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道案内の少女  作者: 小睦 博
第20章 

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680 総司祭長の言い分

 本日はドクロ神様のことを告知する2回目の貴族院が開かれる。待ちきれないのか、開会時刻にはまだ早いというのに議会堂は貴族の方々でいっぱいだ。議場前広間では多くの紳士淑女が興奮気味にあれこれ話し合っている。今回、僕は運営側スタッフとして最初から指令室へ入らせてもらった。僕のした提案が採用され、夜中まで準備作業に追われたせいで昨晩は王城泊。そのままの流れで裏方認定されてしまったのである。


 依代を持ってきたままであるため、今日はドクロ神様も一緒だ。正体がバレないよう、神様の特徴である黄金色の発光は抑えてもらっている。指令室には官吏たちもいるのだけど、20年以上も昔に亡くなっているせいかドクロワル準爵を知っているメンバーはいなかった。僕と同じくモチカさんの個人的な相談役と思ってくれたらしい。


「アーレイ君の案で上手くいくでしょうか?」

「多くの領主がそれにならうと思われます。心配はいらないでしょう」


 僕の提案を実行するために必要となるのは、王令のひとつを廃止し、別のひとつを改正すること。田西宿実の世界でいうところの法律改正にあたる。本日、この場で採決してしまおうと、おっぱい国王たちが昨晩のうちに大急ぎで改正案を仕上げた。結果がどう転ぶかと僕を膝の上に抱っこしているドクロ神様が不安そうにユサユサしてきたものの、モチカさんは自信マンマンなご様子。ほとんどの領主が自領でも同じことをするだろうとニヤニヤ笑みを浮かべている。


「欠片ほどの信仰心もないくせに神々の代理人を自称する俗物どもには、己の立場というものを今一度叩き込んでやらなければと常々感じていたのです」


 礼拝殿の聖職者どもに比べたら、義姉となったコネーコさんの方がよっぽど信仰心に厚く住民たちからも慕われていた。神様を便利な後ろ盾としか考えていない不心得者どもは、この機会に一掃してくれるとモチカさんが殺意に満ちた魔力を迸らせる。ドクロ神様と麻呂宰相から反対されたのに、ま~だ血の粛清を諦めていないのだろうか。


「粛清はなしですよ。そのために、彼らから後ろ盾を失わせる策を考えたんですから」

「言われなくてもわかっています」


 やりすぎないよう釘を刺せば、今回は神様に免じて恩赦をくれてやるとモチカさんがふて腐れたように唇を尖らせる。無力化させれば充分にもかかわらず、相手を再起不能にまで追い込まなければ気が済まない連中は田西宿実の世界にも多かった。加減とかほどほどといった言葉を憶えていただきたい。


 やれやれとため息を吐きながら待っていれば、開会の時刻が近づいて議場前広間のゲートが開けられた模様。貴族の方々がゾロゾロと議場へ入ってきた。各々の提出した質問書にどんな回答がいただけるのか、誰も彼も興味が尽きないのだろう。熱っぽく語りあう雰囲気が僕のいる指令室まで伝わってくる。だけど、おっぱい国王たちが入場してくるとお喋りを打ち切って各々指定された席に着いた。


「皆が議会運営に協力的であるのはありがたいことでおじゃるが、一度くらい静粛にと拍子木を鳴らしてみたいものでおじゃる。本日は陛下より質問書への回答がされた後、宰相府組織令の一部改正と関連する王令の廃止について採決を予定しているでおじゃる」


 今回も議事進行は麻呂でおじゃると議長席に着いた麻呂宰相が、たまには使わせろと手元にある拍子木を見せびらかす。まぁ、緊張をほぐすためのジョークだろう。後半に採決があると告げたところで領主たちがざわついたものの、だまし討ちで採決を強行する意図はない。決を採る前に休会を挟むから皆で相談してくれて構わないと伝えられ静かになった。こちらの思惑どおり、珍しくもない政府組織の改編と思ってくれたようだ。麻呂宰相による開会の宣言がなされ、ではさっそくとおっぱい国王が演壇に立つ。


「諸君からの問いに回答してまいろう。まず神殿の立地に関してだが、これは女神様がゆかりの地であるモウヴィヴィアーナを強く希望されており議論の余地はない」


 ドクロ神殿の場所については打ち合わせどおり研究所のあった地ということで押しとおす。質問に混じって王都にという要望もあったものの、ヴィヴィアナ様がいらっしゃるおかげで参道はすでに充分整備されており参拝に支障はない。モウヴィヴィアーナまで足を延ばす手間が惜しいから王都になどと人族の都合を押し付けるのは、もはや不敬であるとエフデナイト陛下が礼拝殿の主張を一刀両断に切って捨てた。


