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イベントの時は何かが起こるのかもしれない件 2

「……ユリア?」


 ドアを開けると立っていたのはユリアだった。

 だが、ユリアは少し前にサフィアと出かけたはずだ。

 それに出て行ったときと格好が違う。

 メイド服に近い服装だ。

 あとなんか表情が薄い。幸薄そうなのも違うな。

 結論からしてこの人はユリアではない。誰だ?

 困惑していると向こうから教えてくれた。


「いいえ、違います。私はユーリ・フィリアーネ。ユリア・フィリアーネは私の姉です」


 無表情のまま淡々と言う姿になんか機械、アンドロイドみたいだな。と、そんな感想が出て来た。


「それじゃあ、……えーと、ユーリさんはユリアの妹ってことか」


 確認すると彼女は小さくコクリと頷くとこれも淡々も用件を述べた。


「本日はこちらにお住まいになっているサフィア様にご用があり参上しました」


「悪いな、サフィアは今いなくて夜には帰ってくると思うんだけど」


「……そうですか。では、お戻りになるまで待たせてもらいます」


 待たせてもらうって上がるつもりなのか?

 だが、それから彼女は一向に動く気配を見せずその場で微動だにせず立っている。まさか夜までここに立っているつもりなのか?

 彼女はドアを閉めようとしない俺をただ見つめている。表情は一切動かない。人形みたいだな。


「まさかとは思うけどそこでずっと待っているつもりなのか?」


「はい、他に行くところもありませんので」


「そういうわけにもいかないだろ。そこにずっと居られるとこっちも困るというか。仕方ない、上がって待ってていいから」


「いいのですか? ではお言葉に甘えさせていただきます」


 家へ上げると後ろを静かについてくる。

 とりあえずリビングへ通してソファに腰掛けてもらう。ただ、座ったまま置物のように動きがない。

 どうすればいいんだろうか。


「何か飲み物とか出しましょうか?」


 客がきたらこれが定番かな。

 聞くと彼女は体を少しこちらに向けて答える。


「では、いただきます。それと私には畏まった話し方をしないで下さい。あまり、慣れていないので。少し落ち着きません」


 無表情で抑揚なく淡々を話されると機嫌が悪いのかと思う。彼女の無表情は不思議ちゃんの表情が読み取りにくいという無表情ではなく完全な無なのである。なら機嫌が悪そうとか怒ってるのか、なんて感じないだろともうかもしれないが凄い怒らせたらそんな風になる人いないか? 多分そこからきているものだと思う。


「紅茶でいいか?」


 サフィアのだけどいいよな?

 ユリアの妹らしいしいいだろ。

 けどどうしよう。紅茶の淹れ方とかよくわからないぞ。

 茶葉はこの間買ったのは知っているがいつの間にかティーポットとか新しいカップが増えている。いつ買ったんだ?もしかしたらユリアが魔界から取ってきたのかもしれない。

 そんなことよりも淹れ方がわからないのが問題だ。

 パックとかなら簡単なんだが、茶葉からとなるとわからない。


「……私が淹れましょうか?」


 そんな風に手をこまねいていたのを見られていたのか

 ユーリが席を立ち台所まで来ていた。

 このまま俺がやっても失敗するのがオチだ。大人しくユーリに任せる。


「悪いな、頼む」


 すると彼女は「いえ」と小さく答えてテキパキと準備を進める。


「水は、軟水はありますか?」


「軟水? ああ、日本は水道水が軟水のはずだから組んで使えばいいぞ」


 器具などを準備し終えてこれからというときに一瞬、ほんのわずかだが彼女の動きが止まった。

 そのあとすぐに質問があったので水のことだったのかと納得した。

 教えると「そうですか、使わせていただきます」と言うと蛇口に手を伸ばしたがここでも動きが止まった。なんだまさか蛇口をどうすればいいのか分からないのか?


