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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
銀色の当惑
21/178

3-5

Side:Luna




今日はジョーカーとジャック以外、全ての幹部が出払っている。

だからシルヴァの修行も私が見なければならなかった(放置は可哀想だし)。

そんな彼に出した課題が結界を素早く破壊すること。

私とジャックのいる位置を中心に、この訓練室内には十の結界が張られていた。

シルヴァは結界の外からそれらを破壊して私達のところまで進み(ちなみに中央に近いほど結界は強固になっていく)、その間に私はジャックに空間魔術を教えるという算段だったのだが、無駄話をしすぎたのとシルヴァが思いの外早く攻略したことで予定が狂ってしまった。

あと何個か教えるつもりだったんだけど。


「……さっきのは、一体何を」


「さっきの?あぁ、匂いを嗅いでたんだ。

ジャックは精霊族だから香りにうるさくてね」


「僕はいい匂いって誉めたじゃん」


「まぁ気に入ってもらえたことは嬉しいよ」


あ、そう言えばシルヴァはケモノ臭がするんだっけ。

立ち上がって未だ険しい表情をしたままの彼に近づき、ちょいちょい、と手で少し姿勢を低くするように指示する。

頭の上にいくつもクエスチョンマークを浮かべながらも従ってくれるのはやっぱり素直としか言いようがない。

ジャックがしたように肩に手をおき耳元――あ、彼の耳は本来頭の上の方にあるんだった。

ともかく人間で言う耳元に鼻を近づける。


「……うーん、ケモノ臭と言うか、原っぱみたいな匂いがする」


「そうかな?僕としてはケモノ臭なんだけど」


「感じ方は人それぞれだからねぇ。

うん、やっぱり原っぱ。

つい昼寝をしたくなる感じだね。

ありがとうシルヴァ」


くん、ともう一度だけ嗅いで離れれば、シルヴァは真っ赤になって固まっていた。

そう言えばこっちも照れ屋だった。

その間に腕から逃れて自由の身になったジャックはその様を見てニヤニヤ笑っている。

彼も人のこと笑えないと思うけど。


「ねぇルナ、僕は?ルナにとってどんな匂い?

あ、甘いのは分かってるからもうちょっと細かい感想ね」


「君は……そうだねぇ」


じゃれついてくるジャックをおさえ、もう一度香りを確かめる。

ともかく甘い、という感じなんだけど…


「チョコレートボンボンみたいな感じかな」


「チョコレートボンボン?なにそれ?」


………あれ?

こっちには無いんだっけ?


「こう……一口サイズのチョコの中にお酒が入っているんだ。

君は甘ったるいだけじゃなくて、少し大人の香りがするからそんな感じ」


「そのわりに子供扱いしてくるよね」


「可愛いんだから仕方がないじゃないか。

それにすぐに成長してしまうからこの可愛さは今だけのものなんだよ?

なら存分に愛でておかないとね。

シルヴァだって成長して今はこんなだし」


あの頃は可愛かったんだけどな。

今じゃすっかり成人男性の体になっちゃって、かわいさ成分が足りない。

……って、あ、シルヴァを落ち込ませてしまった。


「いや、別に今の君が不満な訳じゃないよ?

