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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
銀色の当惑
23/178

3-7

Side:Luna




今日は約束の日。

動揺している心をどうにかいつものように立て直して魔術を発動させる。

どうせ意味なんてないとわかっているけれど、出来ればあまり心配はかけたくないから。

そして少しの雑音の後、聞き慣れた暢気な声が耳に流れ込んできた。


『もしもーし、月?』


「もしもし、一週間ぶりだねセイ」


ほっと息をつく。

やっぱり疲れているのかもしれない。

……色々、あったし。


『この一週間待ち遠しかったよ。

いっそ昼から念話してくれればよかったのに』


「そんなこと出来るわけないだろう?

私はその昼に起きているんだから。

ここは過ごしやすいけど、時間の感覚がずれるのが難点だ」


『時差ボケみたいな?

そう言えば今シルヴァ君は?

俺と念話するなんて言ったら意地でも月の横にいそうだけど』


そんなことは無いと思うけど。


「シルヴァは訓練室でエース指導のもとジャックと一緒に特訓の真っ最中だよ。

私は用事があるからって、参加しないで見学中」


『用事って俺との会話?』


「さて、どうだろうね?」


『ひっど。そこはさ、他に何があるんだい。決まっているじゃないか。とか言うとこでしょ』


誰が言うか、そんなあからさまな言葉。

それにそんなことを言えばすぐにセイは調子に乗るに決まっている。

まあそういう素直さが魅力なんだけれど。


「それで、最近そっちはどう?

何も問題は起きていない?」


『うわぁ、華麗なスルースキル。

いやまあいいけど。

んー、まあ表立っては何も。

あ、そういや俺いい駒ゲットしたんだ』


ルンルン、と効果音でも付きそうな声音。

よっぽどその手にいれた駒が気に入っているのか、それともかなり使えるのか、その人物を駒に出来たことが嬉しいのか。


『なんと!侯爵が俺の駒になってくれましたー』


あ、これは絶対に最後のやつが理由だ。


「よく彼が頷いたねぇ…

よっぽどのことがない限り君の下にはつかないと思ったけれど」


侯爵はフレイ至上主義だし。

そんな中で本気の忠誠は誓わないにしろ、セイの下につくのは屈辱だろうし彼自身納得がいかないものもあるだろう。

あのツンデレ感だとフレイを最後まで遠くから見守っていたい、とか考えてそう。

そして実はフレイの子供の誕生まで楽しみにしてそう。


『うん、ちょっとお仕置きしてからだったから侯爵もオッケーしてくれたんだと思う』


「お仕置き?」


『うんまあ、ちょーっと俺的に許せないことだったっていうか』


セイが言葉を濁すなんて珍しい。………ん?


「もしかして、立太子式のこと?」


『……』


あ、黙った。やっぱりか。

セイが怒るの、自分で言うのもどうかと思うけど私関連くらいしかないし。

あーあ。あの時はそこまで考えてなかったからな。

でも隠居したとか養生中とかいう話は聞かないし、同じ様に怒っていても国王には手を出していないようだ。

たぶん罵倒したくらいだろう。

私もセイも、怒るほど口数が増えてマシンガントークになっていくし。

で、手を出さなかった分更にストレスが溜まってそれが全部侯爵にいったと。


「で、侯爵にどんなトラウマを植え付けたのさ?」


『……別に植えてないし。

ちゃんと選ばせてあげたんだよ?

仕事地獄とトラウマ作りと拷問、どのコースがいい?って。

俺優しいじゃん』


「どれを選んだって君のことだ、痛みと全くの無縁なんてことはないんだろう?」


『バレた?』


当然だ。一応十五年の付き合いなんだから。


「バレバレ」


『……もー。気づかないでよ、そういうの。

それか気づいてても気づかないフリが常套でしょ』


「ちょっと申し訳なく思っているんだ。

私のその場のノリとテンションで侯爵がそんな目にあっているとは思わなかったからね」


まあ罪悪感は全くないが。

だってセイの為に必要な事とは言え、こっちの人間にいいように扱われるとか屈辱。

ノリとテンション、と言ったのはそれが出てしまったからだ。

けれどそれは伝わらなかったらしく、セイの声があからさまに尖る。


『えー、なにそれ。俺のことあんな熱烈に祝福してくれたのに。

何だっけ、宵闇の名の下絶対の守護を、ってさ。

あれってノリとテンションの産物なの?

