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道案内の少女  作者: 小睦 博
第20章 

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682 動き出す企画

 僕がいなくなった後も研究を続け、最初の言語で祝詞を構築することもできるようになった。「澄みわたる湖に想いを込めて」のように一曲丸々祝詞ってわけじゃないけど、ヴィヴィアナ様を讃えるフレーズが仕込まれた楽曲をオムツフリーナちゃんに提供したこともあるのだと首席がふんぞり返る。ドクロ神様に捧げる祝詞で勝負。つまりは採用コンペで決着をつけようって考えのようだ。


「勝負の場はオムツ機構が用意するわ。パナシャのことを秘密にされていたせいでお蔵入りになった企画を再始動できるって総裁も乗り気よ」


 オムツフリーナちゃんパークにあるスタジアムで祝詞を披露して、より観客を盛り上げた方の勝ちだとロミーオさんが説明してくれる。ヴィヴィアナ様の新しい祝詞だと勘違いして進めていた企画が復活することになれば、ノリノリで考えた案をポシャらされたスタッフたちの不満を解消できるとディークライ王女殿下も期待しているそうだ。スタジアムの使用予定はすでに手配済み。空きができて宙ぶらりんの状態だったため、別のイベントを企画して埋める手間が省けるという。


「なんか、王女殿下やロミーオさんがやらかしたことの尻拭いをさせられているようにも聞こえるんだけど……」

「他人がせっかくお膳立てを整えてやるってんだからケチ臭いこと言うんじゃないわよ」

「やめで~、押しちゃらめぇぇぇ……」


 中止となったイベントを復活させる口実に利用していないかと率直な疑問を口にしたところ、首席が決着をつけたいと言うから場を提供するだけですとロミーオさんが人差し指で僕のお腹をツンツンしてきた。出ちゃうからやめろと、脚をバタバタ暴れさせて猛抗議する。


「アーレイ君。ひとついいですか?」


 お姉さんがさすってあげようと、僕の胃袋をパンパンにした張本人がお腹をナデナデしてくれる。なにか、伝えたいことがあるようだ。


「【光棒の舞手】様が瞳を輝かせてわたしを見つめてきてます。それから、アーレイ君がいろんな種族に広めている祝詞をこの機会にと【竈の女神】様まで……」


 ここでの会話は天上の神様たちにもウォッチされていたらしい。3万人を収容できる大スタジアムのステージに立つピーネちゃんをドルオタ神は期待しているのだろう。加えて、虚ろなる神の発生を防ぐための祝詞を披露するよう【竈の女神】様までおねだりしているそうだ。あの祝詞は創世の神々を始めとするすべての神様へ向けたものだから、もちろん特定の神様をお祀りする場で奏でたって問題ない。人口の多い人族に広まればデカいシノギになるという思惑を感じる。


「神々にまで期待されているというのに、まさか断るなんておっしゃいませんわよね」

「だがら、おずなぁぁぁ……」


 これはもうやるしかないだろうと僕のお腹をツンツンしてくる首席。両手足をフルパワーでバタバタさせて近寄るなと牽制する。身動きの取れない弱小種族にいたずらするとはけしからんデカ女だ。


「言っておくけど、僕だって遊んでたわけじゃない。種族の神様を讃える祝詞もいくつか作ってきたし、その過程で得た人族に伝わってない知識だってある。これは首席にとって不利な勝負だよ」


 神様が天上へ去ったのち、地上の生き物たちは種族ごとに分かれて暮らすようになり、それぞれ独自の言い回し――いわゆるスラング――を発展させる形で自分たちの言語を形作ってきた。だけど、やはり根底にあるのは最初の言語なのだ。いくつかの種族で言葉を習っている間に、僕は元となったメロディを復元することに成功している。表現の幅という点では圧倒的に有利だろう。今はまだ試合開始前。特別にフェアプレイ精神を発揮して、後になってから卑怯だなんて言い訳は聞かないぞと警告しておく。


「覚悟のうえでございます。私を挑戦者と認めてくださる相手なんてアーレイ君くらいしかおりませんもの。久しぶりに心が奮えるのを感じておりますわ」


 だけど、首席はためらう素振りすら見せなかった。最初の言語に関する研究でチャンピオンの地位を脅かすようなライバルは現れることなく、高みから見下ろして自分を迎え撃ってやろうなんて強者は僕しかいない。ようやくチャレンジャーの立場で心置きなく叩きのめせる機会が巡ってきたと高笑いを響かせる。もうドキドキに憑りつかれてしまったのかと疑いたくなるような高揚っぷりだ。契約者のやる気が伝わっているようで、蜜の精霊まで僕に向かってシュッ、シュッと拳を突き出してきた。


