679 暗躍を始めたのは……
2回目の貴族院を控えた前日、僕は次席と王城を訪れていた。今ごろはおっぱい国王たちが提出された質問書の山に頭を悩ませているはず。他人任せにするのは申し訳ないとドクロ神様がおっしゃったのでお手伝いを申し出ることにしたのだ。なので、もちろん依代も持ってきている。いくら次席が伯爵様とはいえ、王様や王太子殿下へ面会を申し込んでも今は忙しいと官吏に突っぱねられるのが落ち。そこでアキマヘン公爵夫人にご挨拶したいと申し入れすれば、こちらの意図を察したのかすぐにジーハネイト王太子がすっ飛んできた。僕のために素敵なタコ部屋を用意してございますと招き入れてくれる。
「同志モロニダス。私は君を信じていたよ」
集まった質問事項への回答を用意する作業部屋にはおっぱい国王の他、モチカさんと麻呂宰相にまだご挨拶したことのないご婦人がいらっしゃった。王太子殿下よりいくつか年下のようなので、このどう見てもBくらいしかないおっぱいの持ち主がディークライ王女殿下だろうか。
「娘のディークライだ。オムツ機構の総裁を任せているから同志も話は聞いていると思う」
「ご尊顔を拝し奉り恐悦至極に存じます。ビークライ王女殿下」
「あなたが影の仕掛け人、モロPでしたのねっ。もうっ、どうして依代のことを秘密にしていたのですっ。事業本部長と検討していた企画がパアじゃないです――ぶえっ?」
思ったとおり、全国オムツフリーナちゃん普及拡大推進機構の総裁に就いているロミーオさんの上司だった模様。オムツフリーナちゃんパークでヴィヴィアナ様の新たな祝詞を盛大に発表するつもりで企画を練っていたのに、モウヴィヴィアーナで女神様と一緒にお披露目するだなんて聞いてない。話が全部ひっくり返されましたとスタッフたちに説明する身にもなれと、プンスカ頬を膨らまして遺憾の意を伝えてきた。音もなく背後に忍び寄ったモチカさんにチョップを打ち下ろされ情けない悲鳴を上げる。
「きちんと話の裏を取らず、思い込みで行動した己の不明を他人のせいにするとは何事ですか。そのような脇の甘さではアーレイ君に踊らされて終いですよ」
自分は悪くないなどという言い訳は今すぐ捨てろ。どんな結果に終わるもすべて己の責任という覚悟で臨めと、モチカさんが不満そうな娘を叱りつける。そんなザマでは落とし穴の仕掛けてある逃げ道をわざと最後に残しておく心無い連中の思う壺だぞと、どうしてか僕のことを指差してきた。思い当たる記憶は……次席と組んでセカンダル先輩を落第させたことだろうか。遠征実習中に弁護人を装って護衛部隊長を更迭させたりもしたし、そのような受け取られ方をしても仕方のない部分はあったかもしれない。
「オーマイハニーが同志に踊らされた結果、できあがったのがオムツ機構だしね。王室はもう長いこと手玉に取られっぱなしなんだ」
アキマヘン嬢がオムツフリーナちゃんにされて以降、王室はいいように操られてきたのだとおっぱい国王が肩をすくめてみせる。ひどい言い種だ。そもそも、ヴィヴィアナ様の祝詞を普及させるアイデアを出せと要求してきたのはオーマイハニー王女殿下だと記憶している。
「余計な差出口でしたか?」
「悔しいことに、得られたものは想像を超えていたよ。もう手放せそうにない」
もしかして迷惑だったかと思い尋ねてみたものの、もうオムツ機構なしではやっていけないとエフデナイト陛下はガックリと項垂れた。むしろ、設立前はよくこれで国を運営できていたものだと感心を通り越して呆れが湧いてくるそうだ。
「各地を巡業した際の興行成績を分析することで、その領の実態が明らかになるとわかったんだ。社交の場で領主や士族から聞き出すより、よっぽど正確にね」
数字は嘘を吐かない。オムツフリーナちゃん地方ツアーの興行収入、観客動員数、ひとり当たりの平均支出額なんかを算出し他領や前年と比較することで、領民たちが豊かなのか、貧しいのかを客観的に把握できる。脱税していたり、領地経営が上手くいってない領の目星がつけやすくなったそうだ。スパイを忍び込ませるようなマネをしなくても、堂々と現地での調査ができるようになって大助かりだとおっぱい国王がため息を吐き出す。
「領地経営に行き詰っている領主ほど本当のことを口にしないものだって、痛いほどわからされたよ」
興行成績からは領が貧しくなっていると読み取れるのに、領主は威勢の良いことばかり口にする。両者の乖離は領の財政が思わしくなくなる前兆だそうな。特にセンスのない領主はそこから増税によって得た収入を経済対策という名目で特定の事業へ投じ、これまで活動していた商人や職人の仕事を横取りしてしまう。結果として全員が儲からなくなって税収も減り、埋め合わせにさらなる重税を課すという地獄の増税スパイラルへ陥るものらしい。