「度々すいません、お湯を沸かすのに使う道具はどこにあるのでしょうか」


 そっちだったか。まぁ、普通は他人の家の収納場所とかは知らないよな。勝手に開けたりするわけにもいかないしな。

 戸棚を開けてやかんを取り出し彼女に渡す。


「水入れたら貸してくれお湯を沸かすくらいはできるから」


「そうさせていただきます。なにぶん勝手がわかりませんので。ご配慮感謝します」


 やかんを渡すと水を入れた彼女はそういいながらやかんを渡す。

 未だに彼女の口調に慣れない。このへりくだった言葉遣い。姉であるユリアとは全然違う。従者って本当はこうなのだろうか。ユリアは主人であるサフィアに対してはちゃんと従者をしているが……はずだ。

 妹のユーリは使えているクロスロード家とへ関係のない俺に対してもへりくだっているように思える。

 IHのコンロにやかんを乗せると電源を入れて火力を強にして沸騰させる。


「ここからは私がやります、適切な温度がありますので」


 変わると沈黙の時間が流れる。適切な温度になるまで待っているのだが会話がないため時間が長く感じる。ていうか、俺いらなくね?

 ここにいても邪魔になりそうなのでソファに戻る。


 少しするとやかんが音を立て始めた。沸騰し始めなのでそれほど大きくない音だが静寂に突如鳴る音は余計にうるさく感じいきなりなったので少々驚いた。

 一方の彼女は特に驚いたような素振りは見せずやかんを確認すると適切な温度になっていたのかそのお湯をティーポットに少し入れて軽くすすぎ流した。ティーポットからはわずかに湯気が立っている。そこに茶葉を入れた。

 それが終わったころちょうどやかんがキューと甲高くうるさい音を立てた。それをそのまま少し高めの位置からティーポットに注ぐとティーポットの中では水がボコボコと音を立てている。

 すぐに蓋をして塞ぐと中では茶葉が上下に動いている。後で聞いたがこれはジャンピングというらしい。これが起きないと失敗らしい。

 しばらくするとティーカップに注ぎ始めた。どうやら完成らしい。

 最後の一滴まで注ぐとこちらに運んでくる。


「どうぞ」


「ありがとう」


 彼女から紅茶を受け取るとほんのりティーカップも暖かい。中の紅茶の熱が伝道してきたのとは違うティーカップそのものが暖かい感じだ。いつ温めたのだろうか。そういう配慮か何かなのか冬とかだとありがたい。次いで彼女もちょこんと隣に座り紅茶を飲み始めた。


「ストレートで飲むのか」


 なんとなく尋ねると彼女は小さく首をかしげた。表情がないからわかりずらいがこれは何を言っているのかわからないとかそんな感じだろうか。


「ミルクなどを入れるのは個人の自由なので止めることはしませんが最初はストレートで飲み茶葉限定の香りを楽しむものです」


 そうなのか、この間は普通にミルク入れてしまった。


「今回使わせていただいた茶葉はプリンス・オブ・ウェールズです。この茶葉はストレートで飲むことをお勧めします。穏やかな渋みと上品な香りが楽しめるはずです。蘭の花のようでしょうか」


 そんなにいうならと一口ストレートで飲んでみる。

 口に近づけると言われた通り上品な香りが鼻腔をくすぐる。

 口に含むとまろやかな口当たりでそこでも香りが広がる。そこに程よい渋みが加わってなんとも言えない味を織りなしている。いたことで簡潔にいうなら美味しい。紅茶は初めて飲むが渋くて苦味があるというイメージよりだいぶいい。


 そんな様子を見ていた彼女はもう一口飲むとカップをソーサーの上に置いた。


「スコーンなどがあればよかったのですが。相性は抜群ですので。ですが満足していただけたようなので良しとします」


「いや、こっちこそ悪かったな。手を煩わせて。こっちが出す側なのにな」


 それきり会話は生まれなかった。お互いに紅茶を口に運ぶだけが続く。やがて紅茶を飲み終えると気を紛らわすものがなくなって余計に気まずくなる。気まずいのは多分俺だけだが。向こうはただなにも動かないのだ。会話をしようとかそういうのは思っていないはずた。とりあえずからになったティーカップを下げる。