「わかっているならいいさ。受けて立とうぢゃないか」

「それでこそアーレイ君。私が誰よりもギッタンギッタンに打ち負かしてメソメソ泣いている姿を拝んでやりたいと望んだ相手でございます」

「それはさすがに大人げなくない」


 お漏らしするほどの屈辱を味わわせ、この手でオムツを取り換えてくれると充分に変態的な行為を首席が高らかに宣言する。どうしてそんなに恨まれているのかと問い質してみたものの、首席だけでなくロミーオさんにカリューア姉妹まで自分の胸に手を当ててよく考えろとまなじりを吊り上げた。何を言っているのかさっぱりわからない。


「観客を盛り上げた方なんて、3万人に投票でもお願いするの?」

「客席の反応を見て、各々が判断すればよろしいかと。公正な審判の結果こうでしたと、誰かに示さなければいけないものではございませんでしょう」


 決着をつけるのはよいとして、どうやって集計するつもりなのか確認する。スタジアムに詰めかけた3万人に投票してもらうのかと尋ねたところ、観客の反応を自身で納得のいくよう解釈すればよろしい。他人に決めてもらう必要なんてないと首席は微笑んだ。記録に残すものでもないのだから、勝敗は自分の心に聞けば充分ということだろう。


「それもそうだね。それでも僕は、首席の魂に消えることのない敗北感を刻みつけてやるつもりだけど……」

「それは重畳。もちろん私も、認めざるを得ない決定的な敗北をアーレイ君に突き付けるつもりでございましてよ」


 審判を人に委ねない。判定は各々が自ら下すとしたうえで、もちろん僕は勝利をつかみにいくつもりだ。言い訳する気も起きなくなるくらいの敗北感を味わわせてやんよと告げれば、やっぱり首席も同じことを考えていた模様。他でもない僕自身に負けたと認めさせなければ気が済まないと、より一層凶悪な笑みを浮かべた。それでいい。僕たちは共に満足できたのなら両者が勝者なんてゆとった思想とは無縁のドブネズミだ。勝利とはすなわち、相手を完膚なきまで叩きのめすことに他ならない。


「首席と伯爵って、ほんっとよく似てるって言うか気が合うよねぇ」

「まさに野人の思考だわ」


 イヒヒヒ……わかってんじゃねぇかと互いに睨み合う僕たちを見て、兄妹みたいにそっくりだとクセーラさんが失礼な感想を口にする。勝利をひとり占めしなければ気が済まないなんて、ふたりは本当に野人なのかとロミーオさんが呆れていた。そのとおり。勝利とおっぱいは他人とわかち合えないものっておっぱい星人憲章に定められているのだ。


「わたしとしては祝詞が多いに越したことはないのですけれど……」

「このふたりは決着をつけたいだけ……両方もらっておけばいいわ……」


 祝詞は片方だけってする必要はまったくないとドクロ神様が困ったような表情を浮かべるものの、これはもう僕たちの勝負だ。次席が勧めるとおり、どっちも【病魔を払う癒しの手】様の祝詞にしてもらって構わない。僕にも首席にも相手の仕事を否定するつもりはなく、ただ自分の方が上だと見下してやりたいだけである。


「まぁ、いいわ。アーレイも了承したって総裁には報告しとく。それから、私は首席側の演出を担当するから、そっちには手を貸してあげられないわよ」

「スタッフの人選は早い者勝ちでございますから、恨まないでくださいましね」


 それでは企画を進めるとロミーオさんが宣言し、併せて首席の演出担当を引き受けたと明かす。どうやら、最初からふたりがかりで僕に対抗する魂胆だったらしい。まぁ、それもアリだろう。僕だって何度もロミーオさんに演出を任せてきたのだ。卑怯だなんて非難する資格はない。


「じゃあ、こっちはクセーラさんを……」

「これは伯爵の受けた勝負でしょっ。私が協力する理由はないよっ」


 それならこっちはとゴーレム担当を雇おうとしたところ、関係ない勝負事に巻き込まれるのは御免だとクセーラさんはそっぽを向きやがった。けしからんクソビッチだ。


「ピーネちゃんと33代目ちゃんで、帰ってきたロゥリングシスターズを結成しようと思うんだ」

「クセーラ……わかっているわね……」

「ウチのオムツフリーナちゃんが出るんじゃ仕方ないねっ。任されたよっ」


 ステージに立つのは第33代目オムツフリーナちゃんだぞと告げたところ、そいつは聞き捨てならないと次席が反応を示す。カリューア領出身のオムツフリーナちゃんに恥はかかせられないと、クセーラさんもあっさり引き受けてくれた。襲名者は南部派や東部派が多いという話だったから、西部派の33代目ちゃんは領の誇りとして大切にされているのだろう。


