俺の家にヴァンパイアが住みついて日常的な非日常が起こるようになった件
これで最後です。
家に帰ると帰ったはずのサフィアのお兄様とユーリがいた。なんで?
「ヴラド様!? なぜここに。帰られたはずではなかったのですか?」
「ヴラド様は一度帰られました。そのあとでここにきました」
「そうだな、あのあと私自らサメを捕獲し屋敷に持ち帰ったあとここにきた。無論、サフィアと一緒に過ごすためだ。サフィアが帰ってきてくれないのでな、私の方から行こうという話だ」
「ここに滞在できるのは二日間だということをお忘れなく」
認めたくはないが仕方ないと悔しそうな顔をしながら「わかっている」と答えると再び向き直り話を続ける。
「そういうわけで二日間世話になる。すでにここの家主には話をつけてあるから問題はない。快く受け入れてくれたぞ」
……あいつら。緩すぎるだろ。いや、親戚ってことになってるのか。そいういえば二人がいない。
「その冬馬様と秋楓様はどちらに?」
「お二人ならお出かけになりました。二日は帰ってこないようです」
頭痛がしてきた。まぁ、いいんだけどね。よくはないな、いくら親戚っていっても家を任せて旅行にはいかないだろ。しかも実際は親戚じゃないしな。
二人の将来が不安だ。
「そういうことだ。そろそろ夕食にしよう。ユーリ、ユリア、任せたぞ」
「かしこまりました」
どんどんことが運んで行くな。思えばサフィアも最初はこんな感じだったか。その辺りは兄妹なんだな。
突っ立っているのもあれなのでソファに座る。
横では絡んではサフィアに鬱陶しがられているお兄様がサフィアからは助けを求める視線が送られてくるが残念なことに俺にはどうすることもできない。
どんな風に接していいかわからないのだ。
……自分の家なのになぜか居心地が悪い。どうしたものか。今も向けられる視線がある。これ以上は無視できないな。
「あの、お兄様」
意を決してサフィアの助けを求めている視線に応えるべくお兄様に話しかける。
するとお兄様は視線だけをこちらに向けて答える。
「ん? 君にお兄様と呼ばれる筋合いはないぞ。ヴラド……様はないか。ヴラドさんでいい」
「ヴラドさん、サフィア、嫌がってますよ。兄妹の仲睦ましいことは悪いことではないと思うんですけどヴラドさんのは度が過ぎるというかもう少しサフィアのことも考えてみたらどうなんですか?」
「私なりに考えているとも。例えば私は日々サフィアに求婚をしているが毎度のように断られる。断られたらしつこくは言わないし一日に二回程度しか言っていない」
「断ったら大人しく下がる下がらない以前にサフィアに対しての求婚をやめていただきたいのですが。それに、お兄様には縁談の話がいくつも来ているはずです。そっちにいってください。それに兄妹で結婚なんておかしいです!」
「笑止! それを乗り越えてこそだ! サフィアへの愛を証明してみせよう」
……重症だ。確かにサフィアのレベルが高いのは分かるが普通は妹にそこまではならない。
うちも一、その他同級生、ご近所の方々から美人と称されている姉ちゃんいるけど特になにも感じたことはない。怖いし。
「だいたい、君はサフィアのなんなのだ?」
「春楽はサフィアの恩人です。人間界に来てみたはものの行く当てのないサフィアに住む場所を提供してくれたのです」
後半は嘘だろ。勝手に上り込んできたじゃねぇか。
「……ふむ、だがそれだけではないはずだ。確かにサフィアは可愛いがいきなり現れた異国の者を簡単に受け入れるとは思えん。なにかあるはずだ」
問い詰められるが答えられない。なにもないから。強引に転がり込んできたのが事実だからな。
「答えられない、か。その沈黙は肯定と受け取って構わないか?」
「……答えられない、というのはあながち間違ってはないです。なにもないから答えられない」
「見え透いた嘘は通じない。契約、のようなものでも結んだか」
威圧的な眼力に押されてしまう。今日見てきたサフィアにべたべたのシスコンお兄様とは思えない程にその存在の大きさを感じさせられる。と同時にこんなすごい人がなぜ重度のシスコンなのか。そのことが残念に感じる。まだそんなことを思える程度には余裕があるようだ。
「サフィア、どうなんだ? この人間との間に一体何があった?」
サフィアに対してもその態度を変えることはなかった。その件に関してお兄様の必死さが分かる。
しばらく押し黙ったままのサフィアを見つめながら回答を待つ。
数十秒と時間が経ちようやく「……春楽は」と一度小さく呟きゆっくりと顔を上げる。
お兄様はその言葉の続きを待っている。俺も少し気になる。どうやって切り抜けるつもりなのか。恐らくありのままのことを伝えてもお兄様は納得しない。どうするつもりなのだろうか。
ごくりと喉が鳴る。それは俺のものなのかお兄様のものなのかわからない。緊張が走る。
「春楽は、サフィアの……サフィアの婚約者です!!」
ふぁ!?