 ――あのおっさんが礼拝殿の総司祭長様かな……


 領主たちの側ではなく王太子殿下や大臣たちと同じ列に、エウフォリア教の司祭服に似た礼装を身に着けたおっさんが腰かけていた。ゆかりの地に神殿や礼拝殿を設けるのは珍しい話でなく、むしろ当たり前の判断だと領主たちが納得するなか、ひとりだけ苛立ちの混じった魔力を垂れ流している。


「あそこに着席しているおっさんがめっちゃイライラしてます。簡単には諦めてくれそうにないですね」

「望むところです。神々はおろか陛下にすら敬意を払わぬ輩には、たっぷりと生まれてきたことを後悔させてやりましょう」


 あれだけはっきり告げられても、まだ反論する気でいやがるとおっさんを指差す。思ったとおり、あれが総司祭長様だとモチカさんが教えてくれた。生まれてこない方が幸せだったと涙するほどの地獄を味わわせてやると、手にした巻きつく精霊をピシピシ鳴らす。


「ですから、粛清はなしですって……」

「わかっています。死んでしまわないよう、ギリギリのところで止めておけばよいのでしょう」

「あの、拷問でダメにしちゃうくらいなら被検体として活用させていただきたく……」

「あなたたちの倫理観はどうなっているんですか?」


 粛清はしないって決めたはずだと思い出させたものの、モチカさんは拷問する気マンマンなご様子。寸止めにしておけばよいのだろうと薄笑いを浮かべる。その様子を見て、拷問なんて益のないことで潰すくらいなら人体実験に利用したいとドクロ神様が言い出した。人の道から外れた行いは許しませんとふたりには厳しく言い渡しておく。


「また、女神様はこの国の政治に関わる意図はないとおっしゃられた。神殿は国内に所在するものの国政を導くつもりはなく、ヴィヴィアナ様のお立場にも変わりはない」


 議場に意識を戻せば、王国の政治体制に変更はないとおっぱい国王が説明しているところだった。不安が払しょくされたのか領主たちが安堵の表情を浮かべるなか、ひとり総司祭長様だけがイライラを募らせている。それが分を超えた野心であるという自覚はないのだろうか。クレクレと契約している僕ですら欲張り過ぎだと思うのに、人族とは自制心を備えていない種族なのかもしれない。


 神殿には医療に関する研究機関を併設する。現地を治めるホンマニ公爵様は快く協力を約束してくれた。建設資金については寄付を募る予定。精霊殿へ依代を納める奉納の式典はこのような日程でとおっぱい国王が次々に発表していく。自分のあずかり知らぬところで話が進められていることが気に入らないのか総司祭長様の苛立ちは増すばかりだ。もちろん、説明する順番も計算済み。そろそろ最後のとっておき情報が明かされるだろう。


「女神様に仕える司祭に関してだが、最初のうちは研究機関の研究員を掛け持ちしてもらうことになるため、生前のドクロワル準爵から指導を受けていた教え子を勧誘するお考えとのこと。すでにある礼拝殿から聖職者を引き抜くようなことはされないそうだ」


 王都にある礼拝殿からドクロ神殿への採用はありませんとエフデナイト陛下が明言した途端、総司祭長様のイライラが一気にレッドゾーンへ突入した。自分にひと言の断りもなく勝手に決めやがってと憤っているのだろうか。残念だけど、神様をひとり占めしたいという思惑は僕にもおっぱい国王にも、もちろんドクロ神様にだって見抜かれているのだ。司祭人事を自分たちの思うがままにできるなんて、それこそ勝手な期待と表現する他ない。


「なお、最高司祭に就任予定の人物には女神様が直接依頼して内諾をいただいたと聞き及んでいる」

「なっ?」


 もう最高司祭のポストは埋まっちゃってますと、礼拝殿の聖職者たちが最も興味を持っていたであろう情報をさらっと付け足すおっぱい国王。ど~でもよいオマケ情報のように流されて驚いたのか総司祭長様が堪らず声を漏らす。


「議長っ。発言を許可いただきたいっ」


 いつまでも蚊帳の外へ置かれ続けることに耐えられなくなったのだろう。総司祭長様が発言の機会を求めた。麻呂宰相と目配せを交わしたおっぱい国王が小さく頷く。


「自分の出る幕じゃないって、どうしてわからないかな?」

「自らの置かれている立場が変わってしまったことを理解できず、未だ神事に関しては主導権を与えられて当然と思い込んでいるのでしょう」


 あ~あ、釣られやがった……と、もう呆れるほかない。ここで総司祭長様が口を挟んでくるであろうことは予測済み。陛下の発言を遮るなど無礼千万と却下せず、あえて発言を許可するのも打ち合わせどおりの対応なのだ。ドクロ神様がいらっしゃった今、もう神事に関する最高意思決定者ではなくなったことにまだ気づかないのかとモチカさんがニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべている。


