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第13話:市民街へ入るには

<前話までのあらすじ>

・俺はワンメモの舞台となった世界でVR化のためのテストをすることになった。

・実在していたヒロインのソフィアと、プレイヤーの一人でエルフのアサツユと狩りをする中、二人の秘密を明かされた。

・適正20レベルのダンジョンをクリアしたところで、ドロップアイテムを分配し、買い物に行く予定。

 ドロップ品の分配。

 全て換金してもいいけれど、生産をする二人なら素材で欲しい物もあるだろう。


「じゃあ、まず、二つしかないレア素材はどうする?」


「それは加工が難しいので、売ってしまっても良いでしょう。私は昨日ワタロットさんに付き合っていただきましたから、お二人で分けてくださいな」


 とソフィアさんは権利を放棄した。そういえば、昨日の分は全部ソフィアさんに預けたままPTを解散したんだっけ。


 PTを解散するまでの間、狩り中にドロップしたアイテムは各自のインベントリの「別枠」に入る。所持品と混同しないために。


 この別枠はメンバー全員に見え、誰が何を拾ったのか分かる。特にレアアイテムは上に来るので一目瞭然。


 ドロップ時に偏って配られた素材を、再度平等に分けるため、二人の分を一旦、俺が預かった。ぼっちだった俺は、この様なまとめ役に慣れてないが、これからはそうも言っていられないだろう。


 オンラインゲームの場合、狩りのために組んだその場限りの「野良PT」では、こういうときトラブルが起きやすい。PTリーダーが全員のドロップ品を預かったまま持ち逃げすることだって有り得るから。



 それはさておき、レア素材を巡ってアサツユの反応は、


「皮と牙なら、牙のほうがいいかなぁ。装飾品アクセにすると全部の攻撃力が上がるんだって」


「マジで?」


「うん。でも、すぐに使える物を作りたいから、売っちゃっていいよ」


「じゃあ、レアは俺が処分するから、アサツユは他の物を取ってくれ」


「やった! 実は良質な木材が欲しかったんだよねー。新しい弓の材料になるし。あと、天然石原石はアクセにしようかな」



 というわけで、レア素材は二つとも俺の手元に残った。


 銀貨十枚の獣皮と獣牙。それらを複製するのは、一万円札を刷ることに近い。ふと、獣皮の表面に諭吉が浮かんで見えた。


 だが、冒険初心者の俺がいきなり大量のレア素材を売りに行ったらどうなるか。ギルドのカウンターで怪しまれること請け合いである。不審者が銀行に札束を持っていくようなものだ。いくら本物でも出所を疑われる。


 そんな皮算用はやめて、今は素直に喜んでいるアサツユを見て癒されよう。


 しかし、


「あら、原石はたくさん種類がありますから一個だけ磨いても欲しい石にならないかもしれませんよ」


「えぇーっ! これって、何の原石かって決まってないんだ」


「インベントリの中では一つのスロットに重なりますでしょう。魔物の素材は加工するときに鑑定をして、下処理が必要な物もありますから。原石は工房の人に磨いてもらうか、欲しい属性の石を買ったほうが早いですわね」


「ふむふむ。じゃあ、原石はやめとこうかな。クリアボーナスはいつも尚光に持って行かれてたから石のことは初めて知ったよ」


 との二人のやり取りを聞いて、


 やはり尚光には物を平等に分けようという気はないのか。「前衛してやってるんだからレア全部寄越せ」とか平気で言いそうだからな。その前衛としてもアサツユの満足を得られなかったくせに。


 そして、なるほど。今回魔物から得られた皮素材がおしなべて《獣皮》になったのは、別々の動物(鹿や猪)の皮ではなく、全て「魔物の皮」として扱われ、同じスロットに収まったからだ。


 最初に鑑定や下処理をして皮の種類が決まり、その中から俺たち冒険者に適したものを選んで革や硬革に加工され、最終的に鎧などが作られる。ゆえにダンジョンで狩る魔物の種類にこだわる必要はない。ていうか全部狩るし。


