第24話 もうやめようかな
20時に更新します。
倉庫から帰ったあと、俺はそのままベッドに倒れ込んでいた。
疲れていた。
身体じゃない。心の方だ。
影山のこと。
犯罪組織のこと。
職員のこと。
色々ありすぎた。
少しだけ休もう。
そう思ったところまでは覚えている。
◇
「……ん」
目を開く。
天井が見えた。
どうやら寝ていたらしい。
時計を見て、思わず固まる。
「………あ」
そろそろ登校する時間にちょうど起きてしまった。
……そもそも今日は学園に行く気はなかった。
昨日はいろいろありすぎて疲れていたし、休むつもりだった。
どのみち、学園はただの暇つぶしだったし。
「……」
布団の上で転がる。
この時間に起きると、逆に迷う。
体はそこまで重くない。
目覚めも悪くない。
行こうと思えば行ける。
でも、行く理由がちゃんとあるわけではない。
「……どうするか」
ぽつりと呟く。
休むか。
それとも行くか。
正直なところ。
……行きたくない。
犯罪者達の顔が浮かぶ。
職員の顔も浮かぶ。
そして最後の言葉も。
『バケモノがよぉ』
あのときの顔と声が、妙に頭に残っている。
「……って、いやいや!」
勢いよく起き上がる。
何を落ち込んでるんだ!
影山だって前を向いた。
あいつはちゃんと、自分で乗り越えた。
だったら、
「あいつで出来たんだ。俺だって……」
小さく、自分に言い聞かせる。
俺にはゲーム知識がある。
神代だって助けた。
影山だって結果的には立ち直ってる。
ちゃんとやれているはずだ。
……多分。
それに、あんなモブ職員どもの一言で、行動を止められるなんて馬鹿らしい。
俺にはクラスメイトを救う使命があるんだ!
あいつらとは違う。
「……そうだ、俺は、特別なんだ」
誰に言うでもなく呟く。
俺のやってることは間違ってない。
今は周りがズレてるだけだ。
そのうち、ちゃんと分かってくれる。
「俺はゲーム世界チート知識転生者様なんだから、いつかみんなから全肯定だってされるだろ……」
別に根拠なんてない。
でも、そう思ってないとやってられない。
◇
学園に近づいた瞬間、嫌な視線を感じた。
いつも通りではあるが、今日は多く感じる。
「おい、あいつ遂にやったらしいぞ……」
「マジで?」
「昨日の件だろ?聞いた聞いた」
「やばいよなぁ」
ひそひそとした声を、俺の身体能力がはっきりと拾ってしまう。
……なんだ?
昨日の件が広まるのは早すぎるぞ。
それに、この雰囲気は何かがおかしい。
……いつもよりも俺へのヘイトが高い気がする。
すると、耳に入ってきたのは、
「犯罪組織を全員殺したらしいぞ」
「その中には学園の生徒もいたらしい」
「揉み消したらしいな」
……違う。殺してなんかない。
どこからそうなった。
さらに――
「協会で働いてる兄貴が言ってたけど、あいつ支部長を脅しているらしい」
こんな声も聞こえてくる。
(あのモブ職員ども……)
思わず舌打ちが出そうになる。
いや、別に口止めしていたわけじゃない。言うなとは言ってない。
でも普通、そういった職務に係ることを言うか?しかも、話が歪んでいるし。
「……訂正する気も起きねぇわ」
どうせ誰も俺の話なんて聞かない。
噂なんてそんなものだ。
勝手に膨らんで、勝手に広がる。
止めようとすれば逆に加熱してしまう。それならば止めようとする労力が無駄だ。
それに、俺にとって重要なのは――
(クラスメイトだ)
(ゲームキャラのクラスメイトが分かってくれれば、それでいい)
こんなモブキャラ達なんてどうでもいい。
……そう思ってるはずなのに。
胸が、妙に重い。
◇
教室の扉を開く。
瞬間、空気が変わる。
さっきまであったざわめきが消えた。
視線だけが集まる。
そしてすぐに逸らされた。
予想通り、ではあるな。
無言のまま、自分の席へ向かう。
……神代がいることは気配で分かっていたのだが、そちらを見る事はなぜかできなかった。
そして途中、九条と目が合った。
……もしかして、ってという思考も出てくる。
俺はちゃんとするべきことをしたはずだ。
お褒めの言葉が出るかも?
「流石!」とか言われちゃったり……。
俺がそんな希望的観測をしていると――
「最低」
小さい声だった。
それでも、はっきり聞こえた。
「……は?」
俺は思わず足が止まり、口を開いて呆けてしまった。
分かってたはずだ、どうせ何か言われると思っていた。しかし、俺は止まってしまった。
九条が怒りではなく、不愉快そうにこちらを見ていた。
「影山のことよ」
「……」
「アンタが追い詰めたくせに、犯罪者として捕まえるなんてね」
教室が静まり返っている。
みんな聞いていた、でも誰も止めようとしない。
「模擬戦の時にアンタがあんなことしなければ、ああはならなかったかもしれないのに」
「それなのにこういう時だけ力を振るって、何もかも破壊して」
俺はその言葉にできるだけ冷静に返そうとする。
「いやいや、模擬戦の時は模擬戦を仕掛けられた側だし、犯罪者になったなら捕まえないとだろ?」
そんなことを愛想笑いしながら返す。
でも、間違ってないだろ?