ただそう、私も一応女だから可愛いものには目がない、ということが言いたかったんだ」


「……本当?」


「嘘はつかないよ。

それに何だかんだ今も君は私のかわいい弟子だしね」


「ふーん。あ、じゃあさ、第二王子は?」


また不思議な質問をするなぁ。

それにしてもこれは香りの話なのか可愛さの話なのか。

問えば両方、という答えが返ってきた。


「セイはやっぱり、しあわせの香りかな。

あたたかくて安心する匂い。

それに全然可愛らしさなんて無いと思う。

どちらかと言えばイケメ……カッコいい、だろうと思うよ」


「………だってさ、弟子」


「………」


ジャックに対してシルヴァは無言だ。

何だか少しぶすくれている気がしなくもないけれど――何が気に入らなかったのだろう。

皆誉めたんだけどな。


「でもさ、僕が可愛いっていうのはもう諦めたけど、ルナも可愛いよね」


「!?」


「え?そう?」


「うん。僕はそう思うよ。なんか行動とか、例えとか、かわいい」


少し下から覗き込むように言われた。

ほ、誉められている……


「……何だか照れるね。

可愛いなんてセイ以外に初めて言われたな」


ちょっと目を合わせにくい。

年下から可愛いって言われるってなんかさぁ。

セイは精神年齢同じ感覚だからそんなことないんだけど…

ともかく目を合わせずに済むようにジャックの髪を撫でることで下を向かせる。


「やった、僕二人目じゃん!……なんかいいね。

ルナって僕好みのいい匂いだし、可愛いし、僕より強いのに偉そうじゃないし……」


「私も君の香りはとても好きだよ」


「じゃあ結婚しない?」


きた、精霊族特有の軽さ。

彼らは香りにうるさい分、一度気に入った香りはなんとしても傍に置きたがるからこんな風に言ってくることが多い。

私は四分の一精霊族だということを隠しているからこうして直接言われたのは初めてだけど、精霊族の集落で何回か見たことがある。


「駄目。却下。あり得ない。寝言は寝て言え」


「うわー弟子酷い。僕より弱いくせに。

それにルナに今まで可愛いって言ったことないくせに」


最後のは関係あるのだろうか。

だが実際シルヴァは最後の言葉に一番反応した。

うーん、この短期間でシルヴァを黙らせるとは。

流石は幻惑系の夜の精霊族。って、関係ないか。


「まあまあシルヴァ、そんなにムスッとするものじゃないよ。

で、結婚の話だけど……そんなものはやめて友人になろうよ」


「え!いいの!?うわー、そっちのが嬉しい」


そして安定の精霊族的思考。喜び方が微笑ましいなぁ。

ただ精霊族をよく知らないシルヴァは心底不思議なものを見るような目でジャックを見ているけれど。


「ふふっ、シルヴァは知らないかな。

精霊族にとってはね、伴侶というものはそんなに重要視されないんだ」


「まあそこまで軽く見てる訳じゃないけど、やっぱり友人の方が重いよね。

だって愛情はいつか薄れるし、離婚しちゃえば他人でしょ?

その点友人はいつまでも友人で、友情は永遠だもん」


精霊族特有の考え方だけど、まるきり理解できないというわけでもないから苦笑するしかない。

反対にシルヴァは全く理解できないとでも言うように眉を寄せた。


「……相手を自分だけのものにしたいから、恋人になったり結婚したりするんじゃないのか?友人だと、それができない」


「まあ普通はそうみたいだよね。でも僕らは違うの。

ね、ルナは?どう思う?」


うーん、そう言われても難しい問題だ。

私としてはどちらの言い分も理解できるし。

ただまあ、共感できるかと言われればまた違うのだけど。


「私は友人も恋人も伴侶も変わらないと思うな。

どちらも独占したいとは思わないからね」


「………どうして?」


「そんなに大切だとは思えないと思うから」


「……大切だと思うから、友人や恋人になるんじゃ?」


まあそうだけど、きっとシルヴァと私の言う“大切”はその度合いに天と地ほどの差があると思う。

だからこんな風に互いの言っていることを理解できない(私は一応できるけど)のだろう。


「友人や恋人は大切と言うより気に入っているだとか、そういう感情だからね」


「あ、草理論だ」


横でジャックがくすくすと笑う。

なんだ、草理論って。


「第二王子暗殺の時さ、僕帰ってからジョーカー達に説教されて。

ついでにその時皆が言ってたんだ」


耳打ちする動作をされたので、耳をよせる。

シルヴァには聞かせる気はないということなのだろう。


「ルナにとって僕達ってその辺の雑草なんでしょ?

