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最前線の戦闘錬金術師は、静かなスローライフを所望する〜無愛想な工房主と不屈の女騎士のバディ戦記〜  作者: Yushi


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第11話「防衛準備と、錬金術師の狂気」

第11話「防衛準備と、錬金術師の狂気」


「……アリア。そこにある『火竜の血』の樽をこっちへ運べ。こぼしたら給料から天引きだ」


「りょ、了解した! 重っ……!?」


要塞都市グランツ、南側の防衛壁。

スタンピードの襲来が数日後に迫る中、レオンは都市の防衛陣地の構築を任されていた。


騎士団からの潤沢な予算(という名の白紙の小切手)を後ろ盾に、レオンは連日、都市中の素材屋や薬種問屋から、ありとあらゆる触媒や危険物を買い漁っていた。


「レオン殿……これ、本当に防衛の罠なのか? どう見ても都市ごと吹き飛ばす気満々の爆薬庫にしか見えないのだが……」


巨大な樽を慎重に下ろしながら、アリアが冷や汗を拭う。


防衛壁の前に掘られた巨大な塹壕。

そこには、致死性の猛毒ガスを発生させる『腐死鳥の灰』、水をかけるだけで大爆発を起こす『爆雷岩』、そして今アリアが運んできた『火竜の血』など、取り扱いを少しでも間違えれば大惨事になる特級の危険物が、これでもかと敷き詰められていた。


「ただの物理的な壁や弓矢で、スタンピードの物量を止められるわけがないだろう」


レオンは無表情のまま、塹壕の中に精緻な錬成陣をチョークで書き込んでいく。


「圧倒的な火力と地形で、敵の進行ルートを限定する。生き残った少数を、お前たち脳筋の騎士団が各個撃破する。これが一番効率的で、被害の少ない(そして俺の触媒代が確実に経費で落ちる)戦術だ」


「な、なるほど……。しかし、これほどの規模の錬成陣、一人で制御できるのか?」


「できない」


レオンはあっさりと答えた。


「だから、お前の魔力も使う」


「……はい?」


「お前のその異常な魔力保有量。剣に流して自壊させるくらいなら、この大防衛陣の『発火装置スターター』として有効活用させてもらう」


レオンはアリアの前に歩み寄ると、彼女の手を取り、塹壕の端に描かれた一つの小さな錬成陣の中心に置かせた。


「敵の第一陣がこの塹壕キルゾーンに入った瞬間、俺が合図を出す。そうしたら、お前は一気に魔力をここに流し込め。いいな?」


「わ、わかった! ……だが、もし失敗したら……」


「都市の南半分と、俺の工房が吹き飛ぶ。俺のスローライフ計画は完全に破綻し、俺とお前は莫大な借金を抱えて一生奴隷落ちだ」


「ひぃっ!?」


顔面蒼白になるアリアを放置し、レオンは再び防衛壁の補強作業に戻っていった。



その日の深夜。

作業の合間の休憩中、レオンは防衛壁の上に座り、南の暗闇――嘆きの森の方向を見つめていた。


手には、あの『南部の優良物件カタログ』が握られている。


(……このスタンピードを乗り切れば、防衛の特別報酬で目標額に到達する。そうすれば、すぐにでもここを出て……)


「……レオン殿。起きているか?」


背後から、毛布を被ったアリアがコーヒーカップを二つ持って現れた。


「……夜警の交代時間はまだだろう」


「眠れなくてな。……コーヒー、淹れてみたんだが。飲むか?」


レオンは無言でカップを受け取る。

一口飲むと、以前自分が淹れた安物の豆とは違い、しっかりとした苦味と香りが口に広がった。


「……美味いな」


「ふふっ。市場で、一番高い豆を買ってきたからな。……もちろん、私の自腹だぞ」


アリアはレオンの隣に座り、同じように暗闇の森を見つめた。


「なぁ、レオン殿。貴殿はなぜ、そこまで『スローライフ』にこだわるのだ?」


「……」


「これほどの腕前があれば、王都で宮廷錬金術師にだってなれるだろうに。なぜ、田舎でひっそり暮らすことばかり考えている?」


レオンはカタログから目を離さず、ぽつりと答えた。


「……ガキの頃から、戦場しか知らないからだ」


「え?」


「孤児だった俺を拾ったのは、軍の錬金術部隊だった。物心ついた頃には、効率的な殺し方と、地形の破壊方法ばかり叩き込まれた。……毎日、血と硝煙の匂いばかりだ」


レオンの無表情の奥に、ほんの少しだけ、疲労の色が滲んだ。


「だから、飽きたんだ。誰かのために命を張るのも、終わりのない戦いも。……俺はただ、静かな場所で、土と植物の匂いを嗅ぎながら、誰にも邪魔されずに眠りたい。ただ、それだけだ」


アリアは目を見開き、そして優しく微笑んだ。


「……そうか。貴殿は、戦いが好きだからここにいるわけではなかったのだな」


「当たり前だ。時給換算で割に合わない」


「ふふっ。ならば、絶対に生きてこの防衛戦を終わらせなければな」


アリアは持っていたコーヒーカップを、レオンのカップにカチン、と軽く当てた。


「私の命に替えても、貴殿の『スローライフ』への切符は守ってみせる。……相棒としてな」


「……お前が死んだら、経費の請求先がなくなる。絶対に死ぬなよ」


「素直じゃないなぁ、レオン殿は」


二人は防衛壁の上で、並んで夜明けを待った。

静かな夜の闇の向こうから、無数の魔物たちの咆哮が、もうすぐそこまで迫っていることも知らずに。

本日もお読みいただき、ありがとうございます!


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