「私と伯爵が組んだなら、首席とロミーオだって敵じゃないよっ。覚悟しておくんだねっ」

「相手に不足はございませんわ。楽しくなってまいりましたわね」


 自分たちの相手にはならないと、さっそく挑発を始めるクセーラさん。魔導院の生徒だったころに戻ったかのようだと首席も楽しそうに喉を鳴らす。かつて流れていた厳しくもあり温かくもあった懐かしい空気を感じて、僕の心も少しばかり浮き立ってきた。ここにタルトがいれば、楽しいいたずらの始まりだと喜んでいたに違いない。


 ――あのころには戻れない。だけど、たどり着けるって信じてる……


 時の流れはすべてを押し流し、過ぎ去った季節は二度と戻らない。だけど、あのころに思い描いていた未来へたどり着く道ならまだ残っている。この世界は明日、なにが起こるかわからない世界。どれほど小さな可能性も……いや、ゼロからだって実現しないとは神様ですら言い切れないのだ。


 叩き潰してやんよ、オラァ……と張り合うクセーラさんたちを横目に左手の中指を確認すれば、僕たちのつながりを示す指輪は40年前と変わらず鈍い輝きを保っていた。






 オムツ機構の企画で首席と決着をつけることを決めた翌日、僕はドクロ神様を伴ってホンマニ公爵家の王都別邸を訪れていた。用向きはもちろん、出演が決まりましたとピーネちゃんに伝えるためである。


「スッ、ステージってどういうことっ?」

「どういうことも何も、ドクロワルさんの司祭はまだひとりしか決まってないんですから、先生が祭祀をしないでどうするんです」

「衣装はオムツ機構の仕立て部門が大急ぎで仕上げてくれるそうです。採寸だけでも今日中に済ませてしまいましょう」


 どうして自分にステージの仕事が入っているのだと目を白黒させるプロセルピーネ先生。他に司祭はいないのだから、ピーネちゃんがやらねば誰がやると言い聞かせる。衣装の手配はしておいたからと往年のドクロプロデューサーが永遠の年齢詐称アイドル様を抱き上げた。ええぃ、放せとジタバタ暴れるものの、もちろんドワーフに捕まったロゥリング族が逃げ出せるはずもない。


「そういえば、最高司祭は決定済みとエフデナイトが話していたな。プッピー、秘密にしていたのか?」

「そこはまぁ、口止めをさせていただきました」


 公爵様にアポイントなんて取っていないので、もちろん僕たちはプロセルピーネ先生に用事がありますと訪問したのだけど、神様がいらっしゃったとあっては無視できないのか公爵様のところへ通された。知ってて黙っていたのかと公爵様がプッピーを問い詰めていたので、話が話だけに口止めしておいたのだと説明しておく。


「弟子よ。あたしを騙したの?」

「人族やドワーフの祭祀には詳しくないって、先生もおっしゃっていたじゃないですか」

「そりゃ、そうなんだけど……」


 ドワーフの力強い腕を相手に無駄な抵抗を続けているピーネちゃんが師を騙したのかとドクロPを非難したものの、ステージ以外の祭祀なんて知らないではないかと反論されてしまう。自分からそうゲロってしまったことを思い出して観念したのか、ジタバタ暴れるのをやめておとなしくなった。


「さっ、オムツ機構へ向かいますから仕度してください」

「ぢぐじょう……」


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― 新着の感想 ―
最高司祭な伝説のアイドルと抱き合わせにされる33代目ちゃんの今後や如何に……。 スタッフの人選は早い者勝ちとは言うが、話の流れ的にピーネちゃんは主人公側に確保された?場合によっては、競争相手である主…
さすが首席ドブネズミだ面構えが違う 勝負が流れてしまって首席はずっと小骨が刺さったままだったろうし なんだかんだで他の皆にも刺さってた所へ小骨の生産元がのこのこ姿を現したのが運の尽き 年齢的にそろそろ…
しかし素人には祝詞の良し悪しなんてわからないのである…
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