いつでも殺せるし、大して大事でもないどうでもいい存在」


思わず顔を離してジャックを凝視してしまう。

あれ、闇ギルドの面子にそんなこと話したっけ。

セイしか知らないはずなんだけど、私ってもしかして分かりやすいのかな?

と言うか草理論って。ネーミングに物申したい。

にやにや笑いながら抱きついてくるジャックを半眼で見つめるけど、あんまりダメージはなさそうだ。


「でもいいよ、そこの弟子と違って僕達分かってるけどルナの事好きだし。

頑張って花になるね!そのためにもまず友達になろ」


「………君達は末恐ろしいねぇ。

まあ分かっていてそういう事を言うなら私に否はないけれど」


好きにしてくれ、という投げやりな気持ちだが。


「やった!じゃあ友人だし香り嗅がせてー」


「君はとても精霊族らしい精霊族だね……」


「ね、弟子はわかんないでしょ?

ふっふっふー、これだから正規ギルドの奴は駄目だよねー」


ジャックの好きなようにさせながら(身長差は10センチ程度なのでたぶん匂いも嗅げるだろう)、ちらりとシルヴァを見つめる。

彼にあからさまに馬鹿にされたシルヴァは再び険しい表情をしていた。

全く、仲良く出来ないのかなぁ。

同年代だし初期メンバーじゃないからシルヴァ相手に嫉妬したり研究しようとしたり邪魔だなと思ったりしないだろうという予想のもと、一緒の場所で互いの修行をしていたのにどうしてこうなった。


「………ほら、修行を続けるよ。

シルヴァは、そうだね……この子と戦っていて貰おうか」


亜空間から薄い真っ白な紙を取り出して、指を噛んで滲んだ血をそれにつける。

手を離し宙に紙を浮かべれば、ぽん、という気の抜けた音と共に白い煙が発生した。


「わっ、何これ可愛い」


「ふふ、私の写し身だよ」


「……これの相手は、あまり好きじゃない…」


シルヴァからだけ不評だ。

“彼女”は苦笑して彼を見上げている。


『酷いなシルヴァ、私の事が嫌いかい?』


「……せめて、違う姿なら楽なのに」


『それ、自分の師匠の外見に不満があるということ?』


「そういうことじゃない!

不満がないどころかむしろ……、何でもない」


顔を背けた彼の足元に、幼女タイプの私がじゃれつく。

“彼女”は術者である私の姿をとるからね。


この魔術は日本の陰陽師が使う式神を模倣して私が作ったオリジナルの術だ。

紙に私の血をつけることで情報を転写、それをもとに構築が行われ、紙は私の姿をとる。

幼く(小学生くらい)したのはまあ、同じ顔があるって気持ち悪いなと思ったから。

他の姿をとらせるのは難しいんだよね。

血があれば別なんだけど、他人に血をくれとか流石に言えない。


「ちびルナだね!これは確かに攻撃しにくいなぁ」


「ちなみに熟女タイプもあるよ」


「見たい!」


「いい!絶対にいらない!!」


まあ確かにまだシルヴァには二人一気にというのは難しいだろうな。


「じゃあ次の機会にね。

それじゃあシルヴァの相手を頼むよ」


『うん、君がジャックに空間魔法をいくつか教えるだけの時間働けばいいんだろう?問題ないよ』


「うわー、喋り方も一緒。

ちびルナにはちょっと似合わないね」


とは言われてもねぇ。

私の情報を写しているだけだから、同じことしかできないのだ。


「私が女子っぽい話し方を今更したって気持ち悪いだけだろう」


「そんなことないよ。

弟子もそう思うよね?」


「確かに見たことがない。

依頼主には敬語だから少し違うし」


「と言うわけで、はいルナ、どうぞ!」


どうぞって。

ちらりと横目で式神を見る。

うわ、あっちも同じ様な顔でこっち見てるし。


「……ほら、言われているよ」


『求められているのは君の方だろう』


「外見的に無理がなくかつしっくりくるのは君だ」


『私は所詮君の模造品だ。

君がやらないと意味がないよ』


くそ、ああ言えばこう言う。

情報を転写しているだけあって考えることは一緒だな。


「もう二人でやりなよ。

僕は本物のルナの方楽しむから、弟子は偽物ね」


「……ここは公平に決めるべきだと思う。

それに外見的に言えばそっちが小さいルナにした方が合っているんじゃないか?」


「はぁ?何言ってるの?