それ俺が本気にとって怒って、侯爵が被害受けたから申し訳ないって?』


「……?

セイ、何を拗ねているんだい?」


『拗ねてないし』


「拗ねてるじゃないか」


なんだかなぁ。

彼はたまに(と言うかやっぱり私が関わるとき)すごくマイナス思考だ。

普通気づくと思うんだけど。


「別に公衆の面前でああしたことは後悔してないし、よかったと今でも思っているよ。

君も色々やりやすくなったろう?

自分と君と誰かの望みを叶えるため以外に、私は動かないよ」


ギルドというものは各国に支部が存在し、国主もその力は無視できないほどの勢力だ。

国の兵士では殲滅できないような魔物の駆除や、暗殺者からの護衛。

国家間の戦争には表向き参加することはないが、ギルド員である者が望むのならギルドを通した依頼とは別口という枠で手助けを行える。

そういう意味で、どの国もギルドとは強い繋がりを持ちたがっている訳で。


そこに“王国”の次期国王が宵闇(わたし)との強固な繋がりを示した。

ランクSSは伊達じゃない。

ランクSSの冒険者との繋がりが全くない“教国”、“聖国”は勿論、私と同ランクの冒険者を血縁にもつ“帝国”の皇帝も手出しをしにくくなっただろう。

もう一人のSSはどの国とも繋がりを持たずにフラフラしているから除外だ。

これからどこかと密な関係を持つにしても、やはりセイには手出ししないと思うし。

だって私との実力差を二人ともよくわかっているから。

SSになってから一回ずつ完膚なきまでに叩きのめしたことあるんだよね。

権力が嫌いな私がわざわざあんな場に立ってまでやったことなんだから、察するでしょ、色々と。

あの祝福の言葉は、セイに手を出すならそのままプチッと殺っちゃうよ、というのと同義だ。


そしてそれがきちんと分かる人間はセイに一定の敬意をもって接する。

次期国王というものに更なる付加価値がついているんだからね。

きっとセイが何か望めば便宜を図ってくれるはずだ。

それは自国の人間に限らず、他国でも。


『……やりやすくは、なった』


「あはは、不満そうな声」


『月がいけないんでしょ!

俺は自分の力で頑張ろうと思ったのに!』


少し笑ったくらいでそんなに怒らなくても。

音量調節できたり、受話器越しに話すのと違って耳の位置を変えても意味がないから耳がキーンとなる。


「ごめんね。色々心配なんだ。

ずっと君のそばにいるのなら別にあれは不要だったけれど、そうもいかないから。

君は魔術がからきしだし、一応私の魔具も預けてるけどそれが壊されるような一撃が来たら意味ないし…」


『月の攻撃以上のやつをぶっ放せる人間がいたら是非会ってみたいよ』


「はいはい。で?侯爵には結局何をしたんだい?」


『……また侯爵の話?』


あれ、おさまったと思ったのにまた不機嫌になった。


「だって気になるだろう?」


『全っ然気になんない』


「まあまあ」


あ、セイにため息吐かれた。

酷いなぁ。そのため息は諦めたことと同義だから何も言わないけれど。


『……まずは愚痴吐きまくった。

で、さっき言ったコース選ばせたら仕事地獄がいいって言うからさ、利き手にナイフ握らせて骨ぐらいまで肉切って、そのままポイ。

あと次したら娘の方やるよって言ったら面白いくらい真っ青になったからね。

あ、これいけるなと思って駒にしたんだ』


「と言うことは、前から侯爵を駒にしたいと思っていたのかい?」


『っていうか、汚いこととか裏のこと専門の奴が欲しかったんだよね。

ジークはそこんとこ役に立たないし、かと言って他の人間も俺に清廉潔白とまではいかないけど真面目で正義感の強い善人っていうイメージ持ってて、スカウトしにくくて。

その点侯爵ならあんまそういうの気にしなくていいからさ』


なるほどねぇ。

国王たるもの善人というだけではやっていけないから汚いこともしないといけない。

それは国主だけじゃなくて領民をあずかる貴族も同じ筈なんだけど…甘い人間が多いのかな?


「闇ギルド、紹介しておく?

