表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道案内の少女  作者: 小睦 博
第20章 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

699/699

696 思い出の向こう側へ

 奉納の式典が終わると、当日組の領主たちはお祭り船でモウヴィヴィアーナへ引き返していった。帰りの船も今日は2便なので、サバイバル実習リターンズに参加したメンバーは本日も野営だ。二日目とあって残った領主たちは慣れた手つきでバーベキューを焼き上げていく。


「ドワーフたちが捧げてくれたと【虹の鉱脈】様がよくお裾分けをしてくださるので、アーレイ領産のお酒は何度も口にしているんです。わたしには合うみたいで……」


 アンドレーアが捧げたお酒はさっそく皆に振舞われ、マイン様にヴィヴィアナ様、プロセルピーネ先生やクゲナンデス先輩に囲まれてドクロ神様がカパカパ杯を空ける。ハーフとはいえ、やっぱりドワーフ。名誉ドワーフなんて偽物とは飲みっぷりが違った。なお、シュセンドゥ伯爵とアンドレーアはマイン様の相手をしてくれる奴が見つかって助かったと安堵しているご様子。隅っこにふたり並んで、割ったお酒をチビチビ舐めている。


「あんな近くに素敵な酒どころができるなんて、王室予算を使って投資させた甲斐があったわ。やっぱ酒造りったら人族よねぇ」


 アーレイ領産のお酒は手間と時間をかけて造られる高級酒ではなく、生産効率の高い醸造装置と蒸留装置で大量に仕込むのが特徴。手頃なお値段で味の整ったお酒が手に入るようになったとドワーフたちに喜ばれているそうだ。アーレイ領再建計画へ投資することを決めた前の王様は歴史上でも5本の指に入る名君と称賛され、王室への支持は揺るぎないものになったとマイン様が教えてくれた。


「女神様。神殿の建設費用は我々が負担いたしますので、例の金塊は別の使途に回していただきたく……」


 一方、お願いだから神殿建立への資金提供は勘弁してくださいとドクロ神様に懇願しているのはおっぱい国王だ。外国の大使もいる前であれだけ威勢の良いことを言ったのだから、神様に私費で神殿を建ててもらいましたなんて格好がつかない。王国が本気であることを示すためにも集まった寄付金で建てたいと力説している。


「なお、金塊の使途につきまして同志が腹案を隠しているようなのですが、力及ばず聞き出すことは叶いませんでした」


 そして、よい考えが浮かばないからって僕を売りやがった。あの野郎……


「【湖の貴腐人】様、お願いできますか?」

「うむ、心得た」


 僕が隠し事をしていると耳にしたドクロ神様が、隣に腰かけているヴィヴィアナ様に何事か依頼する。なんだろう。周囲に妙な魔力の動きが……


 ――しまったっ。これはヴィヴィアナロックかっ?


 気がついた時には、もう手遅れだった。いつもの分厚い壁ではなく、輪っかのような水の枷が僕の両手両足にピッタリはまって動きを封じている。これまでヴィヴィアナロックで狙われたことなんてなかったし、わかっていても逃げられるか怪しいくらいに枷の形成は速い。よくもまぁ回避できるもんだと、今さらながらドルオタ神の実力に感心する。


「アーレイ君。素直に喋ってくれるまで、お姉さんがお肉を食べさせてあげますね」


 串焼き肉を手にしたドクロ神様が、フォアグラにされたくなかったら素直になっちゃいなさいと肉を口元へグイグイ押し付けてくる。しかしながら、僕の胃袋にはまだ余裕があった。こんな脅しに屈してなるものかとムシャムシャやっつけていく。


「ドクロワル先生。次が焼き上がりました」

「ありがとうございます。コロリーヌさん」


 だけど、ここでコロリーヌまで僕を裏切りやがった。焼き上がったばかりでジュワジュワいってる串焼き肉をドクロ神様に手渡す。敵戦力に補充があるのではいくらやっつけても無意味。持久戦になったら圧倒的な物量で押し切られてしまうことは火を見るより明らかだ。かくなるうえは……


