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【ザイン・ラムール】の世界

 ずっと昔から、大局を左右するような挑戦を避け、楽な方に押し流されて生きてきた。


 私──ザイン・ラムールには、決定的にスター性というものが欠けている。


 私はシグネットの関係上、未能者の文化に理解がある方だ。


 その知識で野球というスポーツに例えるなら、打率は高いがツーアウト満塁の重要な局面で打てない打者と言うべきか。 


 私に逆転ホームランは打てない。強者ではあるが傑物ではない。期待を背負って堂々と立ち、応えられるか否かの違い。


 そして、私以外の超越者は皆、大一番でこそ期待を超えた結果を出せる側の人間だ。


 私は彼らのようにはなれなかった。格下に勝って。格上に負けて。女王から逃げて。


 人類の頂点に座す超越者でありながら、当たり前で平凡で詰まらない結果しか出せない。


 そんな私でも、一般の異能者にとっては、他の超越者と変わらない尊敬の対象だ。


 超越者の誰かが歴史的な偉業を成し遂げる度に、私も同列の存在として崇められる。私自身は何も成していないのに。


 不相応な立場を手に入れた凡俗。皆からの期待に怯え、致命的な失敗を恐れて、言い訳だけを考えて生きている負け犬。


 ──それが、私だ。




 特別席から一般客席へと続く通路。その壁には人間が通れる大きさの穴が空いていた。


 その先は競技場。閉所で私に勝つのは無理だと悟ったのか。


『私達みたいな乱世の生まれでもないのに、やけに実戦慣れしてるってば』


 私のシグネットは増幅。あらゆる物体の性能を向上させる。


 事前に壁の強度も底上げしていたのだが、標的はどうにか脱出したらしい。


『あらら、たった2発でもう壊れたの?』


 先制攻撃に使ったドライヤーが、私の手の中で歪に曲がり、焦げたような匂いを発する。


 私は破損したドライヤーの残骸を投げ捨てる。どうせ量産品の祭具だ。私が使わなければ武器にはならない。


 超越者相手に加減は愚策。攻撃用に持ち込んだ祭具は、使い捨て前提の運用で行こう。


『失伝──禁じられた遊びフォービドゥン・ゲームズ


 両足に履いておいたローラースケートの性能を増幅する。


 私が錬術を使用すると、壁の穴から競技場に向かって数本のコースが伸びた。その上を滑走し、空中を高速で移動して見せる。


『再演──痛々しい速贄ピティフル・インペイラー


 当然、外で待ち構えている青髪の男が奇襲を仕掛けてきた。絶妙な角度で下から生えた光の槍を軽くスピンして避ける。


『バックスピン、クローズターン、かーらーの、フロントスピン!』


 何を仕掛けようと無駄だ。私と他の異能者では文字通り見えている世界が違う。私を欺く事は誰にもできない。


 極限まで強化した五感。更に、目にはコンタクトレンズ、耳には補聴器。


 それら全てにシグネットを作用させて、限界を超えた反射速度を引き出していく。


 ──今の私には全てが見える。聴こえる。


 


『貴方が誰だか知らないけど、マナの量を見た感じだと第0位階でしょ。同じ位階なら私に勝てると思ってる?』


 競技場の上空。私は光の足場に立つ青髪の男を注意深く観察した。


『位階は連盟が決めた格付けであって、強さの絶対指標じゃないんだってば』


 位階は時間あたりにマナを精製できる量で決まっている。


 そして、測定の際に計測不能の値を出した超越者は、古の女王だろうが何だろうが、まとめて第0位階に分類されてしまう。


『……そっか。君の世界には、時間遡行で生まれた僕はいないんだ』


 彼は少し寂しげに言った。ちぐはぐな超越者だ、と私は思った。


 研究職の方が向いていそうな、凡そ戦闘向きではない精神性と感受性。それに相反する印象を抱くほど容赦のない戦闘技能。


 まるで、誰かが求めた理想の英雄像だ。そんな思考が脳裏を過って、直ぐに消えた。


『初めまして。僕は断章取義の梧桐志鳳。異名は壟断』


『断章取義の梧桐……?梧桐(アオギリ)詩凰(シオン)なら知ってるってば』


 最低限しか表に出てこない世捨て人だと、風の噂に聞いている。だけど、あれは女性だったはず。


 ……まあ、良いか。私には関係のない話だ。重要なのは、敵が未知の超越者である事。そして、倒すべき存在であるという事。


『とにかく、ザイン。僕達を邪魔しないで。失楽園が解放されたらどうなるか、超越者なら分かるはず』


『分かってるってば。失楽園の解放は大きな混乱を生む。その火種に遺失支族が油を注げば、女王の時代を凌ぐ乱世が訪れる』


 対話の最中にも、志鳳の光撃が私を狙い、私はローラースケートを駆使して躱す。


『それが、私の目的だってば』


 懐から出した物に律術で複雑な軌道を組み込み、志鳳に対して発術で飛ばした。自分の聴力を一時的に呪術で低下させておく。


 大きく距離を取ってから、結界で全身を包んだ瞬間、それは彼の背後で時限爆弾のように起動した。


『っ……!あ、ぐっ……ぃ……!目覚まし……時計……!?』


 爆音と衝撃が競技場を揺らす。振動のシグネットを持つ玄松夕鶴には劣るが、直撃すれば超越者にも通じる破壊力だ。


『女王の時代とも比にならないほどの殺し合いに満ちた乱世を──私が創る』


 


