き合いながら、話し始めた。



  41


 とある街の忘れ去られた廃工場にて。

 私、暖加鮮芽は、一枚の紙に書かれた情報を見て、最近食った、人間の顔を思い出し、敵と認知し、味を想像し、思わず、笑ってしまった。

 眼の前にはこの命令を運んできた、『用心棒』の二人。

  一人は季節に合わないアロハシャツを来たやせ型の見た目四十歳ほどのおっさんともいえる風貌をした男の再生者、ソロベルティ・アルシモフ。

 もう一人はどこにでもいそうな、コートを来た体格のいい、三十差ほどの人間の男、冴中多陶嗜(さえなかた とうし)。

 彼らはどちらも殺人鬼という経歴があり、ソロベルティに至っては一度逮捕され、死刑を受け執行されている。

 冴中多陶嗜については、現在は表立ってないだけで快楽殺人犯のクソ野郎だ。

 冴中多は彼が覚えてる人数でも住人は殺したといっているが、すこうなくともその三倍は殺しているだろう。

 どの道、私の眼の前にいる二人は目がイッてるなんてものでは表せないほど狂った奴らという事だ。

 かく言う私も再生者としてこの世界に再臨してからは、人や再生者やらを区別なく食い殺している。

 だが、それでも体に何も変化が起きないのは再生者の他人ならざる能力のおかげなのだろう。

 確か、愛すべき主教様は私の能力のことを『何でも食物として食う事のでき、それを体に反映させることが出来る能力』と表しいただいたのだが、確かに、と私は思う。

 人以外にも、アスファルト、鉄、プラスチックなどの無機物も食うことが出来るし、それを可能にできるほど強靭な歯も、それを消化出来る身体も持っている。

 何なら、毒物だって食う事もできる。

 さすがにダイナマイトを点火した状態で食って、腹の中で爆破させる漫画のようなことはしたことはないが、条件さえよければそれもできないこともないだろう。

 まぁ、それでも、私の中では人の味というのが一番ピンときた味なだけであり、人を食う事に対してはその程度の理由しかない。

 だが、私は主教の仰った様にただ食う事が能の生き物ではない。

 私の能力は、厳密にいうと、『どんな物体でも食物とすることができ、その体に取り入れた物質の特性、または人間や再生者の場合はその容姿、またを能力など、動植物の場合ならその性質を束もの一つに付き一回のみ、自身に反映することが出来る。そして、三日までなら、どんなに食おうがその性質などを記憶することが出来、三日を過ぎると古い順に記憶した性質などが消去される』というなんともややこしいシステムを持っている。

 例えるならば、人間一人、岩一つ、何かの植物一つをそのままの順で食べたとしよう。

 そして何らかの理由で岩の性質を使う。

 すると、もう一度岩を食べない限り、もう能力を使うことが出来なくなってしまう。

 そこから三日たつと、能力を使わずとも一番最初に食べた人間の記憶が消え植物しか使えなくなってしまう。

 そういった、ルールが課せられた能力なのだ。

 だが、私はその能力に感謝していた。

 『あんなこと』になればそうも思える。

 そう思って、にたりと、再び、笑った。

 そんな私を見て、ため息を吐く二人など気にもならなかった。

 そして、笑いが少しづつ大きくなり、仕舞には、

 「ひぃ…、ひひひひひひひぃっ、ひひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッハァッ、ははっはっはっはっは」

 と、笑い声が三人だけの廃工場に響きわたる。

 そんな笑いを妨害するかのように冴中多は私に話しかけてきた。

 「…、なぁ、鮮芽さんよぉ、ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」

 私は笑いを妨げられたことに不満を覚えたがそれを彼にぶつけるつもりもなく、少しむっすとした声を出してその発言を許すことにした。

 「…、いいけど」

 その言い方に彼も少し機嫌を損ねたのかと思ったようでほんの少し言い方をやわらげ、申し訳なさそうな声色で

 「…その命令通り、俺たちも、そのアレだ。目的(ターゲット)に築かれないように張り付きながら監視すればいいんだよなぁ…」

 と、さっきの命令の打ち合わせをしようと話を振って来た。

 私はソレに冷静に判断をしながら答えた。

 「私としてはそれでイイんだけど。ソロベルティ、あんたは何か、命令以外に動きたことでもある?」

 その問いにソロベルティは荒い息を吐いて答えた。

 「…、…それならば、オレと陶嗜ではなく、オレと鮮芽が監視に割ったほうが良いだろう。確かその資料には、もう一人再生者が同居してるんだろう、なら交戦時、圧倒的に不利になるのはオレたちだろうしな」

 それを聞き、そうかも、と簡単な思考を回し、

 「いいわ、それで行きましょう。私とソロベルティは目的の監視、その後、予定の時刻に襲撃。そして、冴中は襲撃時、周辺の通行人のみの排除。…これでいい?」

 と、切り出した。

 それに対し、各々頷く。

 そして、私以外に二人は背を向きえ、ごみが重なったばしょに腰かけるように座った。

 作戦は、今日の夜八時に行われる、それに、私の食欲が絶えれるか、少し不安になりながらも。その時を静かに待つことにした。


  42


 ある秀才と言われた少女がいた。

 彼女はすべてにおいて最高の数字を残し、一番にふさわしい存在となっていた。

 だが、彼女が高校生になり、一年が過ぎ、雪が降り冬となった頃。

 その才能を妬む人々が人の通りがないといっても過言ではない場所にある倉庫に彼女を呼び出し、そこに閉じ込め、そのまま放置した。

 閉じ込めた人々は彼女のことなどすぐ忘れ、普通の生活に戻っていったが。

 彼女は、閉じ込められたままだった。

 窓はなく、隙間から洩れる光が唯一の照明となり、腹を満たすため倉庫の隙間から這入って来た虫を食い、雪が振り壁に小さく空いた穴に手を突っ込みそこから泥だらけの雪を食って、喉を潤した。

 寒さを凌ぐために身体をあまり動かさないことを心掛け、部屋のつ雄心で固まるようにして座り込んでした。

 だが、そんなんじゃ人は生きられない。

 そのうち彼女は閉鎖された空間や環境に対するストレスで精神を壊し、知識もなく無差別に食べていた虫たちの毒素、それにくっわえ、汚水にも近い雪の摂取により、内臓は異常をきたし、脳は正常な行動を失い、仕舞には、コンクリートの床に歯をぶつけ、床を食べようとした。

 実際、コンクリートはほんの少しだが削れ、それを食べること自体には成功していたが、しかし、それは結果であり、大体は自分の削れかけた歯の破片を彼女は食べていた。

 そして、それから一か月後、彼女は息を引き取った。

 砂が体中にこびり付き、正常の判断を失った脳が最後に起こした行動なのだろうか、含なs度は着ておらず、その遺体は全裸だった。

 そして、初めに脱出しようと扉をひっかいたのだろうその遺体には爪がなく、扉にはちと爪の跡が残り、床には欠け落ちた彼女の歯と爪と血痕が見つかった。

 彼女の死因は、衰弱だった。

 だが、彼女が遺体となり、発見され他のはそこから半月も後で、その後の調べにより彼女の身元が判明された。

 その悲しき被害者の少女の名は、『暖加鮮芽』。


  43


時刻は六時。

 反田は三滝宅に向かうために車を走らせていた。

 五月と言っても、まだ春。

 こんな時間になれば、辺りは夜の闇に染まり始める。

 反田はその中、整備された道路をほかの車よりも少し早めに走らせていた。

 彼の隣には、犬鳴がいた。

 そして、犬鳴はふと、素朴な疑問を浮かべ、反田に訊いた。

 「なぁ、反田。これから向かう三滝君、だったかな。そいつに何か特別な思い入れがあるのか?」

 犬鳴の問いに反田はあきれたように笑いながら、こう言った。

 「はははは、やっぱり、そう見えますか。そうですね、三滝君いは思い入れというか、なんというか、説明しにくい感情が張るんですよ」

 その曖昧な返答に犬鳴は驚きながらさらに尋ねる。

 「お前にしては珍しいな、曖昧な返答とは。なんだ、君から見て、三滝君はどうなんだ?」

 それに少し反田は考えた後、口を開いた。

 「僕から見てですが、彼、三滝兼政君は少々異質です。初めて彼を目にして、真っ先に抱いた感情は狂気に似た正義感、でしょうか。簡単に言えば、行き過ぎたお人よしと言ったところなんでしょうけど。彼は少々、正義感、別の言葉でいいかえれば、優しさなのでしょうか、それがいきすぎている感じがあります。まるで『過去に誰かを死なせてしまった』かのような、そんな贖罪に似た強制感が彼の行動の元のはあるような、そんな気がしますね」

 その答えを聞き、犬鳴は静かに言った。

 「確かに、そりゃ、入れ込みたくなるわな。だからお前は、戦場には出したくないって言ってたのか」

 「えぇ」

 反田は短く答えた。


  44


 そこから、一時間半後、反田は兼政のいる町に到着し、車内で犬鳴が能力を使い、目的となる再生者を探し、反田は自前のノートパソコンに記録しておいた作戦の見直しを行っていた。

 犬鳴訊覚は能力を行使しながら、反田に話しかける。

 「そういえば、例の再生者に殺された南波双木(なんばそうき)のことなんだが、心臓だけでよく特定できたな」

 その言葉に反田は、確認作業が終わったのか、パタンとノートパソコンを閉じ、言う。

 「それは現場を視察してすぐ、現場付近の聞き込みや、住民の存在の有無、付近の通行人の情報、近隣住民の外出情報、それらを三人くらいで聞きまわったんですよ。そして、その最中、路上に付着していた血痕が再生者だったという事が判明されたと連絡がありましてね。その時、捜査中にもしやと南波さんの元に伺ってみたんですよ。まぁ、そこには誰もいないわけで、彼の職場、アルバイト先なんですけどね、そこにも連絡してみたんですけど、出勤日であるその日にまだ来ていないといっていたんです。なんでお風呂の排水溝の髪の毛をサンプルとして、また調べてもらったんです。そしたら…」

 「血痕と髪の毛のDNAが一致した、と」

 反田の言いたかったことを犬鳴は先読みした様に言った。それに反田は静かに頷き、続ける。

 「そうなれば、後は蘇者教を疑うしかほかありませんよね。再生者を殺っせるのはよっぽど人を殺し慣れた人間か、再生者だけしかいないんですから。そして、それを行うのは蘇者協だと相場が決まっています。なんで、いままで睨んでいた、あの例の少女、通称『暴食(イーター)』を捜査対象としてやることになったんですよ」

