67頁 例えばこんな日常でも。
始業式から数日が過ぎ、新しい制服とクラスの雰囲気にも馴染んできた。
俺は台所で縦に切れ目を入れたロールパンに炒めた野菜とハムに間に挟みこむと、トースターに並べてタイマーをセットする。
数分後、トースターから「チン!」という音が台所に響き渡ると、りさちん先生がスマホ片手に2階の部屋から降りてきた。
「ふわぁ……おはよう」
「おはよ先生。スマホ見ながら階段降りると危ないよ?」
「へーきへーき。るーちゃんごはんまだぁ?」
「出来たとこー」
朝食の準備は1日交替の当番制で、今朝は俺が当番だ。
焼きたてアツアツのハムと野菜のロールパンをお皿に乗せて隣の居間へと運ぶ。
妻木家の1階には洋室が無いので、テレビが置いてある居間も畳の敷かれた純和室。その居間の畳の上でおっさんみたいに寝転がってテレビを見るりさちん先生。
こうして三十路を過ぎた独身女の生態を目の当たりにすると、やはり結婚なんてするもんじゃないと思ってしまうわけで。
「るーちゃん寒いー。毛布取って」
「そんなとこで寝ていると、婚期遅れるよ?」
「どうでもいいわよぉ、どうせお嫁になんて行けないもん」
気だるそうに答えるりさちん先生。
これが諦めの境地に到ったアラサー女の現実。
こんな残念な大人にならないようにと思いつつ、運んできたハムと野菜ロールパンのお皿を居間のちゃぶ台の上に丁寧に置くと、畳の上に投げ出された毛布を手に取り先生に被せる。
「先生、早く食べなきゃ冷めちゃうよ?」
「うー……。食べるの面倒くさいー! るーちゃん代わりに食べさせてよぉ」
だめだこりゃ……。
子供のようにダダを捏ねる三十路のりさちん。
先生の分まで食べてしまってもいいんだけど、後が怖いのでやめておこう。
先生の幼児化ぶりにやれやれと呆れつつも、俺はちゃぶ台の傍に敷いてある座布団に上で胡坐をかいて座り、目の前のハムと野菜のロールパンに両手をそっと合わせて「いただきます」をする。
火傷しないよう気を付けながら、挟んだ具がこぼれないようにロールパンをそっと素手で掴む。
《続報です。昨夜行方不明となっていた千葉県の男子中学生が今朝、昏睡状態で発見されました──》
ロールパンを口に運んではむっと食べながら、テレビの女子アナが読み上げているニュースを聞き流す。
何となく今のニュースが気になったので目線をテレビの画面に移すと、丁度スタジオにいる女子アナからマイクを片手に持ったリポーターのおっさんに切り替わった瞬間だった。
現地リポーターのおっさんは、どこかの商店街らしき場所で昨夜の状況を仰々しく解説していた。
《男の子が見つかったのはこちらの商店街のこの辺りの路上です。現地の方によりますと、この商店街の深夜は人通りがない静かな場所だという事で──》
「またかー」
りさちん先生は連日流れる同様のニュースに飽き飽きしたのか、だるそうな声を漏らした。
今週になってから関東地方の各地で中高生の行方不明事件が相次ぎ、数日後に昏睡状態で発見されるという事件が続発している。
警察はこれまでの事件との関連も含めて現在捜査中とのことで詳細は未だ不明。
テレビのコメンテーターは今回の連続失踪昏睡事件について「組織的な麻薬密売人による犯行ではないか」と、他人事のように上から目線で好き勝手に言っている。
「るーちゃんも気を付けなよー? 最近巷には変なのがいるみたいだから、知らない人に声かけられても相手しちゃダメよだよ?」
「う、うん」
