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道案内の少女  作者: 小睦 博
第20章 

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660 エルフの砦

 昨晩、ベコッタ司祭の放った迂闊なひと言のせいで大切なかつ丼を失った僕たちは、失意のうちにトボトボと王国怒りのロードを北上していた。まだ立ち直れていないのか食いしん坊司祭様はしきりと重いため息を吐き出している。初めてのご馳走をひと口も味わえなかったのがよっぽどショックだったようだ。


「ぼぅ、息をする力もありまぜん。私はおじまいでず……」


 このままアンデッドとなり、失われたご馳走を求めて永遠に地上を彷徨うのだと聖女様が許すはずもない未来を語るベコッタ司祭。仮にイグドラシルから零れ落ちてしまったとしても、永遠どころか3日も待たずに仔豚が食べにくると思う。


「アーカン王国までたどり着いてしまえば食材は揃うでしょうから、また作りますよ」

「ほっ、本当ですかっ」


 とはいえ、このままではペースが上げられない。食いしん坊司祭様に元気を取り戻してもらうために、王国に到着したらまた作ると約束する。魔物の領域では調達できる食材も限られるけど、市場のある街でならかつ丼の材料くらい簡単に揃う。高価だったり希少な食材が要求されるわけではないと伝えれば、ベコッタ司祭は瞳を輝かせて顔を上げた。扱いやすいのが食いしん坊のよいところだ。


「グズグズしてはいられませんっ。急ぎましょうっ」


 こんなにノロノロ歩いていたんじゃ、いつになっても到着しないとオムレツプリンに拍車を入れるベコッタ司祭。本人が死にかけていたからペースを上げられなかったのだとは口に出さず、遅れるなと合図をすればバナナンダーはようやくかと呆れたような魔力を漂わせながら街道を突っ走り始めた。






 亡国跡地からアーカン王国カリューア伯爵領までの間には王国軍が物資の集積所として利用していた砦が5つあり、砦と砦の間には樹木の切り倒された野営地跡がいくつもある。この地の遠征軍にとって王国怒りのロードは重要な補給路でもあるため、野営地跡には屯所が設けられ街道警備を任務とする部隊が駐在しているそうな。兵隊さんがいれば安全だと隊商や傭兵たちが集まって、すっかり共同キャンプ地と化しているらしい。そのうちのひとつに到着してみれば、集落とまではいかないものの結構な数の人が集まっていて、中には商売をしている露天商の姿もあった。


「パンパカパ~ン♪」


 なんか人が集まっている辺りからおかしな声が聞こえてきたと思ったら、フライパンで薄いパンを焼いて販売しているお姉さんがいた。発酵させたパン生地ではなく、小麦粉を水で溶いた生地をフライパンで焼いている。パンというよりも、具のないお好み焼きか生地だけのクレープといった印象だ。ひとつ大銅貨1枚という値段のせいか結構繁盛している模様。フライパンが3つ並べられる横長のかまどで次々と手際よく焼いていく様はジャグリングみたいで面白い。


「まさか、アレで済まそうと考えているわけじゃありませんよね?」


 ついつい見入っていた僕を、ガルルル……と唸り声を上げてベコッタ司祭が威嚇してくる。アレと比べたらバターや砂糖で味付けされている焼き菓子の方がまだマシだそうな。


「腸詰肉とチーズがありましたから、焼いたのをアレで巻いて食べれば美味しいかなって……」


 貧乏な傭兵たちはそのままモシャモシャしているけど、何枚か購入して持ち帰る傭兵の姿もちらほら見受けられる。おそらく、用意した具を包んで食べるつもりだろう。田西宿実の世界にも似たような食べ物があった。久しぶりにジャンキーな味わいを楽しみたい。


「5枚ほどください」

「パ~ン、パ~ン、パァァァン。毎度ありぃ」


 気づけば、食いしん坊司祭が勝手に購入していやがった。ロゥリングレーダーでも捉えられない素早さだ。パン屋のお姉さんから重ねられた薄いパンを受け取ると、早く作ってくれと満面の笑みで要求してくる。まったく節操のない食いしん坊だと呆れながらかまどに火をおこし、フライパンで腸詰肉をジュウジュウ焼いていく。充分に火が通ったら上からナイフで削ったチーズをかけ、トロッとしてきたところを腸詰肉に絡めとって薄いパンの上に置き、塩と香辛料を軽く振ってから巻けば完成だ。


「はふはふ……熱々の腸詰肉とチーズの組み合わせがいいですねっ」


 チーズバーガーみたいな味に仕上がるかと思ったけど、どちらかといえばピザっぽい味わいだ。これはこれで美味しいぞとベコッタ司祭も大喜びしている。


「トマトソースがあればよかったかな。刻んだタマネギを具に加えても……」

「なんで先に用意しておかなかったんですかっ」


 食べ終えた後に改善点を口にしたところ、どうしてベストを尽くさなかったのかと食いしん坊様はおっぱいを逆立てた。聞いてしまったからには味わわなければ満足できないと、もうイヤイヤする3歳児のようにドスドス足を踏み鳴らす。