依頼とか通せるように出来るけど」


『え、これ以上月の世話になったら俺自信なくす…』


「でも便利だろう?」


大体自信ってなんだ。


『んー…………考えとく。まだ保留にしてて』


「わかった。まあ君のことだし、闇ギルドを使うにしろ使わないにしろ上手くやっていくだろうけど」


『まあ俺チートだしね。

てか話変わるけど、なんか最近ジークが変なんだよね。

心当たり全くないんだけどさ』


「ジークが変?」


変とはどういうことなのだろうか。

それにセイが気づいて私に言うくらいって、相当な気がする。


『なんか……観察されてる』


「観察?セイを?」


『そうそう』


「自意識過剰か。

逃げ出さないか見張っているだけなんじゃないかい?」


『ちょっとどういう意味!?

だって真面目に仕事してても不真面目に仕事してても何も言わずに見てるし、仕事中じゃなくても何か視線感じてそっち向くといるし、あと俺と二人で話してる時すっごい顔ガン見なんだよね』


………それはまた、訳が分からない状況だ。

確かに変だと思う。

と言うか、逆にジークにもう少しバレないようにしろと言いたくなるのは私だけだろうか。


『なんか…実害はないけど疲れるっていうか。

緊張、みたいな?』


「うーん、でも彼は急にそんなことするようには思えないし、君が何かしたんじゃないのかい?」


『え、逆に何したら顔ガン見されるようになるの?』


確かにそうだ。

でもそうなると理由なんて考え付かないし…


「侯爵を駒にしたことは話したのかな?」


「侯爵?うーん……あぁ、さらっと言ったよ。

事後報告で侯爵ができた書類をわざわざ届けに来てくれた時」


「……それなんじゃない?」


「え?」


心底不思議そうにするセイの声にため息が出る。

一度彼は経験しているだろう、似たようなこと。


「たぶん君が何を考えているか分からないのと、自分じゃ役に立てないんじゃないかとを考えて不安なんじゃないかい?

ほら、私と君が会ったときも可愛らしく嫉妬していたじゃないか」


「えー……だって月の時は俺にまとわりついたり月を目の敵にしたりしてたじゃん。

今はそんなことなくない?」


三歳児と十八歳の青年の行動を一緒にするやつがあるか。


「ジークをいくつだと思っているんだい……

彼だって大人になっているんだから、そんな事この年でするはずないだろう?」


「そんなもん?」


そう言うセイはまだいまいち信じていないようだ。


「全く、他人のことには鋭いのに自分に関わることはどこまでも鈍いんだから」


「………それ、月には言われたくない」


「どういう意味かな?」


ひくりと口許がひきつる。

別に鈍くなんかないはずだ。


「別にー。まあそんじゃその可能性でアプローチしてみるよ。

他人に対する月のそういう勘は信用できるし」


「光栄だね。……あのさ、セイ。

前回も話を聞いてもらっておいて、悪いんだけど……」


本当は話さないつもりだったけど、やっぱり誰にも何も言わないのはモヤモヤする。

それにセイなら何か、助言のようなことを言ってくれるかもしれないし…


「何?もしかしてまた何かあったの?」


あ、これは凄く心配されてるな。

今回はそこまで大事じゃない……と、思う。


「と言うか、シルヴァも変なんだ」


『え、そっちも?』


「変、とは少し違うかもしれないけど……シルヴァの村を探す話はしたよね?

この間候補をしぼって、結果的に“帝国”の北側か“聖国”ということになったんだけど」


『“聖国”!?まさか行くつもりかよ!?』


再びの、しかも先程よりも大音量での叫びに一瞬気が遠くなった。

セイ、もう少し落ち着いて欲しい。


「“帝国”になければそのつもりだよ。

そう望まれた訳だし」


『冗談だろ!?なに考えてんだよ、危険すぎる!