ほら、弟子がそんな風に言うからちびルナ悲しそうじゃん」


『え?』


うわ、無茶ぶり。よかった、こっちじゃなくて。

心底安心しながら式神を見守る。

まあすることは予想がつくけど…


『えーっと……シルヴァ、私じゃ、い、嫌?』


「!?」


『そう、よね……私は所詮、紛い物だもの。

き……貴方だって本物の方がいいに決まってるわ』


「い、いや、そういう訳じゃ…」


「あーあ、弟子ってばひどーい」


なんだこの茶番。

式神も冷めた目で二人を見ている。

若干こちらを恨みがましげに見ている気がしなくもないが、いいじゃないか、そっちは無事に無茶ぶりを終えたんだから。

私なんてこのまま話が流れればいいけど、絶対そうもいかないし。

それに悲しめ、という指示があった式神の方とは違ってこっちは……


「はい、じゃあ次本物の番ね」


……ほら、こんな大まかなフリしか来ないんだよ?

でもまあ、そっちがそうくるなら私にも考えがある。


「……ジャック、可愛い」


「え?」


「すっごく可愛いなって、初めて会った時から思ってたの。

ね、抱きしめてもいい?いいでしょう?」


「!?」


恥を捨てるのは一時のことだ。

これは恥ずかしくなんかない。馬鹿っぽくなんかない。

よし、頑張れ自分。


「えへへっ、甘くていいにおい。食べちゃいたいくらいね」


ぎゅ、と力を入れて抱き締める。

すりよれば分かりやすく硬直する体。

どうだ、恥ずかしいだろう。照れるだろう。


「………これで、満足かい?」


ただ私にくる心的ダメージも半端なものではないけどね。

体を離し冷ややかに見つめれば、解放されたジャックはこくこくと首を縦にふる。


「……すごかった。

なんか、ほんと、ありがとう。

これクイーンに後で自慢するね」


「……それ、全力でやめて欲しいんだけど」


絶対に自分にもやって欲しいとせがまれるし、下手をしたら乱闘だ。

勿論クイーンの嫉妬から標的はジャックである。


「……ルナ」


「シルヴァ?どうしたんだい?」


「俺にもやって欲しい」


「……またの機会にね」


やれやれと肩の荷をおろした気でいたけれど、まだ早かったらしい。

私はひきつった笑顔をどうにか顔に浮かべた。















そして一時間後。



「もしもし、セイ?」


『もっしもーし。ひさしぶりー。

って言っても三日しかたってないけどね。

なに、暇してるの?確か闇ギルド行くって言ってなかったっけ?』


「うん、暇なんだ」


訓練室の端、結界を周囲に張った小さな空間で三角座りをしながら(決して根暗なわけではない)私はセイに念話をかけている。

結界の外では空間魔法をいくつかマスターしたジャックと、式神との模擬戦を終えたシルヴァが対戦中だ。

ちなみにジャックにはナイトメア使用禁止令を出しているのでいつかのように面倒なことになる心配はない。

他にもお互い自分で解除することのできない魔術は使わないという条件で、いつかシルヴァとセイがやったような体の周りに(ボール)を浮かべ全てを破壊された方が負けという勝負方式をとっている。