「研究用の機材に使えばいいってだけの話だよ。建物は王国が用意してくれるにしても、中身は自分たちでオーダーしたいでしょ」

「そりゃまぁ、そうね」


 ここはタルトを見習って、明かしても構わない一部のみを開示する作戦でいこう。研究機材を揃えるところまで王国に任せたら素人がカタログスペックと価格だけ見て選ぶことになる。プロとして道具には妥協したくないだろうと尋ねれば、日常的に使うものだからこそちょっとした不便も受け入れ難いとプロセルピーネ先生は理解してくれた。機材に関しては納得いくまで厳選する方が後悔しなくて済むとドクロ神様を説得してくれる。


「その内容であれば……陛下に秘匿する必要はなかったはずよ……つまり……アーレイはまだ隠し事をしている……いつものやり口だわ……」


 上手くごまかせたかと思ったものの、次席が余計な口を挟んできやがった。肝心な部分を隠したまま、すべてを打ち明けたかのようにふるまうことで相手に勘違いを起こさせるのは僕の常套手段。同じ手に何度も引っかかる自分ではないぞと焼き上がった串焼き肉を差し出す。確かに隠すようなことではないと目を細めたドクロ神様が、嘘吐きには肉を追加だと受け取った串焼き肉を僕の口へ押し込んできた。


「アーレイ君。おとなしく白状すれば楽になれますよ」

「うごぉぉぉ……」

「アーレイって変なところで強情よね」


 意地を張っても好いことなんてひとつもないぞとドクロ神様が次々と肉を食べさせてくる。どうしてそこまで抵抗するのだと呆れかえっているのはダエコさんだ。【禁書王】に至っては、知ったところで理解できないのだから僕が行動する理由なんて考えるだけ無駄だと読んでいる本から視線を上げようともしない。ダエコさんに串焼き肉を食べさせてもらいながら黙々とページをめくっていく。


「こうまでして隠し通そうだなんて、是が非でも知りたくなってきたわ」

「兄さん、もう諦めなよ……」


 際限なく押し込まれる肉に気が遠くなりそうになりながらも口を割らない僕を見て、いったいどんな腹案を隠しているのだとプッピーが興味深げにパンパンになった僕のお腹を突っついてきた。さっさと白旗を上げてしまえと裏切り者のコロリが勧めてくる。そんなことできるものか。この世界に改造人間を生み出す悪の秘密組織なんてあってはならない。世界の平和を守るため、僕は決して負けられない戦いに挑んでいるのだ。


「アーレイ君っ。さっさと吐かないとお腹が大変なことになっちゃいますよっ」


 なにがなんでも口を割らせてやろうと意地になってるのか、これ以上食べたら下っ腹が出てきちゃうぞと脅してくるドクロ神様。たいした問題ではない。穀物や甘味で空腹をごまかしておけば勝手に痩せていくのがロゥリング族だ。それを言ったらまた逆鱗に触れてしまうのだけど、どっちにしろ状況は変わらない気もする。とはいえ、ひとたび戦端が開かれたのであれば徹底抗戦あるのみ。それがモロニダス・アーレイの生き様だ。僕の覚悟を見せてやろう。


「う゛っ…………オ゛エ゛ェェェ……」

「うわっ、本当に吐いたっ」

「どうしてそこまで意地を張るんですかっ?」






 本当にゲロってしまったものの、どうにか悪の手から世界を守ることに成功した翌日、サバイバル実習リターンズに参加していたメンバーもお祭り船でモウヴィヴィアーナへ帰還する。この半島に住んでいる者はおらず、残るのはドクロ神様とヴィヴィアナ様だけだ。


 第1陣として乗り込んだ僕たちだけど、ちゃんと後片付けされているか確認する必要もあるので帰りは最終便とした。実習参加者を乗せたお祭り船が桟橋から離れるのを見送って、ゴミや忘れ物が残っていないか丹念に見回っておく。ここは邪教徒……じゃなくて、ヴィヴィアナ様の聖域。見落としがあってはならない。


「参拝しやすいように拝殿を街の中心近くに建てて、研究機関を兼ねた本殿は魔導院と行き来しやすい場所がいいと思うのよね」

「魔導院の北側は土地が空いてますけど街から離れてしまいますね」


 プロセルピーネ先生とリアリィ先生は神殿の配置について話し合っている。一カ所に全部まとめるのではなく、本殿に拝殿、司祭の宿舎など目的にあわせて配置する方針のようだ。魔導院との共同研究がやりやすいよう、プッピーは隣り合わせにして通用門で行き来できるようにしたい模様。北側の土地は空いているけど、魔導院の敷地をグルリと回り込むことになるから不便だとリアリィ先生が頭を悩ませていた。