あの犬もあそこで月がどんな目に遭ったかも知らないで……!』


口調が激しくなってきている。

それだけ心配してくれているんだろう。

でももうあれからかなり経つ。

私のことを知っている人間は少ないはずだ。

……と言うか、犬ってシルヴァの事でいいのだろうか。


「大丈夫だよ、もう私は誰にも負けないから。

あと犬呼ばわりしない。

彼も遠慮したんだけど私が望みを叶えたくて無理を言ったんだ。

それで話を続けるけど、その時少し“聖国”の話をしてね。

シルヴァに思いもよらない事を言われたと言うか、少し昔の事がバレたと言うか……それでつい動揺したんだ」


『ちょっと、もうさ……俺と前連絡とったの一週間前じゃん。

たった七日間でどんだけ濃いこと起こってんの。

てか、そういうことあったならすぐ俺に連絡しなきゃダメでしょ』


いや、だって後で話せること分かってたし、いいかと思ったんだよね。

違うでしょ!って怒られそうだから言わないけど。


「ごめん。色々いっぱいいっぱいで。

で、更にこう……彼のことまで言われちゃってさ。

こっちに来てから一回ジョーカーと戦ったんだけど、その時私が漏らしてたみたいで。

それでもう一気に崩れて、ちょっと殺しちゃうかと思った」


隠せていたのかいなかったのか今でもよくわからないけど、あの時は結構動揺したし揺さぶられた。

理性が働いていない証拠だとかもあの時は言ったけど、あそこで何も手出ししなかったことは私の理性の賜物だと思う。


『でもその口ぶりだと平気だった……んだよね?』


「うん。もう彼のことは二度と口にするな、と言ったんだ。

そうしたら……君みたいなことを言うから」


『俺?どういうこと?』


「私の過去は今には関係ないけど、その時の感情とかを知りたい、みたいな。

君も昔言ってくれたろう?」


『あぁ……月さんの哀しみとか憎しみを完璧に共感することは出来ないと思う。

でも教えて欲しいんだ。俺は貴女の過去じゃなくて、心を知りたいから。ってやつ?』


「…………」


『あれ?違ったっけ?』


黙った私にセイが不思議そうに問いかける。

いや、合ってる。合ってるけど。


「…よく覚えてるね、そんな恥ずかしい台詞」


『恥ずかしいって酷。

月に言ったことは大体覚えてるよ。

大事なことじゃん』


「………」


『お、照れてる』


「照れてない!」


ああくそ、暑いなもう。


「で!なんと言うか、それに呆気にとられたって言うか、セイに重なって、なんか、気持ちが落ち着いて。

でも、そんな自分がなんか、変、だし……」


『………』


「ちょっと、セイ、聞いてる?」


『ん、あぁ…ごめん、聞いてる。続けて?』


………?何だか変だな。


「ええっと……だから、まあ、シルヴァが変なこと言ったってことだよ。

この世界の人間の癖に……私の感情を知りたいとか、変だ」


そう、言いたいのはここだ。

だってそうだろう?

ここの人間が私に示すのは同情か嫌悪か恐怖か、それだけなんだから。

なのにうっすらとそのどれか――あの場面では恐怖を示しながらもそんなことを言うなんて、おかしい。


『…………そっか、シルヴァ君が、ね。

月はそういうシルヴァ君のこと嫌?』


「別に、普通だよ。

ここの人間は皆嫌いなんだから」


『ふーん…まぁ、今はそれでいい、のかな…』


歯切れの悪いセイの言葉に不安が渦巻く。

彼は一体何を考えているのだろう。

もしかしてまだ、私にこの世界で大切な人を作らせようとしている?


「セイ。私の“大切”は、君だけだよ…?」


『………うん。でも俺が死んでからが心配なんだよ。

月は案外寂しがり屋だし、無理をしがちだし。

ね、俺が死んでから、貴女は誰に弱音を吐くの?』


「そんなの……まだまだ、先の事じゃないか。

君の体は十八歳で、この世界の平均的な寿命は八十。

それに君は言った。私を死ぬまで一人にしないって。

私は………君の天寿が尽きるまで君を離すつもりなんてない。

死んでからだって、私は私の中の君を手放さない」


『わぉ、熱烈な告白だね』


茶化すなんて酷い。

私は本気だし、それは伝わっている筈なのに。

そんな先の話をしないで。

そんなんだから、心配性でネガティブって言われるんだ。


「………」


『ごめん、怒らないで。

…あぁ、違うか。泣きそうな顔しないでよ』


見えてないくせに、この男は勝手な事を言う。


『ごめんって。今の月に言う事じゃなかった。

もうこの話は止めるから、ね?』


「……もう、切る」


『わーっ!!だめだめだめ!まだ駄目だって!