 逆にこっちが落ち着かないな。どうすればいいのか。

 彼女はなにもしないしなにも喋らない。ただそこにいるだけ。だが、家にあげたのはこっちなのでこのままここに放っておくのもどうかと思う。


 やはり気まずい。かれこれ一時間近くこれが続いている。置物のように動かない彼女とそわそわしている俺。この空間から早く逃げ出したい。できるだけ早く帰ってきてくれ二人とも。帰ってくるのは夜なんだけどな。


 そんな時間を過ごしていると玄関からドアが開く音が聞こえてきた。どうやら母さんが帰ってきたようだ。


「ただいま〜。あら、ユリアちゃん?もう帰ってきたの?」


「いえ、私はユーリ、ユーリ・フィリアーネです。ユリア・フィリアーネは私の姉です」


「あらそうなの、そっくりね」


 もっとつっこむところあるだろ。……まぁ、うちの親なら仕方ないか。


「そんなことはありません」


 そうか? よく似てると思うけどな。性格とかは全然違うけど。多分ユーリは中身の部分言ってるな。


「あっ、そうだ! せっかくだからユーリちゃんも食べましょう! お昼」


 そうか、もうそんな時間か。沈黙の時間が長すぎてその辺りの感覚がなくなりつつあった。


「よろしいのであればお言葉に甘えさせていただきます」


 確認すると買ってきた食材を台所に運び調理を始めた。


「差し支えなければ私も手伝わせていただきます。私は使用人ですので本来ならばこういったことも私の仕事の一つです」


「ユリアちゃんと同じこと言うのね、姉妹だわ〜」


「何を作るのですか? 下ごしらえなどはお任せください。必要であれば他のこともいたしますが」


 そのあと作るものを確認すると迅速に完璧に自分の仕事を仕上げる。母さんの方がそれに追いついていないようだ。あれは下手をしたらその辺の料理人より上なんじゃないのか?


