それから僕は……
カスミが亡くなった。
その知らせをくれたのは、同じ生年月日のグループのリーダーというか管理をしている女性だった。その女性はカスミと同じく関東に住んでいるらしく、もしかしたら普段もある程度やり取りをしていたのかもしれない。
カスミの訃報は、グループ全体に対してではなくて、一年前にカスミが関西に来た時に集まった四人に対してだけ個別でリーダーがしてくれた。
死因はオーバードーズによるものだったらしい。
僕はにわかに信じられなかった。
あのカスミが。自ら命を絶つことなどあるのだろうか。
屈託のない笑顔を向けてくれたカスミ。
頭をぽんぽんされて、照れていたカスミ。
その知らせを聞いてから、僕はしばらくはどうしたらいいかわからなくなっていた。
同い年の女の子が。
つい一年前に共に飲みあった仲間が。
もうこの世にいないという事が、なんだか信じることが出来ず、何か物語の中の出来事のようで。
そもそも、僕はカスミとそれからも個人的にやり取りをしていたわけでもなくて。
直接会ったのも、その関西でのオフ会での一度きり。
都会のオシャレな女性に対する憧れだったのか。素直で明るいカスミに好意を持っていたのは間違いはない。
かといって、そこから何かが発展することもおそらくなかったと思うし、好きだと言ったところで、え、なんで? とかわされるような感じだっただろう。
そんな希薄な関係だったからこそ、余計に気になってしまうのか。
もちろん、カスミのリアルでの人間関係や家族や、恋人の有無なども知らない。
お互いに素性を知らない、ただ同じ生年月日というだけで集まった飲み会など。
ふと立ち寄った居酒屋で、見知らぬ飲み客と意気投合して仲良く語り合うような、そんなものなのかもしれない。
だから、僕がずっとそのことを気に病む必要はきっとないはずだ。
思われる方も鬱陶しいに違いない。
それに僕自身も、生活がある。
日々仕事をして、お腹が空いたらご飯を食べ、そして眠くなったら寝る。
ベランダに置いてある申し訳程度の鉢植えに水をやる。
仕事に着ていってるワイシャツも、たまにクリーニングに出しに行く。洗濯機の洗濯だけでは落ちにくい時もあるからだ。
◇ ◇ ◇
カスミが亡くなってから一年後の秋。
僕は何事もなかったように、日々を過ごしていた。
SNSの同じ生年月日グループ自体もやめた。何か自分の中で後ろめたいことがあったからかもしれない。
急な話なんだけど、僕は小さい頃から絵を描くのが好きだった。
小学校の低学年の頃には、僕が描いた〝さるかに合戦〟の絵がコンクールで入賞したらしくて、親が大層喜んで絵の教室に通わせるほどだった。
絵の教室は油絵の具だったんだけど、自由に描きたい僕の性分とは先生があまりにも合わなすぎて、途中で通うのをやめてしまった。
でも、大人になってからも、たまに色鉛筆などを使って好きな漫画やアニメのキャラクターを描いたり、人物画を描いたりしていた。
何故か僕はふと、絵を描きたくなって。
鉛筆で下書きをして、粗い輪郭のままだけど、それに色鉛筆で色を塗り。
描いてどうするとか、そういうことは考えていなかった。
ただ無心で鉛筆を走らせる。
気づいた時には紙がよく見えなくなっていた。
輪郭がぼやける。
そして、描くのをやめた。
ふと窓の外を見ると、いい天気だった空に雨が降っている。霧のような柔らかな雨。
さわさわと、湿度もあまり伴わないような雨。
通り雨だったのか、その雨はすぐに止んだ。
窓の外から見える空には、薄い虹がかかっていた。
綺麗な鮮やかな虹ではなく、今にも消えてしまいそうな、薄く淡く儚げな虹。
何故か僕は無意識にその言葉を口にした。
「カスミ……」
それは、木枯らしが吹き、枯葉が舞い散る頃のことだった。