今なんて? 俺が婚約者? 初耳なんだけど。なんで? いや、そうか。お兄様を黙らせるための嘘か。ダメだろそれ。黙るどころか暴れるだろ。
まだ消えていない驚嘆を抑えちらりと隣のお兄様を見てみる。
お兄様は受けた衝撃が強かったのか固まっていた。
少し離れた台所ではガシャンとなにやら食器が割れる音がした。「姉さま?」と珍しく驚きの感情が入った声がユーリから漏れる。驚くところそこなのかよ。
ようやく正気を取り戻したお兄様が震えながら口を開く。
「ほ、本当なのか? サフィア、嘘だと言ってくれ!」
「いいえ、本当です!」
待て待て、それ以上言うと取り返しがつかなくなるぞ。てか、なんでちょっと頰を赤らめてんの? 演技にしては出来過ぎでしょ? え? マジなの?
「春楽、といったな? 覚悟はいいな?」
殺気!? これ冗談じゃ済まないぞなんて事してくれたんだ。
「お兄様、サフィアの婚約者に手を出すことは許しません!」
「くっ、しかしいくらサフィアの言うことでもそれだけは、どうすれば」
なんなんだこれ? もう処理が追いつかない。どうするのこれ?
「ッ!? ヴラド様!」
今度はいきなり柄にもなくユーリが声を荒げた。
すると家の前でズンッとどでかい音が鳴った。
この一帯の人が今ので騒ぎにならないのは魔界関係だからだろうか。都合のいい力が働いているのか。
「ヴラド・エイル・クロスロードォ! ここにいることはわかっている! 早く姿を現せ!」
今度はなんなんだ。
でかい声が家の外からお兄様を呼んでいる。
しばし沈黙が訪れる。
幾ばくか経つと外から「出てこないならこちらからいかせてもらう」といい普通に入ってきた。ここ俺の家ですよ? なんでそんなズケズケと入ってくんの?
バンッとドアが盛大に開けられ室内に入ってきたのは青く長い髪をした長身の女性。肌は白く顔立ちは整っていて間違いなく美人と呼ばれるだろう。
最初に会ったときのサフィアと同じような服を着ているがサフィアのものより少し派手さが劣る。
「やっと会えたなヴラド」
お兄様を見るとニカッと笑い一歩ずつお兄様に近づいていく。見た目に反して男勝りだな。
「……ノワール・サン・クイーンか。悪いが今は君を相手にしている場合ではないのだ」
「あん? あたしを相手にしている場合じゃないだと?」
……どんどんカオスになっていく。もう収集がつかないだろこれ。どうなるんだ?
