第14話「大砲乗りと、理不尽な推進力」
第14話「大砲乗りと、理不尽な推進力」
「……本気か、レオン殿?」
工房の床下から引き摺り出された、全長3メートルを超える巨大な大砲。
アリアはそれを前にして、顔を引きつらせていた。
「本気だ。この大砲の底面には、お前の剣と同じ『排熱構造』を組み込んである。お前の魔力を流し込めば、このクソ重い鉄の塊ごと、空へ打ち上がることができる」
「わ、私がこれに乗って飛ぶのか!? 魔女のホウキじゃあるまいし!」
「ホウキより速くて頑丈だ。文句を言うな」
レオンは無表情のまま、大砲の側面にいくつもの小瓶(触媒)を取り付けていく。
「作戦はこうだ。お前はこの大砲にまたがり、俺が指定したタイミングで全力の推進力をかけろ。一気にベヒーモスの頭上まで跳躍する」
「う、うむ……」
「跳躍したら、砲身を奴の顔面――口に向けろ。そして、着弾の直前に、お前の剣でこの大砲の『信管』を叩き斬るんだ」
レオンは大砲の後部にある、赤いクリスタルのような突起を指差した。
「これを斬れば、内部の特級爆薬が起爆する。起爆から爆発までの猶予は『3秒』だ。その3秒の間に、お前は全力で空中で蹴りを入れて離脱しろ」
「3秒!? そんな短い時間で……!」
「できるな? いや、やれ。失敗したら、お前はただのミンチだ。そして俺の全財産の半分が文字通り灰になる」
レオンの冷酷な言葉に、アリアはゴクリと生唾を飲み込んだ。
しかし、彼女の瞳に迷いはなかった。
「……わかった。やってみせる!」
「よし。なら、俺は外で『道』を作る」
◆
防衛壁の南門。
ベヒーモスはすでに、防衛壁の数百メートル手前まで迫っていた。
その巨体から放たれる圧倒的な威圧感に、騎士団の兵士たちはもはや攻撃することすら放棄し、後ずさりしている。
「ここまでか……」
副団長が絶望の声を漏らした、その時。
南門の重厚な扉が、内側から勢いよく開け放たれた。
「道を開けろ、能無し共!!」
門から飛び出してきたのは、革のコートを羽織ったレオンだった。
彼は両手にありったけの触媒――錬金薬の入った瓶を抱え、防衛壁の前に広がる更地へと単身駆け出していく。
「あ、あの錬金術師、何をする気だ!?」
レオンはベヒーモスの真正面まで走ると、両手の瓶を全て自身の足元に叩きつけた。
パリンッ!!
「錬成――『天へと続く道』!!」
レオンが錬成陣を起動した瞬間、地面が凄まじい音を立てて隆起した。
土と岩が空へ向かって螺旋状に組み上がり、防衛壁を遥かに超える高さの『巨大なジャンプ台』が一瞬にして完成したのだ。
「アリア!! 今だ!!」
レオンの叫びと同時。
都市の裏路地から、凄まじい魔力の光と爆音が立ち上った。
『ドギュォォォォォォォンッ!!!』
「な、なんだあれは!?」
防衛壁の上の兵士たちが、信じられないものを見るように目を剥く。
巨大な大砲にまたがり、底面から青白い魔力の炎を噴射しながら、一人の女騎士が猛スピードで飛んできたのだ。
「うおおおおおおおおっ!!!」
アリアは叫び声を上げながら、レオンが錬成した巨大なジャンプ台を駆け上がる。
大砲の重量とアリアの魔力推進力が合わさった、規格外の速度。
ジャンプ台の先端から空へ向かって放物線を描き、アリアはベヒーモスの巨大な顔面の真正面へと跳躍した。
「グルルルル……?」
ベヒーモスが、鬱陶しい羽虫でも見るかのように、ゆっくりと顔を上げる。
そして、眼前に迫るアリアごと噛み砕こうと、巨大な顎を大きく開いた。
(……今だっ!!)
アリアは空中で大砲の向きを強制的に調整し、砲口をベヒーモスの開かれた口の奥深くに突っ込ませた。
そして、腰から魔剣を引き抜く。
「……借金、これでチャラにしてくれよレオン殿!!」
アリアは渾身の力で、大砲の後部にある赤い信管を叩き斬った。
パキィンッ!
「3、2……ッ!」
信管が作動した瞬間、アリアは大砲の砲身を力強く蹴りつけ、その反動で空中へ真横に跳んだ。
「1……!!」
ベヒーモスの巨大な顎が、バンカーバスターごとアリアを噛み砕こうと閉まる。
ゼロ。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!
都市全土を揺るがすような、規格外の大爆発。
ベヒーモスの体内――最も装甲が薄い口腔内で、レオンの全財産の半分を費やした特級爆薬が炸裂したのだ。
「ギャオォォォォォォォォォォッ!!??」
絶対の硬度を誇る黒い鱗が、内側からの圧力に耐えきれず、次々と吹き飛んでいく。
そして、ベヒーモスの巨大な頭部そのものが、凄まじい爆炎と共に木端微塵に四散した。
首を失った巨体は、一瞬静止した後、地響きを立ててその場に崩れ落ちた。
「……やった……! やったぞぉぉぉっ!!」
防衛壁の上で、騎士団員たちが歓喜の声を上げる。
絶望の象徴だった災厄の巨獣が、たった二人の手によって完全に沈黙したのだ。
「……フッ。計算通りだ」
ジャンプ台の下で、レオンは無愛想な顔に少しだけ得意げな笑みを浮かべた。
だが次の瞬間、空から落下してくるアリアの姿を見て、舌打ちをする。
「チッ……あいつ、着地の魔力を残してないじゃないか」
レオンは慌てて懐から別の小瓶を取り出し、アリアの落下地点へ向かって走り出した。
(……この特注クッション錬成陣の経費、絶対に追加で請求してやる……!)
戦場に歓声が響き渡る中、戦闘錬金術師のスローライフへの戦いは、最大の山場を越えようとしていた。
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