 「それで俺の力を借りたと」

 「そうなりますねぇ」

 反田は犬鳴の少し呆れたような物言いにどうともしようとせず、ただ飄々とした様子で短く答えた。

 そして、犬鳴は反田に尋ねる。

 「確か、『暴食』は四カ月前にこの町に突如現れた再生者だったか?」

 「えぇ、最初は人の首をかんでそこら辺を食っていくくらいだったんですが、徐々に食い荒らす量が増えていきました。まるでどこまで食べられるかをを調べるかのような細かい段階を踏みながらね」

 「それでその操作が盛んだったころ、反田、お前はそいつに会ったんだよな」

 「そうです。一カ月が過ぎたころ、巡回中に悲鳴が聞こえたもので向かったんです。そしたら、いたんですよ『暴食』が。彼女は、大体兼政君と同い年ぐらいの見た目でした。それでも、目には狂気が孕んでまして、僕は声をかけたんですよ。なんでそんなことをしている、ってね。そしたら、彼女はこう答えたんです、蘇者協の名に免じ貴様を見逃す、ってね。それで彼女が蘇者協だと判明したわけですよ」

 「…それにしても、同族が同族を手に掛ける所を見るのは、どういうものになっても堪えるな…」

 犬鳴は、反田の話を聞き、悲しそうにそう呟いた。

 そして、反田はそんな呟きに答える。

 「何時の、どの時代も、同族殺しはあるんですよ。共食いだったり、虐殺位だったり…。愚かな事ですよねぇ…」

 その声は、反田らしくない、重く、悲しい声色だった。

 そこ反田の言葉が終る以下終わらないかの瞬間、犬鳴は再生者の存在を感知し、即座に持っている街の地図を開き、息を飲む。

 その反応を反田は目の端で見ていたらしく、

 「居ましたか?」

 と、短く聞くと、犬鳴は反田に返すような短さで、答えた。

 「例の護衛対象(みたきくん)の住家付近だ」


  45


 車を即座に走らせ、二人は三滝の家にあと数百メートルで届くという距離で一人の男に足止めされた。

 どこにでもいそうな、コートを来た体格のいい、三十歳ほどの男。

 その男が、車の前二まるで当させまいと立ち塞がるように立っていた。

 反田は、車から出て、彼等のかをまじまじと見つめた。

 そして、彼に問いかけるように呟く。

 「やはり、三滝君狙いでしたか」

 元々、南波が殺されたと判明した時から何となく予想が出来ていたのだ。

 南波が殺害された理由はおそらく、人間に何かしら下手に出るような行動を取ったから、だろう。

 蘇者教は白豪主義の様な人物が集まって出来た宗教だ。

 いうなれば、彼等は再生者至上主義と言った思想を持つ過激派の集団であり、再生者を神、又はそれに近しい存在として崇める傾向を統一して持っている。

 各国、各地域ごとに蘇者教の支部を置き、蘇者教ではない再生者含め、すべての再生者が人間と対等、または再生者が人間に対し、下手な行動を起こさないか常に観察を行い、もし、そのような言動が見られたら、その役割に準じた蘇者教の一員が言動を起こした、再生者や人間を始末する。

 そんな、彼等(そしゃきょう)、いや、過激派集団にはそういったシステムが存在している。

 ならば簡単な話だ。

 我々(さいせいしゃによるはんざいたいさくか)の一員であり、再生者の窓口でもある人間の三滝に南波は相談であろうとも、救いを求めた。

 それが、蘇者教の人間の目に付き、対象になった。

 それだけだった。

 そんな予想が、この男の存在を見て、確固たる確信に形を変えた。

 反田に続けるように、車から降りた犬鳴は男を見て、反田に告げる。

 「アイツ、最近、後悔にした犯人(ほし)だ」

 それに反田は、短く、

 「解ってます」

 と、答えた。

 そして、反田と犬鳴は立ちふさがる男を見つめる。

 そして、その視線に返すように、男は口を開いた。

 「へぇー、いかにも強そうなあんちゃんが二人。分が悪いなぁ…」

 そういって、男は一歩前へ踏み出す。

 それを見て、反田は犬鳴に乃方へは向かず、ただ単調に男をにらむように見つめながら、

 「…犬鳴さん、再生者の速力なら、対象の近くまであっという間でしょう。ここで、彼は抑えときますから、先に行ってください」

 冷静に、だが、その言葉の奥には、恐ろしいほどの殺気がたぎった声色で言った。

 そして、その瞬間、犬鳴は住宅の外壁を異様な速度で『走った』。

 その光景を、男は眺めるようにして見て、通過するのを確認し反田に訊く様に、

 「あっちゃー、あれ、再生者だったかー。それにしても、壁を五メートルくらい垂直に走っていくなんてやっぱイカレてんなぁ」

 と、反田よりも軽薄そうな調子で言った。

 そして、犬鳴の姿が見えなくなったことを確認し、反田は跡子に向かって一歩、踏み出す。

 「答えていただけると嬉しんですが…。三滝兼政という名前に聞き覚えはありませんか?」

 反田は、男に向かって歩み寄りながら質問を投げかけた。

 そして、男はその質問に答える。

 「あぁ、お前、目標のお友達かぁ…。へぇー、仲良しさんかなぁ?」

 その声を、聞いた瞬間、反田の姿は男の視界から消え、姿が消えたと男が感じた瞬間、男の顎に強烈なアッパーがのめり込むように入った。

 男はその勢いに流されるように仰け反り、ふっ飛ばされる。

 そして、男がいた場所には、拳を、振りかざし立つ、反田の姿。

 男は、その光景を見て理解した。

 男が答えた瞬間、反田は男の懐に飛び込み、強烈なアッパーを打ち込んだことを。

 そのまま、男は仰け反り、ふっ飛ばされ、路上に倒れ込む。

 その様子を一瞥し反田は、宣言するように言う。

 「手荒な真似をして申し訳ありませんが、こっちはいろいろと急ぎ用なんで、基本もクソもないやり方で静かになってもらいますよ」

 と。


  46


 そこから少し時間が経ち、私は再びあの二人を呼び出し、最後の作戦の確認を取り、そこを後にした。

 そして、今、午後七時五十八分。

 午後七時ちょうどから監視を始め、一時間。

 目的はまだ動いていない。

 報告のもあった通り、再生者の気配は二つ。

 相手も私達(こっち)の気配に気付いているのだろう。

 そして、私が最大に愛し、信頼を置く主教の命令を再び目を通した。

 そして、小さな声で、私は呟く。

 「…すべては私を見つけてくださった、主教様の為」

 それは私にその気持ちをくれる言葉だった。

 そして私は動いた。

 午後八時〇分。

 その時が来たから。


   47


 学校から帰って、俺こと、三滝兼政は取り敢えず、自分の部屋のベッドに寝転んだ。

 そして、目の前には再生者(リプレイヤー)に関する資料。

 学校で見ていたものではなく、この資料は再生者の生態、性質などがまとめられた物だった。

 俺にとっては、これは再生者に関する法令などの資料よりもっと、大切なものに思えた。

 文面の所々であらわれる、『サンプル』や、『被検体』の文字。

 元は人間だったのにも関わらず、まるでモルモットか、それに等しい何かのような言い方。

 もしかすると、人間から外れ人間として見られなくなったからという、理由があるのかもしれない。

 だが、俺は、そんな文面い出てくる言葉を許容することはできなかった。

 どうしてもと言われても難しいほどに、なんとも言えない悲しみと怒りを覚えていた。

 その感覚を心の底からひしひしと感じながら、あの日の記憶を思い出す。

 俺が華蓮を守ると決めた、その起点となったあの日々を思い出す。

 蔑まれ、死しか選べなくなってしまった彼女のことを。

 それを気付くことも、止めることもできなかった、あの日の俺ものことを。

 そして、彼女の死で涙を流す彼女の両親の叫び声を。

 俺は思い出す。

 その怒りと悲しみが激情となり、その激情がまるでセメントのように固まり、冷えた。

 それが何か危険な感情だと俺は一瞬で理解したが、その感覚は、感情たちと共に一瞬で消滅し、何事もなかったように感情はベッドに寝ころがり始めた時のまっ更なものに戻った。

 その一連の間隔が疑問に感じながらも、俺は再び、資料に目を通す。

 