「また、妹のサフィアか。いい加減にしろ! ヴラド、あんたはこのあたしと婚約を結ぶんだよ!」
他所でやってくれないかな。それ。
「申し訳ありませんノワール様。今、ヴラド様は立て込んでおりまして」
「だからどうせ妹のことだろ?」
「ただ事ではないのだ! サフィアが、私のサフィアがこの人間と婚約を結ぶというのだぞ!? これほどの大事黙っていられるわけがないだろう!」
「ほーん、その坊やがねぇ。……いいじゃん! あたしゃ応援するよ。さっさとヴラドの妹と結ばれてしまいな!」
「貴様ッ!」
「おっ、闘るか? 」
なぜか二人の間で戦闘が始まってしまいどこかへ行ってしまった。ここで戦われても困るしお兄様を連れてってくれるならありがたい。ユーリもそれについて行ったようだ。
今はそれよりも
「あの、サフィア様。先ほどの話は本当なのですか?」
立ち直ったユリアが恐る恐る尋ねる。
がその答えは返ってはこなかった。
今の短い間に二人の決着が着いてしまったようでのされたお兄様はノワール? という女性に担がれて戻ってきた。
「うむ、騒がせたな。ヴラドはあたしがもらった。二人とも末永い幸せを祈る」
それだけを言い残すとお兄様を連れて帰っていった。
「姉様、ヴラド様のことがあるので一度魔界に帰るべきかと。サフィア様もです」
とりあえず一難去ったといっていいのか。事は収まったようだ。
お兄様はあの女性と婚約することになったようだ。そうなるとサフィアも一度魔界に戻らないといけないようで三人は帰ることになった。
先程までの騒がしさが一変、俺一人と静かになった。
そもそも今日は八景島に行っていたので疲れている。さらに先ほどのことがあり余計に疲れてしまった。
そのまま倒れるようにソファで寝こけてしまった。
目が覚めるとすでに高く日は登っていて時計の針は十一時を指していた。
少々散らかったリビングで一人。昨日とは対照的な静けさに少し寂しさを感じる。
あのあとどうなったのだろう。そんなことを思う。
考えたところでどうしようもないので少し遅めの朝……いや、もう昼か。昼を適当に食べて久々の普通の生活を送る。
適度に課題を片付けてマンガ読んだら携帯いじったりと午後はダラダラと過ごす。
そんな生活が二日間続いた。
3日目の朝、親からはもう少し旅行を楽しむという文がTALKで送られてきた。なぜか一緒に送られてきたイチャついている写真はいらない。
そういえば今日で連休も終わりか。明日から学校かと思うと少し気だるくなる。
この二日間と変わらない生活を送る。
昼を終えて再び部屋に戻ろうかとしたときインターホンが鳴る。
やや重い足取りで玄関に向かいドアを開ける。
「! ユリアか」
ドアの前に立っていたのはユリアだった。一人か? と視線で問うと「後でサフィア様とヴラド様が来られる。春楽に説明、先に話を通して置くために私だけがきた」と答えた。
玄関先で立ち話というわけにもいかないので家にあげてリビングに通す。
紅茶は……今はないんだったな。
「コーヒーでいいか?」
問題ないと帰ってきたのでインスタントのコーヒーを二人分淹れて運ぶ。
中々話を切り出そうとしないのでコーヒーを啜りながらユリアが口を開くのを待つ。
沈黙が続く。コーヒーが苦い。
「……先日の一件があった後ヴラド様はノワール様と婚約された」
「お兄様が結婚? あれだけサフィアって言ってたのに随分あっさりと」
「勿論、そんなにあっさりとことが運んだ訳ではない。ノワール様の尽力のおかげでなんとかなったのだ」
「ノワール様ってのはあのお兄様を連れてった人か?」
「ああ、ノワール様はヴラド様より強い。ヴァンパイアの王族を除けば恐らくクロスロード家ら家族の中で一、二を争う実力の持ち主だ。ヴラド様の上位五人のうちには入られるがノワール様には勝てない」
「……そんなすごい人が」
「ノワール様はいたくヴラド様を気に入られてクイーン家との縁談は何度か上がったのだがヴラド様は全て断られてきた。だが、しびれを切らしたノワール様が、というのが先日の出来事だ。ノワール様の徹底的な教育によりなんとかヴラド様はサフィア様への思いを断ち切りノワール様を受け入れられたのだ。今では冬馬様、秋楓様ほどではないが良き夫婦としてやっている」
徹底的な教育というのがちょっと怖いが丸く? 収まったようなのでそれは良かった。あとうちの親を上げるのはやめといたほうがいい。あれは普通とは違う。
それよりも事の顛末はわかったがそれを伝えたあとにサフィアとお兄様がやってくるのはどういう用事があるのだろうか。
疑問に思っているとユリアが話を続けた。
「本題はここからだ。これは春楽、お前に大きく関わる事だ。よく聞いておけ」
改まった雰囲気に自ずと喉がなり緊張が走る。
「先に簡単に言うとサフィア様と春楽の婚約のことだ」
は!? あれってマジだったの?