『俺は暇潰し相手かー。傷つくなぁ』


「こんな風に甘えられる相手は君だけなんだから仕方がないだろう?」


『………』


黙ってしまった。

ふふっ、照れているんだろうなぁ。

セイを照れさせることができるのはなんだかとても嬉しい。

勿論言っていることは全て本音なんだけど、そのせいか余計に照れさせたくなってしまうのだ。

心の中に淀んだ色々なものが一瞬無くなるような感じがして、軽くなるから


「さっきまでジャックに空間魔法を教えていてね。

初対面はお互い印象最悪だったけれど、どうやらなついてもらえたみたいだ。

今は君としたように、シルヴァが交戦中だよ」


『へぇ、懐かしい。シルヴァ君強くなった?』


「いや、全然」


ちょうど私の言葉を裏付けるようにシルヴァの玉が破壊される。

どうやら現在ジャックのたくさんの幻影を見させられているらしく(要は影分身的なあれだ)、どれが本物か分からず混乱している間にやられたらしい。

シルヴァはああいう幻惑系の術師と殆ど戦ったことがないから、なかなかやりにくいみたいだ。


『うわー酷いなー。シルヴァ君泣いちゃうよ?』


「だって事実だしね。

それにあれからそんなに日もたっていないんだ。

むしろこの短期間で強くなっている方が驚きだね」


『あー、それもそうか。

なんか月達が“王国”に来てた期間がすっごい濃かったからさ、まだいなくなって三日なのに滅茶苦茶日がたった気分』


それは私も同じかもしれない。

うーん、本当に五年のブランクって大きいな。

絶対にもうあんなことはしないようにしよう。


「ふふっ、もう寂しくなった?」


『それは月もでしょ』


「……そうだね」


膝を抱えたまま、壁によりかかる。

シルヴァ達から目を離さずに、意識は遠い“王国”にいる彼に飛ばしながら。


『素直だね。おかげでちょっとしんみりしちゃったじゃん。何か楽しい話して』


「無茶ぶりだなぁ…

あ、そうそう。シルヴァがキングに剥かれそうになったよ」


ブホッ、と念話だというのに盛大に噴く音が聞こえた。

脳内のことのはずなんだけど。


『ちょ、どういうこと』


「キングは生粋の獣人マニアかつ研究者でね。

貴重な銀狼の生き残りを前に興奮を抑えきれなかったらしい。

十歳で手に入れた成人の体とか、服を破ることなく出し入れできる耳と尻尾とかがとても気になるから全裸になったところを舐めるように視姦して録画したがったんだ」


『………ねぇ、大丈夫なの?