  48


 そこから一時間後、俺はリビングのソファに座り、華蓮と共にさして面白くない情報番組を眺め見ていた。

 「ねぇ、カネマサ、てれび、つまんない」

 華蓮は俺にそんなことをいいながら、テレビのリモコンを差し出してきた。

 多分、俺にチャンネルを変えろと要求しているのだろう。

 仕方なく俺は華蓮からリモコンを受け取り、てきとうにチャンネルを変えている時、元々リビングにいたクナイさんが廊下へと携帯をとりながら突然出ていった。

 そして、聞き取れないが誰か馳尾通話が始まったらしく」、クナイさん乃声がほんの小さく聞こえた。

 そこまでして隠そうとする通話ならば聞くのは野暮だろうと俺はふたたびテレビに目を移した。

 「これ、止めて」

 そして、そういって、華蓮が指示したチャンネルで、適当に切り替えていた指の動きを止めた。

 その番組は動物の特集番組で、その時ちょうど、安楽死が特集されていた。


  49


 時刻は七時ちょうどを指したその頃。

 華蓮が辺りをきょろきょろと見回すようになり、クナイさんはよく見ていないと気付かないくらいなのだが、どこか挙動不審な感じがした。

 クナイさんは別に気にすることではないだろうと思い、俺は彼女を気にしないことにしたが、華蓮の様子はやけに変だった。

 俺はそれについて、ちょっとした遠回りな聞き方で質問した。

 「なぁ、華蓮、なんか変だぞ」

 それに華蓮は微妙な物言いで答える。

 「クナイみたいなの家にいる?」

 その問いに、俺はなんとも言えない不信感に襲われた。

 だがそれも気のせいだろうと思いたかったのだろう、俺は彼女にさらに踏み込んだことを訊きたいが為に

彼女にこんな質問を俺はした。

 「それって、どういう意味なんだ?」

 そして、その質問に答えるために彼女は口を開き、言う。

 「クナイと僕って、似てるんでしょ?そんな感じが、さっきからこの家の近くにいる気がする」

 その一言で不信感が不安に変わった。

 再生者がさっきからこの家の近くにいるのだと。


  50


 そこから、数十分後。

 クナイさんの携帯が何かを受信したらしく、着信音を鳴らした。

 彼女はそれに即座に反応し、画面を見て、ちょっとした操作をして、画面を暗転させた。

 どうやらメールだったらしい。

 するとクナイさんは急に、玄関に向かって俺にこういった。

 「兼政君、申し訳ありませんが、ちょっと私、外出します。少し遠い所に行くので帰って来るのは遅くなりますので、夕飯話二人で食べていてください」

 俺はその言葉を聞き彼女の顔を見た。

 その顔を表情は笑っているが目は全くと言っていいほど笑っていなかった。

 その目はまるで戦地に向かう兵士のような目をしていた。

 俺はその目に、どこに行くのかと訊こうとしていたのを呆れめた。

 そして、その代わりに俺は

 「いってらっしゃい、気を付けて行けてくださいね」

 と優しく声を掛けるしかできなかった。

 だが、クナイさんは、その声を聴いて、表情こそは変わらなかったが、彼女のその目はとても優しい目をしていた。


  51


 兼政宅から、クナイが出て行こうとしたその時、彼の家から数百メートル離れたところで反田一は冴中多陶嗜(さえなかた とうし)と交戦していた。

 顎を先生で殴られ、口の中が鉄の味であふれ出しそうな冴中多に反田は、容赦なく、追い打ちをかける。

 後ろ回し蹴り、鳩尾を狙ったストレート、足払い、地面に打ち付けるような回し蹴り。

 まだまだと、反田の攻撃は続く。

 実際、警官などの職業の人間は先制で攻撃など危害は加えてはいけないのだが、反田は冴中多の手には拳銃が握られており、それに対応できるようなものを持っていなかっため、それを取り上げるための抵抗として、というなんとも小癪な理由を付けてで冴中多を攻撃したのだった。

 正直言って、この抵抗理由が裁判で上げようものなら、職権乱用で捕まってしまう事なのだが、なにっせ、この冴中多は水面下で調査し、最近になり指名手配の犯罪者として、公に捜査し始めた人物だったため、嘘をある程度付けば、どうとでもなる相手だった。

 だが、反田の必要な連撃は、もはや一方的と思えた。

 しかし…、

 さく。

 なんとも、軽い音が、反田の肩から鳴った。

 そこには、冴中多が隠し持っていたナイフが刺さっており、たんだがそれを確認した瞬間には、引き抜かれていた。

 「うぐっ…」

 反田は小さな悲鳴を上げ、大きく後ろへ距離を取った。

 反田の猛攻の合間をぬった攻撃。

 一瞬のインターバルを正確に着いた一撃だった。

 冴中多は、猛攻のなか、勢いで飛んでいった拳銃を拾い、言う。

 「人間って、たくさん殺すと、いろいろ分っちまうもんなんだよ」

 口からこぼれる血を袖で拭いにたりと笑う。

 普通の人間なら建ってはいられないだろう。

 だが、冴中多は違う。

 判明しているだけでも三十人の命を手に掛け、未遂も含めると、五十人にも上る、殺人鬼である。

 そのうえ、その殺害した三十人には確保のため前線へと踏み出した警官の命も含まれている。

 そう、彼は警官すらも相手に出来てしまう特異な殺人鬼だった。

 そんな彼を反田は見つめる。

 まるで、ナイフに刺されたことが嘘だったかのように、立ち尽くす。

 そして、問い掛ける。

 「どうでしたか?良ければ教えてくださいよ、人を殺して、人を知った感想とかを」

 反田の声はとても冷淡で、飄々としている、いつものような雰囲気はなく、その彼の纏う空気には何もない怒りがあった。

 その反田の纏う空気に引くこともなく、冴中多は言う。

 「んー、そうだなぁ…。殺人、強姦、拷問、恐喝、窃盗、死姦、喰人、解剖、妊娠、挙げればきりがないほどのことをやって来たし、させてきた、それを通して、一番思うのは、人は絶望した時の顔が一番殺すときにはソソられるってとこだな」

その言葉に反田はさらに要求する。

 「あとは何かありますか?」

 その一言に、冴中多は何かを思い出したかのように、言った。

 「再生者だったか?そういうのも殺したことがあるぜ、俺は。あのときは何だったかなぁ…。人と再生者の子供が出来たらしいから、母体の再生者と一緒に殺して来いって、誰かに言われてな。そんで、母体を殺した後、腹掻っ捌いて、赤ん坊を取り出したんだよ。顔だけ辺にでかくて体がひょろ臭い、人間の子供と同じだった。あぁ、ああ!!!ありゃぁ、傑作だった、うひゃひゃひゃ!!」

 そして、冴中多は笑った。

 それと同時に反田は、告げた。

 「謝罪の意思はないってことでいいですよね、それじゃ黙ってもらいますよ…」

 そういって、反田はコツコツと、冴中多との距離を、ゆっくりと詰め始めた。


  52


 クナイさんが家を出て五分くらい経った。

 華蓮が眠いと言い出し、俺の膝を枕にし、横たわっていた。

 「…カネマサ、寝る…」

 華蓮はそういって、目を閉じ、寝息を立て始める。

 その無邪気な寝顔を見ながら、俺は彼女が言った言葉を思い出し、緊張した。

 『クナイと僕って、似てるんでしょ?そんな感じが、さっきからこの家の近くにいる気がする』

 その言葉が俺の中で気味悪く流れていた。

 クナイ以外の再生者の反応、そして、言えの近くで微かに聞こえる、クナイさんと誰かの話声。

 俺は別に耳がいいわけではない。

 ただ、今日はやけに辺りが静かだった。

 だから、静寂の中、小さな声でさえもパトカーのサイレンのように大きく聞こえた。

 遠くへ行くと嘘をついてまでクナイさんがが遺失した理由が華蓮の言った言葉に関係があるのか、そう思い、また体が強張った。

 その緊張の中、第六感が告げる。

 『何かがおかしい』、と。

 そして、俺は閉じられたカーテンの向こう、窓越しに睨み付けるように見つめた。


  53


 「反田さんはどうしているんですか?」

 クナイは犬鳴訊覚に気になることを質問した。

 現在、彼等は三滝宅の玄関ドア前にいた。

 その理由は当然、敵から三滝兼政とた小鳥遊華蓮を守るため、だ。

 その際、反田一は敵の一人に遭遇し、犬鳴を三滝宅へと先に行かせる形で逸れたのだった。

 そのことを知っている、犬鳴は知っている人間として当たり前の義務を果たす為、口を開き簡単にこう説明した。

 「反田は蘇者教の一員と思われる人物で指名手配中の冴中多陶嗜交戦中だ。アイツの到着は片づけ次第ってとこかな」

 その言葉にクナイは眉間にしわを寄せる。

 「襲撃者が複数いるんですか?」

 「あぁ」

 クナイの質問に犬鳴は短く答え、彼は続ける。

 「恐らく、少人数だろうが、含数人いることには違いない。俺の同族検知能力ではここ一キロ先から、現在進行形でこっちに二人の再生者が気持ち悪い程の高速度で向かって来ている、この感じだとあと一分かからずでご対面だ。俺の能力の応用の再生者の基本能力の『同族察知の認識阻害』をお前のピンポイントの座標だけだが掛けてある、今のうちに覚悟を決めて襲撃に備えとけ」

 クナイはその言葉を聞き、息を飲み、頷いた。

 犬鳴の能力である同族検知の応用、『認識阻害』。

 この能力は同族を感知できるなら、任意の同族を検知できないようにできるのではないかと様々な試行錯誤を繰り返したクナイの知る再生者の中では犬鳴だけしかできない、特殊な技能。

 その能力はクナイと犬鳴に対し、対策を講じさせないようにする、時間稼ぎのようなものだった。

 それを理解し、クナイは目を瞑る。

 敵は近くにいる、そう感じた。

 同族察知能力が示した距離は、およそ二百メートル先の玄関の真正面の方角。

 再生者の基本能力の同族探知乃限界範囲である一キロメートル以内でよかったと思うのと同時に、二百メートルという距離にしては短すぎる数字にクナイは苦虫をかみつぶした間隔を覚えた。

 そして、犬鳴が告げる。

 「お出ましだ」

 そういった瞬間、空に二人の人影が現れ、

 「チッ、三人いんじゃねーか」

 と、一つの男のような影が言った。


   54


 それと同じ頃、反田は冴中多陶嗜さえなかたとうしに手錠をつけ、電柱に固定していた。

 「…冴中多、貴方はここで待っていてください、どの道、後五分くらいで部下の回収班が来ますから」

 反田は冷たい調子で、冴中多にそういうと冴中多は単打を引き留めるように言う。

 「俺はな、蘇者教の信者ではねぇが、関係者だ。用心棒として雇われてるからな…。どう意味か分かるよな…?」

 その言葉を反田はすぐ理解し、目的地に向かいながら、答える。

 闇を照らす街頭にその身を照らして、答える。

 「死んで逃げれるとは思わない事です。こっちは時間次第ではいつでも蘇生させることができるんですから」

 その血だらけの身をなんともないようなそぶりで動かしながら反田はそこを後にした。


  55


 三滝宅前、四人の再生者がそこにはいた。

 「ねぇ、退けてよ」

 女の再生者がクナイと犬鳴に嫌そうに告げる。

 クナイは女の再生者に一言返す。

 「出来ません」

 そして、静寂が訪れる。

 …。

 ……。

 その静寂をある音が打ち壊す。

 ドゴォオンッ!!