「研究機材の搬入なんかも考えると、しっかりした広い道をつなげて欲しいところなの」

「魔導院の外壁沿いなら搬入路の確保は容易ですし、悪くなさそうですね」


 研究施設にはもちろんドクロ式プラントを設置する予定だから、機材を乗せた荷車や竜車の通行できる搬入路も欲しい。外壁に沿って道を整備しよう。これならすでにある建物をぶっ壊さなくて済むと神殿建設計画を進めていくふたり。なんだか楽しそうだ。


「ど~して意地悪するんですかっ?」


 そして、ドクロ神様はまだプンスカ怒っていた。金塊の使い道を話さないのが相当にご不満らしい。意地悪するなと僕の身体を抱えてユサユサ揺すってくる。


「機材に素材も必要なんだから研究費用で充分でしょ」

「それは、そうなんですけど……」


 研究室ではなく研究所の規模なのだ。ドクロ式プラントを研究用にカスタムオーダーして他に必要な機材をイチから揃えたら大金貨500枚も半分はなくなるだろう。どこぞの3歳児じゃないんだから、後に備えて貯金しておきなさいと言っておく。


 野営地の見回りを終えたころには帰りのお祭り船が桟橋に到着していた。精霊殿前には最終便に乗り込むメンバーが勢ぞろいしている。二度と会えないってわけじゃないけど、今日でいったんドクロワルさんとはお別れだ。涙もろいクゲナンデス先輩はすでにハンカチをクシャクシャにしていた。


「名残惜しいです。パナシャ……」

「きっと建立式も盛大に開かれるよ。よい席に招いてもらえるようたくさん寄付しよう」


 オゥオゥと嘆く奥さんをヘタレチキン1号が慰める。建立式での並び順は家格でなく寄付金額の順になると予想して、いっぱい寄付するつもりのようだ。王国一の稼ぎ頭であるシュセンドゥ伯爵に酒造で大儲けしているアンドレーア、西部派貴族の中では比較的裕福な次席の前で口にするとは迂闊と言わざるを得ない。たった今、新たなる戦いの始まりを告げるゴングを自らの手で鳴らしたのだと気づいてもいないだろう。


「仕事で割り引きはしてあげられないけど、その分寄付に色を付けておくわ」

「ドクロワルの発明で儲けてるんだから、しっかりお礼はするわよ」


 ドクロ式プラントの値引きにはルールが定められているから、寄付の方でサービスしておくと口にするシュセンドゥ伯爵。勝ち馬の尻に乗ったという自覚があるのか、アンドレーアも負けるつもりはないようだ。領主たちの中でも特に羽振りのよいふたりが期待してくれていいぞと多額の寄付を約束する。


「迂闊なことを口走るから……魔物のいない場所で金儲けに奔走している……金の亡者たちが本気になった……サンダース伯爵は責任を取るべき……」

「私のせいなのかっ?」


 懐に余裕のある連中の前で余計なこと言いやがってと次席がサクラちゃんをけしかける。発芽の精霊もこいつめ、こいつめとヘタレチキン1号のお尻を棒で突っついていた。なお、呆れてしまったのかくっつく精霊も雷鳴の精霊も我関せずと止めに入らない。


「困りましたね。お金の代わりに用地を提供する約束なのに、評価額の見積もり次第ではアーレイ子爵にすら劣ってしまいそうです」

「そこは順位固定ってことにしてもらえばいいと思いますよ」


 ホンマニ公爵様はお金ではなく土地を提供することで話がついているようだ。ど田舎の未利用地なんて知れたものだし、寄付金額が子爵以下だなんて公爵様に顔向けできないとリアリィ先生が頭を悩ませている。ドクロ神殿と魔導院は協力関係を結ぶことになるのだし、もうトップ固定でよいのではなかろうか。


 乗船の準備が整ったと報せが来て、残っていたメンバーがドクロ神様とヴィヴィアナ様に暇乞いの挨拶をして桟橋へと向かっていく。僕たちもと思ったところで、背後に立っていた誰かに首根っこをつかまれた。


