第26話:それ褒め言葉じゃなくない?
しばらく、言葉が出なかった。
「……は?」
間抜けな声が出た。
いやいや。
今、なんて言った?
「と、友……達?」
思わず、初めて「友達」という言葉を聞いたモンスターみたいな反応をしてしまった。
……間違ってはないけども。
「って、いやいや! 友達!? どこがやねん!」
呆れたように言う。
だって、そうだろ。
さっき自分で言っていたじゃないか。
馬鹿。
ひねくれている。
やり方が間違っている。
馬鹿。
悪口の羅列だ。
馬鹿から始まって、馬鹿で終わっている。オセロだったら、全部が馬鹿だ。
「俺のどこに、友達になる要素があるんだよ」
自嘲気味に吐き捨てる。
「いいところ、一個もなかっただろ」
「そうだね」
神代があっさり頷いた。
「……あんまりないね」
「………」
そこは否定しろよ。
なんかこう、「そんなことないよ」とか、「ボクは知ってるよ」みたいな、そんなお約束があるだろ。そういう場面だろ!
なのに、こいつは普通に肯定しやがったぞ。
「むしろ、普通に考えたら関わらない方がいい人間だと思う」
「お、おう……」
「ボクだって、できれば関わりたくなかったよ」
「………」
……そこまで言わなくてもよくない?
すごーく、傷ついてるけど。
「だったら――」
俺がそう言いかけたところで。
「それでも、なんだよ」
神代が言葉を挟んだ。
そして、一歩だけ近づいてくる。
「君は馬鹿だ」
さっきから聞いてる言葉だった。何度言うんだ。
でも。今度は、少し違って聞こえた。
「やり方は、本当にどうかと思う」
「強引だし、考えが足りないし、調子に乗りやすいし、無駄に敵を増やすし」
「もっといい方法があるだろって思うよ」
「正直、見てて危なっかしい!」
「………」
めちゃくちゃ言われてる。
反論できないのが腹立つ。
だが。
「でも」
神代が、少しだけ笑った。
「それでも、見てたら分かるんだよ」
「……何が?」
「君が、変な人だってこと」
「……悪口?」
「うん。かなり」
即答だった。
「自分が嫌なことは絶対にやらないよね」
「そりゃそうだろ」
「でも、自分ができることまで放っておけない」
「………」
「妹のことだってそうだよ」
神代が俺を見る。
「ボクに感謝されるのが嫌なら、好感度が上がるのが嫌なら、何もしなければよかったのに」
「………」
「病院の人たちだってそうだ。わざわざ全員を助ける必要なんてなかった」
「いや……」
俺は少しだけ言葉に詰まる。
「……あれは、全員助けたらなんかの奇跡みたいに扱われんじゃね?って思っただけだ。別に助けたくて助けた訳じゃない」
「でも、それでも助けたじゃないか。そういうところだよ」
「どういうところだよ」
「君は、自分が善人だなんて絶対に認めないだろう?」
「当たり前だ! てか、もっとちゃんとした奴なら、普通に、公然と、正々堂々と、助けてるだろうよ」
「フフフ、だろうね。
――そんな人だったならボクは、何の疑問も持たずに惹かれたんだろうな」
神代が小さく笑う。
「自分勝手で、面倒くさがりで、すぐ調子に乗る」
「おい」
「でも」
神代が少しだけ目を細める。
「それでも、助けられるのに助けないほど薄情じゃない」
「時々、何やってるんだって腹が立つ」
「それなのに、不器用ながら何とかしようとしているところを見ると、手を貸したくなる」
「だから、ハラハラしながらも目が離せない」
「………」
「だから、ボクは君を放っておけないんだと思う」
神代が俺を見る。
「君が知っているゲームのボクは、こんなことを言っていたのかい?」
「馬鹿だと思いながらも、応援するようなキャラクターだったのかい?」
「……違うんだろう?」
「全部をシステム、いや好感度のせいにするのは」
少しだけ首を傾げる。
「違うんじゃないかなって、ボクは思うよ」
「…………」
納得できない。
いや、納得したくない。
だって、俺は知っている。
この世界には好感度がある。
神代の妹を救った。
だから神代の好感度が上がった。
それだけだ。
そうじゃなきゃ。
こんな俺に、こんな態度を取る理由なんてない。
「……いや」
何か言おうとする。
でも、言葉が出てこない。
「だから、それが……」
何だ。
何を言えばいい。
結局、俺の口から出たのは。
「……好感度、のせいってことだろうが」
それだけだった。
それしか、言えることが思いつかなかった。
嫌いだけど応援する。
それは、好感度が作用しているってことじゃないのか。
「それは、多分……いや」
神代が少し考える。
「きっと、違うんだよ」
「…………」
「もし、それが本当にあるのなら」
神代が少しだけ視線を逸らす。
「――ボクは、君を好きになってるだろ?」
「……え?」
一瞬、意味が分からなかった。
あ、いや違う。
「え、――俺、嫌われてんの!?」
「ふふっ、どうかな」
神代が笑う。
「でも、さっき、俺を嫌いだろ、みたいなことを自分で言ったじゃないか」
「いや、そこは否定してくれよ!」
「好感度があるなら、君のやったことをもっと肯定しているってことさ」
「…………」
「ボクだって、普通ならもっと分かりやすくて、優しくて、格好いい人の方がいいに決まってるさ」
「うぐぅっ……」
ぐうの音が出た。
とっても正論だ。
出したくなかったのに。
自分でも分かってることを改めて言われると、普通に傷つく。
「でも」
神代が一歩だけ近づく。
「これでよかったんだと思う」
真っ直ぐ、俺を見る。
「そうだったらボクは本当に、
――ただのゲームキャラになってた気がするから」
「……」
「だから、これだけは言わせて」
一瞬だけ、神代の視線が揺れる。
「――君が君でいてくれて良かった」
「………」
風が吹いている。
屋上を冷たい風が通り抜けている。
でも、さっきより、少しだけ暑い気がする。
「……意味分かんねえ」
小さく呟く。
本当に分からない。
理屈が合わない。
俺がもっと単純なら、神代だってゲーム世界と思わず、疑問を持たずに幸せだったかもしれない。
好感度があるから、もっと簡単なはずだ。
イベントをこなして、好感度を上げて、キャラが好意的になる。
それだけだ。
なのに、こいつは。
「分からなくていいさ」
神代は、それ以上説明しなかった。
ただ、小さく息を吐く。
「…………」
沈黙。
空は相変わらず青い。
さっきと何も変わっていない。
なのに。
なんだか、少しだけ鮮明に見えた。
「……めんどくせえな」
俺はそう呟いて、神代から視線を逸らして、不貞寝した。
結局、俺には何も分からないままだった。