 魔法使いの場合、水晶や宝石類は属性の都合もあるので、加工する前に何の原石なのか知りたいものだ。



 ……。



 結局、レアと良質素材はアサツユと俺が分け合って、ソフィアさんは全て換金することに。


 冒険者ギルドのカウンターにはシステムが接続された魔道具があり、インベントリの別枠に入ったドロップ品を移動すると、その目録が表示される仕組みだった。


 俺の取り分は素材の分を差し引いても3,600ピース、銀貨三十六枚。

 現在の資金は5,600ピース、銀貨五十六枚になった。


 下級職のままでも稼げることは分かったけれど……。たった今、換金した素材の流れについて考えてみる。


 素材は冒険者ギルドで買い取られ、職人ギルドで売買されるが、このとき、買取価格よりも販売価格が割高になっていて、各ギルドがその利鞘を稼いでいる。


 素材が加工され、装備が職人ギルドに納められると、今度は商人ギルドを通して市場に流通し、さらに割高となった装備を買うのはもちろん俺たち冒険者。


 つまり、俺たちが儲けているようで、実はギルドを儲けさせているわけだ。


 では、インスタンスダンジョンが使えない、地元(・・)の冒険者はどうしているかといえば、彼らは魔物の討伐だけでなく、依頼も受けて稼いでいる。その報酬は依頼主――例えば魔物の被害を受けている村の村長であったり、護衛を必要とする大規模な商隊を編成している商会、はたまた存在するかどうかも怪しげな珍品を求める貴族たちなど――が出している。


 いずれ俺たちもそういった依頼を受ける機会があるかもしれないけれど、テストプレイとしてはそこまでする義務はない。現状これだけ稼げれば十分暮らしていけそうだし、無事に日本へ帰ることができればそれでいいのだから。


 しかしそれは、テストプレイに限った話。俺とソフィアさんには、アサツユにだって成し遂げるべき目標がある。


 そのためならば、世界の果て――否、この異世界の果てまで飛び回ろう。


 まずは今必要な物、下着と普段着、その他生活用品の調達からだ。目標は遥か遠くても足元から歩いて行かねばならない。



 ……。



 さて、分配も換金も終わったところで、


「どうもありがとう。良い狩りでしたわね」


 とソフィアさんが抑揚のある声でねぎらってくれた。午後も頑張ろうとの意欲が湧いてくる。一方、現金なアサツユは、


「ほんと、尚光のときより素材もお金も沢山もらえたよー。じゅるり」


 と涎を垂らしている。


「ソフィアさん盾役ありがとうございました。アサツユも回復ありがとう。ところで、下着ってどこで売ってるんですかね」


 俺は二人に感謝し、ギルドを出たところで聞いてみた。


「えっ」


「いや女性用じゃないから。男性用だから」


 いきなりアサツユがドン引きする。勘違いされ、これは女の子に聞いた俺が悪かったと思った。



「薬や装備品などは宿の近くでも売っているのですが、服を買うなら『市民街』に行きませんか?」


「はい、案内してもらえるなら」


「私もオッケー」


「それでは早速、参りましょう」



 俺たちの宿がある区域は平民街。平民とは主に個人や家族で経営している職人や商人のことを指し、市民とは契約によって平民や奴隷を雇用することのできる中流以上の人を言う。