すぐ近くに婚期の遅れた変なのが……と言ってしまいそうになったが、またあの病院の地下室に送り返されたらたまったもんじゃないので思い止まる。
まぁでも実は先生に忠告される依然に、既に変な男達に何度か声を掛けられていたりする。
例えば昨日。
俺はふらりと立ち寄ったコンビニでいきなり外人の男に「イラッシャイマセー」と、超怪しげな日本語イントネーションで声をかけられた。
ヤバい。知らない男に声かけられたとかヤバすぎる。
しかもその男は、その拙い日本語に反して、俺が欲しいと思って買い物カゴに入れたジュースとかお菓子とかマンガ雑誌を気前よくプレゼントしてくれた。
なんかよく分からないけど外人超親切。あまりの親切ぶりに感動した俺は財布から1000円札を取り出してそいつにプレゼントしたんだが、なんかその外人は「563円でいい」とか言って超謙虚。あまりに謙虚すぎたので俺は追加で63円プレゼントすると、感激したのかその外人はなんか500円玉くれた。
例えば一昨日。
七色座でいつもの特訓が終わって家でゆっくり寛いでいると、四角い段ボール箱をもった怪しげな兄ちゃんが汗だくでハァハァ言いながら突然家に押しかけてきやがった。
汗だくの知らない男が家に押しかけてくるとか超怖い。怖すぎる。
しかも俺、その初見の兄ちゃんには名前も住所も一切教えてないはずなのに、何故か「宮川さんのお宅ですね」とか「瑠璃さんですね」と、やたらと慣れ慣れしく言ってきやがるもんだからタチが悪い。
ヤバい。なにこいつ。超ストーカー。ストーカーとかもう怖すぎだしプライバシーダダ洩れだし、思い出すたびに不眠症になりそうな気がして怖い。その夜、俺は恐怖の余りに布団に潜り込んで怯えていると気づけば翌朝6時に目が覚めていた。何これヤバすぎる。布団に入って横になるだけで意識なくなるとか布団超ヤバい。
ちなみハァハァ息切らしてた兄ちゃんが必死に抱きかかえていた四角い段ボール箱はすぐさま強奪して、その兄ちゃんが大事そうに持ってた変な紙に印鑑をポンと押してやると、息を切らした兄ちゃんは印鑑を押してもらったのが超嬉しかったのかそのまま走ってどっか行ってしまった。
なお、兄ちゃんから奪った箱を開けてみると、中にはどう考えても母さんが買ったとしか思えないフリフリなパステルブルーのロリータ系のお洋服一式が入っていた。
ちくしょう母さんめ……。相変わらずイカれた趣味してやがるぜ。
もちろん俺は、周りに誰もいないのを確認すると自分の部屋のドレッサーの前でこっそり試着した。うん、かわいい。
それから一昨昨日。
学校帰りにとある一軒家を通り過ぎた時のことだ。その一軒家の門扉にいきなり現れた変態野郎は、何を思ったのか『Hey! リトルガール! ちょっちウチ寄ってかね?』と近所に響き渡るぐらいの大きな声で俺をナンパしてきた。
なんなのこいつ頭おかしいの? 超テンション高いし超馴れ馴れしい。
その野郎はどういう訳かとにかく俺に夢中らしく、下心ありそうないやらしい目つきで俺をガン見しながら、口からヨダレをダラァーっと垂らし続けていた。しかも口をガバァーと開けてハァハァと息を切らしてて超興奮状態で超ヤバい。超変質者。
今にも俺に飛びついてきそうで激ヤバい。
そしてなぜか全裸。ていうか全裸で飛びついて来るとか超怖い。けれどその野郎、なんか知らないけど相当のドMらしく、自分の首に首輪巻いて、その首輪にご丁寧に紐まで繋げて四つん這いの縛りプレイ。
首につけた紐のおかげで移動範囲が制限されていたので、どうにか俺は抱き着かれずに済んだけど、今まであった男の中でもこの野郎はトップクラスのクレイジーさで超絶ヤバい。