「だけど、あらかじめ予想できていれば手遅れになる前に対策も取れる。君が叔父さんにしたみたいにね」
「あれはシュセンドゥ家が企んだことです。まぁ、手は貸しましたけど……」
アイドル様の地方巡業を続けた結果、かつてのアーレイ子爵領のようになりかけていた領がいくつか判明した模様。僕がデロリ叔父さんにしたことを参考にさせてもらったとおっぱい国王が口にする。僕はアンドレーアが襲爵することに同意しただけで後は……ドワーフに酒造の話をしたことと、スイーツ伯母さんに培養素の件を紹介したくらいだ。
「シュセンドゥ伯爵は君に計画を乗っ取られたと口にしていたよ」
「さすがに過大評価が過ぎます。だいたい、一番利益を上げてるのはシュセンドゥ家じゃないですか」
なんだか妙に裏事情を知っているなと思ったら、シュセンドゥ先輩から話が伝わっていたようだ。僕は銅貨1枚分の投資もしていないし、収益も受け取っていない。計画を乗っ取ったなんて言い過ぎもよいところ。シュセンドゥ家こそ所得隠しをしていないかしっかり調査するべきだと告げておく。
「あのシュセンドゥ伯爵が乗っ取られたと認めるなんて……」
ディークライ王女はシュセンドゥ先輩のことを超やり手のビジネスウーマンと考えていたらしく、あの伯爵に負けを認めさせた奴がいるのかとプルプル震えている。先輩にはずいぶんお世話になったから勝った負けたという関係ではない。乗っ取られたというのも軽いジョークだと伝えたものの、どうしてか誰ひとり信じてくれなかった。
「同志に自覚がないのはいつものことだ。それよりも作業を進めよう」
「それじゃ、僕たちが分類するので監修をドクロワルさんに……」
「おおうっ、確かにドクロワル準爵でおじゃるっ」
無自覚な奴は放っておいて、今は質問書の整理に取りかかれとおっぱい国王が号令をかける。僕と次席にモチカさんで同じような内容をより分けるので、エフデナイト陛下とジーハネイト王太子にディークライ王女、加えて麻呂宰相に回答を考えてもらい、最後にドクロ神様に確認してもらおうと依代を取り出せば、すぐに【病魔を払う癒しの手】様が姿を現した。麻呂宰相はおっぱい国王と王太子殿下の中間世代にあたるせいか、生前のドクロワルさんと面識があった模様。元気なようでなによりと、そこはかとなく的外れな挨拶を交わす。
「思ったとおり、似たような質問が多いですね」
「今回は一次回答だから、言葉遣いの違いとかは無視して大雑把にまとめてほしい。更問いは改めてしてもらおう」
各派閥におそらく官吏たちの質問を集約したのであろう大臣名で提出された質問書に目を通せば、だいたい共通した内容だった。貴族名義で個別に提出されているのは集約に際して没にされたと思わしき質問だ。しょうもないこと訊くんじゃないよとナニーモ氏からの質問書を握りつぶす。神様となったドクロワルさんの年齢の数え方なんて、わざわざ貴族院で明らかにする価値があるのかとオムツを頭に被せてやりたい。
「モウヴィヴィアーナを選んだ理由は研究所のあったゆかりの地とするのがよいでおじゃる。魔導院に言及しては、王都にも学習院があると言い張る輩が現れるでおじゃる」
「学習院を貶めるような発言はしたくありません。宰相閣下のおっしゃるとおりに……」
どの派閥も一番に挙げてきた質問はドクロ神殿の立地についてだ。アレコレ理由を説明したところで反論されるから、決定を曲げるつもりがないのであればゆかりの地ということでゴリ押ししてしまえと麻呂宰相がドクロワルさんに勧めている。学府があることを理由に挙げれば、王都への神殿誘致を企む連中が国立高等学習院を推してくることは明白と説明され、この国の最高学府はいち私塾に劣るなんて声明を出すのは気が引けるとドクロ神様は麻呂案を採用した。おっぱい国王と王太子殿下がなんとも言えない顔つきになっている。
「ドクロ神殿の建設資金に関する質問がありますね。全額を国費で賄うつもりですか?」
「いや、領主たちに寄付を募って建立記念碑に記録を残すつもりでいる。不足分を充足するのに国費も投じるけどね」
神殿建設の資金に関する質問も目立つ。どうするのかおっぱい国王へ尋ねたところ、寄付を募り大口出資者は建立記念碑に名前を刻むそうだ。もちろん、多額の資金を提供した者ほどよく目立つ場所へど派手に彫るとのこと。見栄っ張りオークションの始まりだと王室の方々が顔を見合わせながらイヒヒヒ……と笑いを漏らし、これがこの国の中枢なのかと次席がこめかみに青筋を浮かべた。