俺今シルヴァ君の事これ以上ないほど心配してるんだけど』


あれ、なんだか案外深刻なリアクションが返ってきた。

私としては楽しい話として話したんだけど。


「面白くなかったかな?」


『……いや、何て言うか。

同じ男としてそこはやっぱ心配になっちゃうよね。

知り合いが新たな扉開いちゃうかもしれないんだし』


「いや、そんなガチじゃないから。

たぶんキングは知的好奇心的なアレであって、そういうの狙ってる訳じゃないはずだから」


確証はないけど。いや、キングがそんなことしたらクイーンが悲しむ。


『や、わかんないじゃん。

キングが“教国”出身だったら同性の恋愛に抵抗ないんだよ?』


ああ、そう言えば“教国”は同性婚を認めているんだっけ。

崇めるこの世界の神がどうもそういう感じだかららしいけど。


「あー………」


『出身なの!?それ既にフラグ立ってるよ!』


「君が騒ぐせいでそのフラグがより強固になってるんじゃないか」


『そ、そっか……』


あ、これ本当に心配してる。

そしてそんな現在今までになくセイから気遣われ(?)ているシルヴァは自分の玉を二つ割られた状態で、ようやくジャックのそれを一つ破壊したところだ。


「あとシルヴァと言えば、もしかしたら急激なパワーアップがあるかもしれない」


『あぁ、ジャックに操られてた時の関連?』


「そう。銀狼には特別な儀式があるらしくて、それを受けると本来の力を出せるんだって。

一月程闇ギルドに滞在したら儀式のために銀狼の元集落を探す旅に出る予定なんだ」


『………ちゃんと城寄るよね?』


「……ぷっ、あははは!」


何かと思えば、そんなことか。

でも逆の立場だったらきっと私も心配になるんだろうな。


――あ、ジャックが空間魔法を使った。

今日使えるようになった魔術を実戦に持ち込むなんて、こういう面では器用な子だな。

まあ決め手にはなっていないみたいだけど。


「勿論。シルヴァの記憶を頼りに色々まわっていくつもりだけど、ギルドを出てまた一月程したら君のところに寄らせて。一晩泊めてくれる?」


『一晩と言わず何泊でも歓迎するよ。月が来てくれるならね』


「ありがとう。そう言えば君はさ、友人と恋人と伴侶、どう思う?」


『へ?』


あ、急すぎたかな。


「ジャックは精霊族なんだけど、彼に香りを気に入られてね」


『香り……?まさか月、見せたの?』


軽かった声が一気に真剣味を帯びる。

心から心配されて、思われている事が伝わってくるから少しこそばゆい。

セイは案外心配性だ。


「精霊の耳だけ。他は見せていないよ。

あんなものを見せられるのは、君しかいないから」


『別に俺は見ても何とも思わないけど。

……ごめん、嘘。すごいここの人間殺したいと思った』


思わず苦笑が漏れる。


「うん、ありがとう。

それで香りを気に入られたから、結婚を申し込まれたんだ」


『ハァ!?断ったんだよね!?』


うわ、耳がキーンてなった。

意味はないけど手で両耳をおさえる。

本当に、音量調節が出来るようにしたい。


「うん、断ったよ。代わりに友人になろうと言ってね」


『あぁ、精霊族って伴侶より友人だーってやつらだっけ?』


どうやらその辺りのことは分かっているらしい。

まあ王族だし学ばないといけない事だよね。

王様が他国の人間と問題起こしたら洒落にならないし。


「で、それにシルヴァは反対派と言うか、理解も共感も出来ないみたいでね。

彼の持論としては伴侶の方が大切で、友人は独占しなくてもいい大切な人、伴侶や恋人は独占したい大切な人らしい」


『それはまた、シルヴァ君らしいって言うか予想通りすぎて今更何の感情もないと言うか。まあたぶんそれが一般論だよね』


「その流れでセイはどうかなーって、気になったんだ」


うーん、と向こうで考える声がする。

セイはどんな風に答えるのかな。

私の勝手な思いだけど、あんまりシルヴァの意見寄りな答えを出されたくはない。

私はセイと対外的に友人にはなれても恋人や夫婦にはなれないんだから。

友人よりも恋人や伴侶が大切で独占したいのなら、セイにとって私はいずれ迎える妻より大切じゃない存在だということになるだろう?