「陛下っ。神事に属することは礼拝殿の管轄事項です。最終決定が下される前に女神様の真意を確認いたしますので、依代を預けていただけないでしょうか」


 しれっとこれまでエフデナイト陛下が発表したことは最終決定でないことにする総司祭長様。神様のお言葉に解釈違いがあってはならないので自分が確認すると依代を引き渡すよう要求する。これまで依代を有していなかったアーカン王国で、総司祭長様は神様に会ったことやお告げをいただいた経験があるのだろうか。自分なら神様の真意を正しく推し量れるという言い分には何ひとつ根拠がなく、そのことに気づかないほど領主たちもボンクラではない。


「王室は女神様の依代を所持していない。ゆえに、預けることは不可能だ」

「しかし、依代を手に入れられたと……」

「依代は女神様からそれを託された者が管理している。手に入れたなどと口にした覚えはないが、王室の誰かが一度でもそのような発言をしたかね?」


 依代の引き渡しを求められたおっぱい国王は、預けるもなにも自分は持ってないよとすっとぼけてみせた。手に入れたという話ではなかったのかと総司祭長様が口を滑らせたのを見逃さず、誰がそんな畏れ多い発言をしたと厳しく問い質す。


「人の言葉すら勘違いしている輩に、神の言葉を正しく受け取れるとは思えんな」


 ここでバグジードの奴がお得意のヤレヤレ仕方ないのジェスチャーをくり出しながら、僕のいる指令室まで届くような声でタイムリーなひとり言を呟く。よく言ったと伝えたいのか、すぐそばに腰かけているドナイデッカ公爵が親指を立ててハンドサインを送っていた。ヤラセを仕込んでいたわけではないけれど、エフデナイト陛下の意図を見抜いて援護射撃をしてくれたのだろう。


「ですが、それでは女神様の真意を知ることが……」

「神様になられたとはいえ、ドクロワル準爵は20年ほど前までこの国の貴族だったのだよ。もちろん、私も面識がある。意図が伝わっていないと感じたら、正しく修正してくださるだろう。王室に依代を保有させるつもりはないと、きっぱり拒絶されたようにね」


 性懲りもなく神様の真意は聖職者でなければ量れないと総司祭長様が言い張ったものの、ちゃんとドクロ神様が修正してくださるから大丈夫。実は依代を預かろうとしたものの、王室の手には委ねられないと断られてしまったのだとおっぱい国王が明かす。


「それは、依代を手にするに相応しい者が他にいると……」

「依代を持つ者が国王という誤った認識が広まってしまうことを女神様は危惧されておいでだ。今まさに君が考えているように、王位の象徴とされるのは不本意であるとね」


 王室が依代の引き渡しを拒否されたと耳にして総司祭長様の魔力に喜色が混じった。別の誰かに渡すつもりならば、先に見つけて確保すればワンチャンあるとでも考えたのだろうか。だけど、まさにお前がしているような勘違いを防ぐためだとエフデナイト陛下からぶっすりとデカい釘を刺されてしまう。


「自分の専門分野では絶対に譲らないが、他人の得意分野に余計な口を挟んだりしない。俺の知っているドクロワルなら、国王を指名しようなんて考えないだろう」


 総司祭長様が言葉を失って黙り込んだところに、お前はドクロ神様のことを何もわかっていない。よくそれで女神様の真意を量るなどと大口を叩けたものだと【禁書王】が追い打ちをかける。礼拝殿は神様をダシに使ってるだけではないかと、多くの領主たちが総司祭長様に不信感を抱いたことだろう。

 おっぱい国王の思惑どおりに……


「私からの説明は以上だ。宰相、議事を進めてくれ」


 ドクロワルさんを直に知っている領主もいるなか、自分だけがドクロ神様の真意を推し量れるなどと主張してすっかり信用を失った総司祭長様が力なく席に腰かけ直し、それを確認したエフデナイト陛下が演壇から降りる。総司祭長様には申し訳ないのだけど、とどめを刺すのはここからだ。僕には人の心を捨てた鬼のように相手の苦しむ様を楽しむ趣味はないけれど、将来に禍根を残さないよう無力化はきっちりさせていただく。


「では、本日の決議に移るでおじゃる。内容は統合礼拝殿設置令を廃止し、併せて宰相府組織令を改正して祭祀庁を新設するでおじゃる。礼拝殿に所属する聖職者は祭祀庁へ移り、女神様に仕える司祭と区別するため今後は祭祀官と呼称するでおじゃる」


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― 新着の感想 ―
その昔、鞍替えを目論んだ総大司教が神罰で植物に変えられた(ことになっている)ことを知らないのか? 二股をかけようとする連中から司祭位を剝奪したとて、ヴィヴィアナ様はおそらくお許しになるだろう。
まさか総司祭長も今を生きる人たちに顔見知りがいる神様だとは思うまいて。 思い込みは危険だけどまったくしないなんていうのも難しいからそこだけは同情します。
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