「そなたは戻る必要ありません。私と来てもらいます」

「えっ? 誰っ?」


 ふり返ってみれば、サバイバル実習リターンズでは見かけることのなかった16歳くらいの少女がいつの間にか増えていた。誰だこやつはと次席たちが首を傾げ、正体を知っているドクロ神様にヴィヴィアナ様まで目を丸くしている。いらっしゃると通告していなかったのだろう。装飾の施された陶器の水差しみたいなものを、これは土産だと僕を捕まえているのとは反対の手でヴィヴィアナ様に差し出す。


「【神々の女王】様っ。いらしていたのですかっ?」


 中身はおそらくネクタールだろう。ビビリ散らしながらヴィヴィアナ様がお土産を受け取り、正体を知らされた次席たちがいっせいに後ずさった。喜んでいるのは発芽の精霊だけだ。相手して欲しいのか女神様に駆け寄り、頭をナデナデしてもらって嬉しそうに微笑んでいる。


「まさか、またアーレイ君を天上へ?」

「この者はもう充分過ぎるほどに功を積みました。この国には次なる候補者もおることですし、さらに名を上げられては不都合が生じます」


 また連れて行ってしまうのかとリアリィ先生が【神々の女王】様に問いかける。だけど、アーカン王国は【病魔を祓う癒しの手】様の依代を得たし、さらに神々が目をつけている人物は他にもいるらしい。王国民の間に僕の名が知れ渡っては不都合だそうな。


「アーレイ君まで神様に?」

「本人が望めば……ですが、一国にばかり依代が集まっては、それが争いを引き起こす要因になりかねません。調整が必要だと判断しました」


 今、この国で僕のことを知っているのは魔導院に在学していた者くらい。おかしな大発明などして有名になってもらいたくないので引き取りにきたと【神々の女王】様はおっしゃられる。いろんな種族がタルトの使いだと一緒に祀っているから人族に持っていかれては困るという。


「仕方ないですね。みんな、一緒にすごした時間は楽しかったよ。ありがとう。ここにいないヘルネストたちにも伝えておいて――」

「兄さんっ。兄さんはそれでいいのっ?」


 ここでの僕の役目は終わった。皆、それぞれに充実した人生を送れたとわかったし潮時だろう。楽しい思い出をありがとうと別れを告げたところ、それで僕は納得しているのかとコロリーヌがしがみついてきた。


「あんまり遊んでやれなくてごめんよ。それでも、やらなくちゃいけないことがあるんだ。あいつをひとりぼっちにはしておけないから……」

「それは……」


 赤ちゃんだったころの面影がわずかに残る妹の頭をナデナデしながら、タルトとの約束が残っているのだと告げる。皆はこの国に大切な家族がいるのだから、このまま幸せな生涯を送ってもらいたい。僕には、僕のやるべきことがある。ここで立ち止まるわけにはいかないのだ。


「首席やクセーラさんが暴れ散らかすと思うから、説得は任せたよ。次席」

「めんどうな役割を押し付けてくれたわね……まったく……割に合わないわ……」


 怪獣たちの相手は次席に丸投げし、お祭り船に乗り込む皆を見送る。いつの間にかお日様が傾いて黄金色の夕陽に空が染め上げられていた。船が桟橋を離れ、舳先をモウヴィヴィアーナへ向ける。船尾に集まった人々が手をふりながらゆっくりと遠ざかっていく様子はまるで、キラキラと黄金色にきらめく思い出の向こう側へ皆が去っていくように感じられた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
やはり彼の立ち位置はもう彼岸にあるんだなぁ… この再会で思い出を清算したのはクラスメイト達だけではなくモロ氏もだったのか 何も言わず居なくなってしまったダメなお兄ちゃん田西宿実に比べれば言葉を残せるだ…
それでも、守りたい世界があるんだ!(モグモグ) サプライズ神さまは想定外だったなあ。まさかそんな隠し球まで用意して貴族達をビビらせるとは…… ……そなたは帰る必要ありません、か。そう言えば以前にもそな…
本編を見たことはないんですがあらすじで胃が裂けるほど食べ物を詰め込まれて死亡っていう殺され方をした被害者がでる映画があるそうですね。 アーレイ君は吐かせてもらえてよかったね…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