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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
金と銀の確執
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7-4

Side:Luna




少し狭く感じられるベッドで両脇に横たわる二人の呼吸が深く、穏やかなものに変わったことを知覚して私は小さくため息を吐いた。

シルヴァとセイにこの国についての説明を粗方し終え、夕食をとり。

何だかんだと個々の準備を終えてさあ寝ようとなったところまではよかった。


私が言いたいのはひとつだ。

三人で一緒に寝るにはここのベッドは狭い。


いくらシルヴァがいつもの癖(?)で一緒の布団に入ってきたからってセイまでムキになって入ってこなくていい。

と言うかその時点でベッドは三つあるんだからバラバラに寝れば良いじゃないか。

そりゃあ、こっちの方があったかいけど…


「上しか向けないのは、寝にくい」


私は基本的に横を向いて寝る派だ。

それかうつ伏せだけど、仰向けはなんか落ち着かない。

だと言うのにこの両脇の二人は私がどちらを向いても文句を言うのだから、落ち着いて眠ることも出来やしない。

……まあ、寝るつもりなんてないからいいんだけど。


完全に二人が眠るのは案外これであり得ないことだ。

二人とも――特にセイなんかはこの国に来てかなり気を張っているから、私が身動きしただけですぐに気がつくだろう。

だから魔術が使えるシルヴァにもバレないように本当に少しずつ眠りの魔術を会話の合間に仕込んで二人をそうとは知らせずに深く、簡単なことでは起きることが出来ないように眠らせた。

そうすれば身体を拘束する四本の腕から抜け出すのも簡単だ。

少しだけ良心が咎めるけれど、今夜だけはどうしても単独行動がしたい。

あまり見せたくないんだ、この国での私のこと。

セイには確かに真実を話しているけれど、話に聞くことと実際に見ることはやっぱり少し違う。





「【式神】」


転移で宿の外、もっと言えば予め結界を張り他者の侵入を拒んである場所へ移動して写し身を造り出す。

不測の事態に備えて魔力は常時私から供給される設定だ。

恐らく現在の聖都の城には強固な結界が張られているはずだ。

他の“聖国”内の都市のように魔術で覗くことが出来ないのがその証拠。

だからこそこうして式神を差し向けるしか手がない。


『忌々しいね、まったく。

あの結界、一体何人の命を使っているのだか』


「十人くらいじゃないかい?

精霊族の奴隷ならそれくらいで足りるだろう」


『迷惑なことだ…下手に魔術に秀でているだけに。

いや、むしろこの国の奴隷制度が、と言った方がいいのかな』


精霊族の奴隷は希少だが、一国の主ならば集めるのも容易い。

そして集めたその奴隷たちにそれこそ命が尽きるまで魔力を消費し結界を張らせれば私の遠距離からの覗き見を防ぐくらいは辛うじて可能だろう。

ただまあそれは遠距離からの話で、こうして式神を飛ばして直接手出しを始めれば違ってくるのだけど。


「どっちでもいいよ。さて、恐らく城の内部構造なんかはあの頃と変化無いはずだ。

まずは潜入、聖王と今代の専任魔術師、それと宰相もかな……その辺りから漁ってくれる?」


『わかってる。ある程度情報が集まったら念話を飛ばそう。

その後はあの忌々しい地下の周辺だろう?』


「そうだよ。悪いね、嫌な役を押し付けて」


地下は私があの城で過ごしていた場所だ。

そして召喚の儀式が行われた場所でもある。

式神は私の分身だから勿論その記憶も持っていて、そこに抱く感情は私と同じだろう。


『別にいいさ。君が行けば気づかれる。

なんでか分からないけどセイは分身(わたし)と君の区別がつくらしいから』


「可笑しな話だよね、魔力なんて米粒くらいしか持ってないくせに」


この事が知れたのは随分昔。

依頼が忙しくて手が離せない時期があって、せめて式神をとセイのもとに向かわせたら式神がぶすくれた顔をして手紙を持って帰ってきたのは懐かしい思い出と……言えなくもない。