 辺りにコンクリートが散らばる。

 土煙とコンクリートの破片をまとって動いた女の再生者の隣にいた、男の再生者。

 それは犬鳴の方へと向かっていた。

 正面から受け止める形になり、敵の顔を見た犬鳴は瞬時に敵の名を呟く。

 「ソロベルティ・アルシモフッ!?」

 そして、犬鳴は彼の体当たりをまともに受け、塀に激突した。

 だが、犬鳴はただの再生者ではない。

 殉職したといえど、警官は警官。

 ただの人間から、蘇ったわけではない。

 塀に打ち付けながらも、犬鳴はソロベルティの身体をしっかりと受け止め、数発の膝蹴りを加え、体を抑える力が弱まった瞬間につま先で彼の顎を思いっ切り打ち上げるように蹴った。

 「グィッ!?」

 ソロベルティは悲鳴を上げ、吹っ飛ばされた体勢をバク転を応用したなんとも強引なやり方で整える。

 そして、ソロベルティは口からうっすらと流れた血を腕でぬぐった。

 それを見て女の再生者は、

 「いきなり突っ込んでも、力量が判んないから、どうなるか分んないでしょ?」

 と、いまさらと言ったことをいう。

 クナイはそんな女の再生者を見て、頭が切れたらしく額の血を拭う犬鳴に訊く。

 「あの女の…、『暴食』ですよね」

 その言葉に犬鳴は少し驚いたように質問を返す。

 「何だ、クナイ。お前も知ってたのか、てっきり知らないと思って黙っていたんだが…」

 その言葉にクナイは掌の上に火球を出しながら、返す。

 「その事件、私も担当してますから」

 「…それなら話が早いな…」

 犬鳴は、塀にのめり込んだ体を起こしながら、そう呟き、敵を見据えて言う。

 「命令だ、クナイは『暴食』、俺はもう片方の『再生者』、ソロベルティ・アルシモフをやる。『例の法律』の適応で殺しても構わないが、個人的には『暴食』は捕獲だ」

 「はい」

 そんなやりとりからコンマ零秒もたたない内に二人の再生者は敵に向かっていく。


  56


 家でなんとも言えない気配と嫌な感覚に襲われている俺こと、三滝兼政は外から鳴り響いた音に肩を震わせた。

 ドゴォオンッ!!…ドグァ!!

 そんな音が耳に、頭に響く様に届いたのだ。

 まるで岩のような硬いものを砕く音とそういう固いものに何か、を叩き付けるような音。

 その落ちが俺の不安をさらに煽る。

 俺の家の前で何が落ちているんだ。

 そんあ疑問が思考を覆いつくし、一つの結論にたどり着く。

 人間の中で数えるべき愚かな感情の一つ、知的好奇心。

 それが俺にこう告げた。

 『外に行け。見えればわかるはず』、と。

 俺はその一つの命令につき動かれ、台所から包丁を一本持ち出し、上着を着て外へと向かった。


  57


 外に出ると、四つの影が踊るようにうごめいていた。

 そしてその中から、一つ、俺の方へ飛んできた。

 直線方向での移動だったからなのだろう。

 残像を遺しながら動いていた影が、人型、それも同じ年くらいの少女の姿がはっきりと見えた。

 そして、耳に届いたものは、

 「逃げて、三滝君ッ!!」

 と、足を止めて叫ぶクナイさんの声だった。

 俺はその声通りに、全力で、体を彼女の通ることはない方向へと動かす。

 いや、動かすというよりは、倒れ込むといったほうが妥当か。

 倒れ込み、ズレた俺の視界が襲い掛かってきた彼女を影と認識した。

 まるでボクシングンのジャブを眼の前で掠められたような感覚。

 だがそれよりも恐ろしいと思う事が一つあった。

 それは彼女の顔が俺の視界が影と認識する少しだけ前にまるで蛇のように大きく開かれ手様に見えたことだった。

 そして、俺はその狂気的な状況に戸惑い、襲い掛かってきた女乃方へ顔を向ける。

 その姿は本当にそこらにいる同い年くらいの少女で、彼女のその腕からは血がボタボタと流れていた。

 だが、彼女が俺の方へ顔を向けたとき、すべてがわかってしまった。

 その目期は殺意と狂気その二つが織り交ざった光があった。

 俺の目には、その光が赤黒く、爛々と輝く様に見え、実がその光によって固められる気がした。

 恐怖、それが俺の体を縛るように止めた。

 そして、彼女が再び動いた。

 その動きはさっきとは全く変わらない。

 その気になれば避けれるのだろう、だが。

 だが、全く避けれない。

 詩を覚悟した時、目の前の時間が遅くなった。

 これは、おそらくよく聞く、脳の処理が現状の情報量を処理仕切れず起こるとかいう現象だろう。

 その時間の中で、いくつもの自問自答を俺は繰り広げた。

 それはやろうとも思っていない、ほぼ本能的なものだった。

 そして、行くもん物問いの回答を終え、一つの答えが浮かび上がる。

 まだ、小鳥遊華蓮との約束が終ったわけではない、死ねないのだ、と。

 そして、俺の手は人間の限界速度で動く。

 包丁を手にして。

 襲い掛かってきた彼女の顔面、鼻のてっぺんに、切っ先が向く様に、俺の腕は包丁を固定していた。

 そして、そして、そして……。

 サク。

 そんな軽い音とともに顔に鮮血が飛び散り、包丁から手を離し、思いっきり、後退りする。

 そう、包丁がぐっさりと、彼女の顔に刺さっていた。

 それはもう、吐き気が催すような惨劇で。

 だが、俺は自然と、吐くことはしなかった。

 息は荒くもなく、変に冷静だった。

 それなのに頭の中にはトンデモない罪悪感と喪失感い苛まれる。

 俺は、そして、思考が単純化していることを感じながら、ゆっくりと立ち上がった。

 それと、ほぼ同時だろうか。

 彼女は、その場にあおむけで倒れ込み、叫んだ。

 「いいぃだぁぁっぁぁいいいいいい!?あああああああああああああああああああああああああ!?」

 耳を劈くような悲鳴。

 そして、俺の思考が完全に単純化されるその瞬間、後ろから誰かが、俺を羽交い絞めにし、膝カックンの要領で座り込ませた。

 「三滝君、大丈夫ですか!?」

 そして、座り込まされた俺の肩をつかみ揺らしながら話し掛ける声が耳に入った。

 あぁ、さっきの一連の動きはクナイさんがやって来たのか。

 俺はそんな薄い思考と反応の中、クナイさんに、

 「…大丈夫です…」

 と、答えた。

 実際、今この瞬間、俺は自分のことしか考えることができなかったせいか、自分の身を確認して、この言葉は出たのだった。

 そう、逆に言えば、身体は問題なくとも、精神的にはかなりのダメージを受けていた。

 だが、さっきも述べたように、俺の思考は単純化されていた事でそんあことなど全く頭の中には存在しなかった。

 クナイさんは気付かなかったがもう一人の仲間らしき人物に、

 「三滝君と華蓮ちゃんを別所へ移動させます。犬鳴さん、現在、戦闘不能のリプレイヤーから離れてください!」

 と一声かけると、動き続ける二つの影から、「おう!!」と短く少し年を取った男の声が耳に入った。

 朦朧とする意識の中、クナイさんは俺を担ぎ、家の中へと駆け込み、二階にいる華蓮を空いていたもう片方の肩で担いで、窓から飛び降りた。

 そして、俺の意識が途絶えた。


  58


 俺こと、三滝兼政は目を覚ました。

 そして、目の前にはクナイさんの顔があった。

 ほのかな鉄の臭いが鼻腔を刺激する。

 その匂いが全ての記憶を蘇らせる。

 そうだ、俺は、人を包丁で刺した。

 それも、俺と同い年ほどの女性の顔を鼻先にぐさりと。

 溢れ出た血と、粘膜、そして血しぶきの生ぬるい感覚。

 そして何よりも、初めは感覚がなかったが、刺した瞬間の感覚がすぐさま呼び戻される。

 今、起きたことのように俺の頭の中に鮮明にフラッシュバックする。

 「ああぁあ、あああ、ぁぁぁぁああああ…」

 頭を抑え、俺はその場で寝転がったまま、呻いた。

 呼吸は乱れ、うまく空気が体に入ってきてくれない。

 それどころか、ただ身体から空気が出ていくだけで、空気は少なくる一方だ。

 頭が痛くなってきた、変な汗も掻いてきた、鼓動も早くなっている気がする。

 「はぁ、っは、は、ぁっ、はぁっ、はあっぁっ!?」

 声なんか、もう出ない、ただ不規則的な呼吸音が口からは漏れ出していた。

 そんな俺にクナイさんは肩を持って、

 「大丈夫ですか!?しっかりしてください、深呼吸を意識せず、浅い呼吸を意識してください」

 と、俺にアドバイスをした。

 俺はすぐさま言われたと通りにし、時間はかかったものの、いつもと変わらない程まで呼吸を戻すことができた。

 落ち着いたことを確認し、クナイさんは、

 「もう大丈夫ですか?」

 と、聞いてきた。

 俺はその問いに、一つ息を吐き、

 「大丈夫です。すみません、何か…」

 と、謝罪を返した。

 それにクナイさんは、

 「いえ、私達が悪いんです。貴方に起こっている真実を離せばよかったんです。其れさえできて入れば、あなたがこんな思いをせずに済んだかもしれないのに」

 と、申し訳なさそうに俺に言った。

 そして、俺は体を起こし、あたりを一度見回した。

 そこは、公園で、俺はさっきまで、ベンチで寝かされてたのだった。

 華蓮はクナイさんに背負われながら、寝ている。

 どうやら、関係のない俺が専門的な戦いに出て来てしまったせいで、戦線離脱を余儀なくされたのだろう。

 だが、俺はそんなことより一つ、何よりも気になることがあった。

 「クナイさん、その、真実って何ですか?俺、この事態の子著全く理解できてなくて…」

 そう、俺はこの事態のことを知りたかった。

 そして、クナイさんは口を開いた。

 「そうですね、私が知る範囲のことを語りましょうか。巻き込んでしまったことに対しての今の分のお詫びとして」

 

  59


 クナイさんは重い口をひらき、続けるように真実を語った。

 「先日、あなたとの会談の後、南波双木が殺されました。犯人はあなたが危害を加えた、通称『暴食』と呼ばれる少女です。そして、その彼女が率いている二人のうち、もう一人がさっきほど目の前で戦っていた再生者、ソロベルティ・アルシモフです。彼の相手をしていたのは私の上官の犬鳴さんです。その中のもう一人は現在、反田さんと交戦中で最近テレビでも報道されたと思いますが、連続殺人犯の冴中多陶嗜です。『暴食』、ソロベルティ、冴中多、それら三人は蘇者教にかかわっているまたわその一員と思われます。そして、彼等の目的はあなたと小鳥遊華蓮の殺害と思われます。理由は定かではありませんが、私と犬鳴さんの憶測ですが、たぶんそれが一番可能性が高いと思います。いぬなきさんは初めは反田さんと共に、三滝家の周辺を警備する程度だったらしいのですが、冴中多との交戦から、事態が急速に悪い方向へ向いていると考え戦闘態勢を取りました。そして、そこから、『暴食』とソロベルティとの交戦、そして今に至る訳です。どうでしょうか、理解いただけましたか?何か質問でもあれば、わかる範囲、制限無くお答えします。」