『俺としてはどれも変わんないな。

だって一番愛してるのは月でも、月を恋人には出来ない。

かと言って友達とかそういうのじゃないし、結果的に大切さレベルはどれも一定になるよね。

何て言うの、月はもうそういうの超越した感じ。

そういう括りに入れることすらしたくないって言うかさぁ』


「………よかった」


って、あ、ヤバ。


『あはは、何、安心したの?何で?』


心の声が漏れてしまった。


「……君が同じことを考えていてくれてよかったな、と思って。

ジャックに言われたんだ。私は草理論の持ち主なんだって」


『草理論?』


「この世界の人間をその辺の草にしか思っていないってこと」


『あぁ、それで草ね……

こんな風に離れてすぐに連絡してくるなんて珍しいと思ったらそういうことか。

図星さされて動揺してるんだ?』


「………うるさい」


けらけらと笑う声が脳内に響く。

だってまさか、そんな事を言われるなんて思わなかったのだ。


「……それに、そんな私でも好きだって言われたんだ。

あまりにも急すぎて、その時自分がどう思ったかもよく分からなかった」


果たして浮かんだのは殺意か喜びか虚無か。

それすら分からない私は、だから安心したかった。

セイは私と一緒で、同じ様な考えを持ち互いを同じ様に大切だと捉えてくれていることを再確認することで。

この世界の人間と、自分は違うのだと感じることで。

ぐちゃぐちゃになった心を落ち着かせて欲しかった。

いつもみたいに、優しい君の言葉で。


『んー、じゃあ他の幹部もそう思ってるんだろうね』


「こんな程度で動揺する自分を殺しちゃいたいよ、まったく」


『あはは、月、可愛い』


「……それ、ジャックにも言われた」


セイに見えていないのは分かっているから思いきり唇を尖らせる。

何もこのタイミングで言わなくったっていいのに。

まあ元はと言えば今もシルヴァの玉を新たに破壊したジャックが色々ぶちこんできたのがいけないんだけど、さ。


『……何、可愛いって言われるようなことしたの?』


「いや、そんなつもりはないけど」


『ふーん………まあ話戻すか。

取り敢えずさ、周りからどう思われたって月は自分を変える気はないでしょ、俺と一緒で。

ならいいじゃん、それでさ。

そのまま過ごして、自然と月が闇ギルドメンバーを大切に思うようになるならそれでいいし、やっぱ駄目で殺しちゃってもいいよ。

俺はどっちも嬉しいもん』


……嬉しい?どういうことだろう。


「セイは嬉しいの?」


『ん?だって月に大切なものが出来たら俺にも大切なものが出来たってことじゃん?

月がそうしてくれるみたいに、月の大切なものは俺も守りたいと思うし。

まあやっぱ悔しくもあるけどね。

で、殺しちゃったらそれはそれで、さ。

……ほら、月にとって変わらず俺が唯一で大切な存在っていう訳だし?

……っあー、なんか自分で言って恥ずかしいんだけど。なにこれ。

やっぱ無しで。忘れて。テイク2やろ?』


「………いや、必要ないよ。うん……すごく嬉しいし」


本当に、こうやってセイに念話をしてよかった。

それに面と向かって言われなくてよかった。

今たぶん、顔真っ赤だ。


「……あの、ありがとう、セイ。

落ち着いたし、安心したし、嬉しかった」


『うんまぁ、なら、いいんだけど…』


うわ、なんだか無性に恥ずかしくなってしまった。

お互い気もそぞろになってしまって、この空気をどうしたらいいか分からない。

何かないかな、こう、いい切欠になること。


「あ………」


『どうかした?』


シルヴァの玉が全て割れた。


「うん……シルヴァとジャックの模擬戦が終わったんだ。ごめん、切らないと」


『ん、おっけー』


「……本当にありがとう。

愚痴を聞いてくれて、相談にも乗ってくれて。

今度は君の話を聞くね。私ばかり話してしまったし」


しかも結構な長時間だ。

仕事があるかもう寝るかする時間なのに。


『いいよ、月なら。

でもそうだな……んじゃ、また一週間後念話してくれる?

俺も色々あったんだよ。月に話したい』


申し訳ないと思ってはいるのに、次の約束というものはやっぱり嬉しい。

自然と顔がゆるむのが自覚できるくらいには。


「わかった。また一週間後、この時間にね」


『待ってる。……ほんと、こういう時自分の魔力が少ないの嫌になるよ。

好きなときに月に連絡できないし、月からのをハチ公よろしく待ってなきゃいけないんだもん』


「ふふっ、セイ公か。可愛らしくていいね。

でもそうだな……うん、対策を考えてみる。

思えばいつも君ばかり口に出さず会話できるというのは不公平だしね」


『あ、言わなきゃよかったかな』


彼はそう言うけれど、そんなの思ってもいないことを私はもう知っている。

だから忍び笑いを漏らすだけだ。


『こらそこ、笑わない。

………月。月は月のままで、ただ思った通り動けばいいから。

それ、忘れちゃ駄目だよ?』


「うん、わかった。君の言葉だからね、絶対に忘れないよ」


『うん、なら安心。……それじゃ、おやすみ』


「おやすみ、セイ」


ふつりと繋げていた魔力を切って、結界も解いて、私は立ち上がった。

思いきり伸びをする。

気持ちを入れ換えることが出来たし、嬉しい言葉も聞けたし、やっぱりセイと話してよかった。

……それに、次の約束も出来た。


気を抜けばにやついてしまう顔をどうにか抑えつつ、私は戦いの批評をするため疲れた様子の二人のもとへ向かった。





オマケ:その時、執務室で彼は見た!