 しばらくして卓上に並んだのはジュノペーゼパスタ。

 これってそれなりに手間がかかるはずだがそこはユーリの手際の良さなのか割と短時間で見た目は高クオリティである。


「最初は普通のパスタにする予定だったのよ、でもユーリちゃんがすごくてこうなっちゃったの」


「どこをどうしたら普通のパスタの予定がこうなるんだ?」


「バジルペースト、というものがあったので提案して見ました」


 言われたことを淡々とこなすイメージだったけど提案とかしたりするんだな。


「それじゃあ食べましょうか」


「「いただきます」」


 皿に盛られたジュノペーゼパスタを少量フォークに絡めて口に運ぶ。

 バジルの爽やかな香りが鼻をスゥッと通り小気味いい。

 口の中でもバジル、トマトも入っていたのか両方とが溶け合ってなんとも言えない豊かな味わいだ。


「それではいただきます」


 俺たちが食べるのを待ってからユーリも食べ始めたようだ。その辺りは使用人という部分があるのだろうか。

 食事の時も無表情なんだな。


 母さんが積極的に話しかけるおかげで先ほどのような沈黙の時間は生まれない。

 それもユーリは一言二言で返すだけなのだが気まずさはない。


 食べ終わるとユーリは肩ずれを手伝いそれが終わるとまたソファに座り相変わらずの無表情で座る。


 どうしたものか。サフィアたちが帰ってこないことには話が進まない。


 今のところ母さんが成立はいまいちしていない会話をしているので自分の部屋へ上がり宿題を終わらせながら一からの連絡を待つ。


 GWというわけかいつもより量が多いがかなりの時間宿題をやっていたのかひと段落ついた時には五時を少し過ぎていた。

 ユーリはどうしているだろうか。まだあのソファで座っているのだろうか。

 降りて確認したところで結果は素っ気ない態度で返されて終わりだろうな。

 そんなところで一からの連絡がきた。

 いくつかの写真が送られてきてすぐに電話がかかってきた。

 出ると向こうからいつもの陽気な声が聞こえてきて通話が始まる。


「遅くなったわ。色々考えた結果まとめたものをこれから伝えるからみんなによろしく。写真も送ったからそれ見ながら聞いてくれ。まず場所は煌梨ちゃんが八景島を提案してあの場でそれでいいってことになってたからそのまま八景島にした。八景島にある水族館なんてどうだ? ここからだと結構遠いけど電車で大体一時間くらいだ。それでそこでいいかどうか聞いてくれないか?料金は三千円。あと遊園地もあるけどそれも聞いてくれ。遊園地の方も料金は三千円だ。とりあえずそれだけを聞いてくれ、続きはその後だ」


「了解」


 電話口で一から一通り説明を受けると短く返し一旦通話を切った。

 サフィアとユリアは帰ってきてからだな。まずは二人、扇藤が連絡口だったな。扇藤に連絡しよう。


 一から連絡きたけど水族館ってことでいいか? 料金は三千円

 あとは遊園地もあるけどどっちがいい? 遊園地も料金は三千円


 扇藤狐々実との個人TALKに打ち込み送ると数分で返事が返ってきた。


 私は水族館がいいな


 わかった、南那星は?


 煌梨ちゃんは昨日から私に合わせるって言ってたから

 相模君はどっちなの?


 まだ決めてないんだよな

 まぁ合わせるよ


 細かい部分はまだ決まってない?


 ああ、とりあえず決をとるだけだからまだ


 決まったら連絡してね


 やりとりを終えると再び一に電話をかける。

 ニコールほどで一はでた。


「聞けた?」


「ああ、二人とも水族館でいいってよ。俺もそっちにするわ」


「なら決定かな。まぁ、そこがだめなら行先自体変えないといけないんだけどな。他の二人は?」


「まだ帰ってきてないんだよ。もう少ししたら帰ると思うんだけどな」


「ちなみに予想はどっちだと思う?」


「……ユリアはサフィアに合わせるだろうから。サフィアなら、……どうだろうな」


「……わからないのか。どうする?」


「そんなに遅くはならないはずだからもう少しだけ待ってくれ」


「じゃあ遅くても一時間後くらいには連絡してくれ」


 そこで通話は終わった。

 あとは二人が帰ってくるのを待つ。

 ユーリのこともあるので楽しんでいるであろうところ申し訳ないが二人には一刻も早く帰ってきてもらいたい。


 しばらく部屋にいたがどうにも時間の流れが遅く感じる。時間はさっき時計を見た時から五分と経っていない。

 それを何度か繰り返しているとそれで時間が経過していたのか二人が帰ってきた。

 下に降りると既にユーリが出迎えたいた。



「お待ちしておりました。サフィア様」


「ユーリですか。どうしたのですか?」


「サフィア様にお伝えすることがあり参上しました」


「……お兄様ですか?」


「はい、ヴラド様よりお言葉を預かってきました」


「お兄様はなんと?」


「色々言われておりましたがそろそろ帰ってきてほしいと言う内容でした。サフィア様、お戻りになられますか?」


「お兄様の態度を改めるいうのならば考えます。お兄様にはそう伝えてください」


「かしこまりました」


 どうやらサフィアのお兄様から帰ってきてほしいという内容だったようだ。

 最初にサフィアから聞いた話なら重度のシスコンだ。今までおとなしくしていたのが奇跡に近い。いや、おとなしくしていたかどうかはわからないな。魔界を探し尽くしたから次はこっちってことかもしれない。

