3また夢を見たんだ
学校が夏休みになると午前が部活で、夕方の2時間は今までどおりコンビニでのバイトとなった。ただ、土日は部活がないので、午前中をバイトにあてている。
バイト帰りに店長自慢の試作品(コンビニといっても個人商店なので、差別化をテーマに、店長は新商品の開発にはりきっている)であるお惣菜パンをもらったので、家に立ち寄ることなく、道を挟んだ前の家へと向かった。
「おう、カズか」
扉が開かれ、ニコニコ笑顔が迎えてくれた。
どうやら美和の祖父である朔じいしかいないようだ。そういえば、おばさんと弟の拓は、おじさんの単身赴任先である福岡に泊まりで遊びに行くと言っていた。
美和は部活があるから行かないとは言っていたが……部活に行っているとなれば夕方まで帰ってこない。それは、バイトに行く前に自転車がないのを目にしていたのだから分かっていた。
だが、どうしても聞いてもらいたいことがある。気ばかりが焦り、分かっていながら立ち寄っていた。
まだ時間はある。明日の夕方までは――そうやって、自分を納得させることで、不安を紛らわすしかない。そうしなければ、脳裏にくっきりと残る映像に押し潰されてしまう。
出直してくると告げようとすると、朔じいから「もうすぐ帰ってくるから一緒に食べるか」
どうやら明日、試合があるようで、今日は午前中だけで帰ってくるようだ。誘われるままに、家へと上がらせてもらう。
「待っている間、久しぶりに将棋でもするか」
昔は一緒によく指したりしていたが、今はそんな気分ではない。だが、ほころぶ顔を目にすると断ることはできず、結局、美和が帰ってきてからも、なかなか切り上げられないまま時間だけが過ぎていった。
将棋が終わり、昼食が済んだ頃には14時近くになっていた。
ここで話すわけにもいかず、うちへと誘うと美和は、はあ、と怪訝な表情を浮かべたが、急かすようにして、強引にひっぱりだした。
☆
~僕の家のリビング
カチャッ。通話は途切れた。
突然の電話で、僕の〝夢〟の話しを信じて下さい、と言ったところで、役所の人がまともに取り合ってくれるはずがない。美和が提案してくれた作戦は失敗に終わった。
スマホを投げ置き、ソファーに横になった。
目を閉じれば、ヘリコプターの音が頭の中を駆け巡る。リポーターの悲痛な声がこだまする。今朝、夢で見た映像が鮮明に蘇ってくる。
「どうするつもり?」
ローテーブルの横に腰かける美和の声に、僕は投げ捨てるように、「どうするも何も信じてもらえないんだ。今回ばかりはどうにもできないよ」
「でも、信じてもらう。どんなことをしても。そうでしょ?」
「だけど……夢の話なんて誰が信じるっていうんだよ」
「私は」強い口調に引き付けられる。「信じた」
真直ぐな眼差し。夢のことを話した時、見つめ返してきた目がここにある。
最初に〝予知夢〟といわれるものを見たのは2カ月くらい前だった。
☆
柔道部に入部して日が浅い頃、練習試合に行くためマイクロバスで移動していた。その時、大型トラックが横転する事故があった。積み荷が散乱し道が封鎖され、2時間近く足止めされた。
その状況を夢で見ていた。夢は鮮明に脳裏に残っていて、現実となった。でも、それは何かの偶然、といったくらいにしか思っていなかった。だが、その後も鮮明に残る夢は続いた。
だから――僕は知っていたんだ。
夕食を食べている時、ふいに母ちゃんが、「もうすぐお父さんの3回忌だね」と呟き、手にしている味噌汁をこぼし、軽い火傷をすることを。
柔道部の練習の時、投げられた武人が受け身をしそこねて、脱臼してしまうことを。
そして、あの日の朝だって、夢は脳裏に焼きついていた。