 クナイはそう質問があるかと聞き、そこから口を閉じた。

 俺はその話に、何故、蘇者教というだけで交戦的な態度をとるのか、そう疑問に感じ、

 「話は大体わかりました。ですが、どうして、交戦という態度で蘇者教の再生者に対応したんですか?」

 と、素朴な問いを掛けた。

 そして、クナイさんはその質問を予想してたかのように答える。

 「そうですね、前に蘇者教のことは少し説明しましたね。貴方の予想通り、その中にも確かに、騙されているだけの善良なはずの人間もいます。ですが、反社会派組織に分類されているんですよ、蘇者教は。それにテロ活動を行う。それだけで世界的にはもはや目障りな存在なんです。そのうえ、再生者となると、さらにきけんどがあがります。そして、世界で決まってしまったんです。『蘇者教は駆逐すべき』と。要するに世界政府で蘇者教を殺すまたわ捕獲し、それにまつわる情報を吐かせ、殺害する、という法律が」

 俺は、クナイさんの言葉に絶句した。

 もしかすると、話せば理解できるかもしれない存在を、否応なしに殺すという考えに。

 俺はそして、質問を重ねた。

 「じゃ、じゃあ、今回の襲撃者の三人は…」

 「『暴食』は生け捕り、そして拷問後、殺害。残り二人はすぐ殺害、でしょうね」

 クナイさんは、そう、淡々と答えた。

 拷問、殺害。

 その二つの単語が蘇者教がどのような扱いで見られているか容易に想像がつく。

 狂っているようにも見えて、正気のようにも見える、矛盾した感覚。

 例えば、数人の人を殺した人物がいるとしよう、その人が死刑になって、疑問と思う人がいるだろうか。

 答えは簡単だ。

 思う人がいれば、思わない人もいる。

 そんな矛盾が今、俺の頭の中に駆け巡った。

 そして、俺はしばらく口を噤んだ後、理解した。

 だから、再生『者』なのかと。

 ただ人の形をしているから『者』という文字を使っているだけで、決して『人』として見られていないという事を。

 人権なんて、そんあことだったら当てはまる訳がない。

 まるで、差別だ。

 元は同じ人間だったのに、まるで、黒人を白人が差別していたかのように。

 原点を無視し、目先の脅威だけで推し量った結果が、こういうものなのだ。

 俺はその実態を、真実を―――、

 知った。


  60


 俺は一息つき、ベンチから立ち上がった。

 そして、すべてのことを理解し、いままで後回しにしていたことも含め、一つだけ、決めたことがある。

 それは、単純な話で、全てに向かい合い、立ち向かう事であった。

 俺は深く息を吸い込んで、思いっきり肺の空気を吐き出す。

 さっきまでの過去⑨状態での酸欠がまるで嘘のように空気が体を行きまわる。

 さっきまでの不安定で狂気的な何かに流されそうだった状態がまるで嘘のように安定し、しっかりと自分をもってすべてを見据えることができた。

 現実として見ていた現実が非現実と思っていた現実に砕かれ、非現実が現実になってしまったのだ。

 多少驚きはしても、もう止まらない。

 そう、俺は決意、いや、もっと固いモノだろう。

 いうなれば、芯というものが出来た、と言ったほうが良いだろう。

 俺は上空を見つめ、あの時した約束を思い出す。

 初めて、華蓮と出会った時に成り行きで出来てしまった約束を。

 俺は、それを、破れない。

 そんな自分への皮肉を込め、呟いた。

 「…子供との約束は、なおさら守らなきゃなぁ…」

 その声は、誰にも聞こえないほどで、まるで冬の吐息のように履いてすぐ消えるものだが、おれにはその言葉が文字となって空中を浮かぶように、くっきりと俺の心の芯に絡みついた。

 その時、見上げていた空を何かが通り、俺たちのいるベンチから少し離れた公園の砂場に何かが落ちた。

 ズサァ…。

 砂は空中を煙のように舞い、赤い光が見え隠れした。

 そして、俺はその光を一瞬にして思い出す。

 あの襲ってきた女、確か、通称『暴食』と呼ばれる少女、その眼光だった。

 砂の煙が止み、その中から、揺らめく様に歩き出てきた一つの影。

 俺と同じくらいの見た目、花あたりから縦一直線に貫かれたような血でまみれで、ぐちょぐちょとしている、相貌。

 その姿間違いなく、『暴食』だ。

 先ほどまで、緊張がほぐれかけていた空気にをまた緊張が走る。

 空気が厚く重たいながらも、冷たさを纏っている。

 だが、もう恐怖して、立ち止まる俺じゃない。

 敵が華蓮の命を俺と共に狙っているというのなら。

 「容赦は出来ないよなぁ…ッ」

  そう、一言、口から漏れ出し、構えた。

 『暴食』を倒すために。

 殺す為ではなく、あくまでも『倒す為』に。


  61


 「三滝君、まずは逃げることを考えてください。私達が今やることは、迎撃戦の戦闘ではなく、離脱戦の戦闘です」

 クナイさんは小さな声で、俺にそう指示した。

 「はい。クナイさんは華蓮をお願いします。できる限り、無理なく俺は追撃をつぶしていきます」

 俺はその指示に頷き、返す。

 「わかりました。では、真後ろに動きます。速度は人間レベルに抑えます。、ですが、遅いわけでは二ですよ」

 そしてクナイさんはそう返すと、

 二人同時に、振り向き、後ろへと走った。

 

  62


 そこから三百メートル程、走った。

 俺は後ろを向くと、彼女はまだ砂場付近からゆらゆらと歩くのみだった。

 だが、その姿が、その速度が、異常に恐ろしかった。

 おそらく、さっき、顔面を刺した時、脊椎のどこかを痛めたのだろう。

 そこがまだ刃物が抜け落ちた後で治りきっていないのにもかかわらず、再生者の同族認知の身だけで追ってきた、という予想が正しいだろう。

 そして、現段階で、俺たちがどういう状態でどういう速度で移動しているのか、同族検知で探していると考えた方が妥当だろう。

 俺は、そこで、その予想を信じ、クナイさんに提案する。

 「クナイさん、一旦、俺に華蓮を預けてください。確か同族検知と言ってもそれを強化された能力を持つ再生者くらいじゃないと、能力や身体の代償はわからないんですよね?」

 その問と提案にクナイさんは、

 「そうですね、その提案乗っかりましょう。三滝君の考えは間違えじゃない」

 と、足を遅めて、俺にか華蓮を渡した。

 華蓮はまだ寝息を立てている。

 さっきから舌を嚙んでないところを見るに、そういう心配はしなくてよさそうだ。

 あとはしんぱいないとおもったことがおこらないように注意しながらさっきと近しい速度で走るだけだ。

 しっかりと、俺が華蓮を背負ったところを確認し、

 「ではそこの曲がり角で、別れましょう、私は曲がり角を曲がります。三滝ンはまっすぐ行ってください。もし、そちらに『暴食』が近づく気配がありましたら、そっちにすぐ向かいます。では―――」

 クナイさんは曲がり角に差し掛かり、一度、間をおいて、

 「ご武運を」

 そういって、俺と華蓮はその道を真っ直ぐ、クナイさんは角を曲がって、二手に分かれたのであった。


  63


 「ッ、はぁ、はぁはぁ…ッ」

 俺こと、三滝兼政は息絶え絶えに華蓮を背負いながら、走り続けていた。

 「んぁ…?」

 背中から、緊迫したこの空気にふさわしくない可愛らしい声が聞こえた。

 華蓮が目を覚ました。

 それが意味するのはある希望と、ある絶望。

 この状況に彼女が理解をするのか否かで全てが変わる。

 だが、俺が説明のため、口を動かすのよりも早く、華蓮は言う。

 「なんで、カネマサは僕を背負って走っているの?」

 その質問に端的に答えようと俺はするが、その時ふと思う。

 こんなにいきなりで理解できるのだろうか。

 そして、そんな疑問に答えが追撃を加えるかのように出てくる。

 俺はその答えを知っていた。

 理解できる訳がないと。

 その答えに俺は戸惑い、走る足がほんの少し、ゆっくりになる。

 その瞬間、華蓮は言った。

 「カネマサ、逃げてッ!!クナイみたいだけど、変な奴がこっち来てる気がする!!」

 そう、『暴食(イーター)』はただゆっくり歩いて追いかけていたわけではなかった。

 俺たちの所に来たときはすでに回復し終わり、俺たちが二手に分かれるだろうと予想し、人間である片方がつかれ、足を止めるか、遅めるのを彼女は待っていたのだ。

 背中に悪寒が走ったときにはもう遅かった。

 ズダンッ!!