さらにこいつの家は身体の小さな俺ですら入れないぐらい入口が狭くて、しかもなぜか玄関にドアが無いものから外から誰でも入りたい放題だし部屋の中が丸見えすぎて超恥ずかしい。
そんな訳で俺は偶然にもこいつの家の中をチラ見してしまったんだが、その野郎の部屋はなんかキッチンもトイレも風呂も何にもない感じで超ミニマリスト。とても美少女(俺)を呼べるような家じゃなくてドン引き。
結局俺はそいつをスルーして真っすぐ家に帰ったんだが、今度新しいスマホを買ったら試しにあの野郎の写真を撮ってわんこフォルダに保存しようと思う。
……とまぁこんな感じで、ここ数日思いつくだけでもこんだけ変なのに話しかけられた俺なんだが、つまるところ、俺の日常はニュースでやってるような物騒な事件とは一切無縁の平常運転。
あまりに平和なものだから、おかしな妄想が次々と湧き出して欠伸が止まらないぐらいだ。
要するに、女になったと言っても、俺の日常は目の前でおっさんみたいに寝転がっているりさちん先生のように、至極穏やかで緩やかな生活が続いている。
※但し、七色座の『特訓』は除く。
………
……
…
「いってきまーす」
「はい、いってらっしゃい」
何だかんだで、毎日玄関で見送りをしてくれるりさちん先生。もちろん今日も先生にスマホで写真を堂々と盗撮された。
いい加減りさちん先生のスマホには同じような構図の写真ばかりになってんじゃないのかな……。
いつもの通学路を時間通りに歩く。
この道で聖子ちゃんと遭遇する確率は完全にランダムで、教室にだって俺より早く来てる日もあれば、遅刻ギリギリでやってくる日もある。
聖子ちゃんの親友の加奈ちゃんも、聖子ちゃんとは毎日一緒に登校してるわけじゃないみたいだ。親友とはいったい……。
ふと見上げれば、今朝は雲一つない淡い青色の空が広がっている。
どこまでも広がる遠い青空をぼんやりと見ながら通学路を歩いていると、あっという間に校門に差し掛かった。
校門前で鉢合わせた顔も名前も知らない男子達が俺を見るなり「おはよう瑠璃ちゃん」と元気に声をかけてくるものだから、俺は反射的にニコリとパーフェクトな笑顔を作って可愛らしく「おはよう!」と、相手の仕草をなるべく真似て挨拶を返す。
こうして相手の仕草を真似る行為を心理学では『ミラーリング』と言って、自分と同じ動きや言動をする相手に好意を持つようになる……らしい。
いや何、昨日七色座に置いてあった雑誌にそう書いてたから、ちょっと試してみただけなんだ。べ、別に全然、まったく他意はないからな! あってたまるものか。
にしても、俺に挨拶を返されたとある男子生徒はよほど嬉しかったのか、先を歩いていた友達らしき男子に駆け寄ると「おい! 瑠璃ちゃんが挨拶してくれたぞ! マジ超可愛いー!」と、興奮気味に話していた。効果は抜群……なのか?
いやいやいや、抜群すぎて次の段階へ進化してしまいそうでなんかヤバい事したかも知れない。
それにしても、ちょこっと相手の真似をするだけで好感度がアップするなら、これ程お手軽な人気商売はねぇよなぁ……。
あ、そうだ。次回から金でもとってやろうか? 『挨拶1回150円』ぐらいでさ。
ちなみに料金設定を150円にしたのは、昼休みに食堂で焼きそばパンを買うのを我慢したら払える金額だからだ。そもそも財力の無い中学生相手に『握手1回1万円』とかしても売れる気がしないしな。……って、なんか今のはハイソサエティな超ビジネスマンって感じじゃね?