彼からの手紙曰く、本物じゃないならお断り、だそうだ。

私の分身で考え方も感じ方も同じなのにと、私も式神も嬉しいような悲しいような微妙な気持ちになった。


『まあ、そういうのが…』


「言わないでよ、恥ずかしくなってくる」


『私だってそうだ。……ねぇ、シルヴァはさ、どうかな…?』


「………それも言わないでよ」


そんなこと確かめたくもない。

私と式神の区別がつくかどうかなんて。

式神もやはり同じ気持ちなのだろう、疲れたように笑って転移の準備にとりかかる。


『嫌になっちゃうね、まったく。

でも重い気持ちは紛れたよ。少しは頑張れそうだ』


「それはよかった」


『君も頑張ってね。これからアレに会いに行くんだろう?』


「まあね。でも別にどうということも無いさ」


『意地っ張り』


「そっちこそ素直じゃない」


お互いに皮肉を言い合って苦笑する。

どちらも同じ私のことなのだから、全部こっちに帰ってくるんだけどね。

そのまま手を振って式神を見送り私も目的の場所まで歩き出した。


―――あの二人に話した、最初に立ち寄る場所をこの街に選んだ理由には、いくつか話していないものがあった。

この街を最初の目的地に選んだのは私がここの位置情報を記憶しているから。

そしてここが奴隷商人の街で人の出入りが激しく、そして商人の街ならではの情報が集まる場所だから。

でもそれ以上に、この場所は私が知りたいことを知るためにとても都合が良かったのだ。


「まだあれが生きているといいけれどねぇ」


死んでしまっていたら少し困るな。

そんなことを思いつつ過去の記憶を辿り目的の場所へ。

奴隷市場で賑わう大通りから細い路地をまるで迷路か何かの様に複雑に歩き回る。

かなり外れた位置にある寂れた酒場、その横に隠れる魔術の結界。

目くらましだ。知っているものでなければこの術式に気づくことすら不可能だろう。

思わず口の端がつり上がる。

この魔術がまだ生きているということは、目的の人物も存命なのだろう。

結界を憶えている解呪の方法で解いて現れた扉をくぐり薄暗い中へ。

湿った空気に明かりひとつない二階へと続く狭い階段。

中の構造も変わっていなくて何よりだ。


「誰だい……今日は店はやっていないよ」


階段を上った先、古ぼけた扉を音を立てて開けばしわがれた声が私を出迎える。

あぁ、随分年老いたようだがまだ生きていた。

くつりと笑んで魔術で明かりを灯す。互いの顔が知られないためのこの薄暗さだが、今は不要だ。


「まだ生きてたなんて、嬉しいな。久しぶりだね?」


顔がしっかりと相手に見えるように照らせば、老婆の顔が恐怖に凍った。


「ヒッ………!!お前、……まさ、か」


「あれ?私のこと忘れちゃった?あんなに怖がってたのに」


「く、黒の悪魔……!!」


逃げ出そうとしてか、椅子から立ち上がりかけた老婆の襟首を鷲掴みそのまま床に叩きつける。

あぁ、死なないようにちゃんと手加減はしておかないといけないか。


「いやだな、どこへ行くんだい?」


「ヒィッ!な、何故お前が今更……」


「ちょっと君のことを殺しに」


私の言葉に老婆は面白い程ガタガタと震えた。


「あはは、そんな怯えないでよ、面白いな。

別に今君を殺すつもりは無いさ。私、君に聞きたいことがあるんだ。

君、そういうの得意だろう?この街一番の情報屋だもんね?

役に立ってくれたなら、私だって機嫌がよくなるかもよ?」


「い、言う!何でも教える!だから、命は!!」


「あっそ。じゃあもう汚いし足どけるけど、逃げようとしないでね?

そういうの凄く面倒だし、何より不愉快だから」


床に叩きつけてすぐ動けないように踏みつけていた足を退ける。

老婆はそのまま震える身体で起き上がり、床に座り込んだまま怯えた瞳でこちらを見上げた。


「な、何を聞きたい…」


「んふふ、従順で何よりだ。聞きたいのは私がいなかった45年の間のこと。

この国は相変わらず人族以外を下に見て弾圧し奴隷として動かしているだろう?