 アスファルトから大きく砂埃を上げて、奴は目の前に降りてきた。

 口を三日月を横に転がしたように大きく広げ、にたりと笑いながら、ふらりふらりと派手な登場とは反して、奴は近付いて来る。

 襲撃者であり、蘇者教の刺客の少女。

 『暴食(イーター)』が。


  64


 俺は息を飲む。

 緊張は最早、俺の許容レベルを超えていた。

 唾液も、手汗も、ましてや、呼吸が荒くならなかった。

 その時には、ただ息をのむだけで、心音だけが耳に響いていた。

 むしろ、この世界には最初から、自分の心音しかないような錯覚まで起こしてしまいそうになった。

 その中、俺の異常な緊張に縛られているのを解いたのは俺でも、『暴食(イーター)』でもなかった。

 「カネマサ、降ろして」

 そんあことを言ったのは、華蓮だった。

 俺はその言葉にあっけを取られ、言いなりになって、彼女を降ろした。

 そして、華蓮は俺にだけに聞こえる声で言う。

 「カネマサ、約束守ってくれるなら、聞いて」

 その芯のある、彼女の声に俺は

 「…あぁ」

 と短く、そして小さく頷いた。

 そして、華蓮は俺に言う。

 「カネマサ、私はおとりになる、早くクナイさんと合流して、ここからなら、『あそこ』が近いからそこでこいつを倒そう」

 俺は彼女に言った言葉をこの町を一瞥することによって理解し、答えた。

 「いいのか?」

 「やらなきゃ、やられる」

 そんあ短い会話で、俺は彼女をまもるという約束を果たすため、そして、彼女が言った言葉の『倒す』の純粋さを理解し、彼女の今の願いを叶える為に俺は最後に答える。

 「分った。『あそこ』にクナイさんと合流してからすぐ向かう。絶対にお前を助けるからな」

 そう俺が言った瞬間、華蓮は今まで見せたことのない速さで近くの家の屋根に飛び、駆けていった。

 『暴食』は俺をじっと見た後、

 「お前は、最後」

 そう言い残し、華蓮のあとを追うように、家の屋根に上り、駆けていった。

 そして、俺は携帯を取り出し、クナイさんに電話をかけ、このことと、今から行く目的地を話した。


  65


俺は移動しながら、クナイさんと合流し、クナイさんはそこからの最短ルートを、俺を担ぐようにし、輸送していた。

 「何でそんな下手したら華蓮ちゃんが死ぬような真似取ったんですか?」

 クナイさんは、責め立てるように、俺に言う。

 それに俺は答える。

 「アイツの目が本気だったから、信じました」

 そう言うと、クナイさんは溜め息を吐き、

 「今度から、そんなことをしないでください。このことは隠すことができれば、反田さんには秘密にしておきます」

 「ありがとうございます」

 その会話を最後に言葉のなげあいわとまり、二人は静寂の街を飛び回る。


  66


 「っ、クッ、ハァッ!?はぁはぁ、はぁはぁはぁはぁ…」

 小鳥遊華蓮は謎の敵から『あの場所』へと誘導させるために必死の走っていた。

 その間、彼女がどう思って走っていたのかはわからない。

 その答えは彼女のみが知っている。

 ただ、わかるモノは一つ。

 三滝兼政という少年への信頼だけ。

 ただ直感だけで、自分が敵とみなした奴は現に自分に悪意を持って追跡を続けている。其れだけが彼女にとって、状況を判断できる材料だった。

 自分が死んだのは知っている。

 それでも、生きていることに疑問を覚え、迷っていた。

 そんな時でも三滝兼政は手をさしのべた。

 彼は彼女にとってはもう、『勇者』だった。

 ただそこにいるだけ、安心で切る彼の為ならば自分は、と。

 約束を果たすと言った彼ならば絶対に、と。

 彼女は走る。


  67


 暖加鮮芽(はるか あざめ)はただ気配を頼りに走っていた。

 三滝兼政に何かで顔面を差されたとき、両目の神経を一度二傷をつけ、完全い失明させていた。

 そして、目という部分は再生しにくく、一度失明すれば完全い元には戻れない部位でもあった。

 だが、鮮芽の感覚は視界という感覚がなくなったことにより、再生者(リプレイヤー)のみの感覚である、同族検知能力が敏感になっていた。

 鮮芽はその鋭敏になった能力で小さな逃亡者を追っていた。

 教祖様のために。

 途方に暮れ、人を恨むことしかできなかった自分にかちをあたえてくれた教祖の為に。

 鮮芽は走る。

 別に、彼女は、特別な存在になっているわけではない。

 彼女は再生者として、この世界に出現したときは何も訳も、分からなかった。

 ただ、憎き自分を殺した人間を殺すことにしか興味がなかった。

 涙と叫びの化身として、街を放浪していた時、教祖は現れ、彼女のすべてを訊いた。

 そして、答えた。

 『君は、生まれ直した存在だ。神と似たことをしたのだ。私が君の願いを叶え、君を幸せをあたえよう』

 そう言って、彼女を抱きしめた。

 それだけで彼女は救われた。

 妬まれ、嫌がられ続けた私を理解して、抱きしめてくれた教祖に彼女は救われたのだ。

 そして、彼女はそこからは、血の道を進んだ。

 教祖様のために、教祖様が言う、異端を叩くために。

 だから、暖加鮮芽は追う。


  68


 「はっ、はっ、はっ…んぅぐっ!?」

 小鳥遊華蓮は『あの場所』から、もう少しの所で、足が止まった。

 その理由は簡単で最悪な理由だった。

 「みぃぃぃいいいい、つぅ、けぇえええ、たぁぁぁぁあああああ…」

 狂気的な声で、暖加鮮芽に片手で首を絞めつけるのと同じ要領で、宙に持ち上げられたからだ。

 「っ、ぐッ、ぅぅ、…ぐ、くるじ、…あ˝、うぅ゛…」

 小鳥遊は両手を首を絞めている手へ必死に掴もうと市、足をジタバタと動かし、抵抗するが、意味がない。

 足は空振りを続け、反動で、首が閉まる手助けするだけだった。

 息がほとんど出来ず、ただ、恐怖だけが、彼女に圧し掛かる。

 ただ、一方的に暴力を振られる感覚、それは彼女の中では最も馴染みこんでしまった感覚だった。

 そして、あの時の記憶が一瞬にしてあふれ出す。

 思い出す。

 誰にも言おうともしなかったあの過去を。

 足は、動くことを辞め、痙攣するように震えだす。

 手からは力が無くなり、するりと、片手から落ちた。

 顎は震え、がちがちと歯ぎしりのようなかみ合わせた音が鳴る。

 息は過呼吸で、程していないのに近かった。

 変な汗が小鳥遊の全身を濡らす。

 ただ、声だけが出た。

 「たすけ、て………………………、カネマサ……」

 そんな小さな悲鳴じみた、甲高い声の助けを呼ぶ言葉が。

 思ったよりも早く捕まってしまったのかもしれない。

 だからカネマサはまだクナイとここに移動している途中で。

 小鳥遊は思った。

 そして、最後に思った。

 バカなことをしたと。

 助けは来ないのかもしれないと。

 カネマサはこの助けが聞こえないのかもしれないと。

 そう思い、目を閉じた―――、


  69


 ―――そんな時、異常な声と、下に落ちる感覚が小鳥遊を襲った。

 「うぎゃぁあああああああああああ!?」

 そして、その悲鳴に恐れを覚え、小鳥遊は目を開く。

 そこには、彼女をつかんでいた手が燃え盛っている敵が映った。

 そして、信じていた人が駆け寄ってきた。

 「大丈夫か!?」

 慌てた表情で、話しかけるその顔を小鳥遊は知っている。

 知っているし、来ると信じていた。

 諦めかけた希望が彼女に訪れた。

 三滝兼政がそこにはいた。


  70


 俺こと、三滝兼政は一度、華蓮を抱え、クナイの能力によって発火した腕を抑え、のたうち回る『暴食』を見つめ、言う。

 「悪いが、もうこれ以上人を気付付けるのはやめてくれ。俺はこれ以上、血は見たくない」

 その言葉には、俺の記憶の重さを載せていた。

 それが他人から見てどう受け止め、どう感じるかはわからない。

 だが、おれなりの重さを込めて、そういった。

 そう、言ってから、華蓮の方を見て、言う。

 「遅くなった。あとでいくらでも謝る。別に許さなくてもいい。それでも、ごめんな。辛かったろ?」

 そう伝えた。

 すると、華蓮は僕に縋りつく等にして、掴みかかり、涙交じりのぐちゃぐちゃな声で、

 「ごわがっだぁぁああ、うッ、ひっぐ、うええええん、ガネ˝マ˝ザぁぁぁ」

 と、泣いていた。

 俺は、華蓮の頭をそっと撫で、近くの建物の壁の影にそっと座らせた。

 そして、俺は言った。

 「ここは俺と華蓮が『初めて会った場所』だもんな、約束したからには守らないといけないし、個々ならなおさらだ。だからちょっと、行ってくる。すぐ帰って来るから、待っててくれ」

 そういって、俺は再び、壁の影から出る。

 そこには、火が収まり炭化した自分の腕を抑える『暴食』の姿がいた。

 そして、俺は満身創痍の『暴食』に言う。

 ここから、二十メートル離れた、場所にいるクナイはすで十を構えていることを確認して。

 「本名を知らなくて、申し訳ないが、『暴食』さん。これが最後の警告です。投降してください」


  71


 「本名を知らなくて、申し訳ないが、『暴食』さん。これが最後の警告です。投降してください」

 俺こと、三滝兼政は『暴食』そう言った。

 そして、『暴食』はそれを聞き、静かに口をひらいた。

 「…昔話をしよう」

 そう言って、彼女は続けた。

 「私は自分でもいうのは難だが、ほかの人々より、確実に賢かった。それに、私はあまり人と話すのが得では無かったせいで、他人との交流を避けていた。それが問題だったのだろうが、妬みや恨みを買いやすかったんだ。私はね、何万回も裏切られたし、見放されたし、省かれた。何万回という表現が大げさではないくらいに。そしてね、冬のある日、私は私を嫌う数人に呼び出されて、人通りのない倉庫に閉じ込められた。怖いなんてもんじゃなかった。その間、生き残ることと、そこから出ること、そして、私にこんな目を遭わせた奴らを恨んだ。最初は倉庫から脱出することだけを考えてた。たったの数時間で出れないってわかった。その次に生き延びることを考えた。でもね、そこには食べれる物はなくて、虫とか、隙間からとれる、雪くらいしかくちにするものはなかった。ゴキブリも食べた。でもやっぱり、飢えはなくならなかった。そして、ある日体に異常なかゆみ、それと同時に、見たことのない斑点が身体に現れた。そして、異常な熱が出て、動けなくなった。それでも結構持った。多分三カ月くらいは持ったんじゃないかなぁ。そこからは私はコンクリートの床を食べようとしたり、普通の考えが抜け落ちていた。その時にはもう、頭の中は私を陥れた人間たちを恨む気持ちだけだった。それから、また少したって、私の頭の中で何かが切れた音がした。そこからは記憶がないけど、最後だけ、記憶があるんだ。ただ、ただ、最後の最後にね、食べているときしか、幸せって思う瞬間が私には訪れなかったなって。そこから最近の話になるけれど、私は再生者となり生まれ直し、一年前、蘇者教最大主教様に出会った。そして、私のすべてを理解してくれた。そして、居場所をくれた。そんな人、生きている間、一人もいなかった。だから、その恩返しに私は、すべてを主教様にささげると決めた。彼を信じる事にした。何でもすべてやることにした。それが私の全て」