「どう考えても、やり過ぎでしょうが!」
「どうせ自分の力によっているんでしょ!」
「こっちのことなんて、何も考えてない!」
「なんで、アンタみたいな最低の人間がそんな強いのよ」
「ホント、世の中不公平だわ」
「――アンタなんかが、クラスメイトじゃなかったらよかったのに!」
――別に本当に九条が褒めてくれるなんて思っていなかった。
好感度アイテムを渡したわけでもないのに、いきなりデレることなんてないだろう、とは思っていた。
それでも実際言われたらキツい。
影山は犯罪してたんだぞ。とか、
犯罪に俺は関係ない。とか、
ただ犯罪組織を捕まえただけだ。とか、
――俺だってクラスメイトだ、って。
言いたかった。
いや、言えるはずだ。ちゃんと冷静に返せばいい。
だが俺は、
「ふざけんじゃねぇー!!」
気付けばキレてしまっていた。
抑えられなかった。いつもなら抑えられた。でも、今はどうしても抑えたくなかった。
クラスメイトじゃないって言葉が図星だったからか。
それとも、お前なんか仲間じゃないって言葉に反応したのか。
今はどうしてもその言葉を流すことができなかった。
こっちはただ“ゲーム”をしてただけなのに。
誰にも迷惑かけてなかった。
それを、
「こっちはただテメェらが、模擬戦って喧嘩を売ってきたから乗ってやっただけじゃねぇか!」
「元々、最弱とか馬鹿にしてたのはテメェらだろ!?」
「それが、自分達より強くなったから不正扱い、だと!?」
「模擬戦でぶん殴られるのは当たり前だろうが!」
「今回だって、勝手に犯罪してるやつを捕まえただけだろうが!」
「それを、化け物扱いとか、お前のせいだとか言われても知らねぇよ!」
一度口を出してから、ずっと貯めていた不満が溢れてしまった。
そして、
「俺だって――こんなクラス嫌だったよ!」
そこまで言ったところで、冷静になってしまった。
まずい、と思って周りを見ると、教室が静まり返っていた。
九条も喋らない。
クラスメイトも俯いている。
「あ……」
全員が顔を青くして怯えている。
まるで危険なモンスターを見るみたいな目だった。
九条も。
クラスメイト達も。
威圧スキル。
無意識だった。感情に引っ張られて漏れていたらしい。
血の気が引く。
「……わ、悪い」
小さく呟く。
誰からも返事は返ってこない。
怖いのだろう、俺だって同じ立場なら怖い。
こんなやつ。
「す、すいませんでした!」
そう言い残して、俺は教室から逃げ出した。
◇
気付けば、いつもの学園の屋上にいた。
「……はは」
思わず笑ってしまう。自分でもわかるほど乾いた笑いだった。
――やっちまったなぁ。
まただ。また失敗した。
俺なりに歩み寄ろうとしたのに、結局こうなった。
壊してしまうのだ。
影山も。
九条も。
クラスメイトも。
「向いてねぇな」
屋上のベンチに寝そべって、空を見上げる。
こんな時なのに、空は雲一つなく晴れやかだ。屋上には気持ちの良い風も吹いている。
……こういうときって、主人公の心情に合わせた感じで曇ってたりとかするもんだろ。
嫌味かよ。
こういうタイミングの悪さも主人公に向いてないんだろうなぁ。
「やっぱ俺、青春とか向いてねぇわ」
少しだけ、疲れた。
よく考えれば、俺はなんでこんなことしてたんだろう?
最初はただ、ダンジョンに飽きたから暇つぶしにゲームキャラを眺めようとしていただけのはずだ。
ゲームとキャラが違うからって、クラスメイトを元に戻そうなんて、勝手に思って、勝手に自滅までしている。
自分のことながらひどく滑稽だ。そういうのはもっとちゃんとストーリーも覚えていて、ある程度人付き合いもできる転生者の役目だろ。
こんな前世からゲームしかしてこなかった男がやるもんじゃない。強ければなんでもOKになるなんて幻想なのだ。
……あぁ、本当に勘違いしてたんだなぁ。
「――もう学園とかやめようかなぁ」
そう呟いた時だった。
「それ、本気で言ってるのかい?」
後ろから声がした。
最近よく聞いてる声だった。
振り返ると、思った通り神代レイナが立っていた。
逃げ場なんてないと言わんばかりに、真っ直ぐこちらを見ていた。
「……最悪だ」
今、会いたくなかった奴がそこにいた。
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