12話
(※冬原ハヤト視点)
目を覚ましたとき、玲は俺を抱きしめたまま眠っていた。
カーテンの隙間から差し込む柔らかな朝日が、彼女の頬をやさしく照らす。
「……起きたの?」
囁くように問いかけると、玲は目を細めてこちらを見た。しばらく焦点の合わない瞳で俺を見つめ、ゆっくりと体を起こす。
そして──唐突に、ぽつりと呟いた。
「……ごめん」
「え?」
「いきなり襲って……無理やり、みたいな感じになっちゃって……ほんと、ごめん」
玲の表情はいつになく弱々しく、目元もどこか赤く見えた。
「ほんとは、もっとちゃんと……大事にしたかったのに。こんな、めちゃくちゃで最低な……」
ぽつり、ぽつりと言葉を落としながら、玲はうつむいたまま目元を拭った。
俺は何も言えなかった。ただ、そっと手を伸ばして、玲の肩に触れた。
その瞬間──
玲は俺に抱きつくように顔を上げ、今度は真っ直ぐに見つめてきた。
「でも……離れたくない。そばにいてほしい……お願いだから」
涙のにじんだ目で、懇願するように。
その顔は、どこか子どものように不安定で、必死だった。
俺は、ほんの一瞬だけ迷った。
でも──その肩を抱き寄せることに、ためらいはなかった。
「……玲、俺、怒ってないよ」
言って、自分でも少し驚いた。
あんな風に押し倒されて、強引に……普通なら、怒ってもおかしくない。
けど。
「びっくりはしたけど……でも、俺も拒まなかった。だから、責任は俺にもある」
玲が顔を上げる。目元が赤くて、鼻の先まで濡れていた。
俺はその額に手を置き、そっと撫でた。
「もし……昨日のことを後悔してるなら、無理に謝らなくていい。
でも、あの時の気持ちが今も変わってないなら──俺も、ちゃんと向き合いたいと思ってる」
自分でも、なんでこんなこと言ってるのかよくわからなかった。
でも、不思議と迷いはなかった。
「ただ一つ、お願いがある」
「……なに?」
「昨日みたいに、自分の気持ちをぶつける前に、ちょっとだけ……俺の話も聞いてくれ」
玲は目を見開いて、ゆっくりと頷いた。
「うん……聞く。ちゃんと、聞く……」
玲の声は、小さくて、震えていた
俺はそのまま、玲の頭を引き寄せて、額を軽くくっつけた。
「……俺も、離れたくない」
その言葉に、玲の肩がピクリと揺れる。
次の瞬間、玲は俺の胸に顔を埋め、声を殺して泣き出した。
まるで、張りつめていた何かがほどけたように。
玲が泣き止むまで、俺はずっと黙って背中を撫で続けていた。
しばらくして涙が落ち着き、呼吸も穏やかになる。
泣き疲れたのか、玲は俺の胸に顔を埋めたまま、しばらくぼーっとしていた。
「……あったかい」
ぽつりとつぶやいた玲の声は、さっきまでの涙とは違って、少しだけ甘さを帯びていた。
「あんたの体、でかくて、あったかいから……なんか落ち着く」
「……ありがと」
俺も少し照れながら返した。
そのときだった。
玲の太ももが、俺の下半身にふと触れた
「……ん?」
玲が小さく首をかしげる。
「……ねえ、これ……」
「ちがうから。誤解するな、これは生理現象っていうか、寝起きだし、そういうのとは……」
玲は悪戯っぽく、どこか貪欲に口角を上げて、少しだけ目を細めた。
「じゃあ……今はダメってこと?」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
玲は俺の顔をじっと見つめたまま、ゆっくりと体を起こした。
「……ハヤト、こっち向いて」
言われるままに顔を向けると、玲の顔がすぐ目の前にあった。近い。さっきまで涙で濡れていたはずの瞳が、今は少し潤んだまま、隠しきれないほどの期待と興奮を宿して俺を見つめている。
「触っていい?」
玲がぽつりと、そんなことを言った。
その声音には、あの乱暴だった昨日の彼女とはまるで違う、どこか遠慮がちな、でも切実な響きがあった。
俺は、黙って頷いた。
玲はそっと、俺の頬に指先を添えた。ひんやりとした手が、まるで確かめるように、そっと俺の輪郭をなぞる。
玲は微かに笑ったあと、指を首筋に滑らせてきた。そのまま、今度は額をこつんとくっつけてくる。
「……キス、してもいい?」
その一言に、喉が鳴った。
答えるより早く、俺は玲の背中に手を回して、唇を重ねた。
呼吸が混ざり、体温が交わっていく。
お互いの体が、この静かな空間の中で溶け合っていく気がした。