 『暴食』は悲しそうに、語った。

 そして、焼き焦げ、痛みを感じる部分もなくなったであろう片腕から手を離し、両手をぶらりと降ろし、『暴食』は俺の目をじっと見て言う。

 「三滝兼政って言ったか?お前は私の名前を知らないはずだ。あとで調べとけ、多分新聞の記事になっているはずだ」

 そういって、一息開けて彼女は告げる。

 「私の名は暖加鮮芽だ」

 そう告げ、彼女は空を見上げる。

 きれいな夜空と三日月の空を。

 そして、俺にこんなことを言った。

 「お前はこれ以上、血を見たくないと言ったな。分った。これが私が見せる最後の血だ」

 そう言って、手刀の形を作った手を口元に寄せた。

 「私が最後に殺した貴様らと交流を持った『再生者』は物質の硬化、またわ自己の任意の部分の硬化ができるそうだ。」

 『暴食』、いや、暖加鮮芽は大口を開け、手刀の形のまま手を口の書かへ突っ込む。

 そして、異常な力で、押し込み、ぐちゅり、と何かを貫く音と、ガギギリリ、という固いものがこすれ削れる音が彼女から鳴り、彼女の口から大量の赤い液体が流れ、突然、うなだれると同時に、口からズポリと手が抜け落ちた。

 そして、口からは血が滝のように流れ、すぐ勢いを失い、止まった。

 それと同時に、彼女の肌の色が青白くなり、ピクリとも動かなくなった。

 そして、俺は理解した。

 彼女が死んだのだと。

 そして、離れて俺を眺めていたクナイさんが駆け寄って、こう言った。

 「捕らえるつもりでしたが、これは、死んでますね…」

 重々しい言い方で、クナイさんは俺の肩に手を載せた。

 俺は、クナイさんに一つ訊いた。

 「敵って、本当に、敵なんでしょうか?」

 その問いに、クナイさんは答える。

 「敵はいますが、見方を変えれば、大体の敵が、『伝わらなかった正義』ですからね」

 俺はクナイさんの答えにこう返した。

 「これ以降から、おれにも、こういう仕事をください。途中で死んでも俺の責任でいいです。こんな詩をもう見たくないです」

 それにクナイさんは静かに返した。

 「反田さん次第ですが、本当に覚悟が決まっているならば、私が少しは後押ししましょう」


  72


 「ウグゥあぁ!?」

 ソロベルティ・アルシモフは悲鳴を上げた。

 その理由は、簡単だった。

 反田一(たんだ はじめ)は正確に両足のアキレス腱に銃弾を叩き込み、断裂させたからだ。

 そして、ソロベルティは地面にうつ伏せに倒れ込む。

 だが、ソロベルティはそれだけでは完全に動きが止まらなかった。

 犬鳴訊覚(いぬなき とおぼえ)に『血に濡れた』掌を向けた後思えば、そこから、光の刃を放ち、それをすれすれで避けた犬鳴の腕に切り傷を入れた。

 反田は、犬鳴の傷の浅さを確認し、呟く。

 「それにしても厄介ですねぇ、自分の体液を光る刃に変える能力。まぁ、ギロチンでの処刑と訊きましたし、最後に、光り輝く刃を見たと思えば納得できなくもありませんが…」

 そう、ソロベルティの能力、それは自分の体液を光る刃に変え、任意の方向に飛ばすというものだった。

 一度に一回、一つずつで連射は出来ず、刃の大きさ分体液が必要になるという制約はあるモノの、恐ろしいのはその射出速度である。

 見た感じで秒速千メートルは越してると考えた方がいいだろう。

 それが百メートルの間合いで打ち出されると考えると、異常なモノだろう。

 そして、今、反田と犬鳴は、遠距離、近距離と分担し、ソロベルティの相手をしている。

 打ち出された掌に、反田は容赦なく銃弾を打ち付ける。

 パン、とプラスチックを叩くような渇いた音が響き、ソロベルティの掌から、血しぶきが舞う。

 「ぎぃ!?」

 短い悲鳴を上げ、血だらけのからだを地面で芋虫のように捩じらせる。

 犬鳴は、全身に出来た切り傷からあふれ出る血液に足元を一瞬だけ滑らす。

 それにすかさず、反田は犬鳴を支えた。

 そして、犬鳴はソロベルティがひるんでいることを察知し、能力を使ってクナイと小鳥遊華蓮(たかなし かれん)の場所を特定すると、その周辺にはもう一人いるはずの『再生者』の気配が無い事に気付く。

 特定から、次は超広範囲の捜索をするも、もう一つの気配はない。

 そして、その判断材料から、犬鳴は反田に伝えた。

 「『暴食』の気配が消失(ロスト)した。多分、死んだな」

 そして、反田はそれに簡単に答えた。

 「では、こいつ『だけ』、生け捕りにしときますか、吐かせる材料としては心もとない気がしますが」

 それに犬鳴は短く答えた。

 「そうしろ」

 その言葉と同時に、反田は五発、ソロべルティに打ち込んだ。

 膝裏に二発、肘に二発、肝臓付近に一発。

 どれも比較的、再生者の再生能力が効き難い部分だった。

 反田は犬鳴を近隣の外壁に凭れか帰れるように座らせ、車を取りに行くため、その方向へ足早に駆けて言った。

 その一連の行動は無言で行われていた。

 そして、一分程後、だろうか。

 パン、パン。

 そんな渇いた銃声が聞こえた。


  73


 俺こと三滝兼政に反田さんから、軽い謝罪と、自宅前に集合するというメールが来たのは暖加鮮芽が死んでから、十分ほど後だった。

 そのメールはクナイさんイも届いていたらしく、クナイさんも俺と同じタイミングで着信音が鳴りだし、携帯を見ていた。

 クナイさんは携帯をすぐ仕舞うと、

 「死体の処理は我々の部署の事後処理班が後程、回収いたしますので、さっさと落ち合いましょう」

 と、言った。

 俺はクナイさんの切り替えの早さと死体を見つめていられる異常さに恐怖しながら、すべてを押し殺し、彼女だったの死体に一度も目を向けないまま、俺は華蓮を死体を見せないように背負い、そこを後にした。

 華蓮には、目をつぶったまま移動してもらっていたが、もう、こんなこと、俺も、目をつぶりたかった。


  74


 そこから数十分歩いたのち、車に乗った血まみれの中年の厳ついおっさんと反田さんが俺の家の前に待っていた。

 「三滝君、明日、別の要件でまたお伺いします。今回の件は本当に申し訳ないと思っています」

 反田さんはどこかくらい顔をしていた。

 ただそれだけしかその時の俺は見て取ることができなかった。

 背負われたまま、華蓮は知らない血まみれのおっさんに、

 「おじさん大丈夫なの?」

 と心配していたが、おっさんはそれに、

 「何時もの事だ。心配してくれて、ありがとな」

 と笑っていたので、そこまで心配しなくてもいいだろう。

 隣りに立っているクナイさんはちょっとした擦り傷が目立つくらいで、問題はないだろう。

 華蓮も見た感じ、異常はなさそうだが、後でちょっと、様子を見ておくことにしよう、そんなことを考えていた俺にちょっとした刺し傷のような怪我が目立つ反田は言った。

 「三滝君、僕は君にこれだけは言っておきたいと思う」

 俺はそれに疑問を受けべながら、

 「言っておきたいこと、ですか」

 と答えた。

 そして、反田は言う。

 「君は真実を知らなければならない人物なんじゃないかと思っています。だから、明日までに強制的に知らされる真実を受け止める覚悟をしておいてください」

 その言葉に俺は頷いた。

 それしかできなかったから。

 そして、反田さんは、

 「では、また明日ですね。夕方四時ごろにお伺いしますのでよろしくお願いします。おやすみなさい」

 そう、あいさつし、車を走らせた。

 俺は車が見えなくなるまで、その車を走らせた。

 クナイさんも俺の隣で同じくそうしていた。

 多分肩にかかる感覚から、華蓮もそうしているのだろう。

 そして、車の姿は闇に消え、俺たちは街灯に照らされていた。

 後ろを振り返ると、血の付いた包丁が転がっていた。

 俺はその包丁を拾い、クナイさんに華蓮と包丁を預け先に家の中に入ってもらった。

 静寂に包まれたこの夜に、俺は、他人の死を目の当たりにし、異常すぎる衝撃を受け止め切れずに、行をこらえて、泣いた。

 誰にも聞かれず、誰にも気付かれない、そんな孤独な涙を流し、この夜の戦いは終りを告げた。


  75


 あの戦いから、夜が明けた。

 俺こと三滝兼政はリビングのソファーの上で目を覚ます。

 どうも自分のベットで寝れる気もしなかったので、ソファーの上を選んだのだが…。

 体を起こすと、背中に凝り固まったような痛みが走る。

 それほど気にするようなものではないのだろうが、俺はどうもその痛みが心の状態に関係しているのではないかと疑わしくなった。

 今日は、祝日だった。

 普段の祝日は昼間で寝て過ごすか、本を読むか、ゲームをするか、そんなことしかやっていない気がするが。

 今日はそんな気も起らなかった。

 時計を見れば、七時ちょうどを指している。

 まだ昨日の理解がおいついていない脳に、リビングのドアが開いた音が響いた。

 俺は、とりあえずと、ドアの方へ眼を向けると、そこには華蓮が寝ぼけたように目を薄く開けて立っていた。

 「おはよう、華蓮」

 俺はそう彼女に言った。

 彼女も、

 「おはよ、カネマサ」

 と、返した。

 何気ない朝のこのやりとりが俺の心に針を刺すかのようにチクリと傷んだ。

 昨日の反田さんや、知らない味方だとは思うおっさん、クナイさん、そして、敵の『再生者』の暖加鮮芽ともう一人の『再生者』の男。

 もう一人の『再生者』の男はどうなったかは知らないが、少なくとも、暖加鮮芽は死んだ。

 それも自らの手で。

 いくら俺が偶然、自己防衛で、痛手を負わせたからと言って、あの死を俺は良しとはできなかった。

 いきなり襲ってきて、いきなり殺そうとしてきた敵でも、俺は、最後に語った彼女の話を忘れることができない。

 もしもあの話が本当ならば、俺は彼女の死を選ばせず、罪を償わすために行かせていたのではないかと思う。

 死人に口なし。

 そんな言葉を思い出す。

 確かにそうだ。

 彼女の口から、謝罪と懺悔にお言葉も愚か。

 彼女が全ての人が彼女を恨んでいたわけではないと驚かせることも、出来ない。

 そんな身もふたもない事だけが頭をよぎる。

 それに俺は、人を刺した。

 その時には、相手は死ななかったと言えど、顔を貫く様に刺した。

 その感触が全身にまだ残っている。

 そんな衝撃が、感覚が、まだ心が追いつけていないというのに、俺の心に押し掛ける。

 そんなのに、俺は耐えられることもできず、置き去りにされている。

 時間は進むが、心は成長しない。

 その矛盾が、今の俺を襲う。

 そんな時、俺の隣に華蓮は座った。

 華蓮も、恐ろしい目に遭ったはずだ。

 俺が少し遅かったせいで、彼女にとても怖い思いをさせてしまった。

 「華蓮、ごめんな」

 気付けば、俺はそんなことを口にしていた。

 それでも、小鳥遊華蓮はこう返す。

 「絶対に来てくれるって信じてたもん。約束守ってくれたから、僕は、とっても嬉しかった」

 その言葉に俺はほんの少しだけ救われた。

 そして、俺は思った。

 華蓮は俺が思っているよりもずっと強くて、ずっと優しかった。

 俺なんかよりも、ずっと、ずっと。

 俺は、そんな思いからかこんなことを訊いた。

 「俺は本当にお前を守れてるのかな…」

 むしろ守られているのは俺の方なんかじゃないかと、そう俺は思った。

 でも、彼女はこう答えた。

 「カネマサはちゃんと、僕を守れてるよ」

 そう言って、華蓮は俺の膝の上に乗っかった。

 その軽さに、重みを感じた。

 活きている者の重みを。

 そして、華蓮は続けるようにこんなことを言った。

 「カネマサ、僕はね、こうしてまた生まれ直して、とっても不安なんだ。でもね、カネマサといれば、大丈夫って、思える。もう、それで、僕はカネマサに助けられてるんだ。だからね、カネマサは僕を守れてる。僕がホショーする」

