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ゲーム世界に転生して最強になった俺、なぜか青春だけ攻略できない  作者: 花園 ばびこ
第2章

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第26話:それ褒め言葉じゃなくない?

 しばらく、言葉が出なかった。


「……は?」


 間抜けな声が出た。


 いやいや。

 今、なんて言った?


「と、友……達?」


 思わず、初めて「友達」という言葉を聞いたモンスターみたいな反応をしてしまった。


 ……間違ってはないけども。


「って、いやいや! 友達!? どこがやねん!」


 呆れたように言う。


 だって、そうだろ。

 さっき自分で言っていたじゃないか。


 馬鹿。

 ひねくれている。

 やり方が間違っている。

 馬鹿。


 悪口の羅列だ。

 馬鹿から始まって、馬鹿で終わっている。オセロだったら、全部が馬鹿だ。


「俺のどこに、友達になる要素があるんだよ」


 自嘲気味に吐き捨てる。


「いいところ、一個もなかっただろ」


「そうだね」


 神代があっさり頷いた。


「……あんまりないね」


「………」


 そこは否定しろよ。


 なんかこう、「そんなことないよ」とか、「ボクは知ってるよ」みたいな、そんなお約束があるだろ。そういう場面だろ!


 なのに、こいつは普通に肯定しやがったぞ。


「むしろ、普通に考えたら関わらない方がいい人間だと思う」


「お、おう……」


「ボクだって、できれば関わりたくなかったよ」


「………」


 ……そこまで言わなくてもよくない?

 すごーく、傷ついてるけど。


「だったら――」


 俺がそう言いかけたところで。


「それでも、なんだよ」


 神代が言葉を挟んだ。

 そして、一歩だけ近づいてくる。


「君は馬鹿だ」


 さっきから聞いてる言葉だった。何度言うんだ。


 でも。今度は、少し違って聞こえた。


「やり方は、本当にどうかと思う」

「強引だし、考えが足りないし、調子に乗りやすいし、無駄に敵を増やすし」

「もっといい方法があるだろって思うよ」

「正直、見てて危なっかしい!」


「………」


 めちゃくちゃ言われてる。

 反論できないのが腹立つ。


 だが。


「でも」


 神代が、少しだけ笑った。


「それでも、見てたら分かるんだよ」


「……何が?」


「君が、変な人だってこと」


「……悪口?」


「うん。かなり」


 即答だった。


「自分が嫌なことは絶対にやらないよね」


「そりゃそうだろ」


「でも、自分ができることまで放っておけない」


「………」


「妹のことだってそうだよ」


 神代が俺を見る。


「ボクに感謝されるのが嫌なら、好感度が上がるのが嫌なら、何もしなければよかったのに」


「………」


「病院の人たちだってそうだ。わざわざ全員を助ける必要なんてなかった」


「いや……」


 俺は少しだけ言葉に詰まる。


「……あれは、全員助けたらなんかの奇跡みたいに扱われんじゃね?って思っただけだ。別に助けたくて助けた訳じゃない」


「でも、それでも助けたじゃないか。そういうところだよ」


「どういうところだよ」


「君は、自分が善人だなんて絶対に認めないだろう?」


「当たり前だ! てか、もっとちゃんとした奴なら、普通に、公然と、正々堂々と、助けてるだろうよ」


「フフフ、だろうね。

 ――そんな人だったならボクは、何の疑問も持たずに惹かれたんだろうな」


 神代が小さく笑う。


「自分勝手で、面倒くさがりで、すぐ調子に乗る」


「おい」


「でも」


 神代が少しだけ目を細める。


「それでも、助けられるのに助けないほど薄情じゃない」

「時々、何やってるんだって腹が立つ」

「それなのに、不器用ながら何とかしようとしているところを見ると、手を貸したくなる」

「だから、ハラハラしながらも目が離せない」


「………」


「だから、ボクは君を放っておけないんだと思う」


 神代が俺を見る。


「君が知っているゲームのボクは、こんなことを言っていたのかい?」

「馬鹿だと思いながらも、応援するようなキャラクターだったのかい?」

「……違うんだろう?」

「全部をシステム、いや好感度のせいにするのは」


 少しだけ首を傾げる。


「違うんじゃないかなって、ボクは思うよ」


「…………」


 納得できない。


 いや、納得したくない。


 だって、俺は知っている。

 この世界には好感度がある。


 神代の妹を救った。

 だから神代の好感度が上がった。

 それだけだ。


 そうじゃなきゃ。

 こんな俺に、こんな態度を取る理由なんてない。


「……いや」


 何か言おうとする。


 でも、言葉が出てこない。


「だから、それが……」


 何だ。

 何を言えばいい。


 結局、俺の口から出たのは。


「……好感度、のせいってことだろうが」


 それだけだった。

 それしか、言えることが思いつかなかった。


 嫌いだけど応援する。

 それは、好感度が作用しているってことじゃないのか。


「それは、多分……いや」


 神代が少し考える。


「きっと、違うんだよ」


「…………」


「もし、それが本当にあるのなら」


 神代が少しだけ視線を逸らす。


「――ボクは、君を好きになってるだろ?」


「……え?」


 一瞬、意味が分からなかった。

 あ、いや違う。


「え、――俺、嫌われてんの!?」


「ふふっ、どうかな」


 神代が笑う。


「でも、さっき、俺を嫌いだろ、みたいなことを自分で言ったじゃないか」


「いや、そこは否定してくれよ!」


「好感度があるなら、君のやったことをもっと肯定しているってことさ」


「…………」


「ボクだって、普通ならもっと分かりやすくて、優しくて、格好いい人の方がいいに決まってるさ」


「うぐぅっ……」


 ぐうの音が出た。

 とっても正論だ。


 出したくなかったのに。

 自分でも分かってることを改めて言われると、普通に傷つく。


「でも」


 神代が一歩だけ近づく。


「これでよかったんだと思う」


 真っ直ぐ、俺を見る。


「そうだったらボクは本当に、

 ――ただのゲームキャラになってた気がするから」


「……」


「だから、これだけは言わせて」


 一瞬だけ、神代の視線が揺れる。


「――君が君でいてくれて良かった」


「………」


 風が吹いている。

 屋上を冷たい風が通り抜けている。


 でも、さっきより、少しだけ暑い気がする。


「……意味分かんねえ」


 小さく呟く。


 本当に分からない。


 理屈が合わない。


 俺がもっと単純なら、神代だってゲーム世界と思わず、疑問を持たずに幸せだったかもしれない。


 好感度があるから、もっと簡単なはずだ。


 イベントをこなして、好感度を上げて、キャラが好意的になる。


 それだけだ。


 なのに、こいつは。


「分からなくていいさ」


 神代は、それ以上説明しなかった。


 ただ、小さく息を吐く。


「…………」


 沈黙。


 空は相変わらず青い。


 さっきと何も変わっていない。


 なのに。


 なんだか、少しだけ鮮明に見えた。


「……めんどくせえな」


 俺はそう呟いて、神代から視線を逸らして、不貞寝した。


 結局、俺には何も分からないままだった。

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