「これは決定事項だ。覆ることはない。まぁ、魔族と人間が、というのは別に珍しい話ではない。貴族でというのは滅多にないがな」
え? まって、俺の意見はガン無視なわけ?
その後もユリアが色々説明してくれていたが半分以上頭に入って来なかった。なんで俺結婚することになってんの?
それに気づいたユリアが開かれた表情で「聞いているのか?」と叱責される。
そこでハッとするとユリアはため息をついて簡単にもう一度説明してくれた。
俺が人間なので結婚は俺が法律どおり18になってから。基本的にサフィアは人間界に住むことになる。
ユリアもついてくるなどなど他にも細かいことが多々。
毎度のようにこっちのことは全く考えてないのな。
配慮がされていない訳ではないがそう言うことじゃないんだ。
顔に出ていたのかユリアに「なにか不満か?」と問われる。間違ってもここで不満があるとは言えない。
そこでかわりに別の質問をしてみた。
お兄様とノワール様との婚約はまぁわかったのだが俺とサフィアがなぜ婚約ということになっているのかまぁ今更だが聞いてみた。
一番はノワール様の後押しが大きいらしい。お兄様を手に入れるために必死だったんだな。そして見事に巻き込まれたわけか俺は。相手のサフィアが悪いという訳ではない。多分一やクラスの連中なら喜ぶだろう。ただ、結婚となると人生でも指折りの大事なことだ。それを勝手に決められてしかもそれが利用されたというのもあれば複雑な心境にもなる。
その話が終わると三時を少し過ぎていた。もう直ぐ二人が来るだろうとユリアが言う。
その十分くらいあとに二人はやってきた。
どんな顔してサフィアと会えばいいんだ?
俺の代わりにユリアが出迎えリビングに二人を通す。
全員が椅子に座るとお兄様が口を開いた。
「相模春楽。妹のサフィアから色々と話は聞いた。人間ではあるが君に妹を任せる」
この間とはまるで別人のお兄様からサフィアを任せるとはっきりと告げられた。
以前のお兄様ならこんなことは絶対に言わなかっただろう。これもお兄様の奥さんの教育のおかげなのだろうか。恐ろしいなその教育。一体なにされたんだ?
それだけをいうとお兄様は帰っていった。
これまで通りサフィアとユリアはうちに住むらしい。
お兄様が帰ったところでサフィアに一つ問いかける。
「あの時、本気で言ってたのか?」
「……春楽は嫌、ですか?」
「嫌という訳じゃない。けど、心境は複雑な感じだ」
「質問に答えますね。あの時は半分半分でした。お兄様にとっては大きな衝撃ですからあの場をしのげばあとは収められると思っていたのですが……。でも、今のサフィアは本気です! 戻れないから、とかではなく純粋に本心からそう思っています」
「そうか、それなら」
「はい、よろしくお願いしますね!」
その時向けられた屈託のない笑顔に心臓が跳ねる。
そのせいで一瞬反応が遅れた。
「ああ、よろしく」
そのあと三年間の学校生活はこのことは伏せて過ごした。途中いつぞやの人狼が転校してきてサフィアに惚れたとか言ってお兄様にぶちのめされたり恒例の夏休みイベント、クリスマスなど三年間充実した日々が過ぎて卒業。
最後に扇藤に告白されたりと色々とあった。
扇藤には悪かったな。もし、サフィアと出会っていなかったら扇藤と結ばれていたのだろうか。
そして今はサフィアと結婚し幸せな日々を過ごしている。有名企業にも就職した。まぁそこには少々汚い力が働いているので罪悪感はある。
人間と魔族、この二つが結ばれると日常は常に非日常だったりする。高校生の時から何やかんやで続いている。
俺の家にヴァンパイアが住みついてからというもの日常は日常的なのにどこか非日常な日々が にかわった。最初は戸惑いもあったが今はまぁ、それも悪くないかなと思う。
初めはもっと違う内容で書いていく予定だったのですがいつの間にか予定と全く違う内内容になってしまい頑張ってはみたのですがもう限界ということでここで強引に終わらせました。