 でもこれでユーリが帰ったらサフィアがどこにいるのかわかってしまう。そしてここにサフィアのお兄様が来る。俺、ヤバくない?何されるかわからないぞ。


「最後に姉様、ヴラド様はサフィア様の家出に加担したことをお怒りになってはいませんので安心してください。用件は伝えましたので私は帰ります。そう遠くないうちに会うことになると思いますが」


 ユリアの返答を待たずして彼女は帰っていった。

 数秒ほど誰も動かなかったがずっと見ていただけの俺は二人に声をかけた。


「いよいよサフィアのお兄様がここにくるのか?」


「恐らくそうなるだろう。ヴラド様はサフィアが絡まなければ大変優秀な方なのだが。ここ一ヶ月サフィアに会うことができていないヴラド様の行動は読めない。最悪サフィアは連れ戻されたあと軟禁状態に、ということもあるかもしれない」


「サフィアが嫌といえばお兄様はそこまではしないかもしれませんがあるかもしれませんね」


「そうかもしれませんが一番厄介なのは春楽を掛け合いに出してきそうなところですね。それをされるとサフィア様は簡単には拒否できなくなります」


「そうですね、春楽はサフィアの恩人ですし掛け合いに出されるとサフィアも断れません」


「なんか物騒なことになってきてるな、大丈夫なのか俺? 大丈夫じゃないよなそれ」


 そんな中空気を読まない着信音が鳴り響いた。

 一からだ。


「春、そろそろ二人帰ってきたか? どっちがいいか聞きたいんだけど」


「さっき帰ってきたんだけどそれどころじゃなくなるかもしれない」


「何かあったのか?」


「サフィアのお兄様がついにサフィアの居場所を突き止めたみたいだ。今日、ユリアの妹がサフィアのお兄様から伝言を預かってきたとか言ってうちにきた。多分明日にはこっちにくると思う」


「サフィアちゃんのお兄様って家出の原因になった重度のシスコンの?」


「ああ、ユリアが言うには一ヶ月近くサフィアに会ってないから何をするかわからないらしい」


「とりあえず逃げるために八景島に行くか」


「それだと扇藤と南那星に危害が及ぶかもしれないだろ。それにそんな状況だと俺たちは楽しめない、二人には悪いことになってしまう」


「春の家にいるということしかバレてないんだろ? なら大丈夫だって。電車で一時間弱かかるくらい離れた場所に行くんだから見つからないって」


「ユリアの妹がすぐに見つけると思う。ユリアはガーゴイルって種族らしいからそのガーゴイルの能力の一つに千里眼みたいなのがあるらしい。それを使われたらすぐに見つかってしまう」


「待て、案外その男の言うことはありかもしれないぞ」


 そこで割って入ってきたのは俺たちの会話を黙って聞いていたユリアだった。サフィアはそれでユリアの言おうとしていることがわかったのか納得したような顔をしている。


「どう言うことだ?」


「その男に説明する。代わってくれ」


 ユリアに携帯を渡すとすぐにユリアの説明が始まった。


「私だ。ここからは私が説明する。先ず春楽が言っていた私たちガーゴイルの能力だがそこまで便利な代物というわけではない。いくつか制限があるからだ。一つは探すものや人のことを知っておかなければならない。これはすでにクリアされている。だがその次が問題だ。この能力が使えるのはある一定の範囲だけ、しかも一度にその範囲の中を全て見られるわけではない。順番に見て回らなければならない。私も最初にサフィア様を見つける時には一日かかっている」


