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「――――っ!」
あずさの言葉に、諒はぎょっとした。
「先輩は……本当に赤城先輩なんですか?」
更にあずさはそう続ける。
「ど、どういう意味……?」
発言の真意が知りたかった。まさか外見と中身がそっくり別人だと考えてるわけじゃないと思うが。
あくまで赤城祐二本人に対しての疑問だろう。
「ごめんなさい……おかしなこと言ってますよね、私」
あずさ自身、自分の奇妙な発言を自覚してるようだ。
「それでも、どうしても気になってしまって。赤城先輩が、その……前とあんまり違いますから」
「……違う?」
「事故に遭う前の先輩は、どちらかというと自信家で堂々としてました……でも今の先輩はまるで正反対なんです」
やはり気付かれていたのかと、諒は思った。
さすがは演劇部だ。そんなあずさの目は、容易に誤魔化せないのだろう。
「私は正直、今の先輩とどう接していいのか分からなくて……」
あずさ自身、赤城祐二という男の落差に困惑しているようだ。だが事実を伝えるわけにもいかない。事故で心が入れ替わってる、など本気で受け取れるはずもない。諒が逆の立場なら冗談を言っていると判断するだろう。当事者でないと分かり合えないし、解決もできない。あずさには悪いと思うが――。
「ごめんなさい。やっぱり今言ったことは忘れてください、先輩」
取り繕うような笑みを、あずさは浮かべる。
「赤城先輩は赤城先輩に決まってるのに……何を馬鹿なことを言ってるんでしょうね? 私」
諒は何の言葉も返せなかった。
自分は緒方諒だ。少なくとも自分ではそう思っている。だがそれをどう証明っすればいい? 信用しろというのだろう? 誰が自分を自分として認めてくれるというのだろう?
そういう意味では、諒は今でも一人だった。
いくらあずさが諒の挙動に不審を抱いたところで、そればかりは覆しようがない。
事故による後遺症か、もしくはただの心変わりという結論に、最終的には落ち着くだろう。あずさ自身に、より現実的で納得のいく答えを導き出してもらうしかない。
放課後になり、諒は他の下校する生徒たちに混じって校門に向かう。たっぷりと体を休めたことで、体の調子は随分とましになっていた。
「…………?」
諒は校門の塀に寄りかかっている、一人の少女に気付いた。校門の出ていく生徒の一人一人に視線をやっている。誰かを捜してるようだ。
タンクトップにハーフパンツという私服姿だ。しかも金髪でかなり浮いている。目つきが悪く、がんを飛ばしてるようにしか見えない。生徒たちは早足で校門を抜けて去っていく。
その少女を諒は知っている――堀川明菜だ。
と、明菜の目が諒へ向いた。途端に顔つきが険しくなる。
「げっ――」
まっすぐこちらに来る。用があるってのは自分にだろうか? ただでさえ今日は散々な目に遭ったというのに――今日は厄日だ。
「なあ、お前」
目の前で足を止め、明菜が口を開く。
「お前、堀川……堀川明菜か?」
何の前触りもなく、単刀直入に切り出す。
「?」
あまりにも意味不明な台詞に、諒はどう返せばいいのか分からない。
「俺の中にいるお前のことだっての。その体はもともと俺のもんだ、返してくれよ」
まるきり男の口調だった。自分が堀川明菜だと、この少女は言ったのか? 明菜はそちらではないのか?いや――。
「俺の、もの?」
ということは、つまり――。
「赤城、くん?」
「ああそうだ。いいから早く返しくれ。女の体だと不便なんだよ」
堀川明菜――いや、赤城祐二は今にもつかみかかってきそうな勢いだ。
「いや、その……っていうか僕、そもそも堀川さんじゃないんだけど……」
「? じゃあ誰だよ、お前?」
帰ろうとする生徒たちが諒たちをちらちらと見やる。校門の近くじゃかなり目立つ。
「そ、その前にさ……場所、変えてもいいかな?」
興奮する赤城を何とか落ち着かせ、近くのファストフード店に移動する。
諒はそこで自分が緒方諒であることと、自分でもどうしたら元の体に戻れるか分からないと告げた。
それを知った赤城は目に見えて落胆した。無理もないだろう。
「んだよ……てっきり俺は互いの間でだけで入れ替わったとばかり思ってたんだがなぁ」
それは諒も同意だった。赤城は自分の体に入っていると思い込んでいた。
「人格の交換は、僕たち二人だけじゃない……ってことは……」
「あのコンビニの事故……あそこにいた俺たちを除いた四人も入れ替わってる可能性が高いってことだな」
赤城が言う。そして、
「まあ、今じゃ三人に減っちまったけどな」
「えっ? どういうこと?」
「この前殺された、松浦希美って女……あいつもあのコンビニにいたんだよ」
「それなら、もし……」
「もし松浦に別人の心が入ってたなら、そいつも一緒にあの世行きってことだな。普通に考えると」
「…………」
「もしかしたらそいつこそ、この明菜って女だったかも知れねぇな……胸糞の悪いことだが」
言って、赤城は重い溜息を吐く。
「とにかく情報が足りねぇ。他にも人格交換に巻き込まれたやつがいることは確実なんだし、そこから当たるしかないな」
「うん……」
「幸いどいつも同じ高校のやつばかりだ……緒方、お前はそれっぽいやつに心当たりはねえか?」
「えっと……ごめん。今のところは何も」
「しょうがねぇか。お前、あんまり他人に関心がないやつだったもんな……もしこれから気になるやつがいたら教えてくれよ」
「……分かった」
互いにアドレスを交換して、諒たちは別れた。
いずれにしてもこの問題を解決するためには、同じ境遇の人物の協力をあおぐしかない。こんなこと無関係な人間に信じてもらうのは難しいからだ。
そのためにはわずかでも可能性のある人物を、それとなく確かめるしかない。