「新鮮なトマトがありません。次の機会を待ちましょう」

「知ってるんですよっ。機会がありましたら……は、お断りする時の言葉だってっ」


 とはいえ、トマトなんて傷みやすい食材は手元にない。機会が巡ってきた時のお楽しみにとっておこうと告げたものの、そんな社交辞令にはごまかされないとベコッタ司祭は引き下がらなかった。必ずご馳走するって今、この場で約束しろと僕の肩をつかんでガクガク揺すぶってくる。


「パンザーラくらい口にする機会はあるでしょう。トマトソースに刻みタマネギを加えたら、もう丸めただけのパンザーラじゃないですか」

「そっ、それはそうかもしれませんけど……」


 アーカン王国ならパン皿料理を提供してくれる食事処くらいどこの街でも見つかる。ありふれた料理だぞと説明し、ウーウー唸っている食いしん坊司祭にご納得いただく。もっとも、この調子で薄焼きパンしか手に入らないとなると保存食をあっという間に食べ尽くしてしまうので、明日以降はなにか考えなければならないだろう。妙案を思いつくにはおっぱいに抱かれてぐっすり休むことが必要だとベコッタ司祭を連れてバナナンダーの羽の下に潜り込む。


「明日はちゃんとしたご馳走が食べられるんですか?」

「前向きに検討する所存です」

「それ、結局ダメって結論になるやつじゃないですか」


 毎日、ご馳走を食べさせてくれるって言ったぢゃないかと、した覚えのない約束を持ち出してくるベコッタ司祭。只今、考えているところと説明しても、それは同意したフリだけで最初から実現するつもりのない詐欺師が口にする常套句だと信用してくれない。そんなのはどっかの議会だけと伝えて、今晩のところはおっぱいに包まれておやすみすることにした。






 翌日、野営跡地を発った僕たちは王国怒りのロードをアーカン王国目指して突っ走る。ひと晩、ぐっすり考えた結果至った結論はロゥリング族の基本に立ち返ること。結局、自分が食べる獲物は自分で仕留めるしかないのだ。遠征軍のおかげで大型の哺乳動物はみんな逃げてしまったけど、巣穴などにこっそり隠れるタイプの獲物はまだ残っている。昼過ぎに街道を離れて森へ分け入り、首尾よくヤマドリを仕留めることに成功した。首を刎ねられ逆さ吊りにされたヤマドリに食いしん坊司祭様は大はしゃぎだ。


 次なるキャンプ地へ到着したらかまどで湯を沸かしてヤマドリの羽をむしり取り、表面を炙って残った細かい羽毛を焼き尽くす。今晩はモモ肉を使った塩焼き鳥丼にし、夜のうちに鶏ガラを煮ておけば明け方にはムネ肉と鶏ガラスープの炊き込みご飯が作れるだろう。ヤマドリを解体していたらいいもん食ってる奴がいると傭兵たちの注目を浴びたけど、ご馳走の横取りを企む不埒者には聖女様の呪いが降りかかるぞとベコッタ司祭が追い散らしてくれた。傭兵稼業ではアンデッドに出くわすことも珍しくないのか、教団の聖職者に逆らう勇者はいないらしい。


「あぁぁぁ……聖女様、ご馳走を捧げはしないけど感謝いたします」


 昨晩の塩焼き鳥丼に続いて朝から炊き込みご飯にありつけたベコッタ司祭は、感謝はするけどわけてはやらんと罰当たりに聞こえる祈りを捧げていた。よくこれで破門にならないものだと感心する。天上にいらっしゃる聖女様は今ごろ、お仕置きが足りなかったかと頭を抱えているのではなかろうか。


 食料はこれでどうにかなるだろうと狩猟をしながら王国怒りのロードを進む。ヤマドリの他、アナグマやノウサギを仕留めることができた。美味しそうな獲物が見つからない日はデッサイスフィール先生の出番だ。目立たない場所に自生していたイチジクの樹へ案内してもらったベコッタ司祭はありがとう、ありがとうと感謝しながらローストされた先生の肉を欠片も残さず平らげた。獲物を探す手間のせいでペースが落ちてしまったものの、20日ほどかけて王国のひとつ手前にあるエルフたちが管理する砦まで到達する。


 この砦の東側にはドングリエルフたちの住む森があって、森の北側は毒を含んだ沼がいっぱい湧いている湿地帯――通称、バシリスクの楽園――となっているそうだ。毒々沼地を超えた先はカリューア伯爵領で、王国怒りのロードはこのバシリスクの楽園とエルフたちの森を迂回するようなルートを通っている。街道の西側は魔物の領域だから好きにしていいけど、東側はエルフの森だから人族はむやみに立ち入らないよう注意書きされた案内標識が所々に立てられていた。僕は人族じゃないものの、ロゥリング族であることがバレたら命を狙われかねないのでエルフの領域に踏み込むのはやめておく。