私がいなくなってからしばらくは国の立て直しでそれどころじゃなかっただろうけど、その後は相変わらずだったはずだ。

これまでの間に新しく国内で見つかった獣人族の村はないかい?」


「獣人の…?」


「そう。奥深い森に住んでいる獣人なんかが見つかって、そのまま滅ぼしたとか」


私がこの国にいたころはそれこそこの身に宿る力を余すことなく使わされた。

それによって隠れ住んでいた種族を隷属させたり、隷属に応じなければ滅ぼしたり。

他にも他国に侵攻して領地やそこに住む生物を奪うことは日常茶飯事だった。

この老婆ともその頃に出会ったのだったか。




当時私はまだ呪縛から逃れることの出来ない弱い屑のような人間で、私を召還したゴミ共の言うがままに動いていた。

この街は国境に近いため他国への侵略の際の拠点とされていて、その際何度か宿をとったことがある。

宿と言っても泊まるのは私を召還した魔術師とたまに戦場を高みの見物して楽しむ聖王達だけで、私は基本的に外か廊下で立っていることを求められたからその言葉には語弊があるのかもしれないが。

そしてその何回目かの滞在の折に小さな事件が起こった。

街で商品として売られていた奴隷たちが一斉に逃げ出したのだ。

たぶん聖王一行がいるために起こる混乱に乗じて逃げ出す作戦だったのだろう。

かなり前から計画されていた事らしく、奴隷たちは効率よく店から逃げ出していた。

そしてそれからは何よりもその場から逃げ出す者、今までの恨みを晴らすかのように暴れまわる者、奴隷にされている間に正気を失ったのかぼんやりと立ち尽くす者と、それぞれの行動は様々。

だが何にしろ支配する側に一泡ふかされたという屈辱は聖王には許しがたいことだったのだろう、即座に私に命令した。


曰く、奴隷を皆殺しにしろと。


それに私は諾々と従い(実際誰を殺そうがどうでもよかった。私にとってはゴミ共にいいように扱われること自体が何よりも耐え難いことだったから)、その場に居た立ち尽くす者も向かってくる者もすぐに皆殺しにした。

そして繋がれていた鎖を放され、逃げ出した奴隷をただ投げられたボールを追う愚かな犬か何かのように追いかけたのだ。

その一部始終を見ていたのが今目の前で震える老婆。当時はまだこれも若かった。

あの頃から彼女は若いながらも腕の立つ情報屋として名が通っており、その時も聖王の傍に侍る黒の悪魔の情報を少しでも得ようとちょこまかとこちらを探っていた。

それを私も察知していたが、問われていない内容に言及することも勝手な殺生も禁じられていた私はどうすることも無くただその存在を無いものとするだけ。

ただどうにもその視線が煩わしく、混乱に乗じてこちらを嗅ぎまわるネズミを殺してしまいたいとは思っていた。

だから見せつけてやったのだ。悪魔とまで呼ばれる私の力と残虐性を。


ちぎりとった奴隷の身体の一部を投げつけるのも、意味も無く苦しめて相手を殺すことも、命じられた内容ではないけれどそれに反しているわけでは無い。

だからまだ年若かったこの老婆の視線を感じつつ街を逃げ回る奴隷全てを無残に殺して、最後の一体は言葉の通り老婆の目の前で、そう、本当に目と鼻の先のような位置で殺してやった。

こんな場所なら殺しを見るのも初めてではないだろうに、その頃はまだ若い女だったコレは今と同じようにガタガタみっともなく震え全身をわざとかかるように勢いよく噴き出させた返り血で染め上げていた。

その表情はまさしく恐怖に歪んだそれで、久しぶりに私はそれに気分が高揚したものだった。

そしてその高揚の記憶と恐怖に歪む女の顔は私の脳裏に焼き付いた。



その後私は城から逃亡し、この街に再びやって来た。

逃亡の前準備として魔術師の目を掻い潜りつつこの国の情報を探っていたため、記憶に残る顔が情報屋だということは知っていた。

街に入ってすぐに情報屋のもとへ訪れ、この国の状況やその時点での追手の存在などを実力行使を含みつつ聞き出して、もしも私の事を国にばらせばすぐに殺すと言い捨てて私はようやくこの国を出たのだ。