まぁそれはともかく、彼らには将来俺のファン&口コミ要因になってもらうつもりなので、卒業までの3か月間でドロドロのメロメロにして一人前の信者に育てあげないとな。
ドス黒い野望を腹に抱えながらも、いつもの天使の笑顔で行き交う生徒たち挨拶を交わしつつ、俺は少しずつ馴染んできた教室へと入る。
中央列最後尾の聖子ちゃんの席の左に追加された自分の席に座ると、早速俺の周りにクラスメイト達が集まってきた。
「おはよう宮川さん」
「おはよう望月さん」
ニキビ面のこの子は望月さん。
「よっ、宮川!」
「あ、おはよー長澤くん」
さわやか好青年の長澤くん。たぶんモテまくりなんだろうな……。
どっかから豆腐でも飛んできてブサメンにならないかなぁ。
「ふわぁ……瑠璃ちゃん今日も早いなぁ」
「そうかな?」
「はぁ……どないしよ、ウチな、今日早よう起きてしもたんやわぁ」
「いいことじゃない」
「そないなこと言うけど、眠うてしゃあないわぁ」
クラスで一人京都弁でしゃべる三好さん。おっとりでマイペース。
「み、宮川、お、おはよう」
「あ、木村くんおはよう!」
「お、おう。お、俺の事覚えてくれてたんだ……」
「うん!」
げっそり糸目の男子は木村だったな。
初めて挨拶されたけど、キョドりすぎだろ……。
でもなんだろう、勇気を出してわざわざ俺に挨拶しに来てくれた素直に嬉しい。
ちなみに俺がメジャーデビューした日が来たら、グッズとかいっぱい買ってくれる無害な金づるになってくれたらもっともっと嬉しいな♪
「宮川宮川―! 宮川の趣味って何?」
「えっと、音楽……かな? 水島くんは?」
「お、俺も音楽ワリと好きな方だけど……」
「そうなんだ! 一緒だね!」
「お、おう、そうだなー」
コイツの名前、ちゃんと覚えてるかちょっと自信無かったけど、チャラ男風ワカメヘアーの名前は水島で合ってたみたいだ。
てかコイツ耳元で騒がしい。それに本当は音楽なんてちっとも興味ないタイプだろ?
だってほら、普通なら「何が好き?」とか「俺は〇〇が好きなんだけど」みたいな話に発展するはずなのに、会話止まる辺りが実に胡散臭い。しかも俺が「音楽」って言った途端、あからさまにドモりやがったし……まぁいいや。
ちなみにガチで音楽が好きなヤツの場合でも、話が弾んで仲良くなれるとは限らない。むしろ宗教戦争にまで発展することだってある。
例えば俺に「うわっ、ダッサ! アルグロなんか好きなのか? 趣味悪いなお前」とでも言ってみろ。そしたらもう地球が滅亡するまで全面戦争開幕だ。もちろん勝利条件はアルグロとアルグロファン以外の人類の滅亡だ。
「ねぇ宮川さん、みんなの名前はもう覚えた?」
横にいた女子の新田さんが話に割りこんできた。
「うん、一通り覚えたつもりだけど……」
「マジ? 全員?」
「うん」
「宮川さんすごいね! でも全員は流石に無理でしょ? あたしだったらすぐには覚えらんないなぁ」
うん。俺も記憶力が良くない方だからそこは概ね同意する。
ていうか、1週間かそこらでクラス全員の名前を覚えるとかはっきり言って無理ゲー。
そもそも前の学校でも半年以上同じクラスなのに名前すら覚えてないヤツとか何人かいたぐらいだしさ。
けれど……。
この新しい3年2組に転校してからは、クラスのみんなの顔と名前はすんなりと覚えられた。
実は俺自身も結構驚いているんだけど、女になってからなんだか記憶力が冴えてきた気がするんだ。
何ていうか、真っ新なキャンバスにみんなの顔と名前を瞬時に描き上げることができるような、半ばチート染みた瞬間的記憶力。
しかも鳥さんと違って3歩歩いても忘れることはないし、テスト前に一夜漬けとかしたらたぶん100点とれそうな気がする。
なんだろう、こういうのって男脳とか女脳とか関係あったりするのかな……?