「今後の王位についての質問もきていますね。聞き覚えのない準爵ばかり……表立って話題に挙げない程度の良識もないとは嘆かわしい」
「領主たちも気にはなるけど、今回はあえて避けてくれたのだろうな」
貴族個人から提出された集約されてない質問書を整理していたモチカさんが、こいつらは内乱を起こしたいのかと忌々しそうな表情で紙束を振ってみせる。王権のあり方を問い質す質問だろう。誰がどんな考えでいるのか知れたものでない今、唐突にそんな話を議題にすれば国が真っ二つに割れかねない。領主たちは互いの考えを探りつつ、話を切り出すタイミングを慎重に計っているのに、貴族でありながら状況が理解できていないのかとジーハネイト王太子がため息を吐き出す。
「誰よりも先に気の利いた質問をすれば名が売れるとでも……待つでおじゃる。この者たちはひとり残らず推挙に総司祭長が関わっていた者たちでおじゃる」
「依代を礼拝殿へ納めるよう、断ってもしつこく要求していたけど……動いてきたか」
モチカさんから受け取った質問書の束に目を通した麻呂宰相が、こいつらを準爵へ推挙したのは礼拝殿の総司祭長だとおっじゃる。さすが宰相閣下だけあって、準爵ひとりひとりに関してもどこの派閥の息がかかっているか把握していたようだ。礼拝殿からはより多くの国民が参拝できるよう神殿は王都に建立すべきとの質問書というか意見書が提出されているけど、裏で手を回してきやがったかとエフデナイト陛下が表情を引き締めた。
「王権のあり方に疑問を呈するなんて、反乱を示唆しているも同然じゃない。即刻、反逆罪で捕えるべきだわっ」
「落ち着くんだ、ディークライ。だから、礼拝殿からの質問書では触れていないのさ」
準爵連中からの質問書は、国王は女神様が指名することになるのか。女神様のもとで中央集権国家へ移行するのか。などと、それぞれ微妙に異なるものの政治権力を握りたい聖職者の欲望が溢れ出た内容となっていた。だけど、礼拝殿名義で提出されている質問書には王権のあり方に関する内容などひとつもない。これは反逆だと憤るディークライ王女を、まだ状況証拠しかないのだから落ち着けとジーハネイト王太子がなだめにかかる。
「聖職者が統治する宗教国家なんて領主たちが納得するはずないでおじゃろうに……。女神様の後ろ盾があれば何でもできると勘違いしておじゃるのか?」
まったく現実味がないと呆れているのは麻呂宰相だ。ドクロ神様が総司祭長を次の国王に指名すれば、トントン拍子に話が進むとでも思っているのか。仮にそうなっても、誰かにブスリとやられるのがオチだとない眉をひそませる。礼拝殿の聖職者たちには物理的に排除されないだけの権威も人望もないという。
「この際だから……一掃してしまうのもよいと思うわ……パナシャの司祭は……別に手当てするのでしょう……」
「聖職者を皆殺しとは、カリューア伯爵は神をも畏れぬ提案をするね」
「殺せとは言ってないわ……陛下の早とちりよ……」
他人を人とも思わぬファーマーが、食い荒らされる前に害虫は一掃せよと過激な提案を口にする。皆殺しかとおっぱい国王がこめかみを引きつらせ、地下牢や島流しという方法もあるはずだと相変わらずなおすまし顔で答えていた。どれも大差ないと感じるのは僕だけだろうか。
「私のせいで粛清が行われるというのは、その……」
「この国に女神様がいらっしゃったのはおめでたいことでおじゃる。血で汚すのはいかがかと思いますれば……」
このままでは害虫認定された連中がかわいそうなことになってしまうと思われたものの、聖職者が大量に粛清されるきっかけを作ってしまうのは心苦しいとドクロ神様がおっしゃられた。すかさず、おめでたい席を血で汚しては女神様の威信に傷がつく。具体的な行動を起こしたわけではないのだから、連中が諦めるしかなくなる手段を講じるべきだと麻呂宰相が同意する。
「諦めさせる上手い方法を思いついていたなら、とっくに実行しているのだが……」
あいつら、ふた言目には神事は聖職者の領分だと神様を盾にしやがるから面倒なのだとおっぱい国王が天を仰ぐ。素直に諦めさせるなんて、物理的に排除するより難しいと思えるそうだ。ジーハネイト王太子にディークライ王女、モチカさんも同感な様子で、言われたくらいで聞き入れるようなかわいい連中ではないのだと暗い顔でため息を吐く。その様子を見てわがままを言ってしまったと感じたのか、ドクロワルさんが助けを求めるような視線を僕へ向けてきた。
「アーレイ君、なにかよい方法は思いつきませんか?」
「もちろんあるから安心していいよ」
「「あるのっ?」」