そんな状態で他のヤツに会うの駄目!』


「知るか」


『待ってって!月!!』


「……なんだよ」


別に、魔力を切ることを躊躇ったわけじゃない。

ただあまりにも彼が必死だから、少しくらい話を聞いてやってもいいかなと思っただけだ。

私の魔力を介して届く声は踏みとどまった私に安心したように幾分和らいで、でも変わらずに強い思いを含んで伝わってくる。


『ごめん。置いてく月に、酷い事言った』


「……」


『何か言ってよ。今俺、月の顔見えないから分かんない』


「……」


『月……?』


どんどん不安そうになる声に、流石に申し訳なくなる。

応えなければいけない。

―――でも、今話そうとすると泣いてしまいそうで。

歯を食いしばっていないと、駄目なんだ。


『月……ね、今から城においで』


突然の誘いに目を見開く。

次いで力いっぱい首を横に振った。

――ああ、駄目だ。セイにはこれじゃ伝わらない。

口に出さなければ、届かないのだ。


「……い、かない」


『――やっと話してくれた。

でもそれがお断りの言葉なんて、傷つくなぁ』


ようやく絞り出した声に苦笑が返ってくる。

だって、行くわけにはいかない。

ここでセイに甘える訳にはいかない。


『まだ別れて一月も経ってないから?

シルヴァ君を一人闇ギルドに置いては行けない?

俺に甘えすぎとか思ってる?』


「全部だよ……分かってるなら、聞かないで…」


『うん、ごめん。月はあんまり甘えたくないんだろうけど、反対に俺は月を甘やかしたいんだよ。

本当は月を城に住まわせてさ、この世界の他の人間誰の目にも触れさせないで、俺なしじゃ駄目なくらいにしちゃいたい』


「私を置いていく君が、そんなことを言うの……?」


その優しさは酷く残酷な事だって、君は知っているくせに。

でも同じくらいきっと、私の言葉も君を傷つけただろう。


「……ごめん。最低なことを言った」


『いいよ。でもじゃあお相子だね。

さっき言ったのだって絶対しない。

って言うより、出来ない、が正しいかな。

俺がそんなことをしたら、俺を喪った月はもうどうしようもないくらい壊れちゃうから。

―――でも今すぐ城においでって言ったのは本気だよ?

俺が傷つけたんだから、責任はとらないとね』


優しいなぁ。でも酷い。

私の意思をこれでもかとグラつかせる君は、まるで悪魔みたいだ。


「いいんだ、君からの傷ならこのままで」


『でも』


「君の話を聞けた。聞いてもらった。

そして傷ももらって、その癒しまでもらうなんて欲張りすぎる。

あと一月と少し我慢して、その時たくさん甘やかしてくれればいいんだ。

君からもらうものが悲しいものでも幸せなものでも、私はとても……」


『……月?』


突然黙り込んだ私にセイが心配そうにする。

だから、心配性がすぎるよ。


「ごめん。邪魔が入ったみたいだ。

また今度、次は城を訪ねる前に連絡するから」


『ちょ、そんなの駄目に決まって――』


「ごめんね」


ふつりと繋がっていた魔力が切れた感覚。

……怒っているかな。

…………怒っているよね、絶対。

はぁ、とため息を吐いて亜空間から紙を取り出す。

そこに直接魔力で文字を焼き付けながら、扉の向こうで息を殺す存在に呼びかけた。


「――エース。早く入ったらいいんじゃないかい?」


「………わりぃ。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、さ」


「分かり切った誤魔化しはいい。

それで?君は何が気になってこんな真似をしたんだい?」


盗み聞きをするつもりがないなら気配を消して扉の前に立つ必要はないはずだ。

そして百歩譲って何か悪戯をしようとしての行為だとして、普段の彼なら立ち去ったであろう状況でその場に居つづけた。

それだけでもう答えは出ている。

紙から目を離さずに冷ややかな声音で告げれば、彼は一瞬ギクリと体をこわばらせた。


「……まあ、姫さんには通用しないって分かってけど。

こうも分かり切った体で来られると自信無くすな。

そうだよ、盗み聞きしてた。

姫さんが他の誰よりも大切に思ってるっていうあの第二王子との会話ってやつに、興味があったんだよ」


「シルヴァとジャックは対戦中か…

で?私とセイの話を聞いた感想は?