「みんなの事はすぐに覚えれたよ?」
「マジで?」
「うん、マジ」
「じゃあさじゃあさー」「アタシ達の名前当ててみてよ?」
今度は全く同じ顔の双子が俺の話に割り込んでくると、挑戦状を叩きつけるように言った。
「えーと、そっちが小田乙葉ちゃんで、こっちが小田琴葉ちゃんだよね?」
「うそーっ! 宮川さんすごーい!」
即答した俺に、まったく同じリアクションで驚く小田姉妹。
同キャラがリアルで並んでる光景に一瞬ビックリしたけど、その程度のシンクロ率じゃ俺の《魔眼》は誤魔化せない。
何故ならこの双子、顔や体形は殆ど同じだけど胸の大きさが微妙に違うので、どっちがどっちか俺にはすぐに区別がついた。
何せ俺は《乳房鑑定癖》スキルを習得している。おっぱいを見れば顔と名前が一発で分かるんだ。……って嘘だけどな。
今のはただの当てずっぽう。男のカンってヤツだ。いやらしく言うとエロセンサー。但し、下腹部のアンテナはもう撤去されちまったけど……。
まぁ実際のところ、顔と名前は覚えられてもさすがに一卵性双生児の双子の見分け方なんてできないって。ほーら、こうして見比べてもちっとも分かねーもん。
あぁ、ちなみにどうでもいい事だけど、さっきの《魔眼》ってのは、世界中のあらゆる真実と未来を見渡せるという選ばれし者のみが宿すチカラの事だ。
しかし《魔眼》のチカラは、心に邪念を宿していると一切発動しなくなってしまう。
つまり、今の俺の心は邪念に蝕まれているので、残念ながら《魔眼》のチカラは使えない……って設定を去年必死に考えてたっけ。
って、あぁ恥ずかしい。変な事思い出すとなんか死にたくなる。
まぁ《魔眼》の方はともかく、《断罪の剣》が手元に無いと話にならないんだよなぁ……。
ちなみに《断罪の剣》はいうのは、邪念を断ち切るという呪われた3邪聖剣のうちの一つで、昨年3月の灰色世界でのハバナ湾攻略の際に……。
「ちょっと! あんたたちウザい。そこアタシの席なんだけどー」
久々に俺の中二病的妄想が脳内ちゃんしそうになったとき、ムスッとした顔をした塩野が、人だかりを掻き分けてやってきた。
今日もいやらしいわがままボディを大衆に晒しつつ、色黒肌の巨乳ビッチ様は男子生徒をしっしと払いつつ俺の右横の席にドカッと座った。
「おはよう聖子ちゃん、今日は機嫌悪いね」
いつもより不機嫌そうな塩野に、いつものように声をかける俺。
「そうよ、超機嫌悪いわよ。マジ最悪もいいトコ!」
「何かあったの?」
「聞いてよ! 二宮のヤツがさー、『卒業も近いから美術室にあるアレを代わりに持って帰ってやれ』って言うのよ? なんでアタシなのよ、マジでふざけてない?」
「へー。で、二宮って誰?」
「……あんたワザと言ってるでしょ。うちのクラスの担任よっ!」
「ああ、なんかそんな感じの名前だったよね」
「宮川さん、先生の名前は覚えてないんだ」
俺がとぼけて答えると、加奈ちゃんがボソっと言った。
「うん。私って公務員の名前を覚えるのが苦手だし……」
「どーいう言い訳よっ!」
「いやぁー」
「褒めてないからっ!」
塩野のツッコミにのらりくらりとボケをかます。
いや、実際のトコ教師の名前を覚えるのが苦手なんだよな。シナプスレベルで拒絶反応が出るんだよ。でも不思議とあだ名だったらすぐに覚えられるんだよな。体育教師とか。
「つーか二宮のヤツ、なんであたしばっかりに言ってくんのよ? マジムカつくんだけど」
「気に入られてるんだよ、聖子ちゃんは」
同情するかのように加奈ちゃんが言うと、塩野はあからさまに「うわぁ」という嫌な表情を浮かべた。
二宮か……。俺の中の「薄ヶ丘中学の校内危険人物ランキング」で堂々1位の男。
ていうか、それなりに人数がいるであろう薄ヶ丘の教師達の中で担任が一番ヤバいとか最悪すぎる。
黒田の似非イングリッシュとミミズ文字が可愛く思えてくるぜ。
「で、二宮の言うアレってなんなの? 聖子ちゃん」
「ああ、瑠璃子は知らなかったわよね。いいわ、折角だから放課後付き合いなさい!」