 中流といっても幅があるけれど、どんなに大金持ちでも市民は市民。身分的にはその上に騎士(戦闘職ではなく騎士階級)や官吏がいて貴族や王族に仕えている。


 この都市全体はどれくらいの規模なのだろう。高台には城が屹立し、開けた場所ならどこにいても見上げることができる。言わば街のシンボルだ。


 城の周りには騎士や官吏が居住する建物があり、崖沿いを城壁がぐるりと囲む。そこはただ仰ぐことしかできない雲の上の世界。



 これから行く市民街はその高台から坂を下ったところにあるのだが、平民街からは坂を上って行かねばならない。


 階級とは坂であり、壁である。下ることは簡単だが登ることは難しく、生まれや才能によっては決して乗り越えることのできないものだから。


 市民街と平民街の間の境界も明確に、高台を囲む城壁よりは低いものの石壁によって仕切られていて、俺たちはその入り口で門番に止められた。



「これより先は身分の証明が必要な市民街だ」


「署名と宣誓によって証明いたします」


 と言ってソフィアさんがA4くらいの大きさの羊皮紙を三枚取り出すと、一枚にサインし、俺とアサツユにも一枚ずつ配ってサインを促す。何か文字が書かれていたので召喚のときと同じく一種の契約魔法なのだろうか。


 裁判所で証人が証言する内容に嘘偽りがないことを宣誓するように、先にソフィアさんが誓いの言葉を述べる。


 俺とアサツユはその後で「誓います」と繰り返すだけでよかった。すると羊皮紙の色が変わってゆき、ソフィアさんのは青く、俺とアサツユのは黄色になった。それを見た門番は畏まって、


「お連れの方とお忍びでいらっしゃいましたか。大変失礼いたしました。どうぞお通りください」


「お勤めご苦労様ですわ」


 これによって色分けされる身分は、王族は紫、貴族は青、騎士や官吏は緑、市民は赤、平民は黄色になるそうで、有効期間はその日一日限り。翌日には消滅してしまう。


 ていうかソフィアさんは今、貴族扱いなのか。二百四十年が経ち国王も代が変わるに従って外からの血が濃くなってしまったためだろう。それでも貴族に数えられているのは驚くべきことである。


 逆に言えば、婚姻の魔法契約も生きているということ。それを解決するにはこの羊皮紙の魔法についても知る必要がありそうだな。


 門を通過する際、ソフィアさんが門番二人に銀貨を三枚ずつ渡して、


「少ないけれど」


 と言っているのはチップを渡したのか。日本人には馴染みのない習慣だ。銀貨をそそくさと懐にしまい「美味い酒が飲める」とご機嫌な兵士を背にした。


 だが、これを毎回やるのは面倒だな。


「いつか顔パスになりたいですね」


「紋章付きの装備や馬車をお持ちになれば可能です。私の紋章は、二百四十年前に登録された岩瀬の名誉貴族のものですから。それよりも、ワタロットさんご自身が出世なさってくださいね。期待していますわ」


「頑張ります」


「頑張れ、ワタロット」とアサツユも俺を応援する。


 そうだ。例え岩瀬が過去の勇者であろうと、名誉貴族だろうと、断じて負けてなるものか。ソフィアさんと釣り合うように、俺もここで出世するんだ。身分違いの恋で終わりたくはないから。


 これはもう、頑張るしかない。岩瀬への嫉妬心と対抗心が、俺の中に眠っていた向上心と冒険心を否応なしに掻き立てた。



 木造建築が多かった平民街とは違い、市民街の建物はしっかりとした壁厚のある石造りになっていて、一軒一軒から重厚感が伝わってくる。その上、漆喰で塗り固められているためか経年劣化を感じさせず、かえって深い味わいが醸し出されているのが分かる。


 思わず「こんな家に住んでみたい」と口に出してしまいそうになる建物ばかりだ。建ち並ぶ商店には市民が利用するだけでなく、貴族向けの店まであるそうだ。そんな高級店にはまだ入れないが、


「普段着とは言っても市民街でランチをいただくには最低限カジュアルな服装に着替えなければいけませんので……。あそこのお店に行ってみましょう」


 と言うソフィアさんに付き従う。アサツユは猫型獣人族のように好奇心丸出しだけれど。


 もっと緊張感を持てよと思いながら、俺は二人に続いて服屋に入った。


 ……。

お読みいただきありがとうございます。

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