 俺はその言葉につくづく、素加えれているなと思い、華蓮の頭を撫でた。

 撫でられ、嬉しそうに笑う華蓮に微笑み返し、俺はもう、こんな姿を誰にも見せないことにした。

 俺が壊れても、俺が消えても、彼女を、小鳥遊華蓮を守るためならば、どんなものでも、俺が何とかしなければならない。

 それなら弱い所なんていらない。

 強くあり続けることだけを考える。

 切り替えられない部分はたくさんある。

 それならそれはそのままにすればいい、ただ今は、進むことだけを考える。

 もう、今の俺には、それくらいしかやることが無いから。


  76


 午後四時くらいに反田さんが来た。

 反田さんは俺の座るソファーについに置かれたソファーに腰かけ、ある資料を俺に渡してきた。

 そこには、俺の家の塀、またそれによって、傷が入った家の部分の修繕、また包丁、衣服の費用を含めた俺と華蓮に対する賠償金。

 そんなことが書いてあった。

 人の死に夜、衝撃が金で何とかなると思っているのだろうあkと、俺は心底、あきれるが、反田さんはこう、俺に言った。

 「本当に安価な命ですよね。僕もいちおう上には金で何とかなるのかと聞いたんですが、やっぱり上(おえらいさんがた)はそんなことことより目先の案件やトップの機嫌取りに忙しいんですよ」

 と、反田さんは皮肉を込めた口調でそんなことを言った。

 どうやら、反田さんも同じことを思っているようだ。

 「まぁ、とりあえず、この金は普通に家の修繕費や、生活の足しにしてください。僕としては、ただ謝る事しかできませんので、これ以上はどうとも言えないですが」

 そう言って、反田さんは暗い表情を見せた。

 俺は、そんな反田さんに変なことを言う。

 「反田さん、僕はもう、戦わないっていう選択肢がないと思うんです」

 その言葉に反田は聞き返す。

 「それはどういう事ですか?」

 「今回の襲撃は俺と華蓮が標的だったんですよね。ならもう、一方的に守られているだけだと、いつか隙ができる。そのすきに俺が襲われたら、どうしようもないでしょう?なら、そうなったときのために、華蓮はともかく、俺が戦えるようになっておかないと、いけない気がするんです」

 反田は俺の答えに考え込むような仕草を見せ、行った。

 「分りますよ、言っていることは。ですが、私たち、『再生者による犯罪対策課』の仕事は、あなたがもともと請け負っている仕事と、蘇者教のような犯罪者集団の殲滅の仕事があるんです。それに世界政府で、『再生者』絡みの犯罪組織はきほんてきに捕虜としての捕獲、または緩傾斜を含めた、完全な抹消。要は、殺害が命じられているんです。用は、犯罪組織の制圧イコール人殺しと言っても差し支えに置ない事なんですよ」

 反田さんは、俺にまた新しい事実を突きつけた。

 「犯罪者集団と言っても、俺は『暴食』のような、人物は構成の余地があるはずだとは思えます。なのに、殺すって、どういうことですか」

 俺は、その言葉とは裏腹にとても落ち着いた声色で、声色と同じく、心も平静を保っていた。

 その俺の姿を見てか、丹田さんは真面目な口調で答えた。

 「情報の保持、漏洩の対策と言った感じでしょう。僕自身も、この政府の判断には不満ではありますが、立場のおかげで、僕は従わなくてはなりません。で、兼政君、本当に、戦うことにするのですか?別に僕は止めません、君次第です」

 反田さんは、俺の目を見つめて言う。

 両隣に座ったクナイさんと華蓮も、俺のことを見つめている。

 俺は、少し、昔のことを思い出し、再び覚悟を決めた。

 『三滝さんは私の大好きな人です。だから、ずっと優しい気持ちを忘れないで』

 あの時、    がくれた言葉を、俺は思い出して、反田さんに言った。

 「そうですね。俺は戦わないという選択肢はもうないですから」

 そして、その言葉を反田さんは理解し、

 「わかりました。明日、クナイさんと共に私たちの拠点に来て下さい。僕が貴方の管理責任者として面倒をみましょう」

 と、諦めたように反田は言うと、突然、華蓮は単打に向かって、言う。

 「カネマサが戦うなら、僕も連れてって、邪魔だったら追い出してもいいから…」

 その言葉は竜頭蛇尾で、最後の言葉はとても小さな声だったが、一貫して、その声や彼女の、雰囲気からは真剣さが伝わっていた。

 「…二人そろって、ですか。まぁ、手はかかることは確定ですかねぇ…。とりあえず、華蓮ちゃんも、来てください」

 反田さんは苦笑いを浮かべながら、そういった。

 そして、反田さんは、腕時計を見て、立ち上がった。

 「すみません、もう少しお話をする予定だったのですが、上司に呼ばれてまして、これから直で、上司の所に行くんですよ」

 そう言って、また、いつか見た飄々とした雰囲気で反田さんは丁寧なあいさつをしたあと、俺の家から出ていった。


  77


 だいぶ時間は飛んで、夜。

 反田さんが帰ってから一時間ちょっとは華蓮と共に、クナイさんから説教を受けていた。

 どうやら、クナイさんは、俺たちが戦う事には反対だったらしく、命を大切にしろ、とずっと言っていた。

 どのくらいわかっていると、言いたかったが、その目は、本当の死地を見てきた人間の目だった。

 だから、何も言い出せなかった。

 そして、そこからダイブ時間がたったわけだが。

 俺は、自分の部屋のベットの上で、電気も点けず、仰向けで寝転がりながら、ただただ、ぼーっとしていた。

 そんな時、

 「カネマサ、いる?」

 華蓮がノックもなしに部屋に入ってきた。

 俺は、

 「いるぞ」

 と、一言だけ言って、電気をつけようと立ち上がると、華蓮は俺の方に、抱き着いてきた。

 「…どうした?」

 俺は、華蓮の頭ををそっと撫で、華蓮にしては珍しいこの行動の訳を訊いた。

 すると、華蓮は、

 「カネマサ、怖い」

 と、震えた声で言った。

 俺は、一度華蓮は離し、しゃがんで目線を同じ高さにして、言った。

 「どうして、怖いんだ?」

 華蓮は答える。

 「僕の眼の前で、誰も傷付いてほしくない」

 それに俺は言う。

 「そうか…、わかった。俺が絶対、誰も傷付かない世界をつくってやる。もちろん、俺は絶対生きる。死んでやるもんか。だから―――――」

 そして、俺は一息置き、自分に言い聞かせるようにも、彼女に告げるようにも取れるように、言う。

 「―――――約束だ」

 そして、俺と華蓮は互いに、小指を結んだ。

こんにちは、含水茶吹です。

やっと上げることができました。

これで、一章は完全に終了となります。

実際これはただ今までの話をまとめただけと言われてもどうとも言えないのですが、多少修正しています。

そこらへんは見比べて、気付いてもらえると僕としてはうれしい限りです。

では、今回は一章について、そして。この作品を書いた動機というものを離させていただきます。

まず一章について、ですが。

この一章は、簡単に言うと、伏線という名のおまけがついた進め方の提示という役割を持っています。

戦闘描写についてはいろいろ替わりますが、とりあえず、今後、起承転結の形はそういうのを取っていくという事をわかってもらえると嬉しいです。

それにしても、一章から死人が割と出ているというかことを思った人が少なからずいると思いますが、この場を借りて、公言します。

この作品、結構、死人が出ます。

そういう訳で、グロテスクな内容、というものを必須ワードとして入れているんです。

なので、どんどん血は出ますし、暗い表現、、中には精神的なダメージの入る表現を使う箇所がありますので、ご了承ください。

まぁ、そうとはいいましても、限度は守ります。

一章についてはそんな感じです。

では次に、この作品を書いた動機です。

僕は結構、昔から、主人公補正のかからない、主人公がいつ死んでもおかしくないお話を見てみたいという願望がありまして、ならば書いてしまえと、ノートに設定を殴り書きしたのが事の発端です。

この作品のキャラクター一人ひとりには様々な過去があり、キャラクターがあるというのを、昔の設定の段階から今の今まで意識して書いてきたつもりです。

まぁ、伝わらないことの方が多いのでしょうけど。

この作品はとにかく、人間が超能力者に挑んで、それなりに頭を使いながら、攻略していくというスタンスの元書いています。

この一章こそ、例外ではありますが、二章以降から、ちゃんと頭を使って攻略してますから、次章に少し期待してください。

正直言って、一章は予定されているすべての章の中で気乗りしなかったうえに例外の多い章だったと思います。

実は、それにも理由があり、一章が僕の中での王道を沿っている内容なので、その後からは少しひねったやり方で書いていき、一章との対比をしたいなと思って、例外にしたと言う訳です。

なんか、すごく長くなってしまったので、今回はここで〆させてもらいます。

拙い文章で、こいつ精神と頭大丈夫かと思われるような小説のような何かをここまで続けられたのも、どう読んでいるであろうが知る由もありませんが、読者様のおかげです。

次の二章ではもっと文章能力を向上させてゆくので、生温い感じで見守っていてください。

では、またどこかで、

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