そんな過去があるから、この老婆は私への恐怖が骨の髄まで染みついている。

顔を会わせた瞬間に震えおののき逃げ出そうとするくせに、一度脅せばこうして身動きしなくなるのがその証拠だ。

老婆はどうにかして私の機嫌を取ろうとするように自分の中の記憶を掘り起しているらしい。


「ねぇ、まだ?」


昔を思い出しているうちにまあまあ時間はたったはずだ。

私の声に彼女は縮みあがり、その様が私に愉悦と苛立ちを同時にもたらす。

本当にこの世界の人間は疎ましい。

特にそれが“聖国”の者であると思うだけでそんな感情が強く湧き立つ。

けれどそれはまだまだあの頃の憎しみを欠片たりとも忘れずにいられている証拠でもある。


「おっ、思い出した!確か、十数年前だったか、獣人族が国で見つかって…!!」


「うんうん」


十数年なら今十二歳のシルヴァの年齢に合うだろう。

こうした話はこの国では珍しいことではないから忘れ去られやすい。

勿論滅ぼされた獣人や亜人族にとってはそんなことでは済まされないような内容だろうが。


「聖王陛下は、いつものように隷属を呼びかけたが、従わなかった。

だから新たに聖戦を仕掛けられ……」


「聖戦、ねぇ?」


「ひっ!」


なんだまったく、私はただ呟いただけだというのにその反応。

にしてももう少し詳しく事細かに話せないものか。

そんな大雑把な情報、こっちは求めていない。

その旨を懇切丁寧に分かりやすく伝えてやれば老婆は分かりやすく怯えまるで堰を切ったようにあらん限りの情報を話しだす。


「あ、あの獣人たちは何と言ったか、そう、銀狼!そう名乗っていた!

戦闘能力の高い種族で、戦闘用奴隷にはもってこいだ、だから聖王陛下は有り難くもあれらにお声をかけられたというのに、あれらはそれに首を振ったのだ!

聖王陛下は大層お怒りになられ大々的な掃討が行われた、当然だ、陛下の言に逆らうモノなど、存在価値もない、なればこそ聖戦が起こり、陛下は無事あれらをこの国から排除され…」


「なに、それって私のことも存在価値がないって言ってる?」


「……あ、ちが、そういうことでは」


だがこの老婆が言ったのはそういうことだ。

私こそ彼女の言うセイオウヘイカの言に逆らい、あまつさえそれを殺した人間なのだから。

だがまあこんなモノに何を言われても私が傷つくこともない。

慌てて弁明しようとする老婆は無視し、聞きたいことだけに意識を向ける。

これは銀狼、と明確に種族名を口にした。

私の質問は最近滅ぼされた獣人族がいないかというものだったから、私から逃れるための口から出まかせというのもないだろう。

ならば他に聞いておかねばならないことは。


「その銀狼の村―――いや、この場合はその聖戦の現場、つまり聖地はどこにある?」


「現聖王陛下の……?」


「それだけ明確に知っているなら場所くらいわけもないだろう」


聖地、というのはなにも当時の聖王に所縁のある場所だけを指すのではない。

そう言った聖戦、つまりは人族以外の種族を滅ぼし隷属させた戦いの場のことも同じくそう呼ぶのだ。

歴代の聖王の華々しい戦歴の証として。

まあ、ある意味ではこれも所縁の場所、と呼べるのかもしれないが。


「ねえ、知らないの?」


「あ、た、確か、国の、北の森と…」


「へぇ、北。もっと詳しく言えないの?役立たずだな」


「……っ、い、位置情報が、ある…!」


その言葉につい、私は老婆を見つめた。

コレの言う位置情報というのは間違いなく転移の魔術のものだろう。

転移術の位置情報というのは二種類あり、ひとつが視覚、聴覚などの五感から術者が感じ取ったもの。

もう一つが地図などのように経度と緯度から数字で割り出すもの。

他人に位置情報として教えることが出来るのは後者だけ。

同時に数字による位置情報はかなりの使い手で無ければ例え教えられたとしても転移することはできない。


「どうして君がそんなものを知っている?