「もしもし、セイ?」


(ん、珍しいな、月がこんなに早く連絡くれるなんて。………なんかあった?)


「こんな風に甘えられる相手は君だけなんだから仕方がないだろう?」


(……っあー、もう、この人ってさ、ほんと、こういう所が、さ)


「さっきまでジャックに空間魔法を教えていてね。

初対面はお互い印象最悪だったけれど、どうやらなついてもらえたみたいだ」


(……なんっか!果てしなく、嫌な予感するんだけど!?)


「ふふっ、もう寂しくなった?」


(ふん、まあそうだけどさー。否定はしないけど。そんだけじゃないじゃん。月だって、さ。そうでしょ?)


「無茶ぶりだなぁ…

あ、そうそう。シルヴァがキングに剥かれそうになったよ」


(あ、やべ、書類にお茶飛んだ。シミついちゃった)


「一月程闇ギルドに滞在したら儀式のために銀狼の元集落を探す旅に出る予定なんだ」


(……また、シルヴァ君と二人旅、か)


「それで香りを気に入られたから、結婚を申し込まれたんだ」


(は?なにそれ。香り気に入ったからって?そんな程度で月に?ガキだからって何でも許されるとでも思ってんの?何様?……闇ギルドのジャック、ね。ふーん…)


「………よかった」


(やっぱ、なんかあったんだ。何、誰かに何か言われた?何かされた?何があったんだよ、ほんと)


「……それに、そんな私でも好きだって言われたんだ。

あまりにも急すぎて、その時自分がどう思ったかもよく分からなかった」


(………いや、いいことじゃん!落ち着け、俺!月にとってはとんでもなく良いことだろ。気のせい。ちょっとすっごい苛々するのは気のせい。ちょっと闇ギルドにお話し合いに行きたいと思うのも気のせい!!)


「……それ、ジャックにも言われた」


(………は!?言われたってなに、ナニ!?可愛いって?他の奴から可愛いって言われたってこと!?)


「………いや、必要ないよ。うん……すごく嬉しいし」


(……照れてる、月。うわ、なにこれ、恥ずかし…)


「うん……シルヴァとジャックの模擬戦が終わったんだ。

ごめん、切らないと」


(あーあ。もう終わりか…)


「わかった。また一週間後、この時間にね」


(よしっ!約束げっと!)


「ふふっ、セイ公か。可愛らしくていいね。

でもそうだな……うん、対策を考えてみる。

思えばいつも君ばかり口に出さず会話できるというのは不公平だしね」


(ん、やっぱ俺からも連絡したいし。てか情けないじゃん、待つだけなんて。それに今日みたく何かあったとき月が絶対に俺に甘えてくれるかわかんないし、なら俺が連絡したとき月が弱ってるの気づけるし)


「おやすみ、セイ」


(……今日は、いい夢見れそう、かも)




「……先程から、何を一人で遊んでいるんですセイル様。気味が悪いですよ」

「……あれ、ジーク、いつから?」

「貴方が急にニヤつき始めてから苛々した顔をして拗ねその後盛大に飲んだ水を口から噴き寂しそうな顔をした後殺気を振り撒き次いで心配ですと言わんばかりの表情を浮かべ激怒しながら荒々しく書類にサインし一転して顔をこれでもかと赤らめてから残念そうにし最後に幸せ一杯の笑顔を浮かべるところまで、全て拝見させて頂きました」

「あはははははは……」


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