まあ私の声しか聞こえないし、聞いていたのも最後の方だけだろうけど…どこから聞いていたんだい?」


聞かれるとまずいことを語った覚えはないが、場合によっては。

いや、殺すまではしなくていいはずだ。

――やるとして記憶操作、かな。


「アイツからの傷なら、ってとこから」


「……そう。それで?

気になっていたことはもういいのかな?

それともまだ何か気になる?」


書き終えた紙を手に持って、魔術でセイのもとへ送り込みながらエースを見つめる。

彼は私からの目線にガシガシと藍色の髪を掻き、顔をしかめた。


「怒ってる…よな?」


「おや、怒っていないとでも思っていたのかい?

だとしたら少し頭が足りなすぎる」


「……悪かった。興味もあるけど、悔しかったんだ」


悔しい?

いまいちエースの言いたいことが掴めずに眉をひそめる。

そしてそれは承知のことだったらしく、彼は困った様子も見せずに言葉を重ねた。


「あの第二王子、姫さんの特別なんだろ?

悔しいじゃねぇか。

しかも俺より強いみてぇだし、地位だってあるし、頭もいいし、まあ顔もいいし……

俺が勝ててるとこが見当たらねぇ。

だから少し悔しくてさ、話の邪魔した。

ごめんな、姫さん」


そういってガバリと頭を下げるエース。

彼のこういう真っ直ぐなところは好ましい。

まあ真っ直ぐだから、その心に逆らわず今回も盗み聞きしたんだろうけどね。


「………まあ、いいよ。

でも次したら許さないからね?」


「姫さん!」


パァ、と彼の顔が輝く。

本当に四十歳か、この男。


「ありがとな、姫さん!もうしねぇよ!」


「はいはい」


「なあ、今度一緒に仕事行こうぜ?

本当はそれ話しにこっち来たんだよな、俺」


「仕事に?なんでまた急にそんなことを言い出すんだい?」


このギルドは大概単独で動く。

皆ちょっとイッちゃってるし、他人との協調性というものが皆無だし、言ってしまえば同じギルドのメンバーだとしても地位を奪い合うライバルなので一緒に仕事をして自らの手の内を明かすような事は避けるのだ。


「んー?だってジャックの時第二王子と一緒に戦ってたろ?

ズルいじゃねぇか、あっちだけなんて。

俺も魔術使えねぇし、姫さんのサポート欲しいなーって思って」


「……なんでそんなにセイに対抗意識持ってるのさ」


「姫さんがいけないんだぜ?

アイツにばっか肩入れすっから。

公然と唯一無二の存在とか言うしよ」


「嘘をつく意味はないだろう?