「それじゃあ八景島くらい離れていればその日のうちに見つかることはないってことね。なら安心安心」


「それに明日この周辺を探して見つからなければ他に逃げたと考えてしばらくここには来ないかもしれない」


「なら明日は?」


「行かせてもらう」


「了解了解、それで一つ質問があるんだけど」


「なんだ?」


「水族館と遊園地どっちがいい? 料金はどちらも三千円!」


「なんだそれは!? 改まるから真面目な話かと思えばそんなことを」


「でも行くんだったら大事だぜぇ、これは。それに明日は大丈夫ってことなら二人も楽しんでもらおうかなってさ。扇藤さんと煌梨ちゃんもくるし」


「そうか、私の一存では決められないサフィア様に聞け」


「サフィアは水族館がいいです!」


 ちゃっかり話し聞いてたのか。即答だった。


「水族館がどんな場所か知ってるのか? 知らないんなら説明してもらってからの方がいいんじゃないか?」


「どんな場所なのですか?」


「……やっぱり知らなかったのかよ。えーと、今回行く水族館はけっこう大きいとこだな。魚とか海洋生物が展示されていてそれを見ることができる。他にもショーがあったりとか触ったりとかできるらしい。んで、遊園地はアトラクションって言って乗り物に乗ったり色々あるけどまぁ、なに、公園の究極系みたいな感じか」


「遊園地の方の説明がアバウトでいまいちわからなかったのですが差し引いても水族館のままでいいですよ」


 確かに俺もその説明だとよくわからん。ユリアにはもっと他にも言い方があるだろうとか言われた。そのあと私はサフィア様が選ばれたものに従うと言った。


「で、聞こえてたか一?」


「ああ、はっきり言って俺もその説明はよくわからなかった」


「いや、それはもういいだろ。そうじゃなくて」


「満場一致で水族館、だろ? 開島時間が九時だから七時半くらいの電車に乗れば九時ごろ向こうに着くはずだ。それ間に合うよう集合だな」


「決定だな。いいか、ユリア?」


「聞いていた。それでいいですね、サフィア様?」


「問題ありません。サフィアもユリアもこちらのことはよくわからないことが多いのでお任せします」


「なら春、あとは二人に伝えといてくれ。また明日な」


 また明日、と返すとそこで通話を切り扇藤に連絡を済ませる。

 内容は明日は九時の開島に合わせて行くから七時半くらいの電車に乗って行くこととそれに合わせて駅に集合することを伝えた。

 五分くらいすると

 うん、それでいいよ

 と返ってきた。

 それに対して

 よかったまた明日

 と返すと

 うん、また明日ね

 と返ってきてそこで会話は終わった。


 一にはさっきので確定したということだけを伝えてあとは明日を待つだけとなった。



「……明日は九時には八景島、という場所に行く。ヴラド様に伝えさせていただきますね、申し訳ありませんサフィア様。これも私の仕事ですので」


 相摸家の外ではユーリがいた。

 情報を探り、目的の情報を得た彼女は誰に向けてでもない言葉を放ちこの場を後にした。

 その言葉は自分の使えている家の主人の一人に対する裏切りとなる行動に対するせめてもの贖罪を意識していたのだろうか。


「戻ったかユーリ」


 広間の中央奥にある椅子に腰掛けている長身の男が唐突に口を開くとユーリが現れた。


「はい、サフィア様の居場所を突き止めました」


「ご苦労。どこだ?」


「人間界のある人間の家にいるようです」


「そうか、早速だか明日にでもそこに赴くとしよう」


「それが、明日はその場所にいないようでして」


「何!? ようやく会えると思ったというのに」


「ご安心ください。その場所も突き止めておりますので問題はありません」


「……よくやった!」


「お褒めに預かり光栄です」


 一連のやりとりが終わると椅子に座っていたサフィアの兄、ヴラドは立ち上がると


「ようやく会えるぞ! この一ヶ月お兄様は寂しかったぞサフィアァァァァァ!」


 叫んだ。


 無言で見ていたユーリは最後に明日の準備をしておきますというとヴラドを残し広間を去った。



「話はわかったしそれで構わないのだけれど私が言ったことはできていないようね」


「……私から何か話の話題を振る前に終わっちゃって」


「情けないわね」


「でもまた明日って言われたら話が続けられないでしょ?」


「……あの男は。まぁいいわ、大事なのは明日よ。何か一つでも成果を残しなさい」


「うん、頑張る!」



 それぞれが様々な思いを抱き明日を迎える。

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