君はただの情報屋だ。それにこの国にそういう位置情報を捉えることが出来る程の者が何人もいるとは考えられないね」


それこそ城に仕える程の魔術師くらいだろう。

その中でも一握りかもしれない。

もしその位置情報が本物ならばこれ以上ない情報だが、こんなところで騙されるのは絶対に御免だ。

嘘の位置情報を教えられればどこに転移してしまうか分からない。


「本当だ、位置情報は城の主席魔術師様が言っていた」


「だから、何で君がそんなものを知っているのかを聞いているんだ」


「主席魔術師様は上客なんだ、だから、情報も…!」


「主席が、ねぇ…」


頭ごなしに否定することも出来ないが、かと言ってはいそうですかと頷くこともできない理由だ。

そもそもそんな簡単に城仕えが情報をこぼすだろうか。


「信じてくれ、本当に、そう言っていた!

位置は北の3、東の24、南の105、西の9!」


ただまあ脂汗を流しながら必死の形相でそう言ってくる老婆を見る限りあながち嘘でもないのかもしれない。

それにもし城の術師がここでいくつか情報を漏らしているのなら。


「まあそれはもういいや。

後で自分で飛んで確かめよう。

それより主席魔術師と言ったよね?

そいつ、今城がどんな感じかとか言っていないの?」


「城…?」


「何か大掛かりな事をしてないかなって」


「わ、わからない……ただ」


「ただ?」


顔を近づけた私に老婆は悲鳴をあげ仰け反った。失礼なことだ。


「数ヶ月前、これから忙しなくなる、と………それに、聖王陛下のお力がようやく外に示される日が…」


「なるほど」


私の予想はもしかしたら間違っていなかったかもしれない。

確証を得たわけではないが、可能性は強くなった。

ちらりとこちらを窺う老婆を見下ろす。

もう他にこれから聞き出せることはないだろう。


「もういいや、満足した」


「ほ、本当か……?」


「うん、聞きたいことは聞けたしね。

それじゃ、私は行くよ」


顔を輝かせた老婆に手を差し出す。

不思議そうな顔をした彼女の首へ向けて、私はそのまま素早く爪を向けた。

一瞬の後にはころん、と呆気なく転がる老婆の頭部。

首から勢いよく噴き出した血が部屋中を汚した。


「今すぐには殺さないし、話によっては機嫌がとれるかもとは言ったけど、絶対に殺さないとは言ってないしね」


死体はそのままに、返り血を浴びないようにと予め張っておいた結界を解いて建物を出る。

元々あの老婆はこの機会に口封じも兼ねて殺そうと思っていた。

私がまだ生きていること、この国に戻ってきていること、そもそも私の存在が実在するものであるということはこの国の人間に知られるわけにはいかないのだ。

そこへきて主席魔術師と懇意にしているだなどと、危険度は更に増す。


「あぁすっきりした」


心底そう思いながら外に出る。

だから二人は連れてこられなかった。

こんなことをして心から喜ぶ自分を見られたいなんて、気狂いな私でも流石に思えない。

でも同時にこんな私のこともいっそ知って欲しいと心の片隅で思ってもいる。

なんて、絶対にそんなことしないけれど。


この怨みも怒りも私だけの感情だ。

セイは似たような感情を同じく抱いていてくれているけれど、それでも、これは私だけのものだ。

あの日、陽から永遠に引き離された絶望。

あの日、同胞達を殺された憎しみ。

あの日、復讐として聖王達を八つ裂きにした狂気。

どれも私が、私だけが得たもの。


だからあの二人は関わりなどない。

関わらせたいとも思わない。


「……さて、下見程度に行ってみるか」


告げられた位置情報を脳内で思い返しながら術を編む。

この街の位置情報は分かっているから、私ひとりがどこへ飛ばされても問題はない。

今のうちに情報が本物なのかを確認しておかなければ。

でも、早く帰りたいな。

もうすぐ夜が明けてしまうし、それに何より寒くて仕方がない。

はやく、あのあたたかい腕のなかに戻りたかった。




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