正直に言った方がそれだけ有力者への牽制になるし」


「そういうのが気に食わねぇっつーか、悔しいっつーか」


うーん、まあよくわからないけどわかった。

取り敢えずセイにしたように共闘すればいいわけだ。

闇ギルドっぽい対応じゃなくて、ただの親しい相手にするような対応をすればこの不満が軽減されるんだろう。

エースの話を聞く限り。


「わかったわかった。

でもさ、私は今回シルヴァを連れてきているから少し難しいんだよ。

仕事もギルド内でできるものを取るつもりだったし。

君が話す感じからして、外で剣を振り回す感じの仕事がしたいんだろう?」


「そうそう。昨日予約いれたばっかの、対象は“教国”で贈賄とかやってる神官と領主のペアな。

明日屋敷で密会するらしくて、その時屋敷にいるやつら皆殺しする予定」


「相変わらず好きだねぇ、そういう派手で暴れまわる系」


彼は昔からそうだった。

私と出会う前こちらの世界でいう刑務所的な所に入れられていたのだけど、それも自分を襲ってきた野盗を皆バラバラにしちゃって、その一帯を血の海にしたかららしいし。

捕まったのは正当防衛には行きすぎてる、という理由だとか。


「でもシルヴァが心配だからなぁ…」


「平気だろ、あいつだって男なんだし」


「性別は関係ないと思うよ?」


「今はクイーン達もいねぇし、ジョーカーとジャックに任せとけばいいじゃねぇか」


うーん………悩み所だなぁ。あ、そうだ。


「わかった、本人に聞いてみるよ」


「え」


「そうと決まればほら、訓練室に行こうか」


「………弟子、嫌がりそうだよなぁ」


なんだ、自覚はあったのか。

若干諦めムードすら漂うエースを放置して訓練室への扉をくぐる。

にしても………セイの機嫌、あれでどうにかなったかなぁ。




オマケ:その後のセイルート


「誰だ、邪魔したやつ…」


苛々する。

月は用事があるからと言って部屋に一人でいたんだから、このタイミングで他人が来るなんてわざとに決まってる。

シルヴァ君じゃないだろう。

月のあの感じからたぶん盗み聞き。

シルヴァ君はそういうことしないし、したとして途中で逃げる。

聞くのが辛くなるもん、俺への愛の言葉なんてさ。

となると、犯人は闇ギルドの人間。

ジャックは除外だ。

彼は前回のことから月の恐ろしさを知っていて、ようやく許されたところにもう一度その怒りを買うような真似はしない。

クイーンは月至上主義って前聞いたからそんなことしないだろうし、マッドサイエンティストなキングは興味を持たないはず。

となると、ジョーカーかエースか…

でもジャックを引き取りに来たジョーカーを見た感じ、そういうことをするようには見えなかった。

……エースか。

確か月が言うには竜族のハーフで、今四十歳だっけ?

竜族は魔術が使えないけど炎を吐くことができる種族だ。

でもハーフのエースはその力も無いから、他の特徴である単純な馬鹿力と俊敏さが売りらしい。

……俺とちょっとかぶってんじゃん。

てか要は俺の劣化版でしょ。


「劣化版の癖に、生意気」


あぁもう、これで劣化版に月の泣きそうな顔見られてたら俺の自業自得だぞ。

劣化版のせいでもあるけど。

てかほぼそれのせいだけど。

月は表情隠すの上手いけどさー。

闇ギルドのやつらとは付き合い長いっぽいし、もしかしたら笑ってるフリもバレるかもしれない。

苛立ちと不安で部屋の中をウロウロしていた俺の視界の端に光が入る。

月の魔術だ。


「……手紙じゃん」


お詫びの品?

広げて見れば、綺麗な日本語で謝罪の言葉が綴られている。

日本語、懐かしい。

月からの贈り物だとかには必ず一言添えられていて、それは絶対に日本語だ。

俺達にしか書けないし読めないし、他の人間には理解できない暗号がわりにもなっている。


“突然切ってごめん。エースが立ち聞きしていて。

この埋め合わせは次に会ったときにするから、怒らないでくれると嬉しいんだけど…

シルヴァのことは、ひとまず気にしないでやっていこうと思う。

君もジークの問題、片付くといいね。

私が城を訪ねるまでに解決していることを祈っているよ。

それじゃあまた、一月後に”


エースね……

俺の予想は合ってたってことか。

合っていても嬉しくもなんともないし、むしろ苛つくけど。

舌打ちをしながら、それでもどうにか心を落ち着かせる。

劣化版のことはもういい。

後で報復しようと思えば出来るんだし。

それより月だ。

……たぶん、ある程度落ち着いたんだろう。

手紙から何となくわかる。

長い付き合いだしね!なんと言っても!

それに……


「埋め合わせは次に会ったとき、か」


ニヤリ、と口許がゆるむ。

さて、何をしてもらおうか。

取り敢えずエースに念話でもしてもらって、それを横から思いっきり邪魔でもしようか。

それとも月にあーんなことやこーんなこと、頼むとか?


「……うんまあ、許してあげないこともないよ」


手紙をそっと指で撫でてから、破れたり無くしたりしないようにしっかりと仕舞い込む。

手紙は全部、月から貰った亜空間に繋がる袋に入れてあるのだ。


取り敢えず埋め合わせてもらう事項としては、シルヴァ君とのことを黙っていたこと、“聖国”に行くかもしれないことを黙っていたこと、今日城に来てくれなかったこと、最後まで話をしてくれなかったこと。

理不尽なんかじゃないよ?普通のことだよね?

――ああ、そう言えば“聖国”のことも考えないといけないな。

確かにあれからかなりの年月が経ったけど、何が起こるか分からない。

可能性がゼロじゃないなら油断なんてすべきじゃないし。

ジークと侯爵に、表と裏から探らせるか。


「とにもかくにも、月が来たら目一杯埋め合わせてもらって、そんで月のこと甘やかして可愛がってあげないと、ね?」


夜空に輝く(かのじょ)に微笑む。

さて、まだジークと侯爵(あのふたり)は寝てないだろうな?




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