「なんか、バシリスクがいっぱいいますね」


 ここは外に城下町が形成されるのではなく、砦の中に街が収まる格好になっている。近くにある楽園から漏れてくるのか、道端で野良と思われるヒメバシリスクがゴロゴロ日向ぼっこをしていた。数えるのがアホらしくなるほどいっぱいいる。キノコ採集者と思われるおっさんが広げた防水布の上に採ってきたキノコを広げると、近くにいた連中が集まってきて毒キノコを嗅ぎ分け始めた。どうやら、餌がもらえるとわかっているらしい。


「モロニダスさん。おならを売っているみたいなんですけど……」


 でっかく「おなら」と書かれたのぼり旗を立てている露天商を指差して、あいつは正気なのかとベコッタ司祭が訝しんでいた。売っている品を確認してみれば、今となっては懐かしく感じる黒いボールだ。どいつもこいつも肝心な部分を省略しやがってと怒りを覚えたものの、「クソビッチ」を加えたところで何も変わらないなと思い直す。


「これはクソビッチのおならと言って、粉末状にしたイボ汁を散布する煙玉なんです。魔物の領域で野営した後に炊いておくと匂いをたどられるのを防げますし、鬱陶しい虫を追い払うのにも使えます」

「イボ汁って防虫効果のある染料に使われてる材料ですよね?」

「むちゃくちゃ苦いんですけど、いちおう健康食品です。美肌効果もありますよ」


 あると色々便利なので補充しておこうといくつか購入する。ベコッタ司祭もイボ汁染めに関する知識はあるようで、司祭の礼装には伝統的な染料が使われているものの、下につける肌着などはイボ汁染めに取って代わられたという。本来は健康食品なのだと説明したところ、食事に混ぜたら頭を下にして地面に埋めると睨みつけてきた。美味しくなければご馳走ではないそうな。


 食事の話が出たところで、ここでなら食事処のひとつも見つかるだろうと賑わっている砦の中心へ向かう。すると、エルフの兵隊さんを引き連れて砦内を見回っているおっぱいが残念なエルフの女性を見かけた。跨ってるのは額から1本の角を生やした白馬。ユニコーンだ。長生きするエルフだけあって記憶にある姿からほとんど変わっていない。


「こんにちわ、クセイナーさん。久しぶりだね」

「どこかで会っていましたかしら……」

「誰だっ、総督に気安く声をかけるなっ」


 ハローと挨拶したものの、どうやら僕に気づいていない模様。不審者を警戒するようにクセイナーさんが目を細め、エルフの兵隊さんたちが彼女を守るように立ち塞がった。


「悲しいなぁ。その昔、狩猟会で互いに反則負けを言い渡されて、一緒にオムツを着けた仲ぢゃ……」

「こぉぉぉけこぉっこぉぉぉ――――っ!」


 けっして消えることのないオムツでつながれた絆を思い出させたところ、クセイナーさんはいきなり奇声を発して僕の発言を無理やり遮った。華麗な側転でユニコーンから飛び下りると、僕の身体を小脇に抱えて近くにあった建物の陰に駆け込む。驚いた兵隊さんがついてこようとしたものの、近寄るんじゃないと凄まじい一喝をくらってひっくり返る。あまりの迫力に腰が抜けてしまったようだ。


「あああ……あなた、まさかあの時のっ?」

「さすがエルフだね。変わりないようでなによりだよ」


 部下に知られてはならない恥ずかしい過去を知る者……いや、その当事者かと僕を問い詰めるクセイナーさん。最後に会った時から全然変わってないねと告げたところ、時の流れに押し流されたはずの忌まわしい過去が今になって自分を捕えにきたと顔色を青褪めさせた。別に言いふらそうと思って挨拶したわけではないと伝えて安心させる。


「いったい、何が目的でございますの?」

「アーカン王国へ向かう途中に通りがかっただけだよ。クセイナーさんがいるなんて思ってもみなかったけど、食いしん坊を抱えてるんで総督様がご馳走してくれると嬉しい」


 なにしに来やがったとクセイナーさんが歯をギチギチ鳴らす。教国の司祭がよく食べるからご馳走してくれとお願いしたところ、狩猟会でのことは秘密にすることを条件に外交使節として歓待してもらえることになった。


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― 新着の感想 ―
男装してるせいでモロリーヌだと気づいてもらえないのか。出奔後のモロリーヌの扱いはどうなったのか?
隙あらばおっぱい布団を堪能するモロ氏は おっぱいにやさしく包まなければならない弱小種族保護スローガンをきっと生涯掲げ続けるのでしょう かつてのおっぱい同志もちゃんとおっぱい妃を迎えられたのか気になると…
オムツァーフッドといったところでしょうか。
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