 周囲への被害はない。牡丹亭蝶路が対処したようだ。だが、まずは志鳳にダメージを与えられた。


 超越者は何をしてくるか予測不能だ。立て直す時間を奪ってから、一気に畳み掛ける。それが定石。


『やっぱり強い……!再演──時代遅れの覇者エンシェント・ダイノソー……!』


 私と志鳳の間に光の恐竜が出現した。巨体のティラノサウルスが噛み付いてくる。


『接近戦なら、やっぱりコレが手に馴染むってば!』


 私は右手に器仗を握り込んだ。マナで形成した鍬を肩に背負う。

 

『全身を耕してあげる!』


 ティラノサウルスに鍬を連続で叩き付け、光の肉体を抉り取った。


『農家の体力、舐めるなってば!』


 私は左手でネイルハンマーを取り出し、動きの鈍った志鳳の腹部に振り抜く。


『ぐっ……!再演──移り気な群体マーキュリアル・レギオン……!』


 柔軟に変形する光の塊がハンマーを受け止めるが、そんな小細工では威力を殺し切れない。志鳳の体は観客席へと飛んでいく。


『超越者級の戦いは派手だな。秘伝──移り気な群体マーキュリアル・レギオン


 観客席にぶつかる直前。空中に現れた水銀の塊が志鳳を弾き返した。


『はぁ、はぁ……!飛龍(フェイロン)、助かる!』


 真っ直ぐ戻ってくる志鳳を、今度は団扇で扇ぎ、爆風を発生させて攻撃する。


『使うある、王!秘伝──痛々しい速贄ピティフル・インペイラー!』


 直下から竹林の如く、多数の竹が生えてきた。志鳳はその1本を掴んで、しなる反動を利用して爆風を避ける。


『連携はズルいってば!』


 私は軽く愚痴りながら、小さな円錐形のクラッカーを握った。


 武器に見えないパーティーグッズは、色んな場所に持ち込みやすくて便利だ。


『再演──無秩序な熱狂(ワイルド・オージィ)……!』


 光の鎌。対処の最適解。私の手の内が見抜かれたのか。


 光と過去のシグネット。シグネットの複合という遺失支族からの情報は、どうやら正しかったようだ。


『でも、実際に対処できるかは別の話!』


 クラッカーの紐を噛んで引くと、中に入っていた大量の種子が弾けるように飛び散る。


『成長促進だってば!』


 増幅のシグネットが種を一瞬で成長させ、私が品種改良した真説大陸の食人樹へと変えた。




『今の世界は停滞してる』

 

 襲いかかる食人樹の枝を避ける志鳳に、私は自身の考えを語る。


『私は世界を滅ぼしたいとは思ってるわけじゃない。むしろ、その反対だってば』


『反対……?』


『遺失支族を滅ぼして、世界を守ろうとしてるって事』


『……じゃあ、現在進行形で遺失支族に加担してる理由は何?』


 術式で私の過去を読んでいるはずなのに、わざわざ訊ねるのか。なるほど、梧桐志鳳という男は対話を重んじるタイプのようだ。


『黙示録は権能を使う為のエネルギーを自分で賄えない。人間の願いや欲望を燃料にする事でしか、リソースを補充できない』 


 ならば、簡単な話だ。


『秩序を失った戦争を起こし、人間を減らしてリソースを削る。犠牲者は黙示録を倒してから蘇生すれば良い。それしかないってば』


 そう、誰かがやらなくてはいけない。


『……乱世になれば、無念の死が増える』


『理解してるってば』


『無念を抱えて雑魂になった人間は、共有術式で蘇生できない。生身の人類がどれだけ減るか予想できない』


『それも、理解してる』


『大前提として、権能のエネルギーの仕組みが不明瞭。雑魂からリソースを得る方法があった場合、全部が無駄に……』


『──壟断』


 志鳳が息を呑む。私は今、どんな顔をしているのか。


『少なくとも、現時点でそれは……ない』


 私は血を吐く気持ちで断言した。できてしまった。何故なら。

  

『再演──盲目的な影法師ブラインドリー・シルエット!』


 志鳳は光の傘で枝の攻撃を防ぎながら、食人樹の幹に突撃する。


『僕の知るザインなら、それを実行に移す事はなかった……!』


『そんなの、ただの買い被り。これが私、ザイン・ラムールだってば』


 志鳳が柄に合わない舌打ちをした。


『黙示録の改編は単なる記憶の書き換えじゃないから性質が悪い……!今ここにいるのは、確かにその歴史を辿ったザイン……!』


 この記憶が嘘だったら、私の犯した罪が嘘だったら、どれだけ良かったか。私だって、そう思う。


 しかし、超越者の心身は外部からの干渉に高い抵抗力を持っている。これほど長く影響を受け続けるなど有り得ない。


 精神系の頂にいるレテ・ダームであっても、同じ第0位階の他者に対して、長期間に渡って記憶を操作し続ける事は不可能だ。


 だから、私は沢山の人間の未来を奪って、今ここにいる。それが真実だ。


 もう、止まれない。




 至るところで、空間が歪むほどの異能の衝突が起きている。


 周囲の温度が上がり、観客席の椅子が宙を舞う。ここは私達以外にも超越者が戦っている危険地帯だ。


 むしろ、あれだけの異能が衝突してもこの競技場と観客が原型を保っているのは……。


『俺がおると思って考えなしに暴れんなや、ボケ共!』


 牡丹亭蝶路が顔の前で印を結ぶと、線を引いたように異能の余波が遮断される。


 第1位階の身でなかなか粘る男だ。マナ切れしないところを見るに、よほど無駄なく術式を構築しているのだろうか。


『けほっ、けほっ……!再演──洗礼(ラミナ)……!』


 全ての食人樹を殴り倒した志鳳が、勢いのままに私に向かってくる。その拳をマナで膨らませた風船で受け止めた。


『この世界に文明がある限り、私の優位は揺るがないってば』


 腰のベルトから右手で水鉄砲を抜く。増幅した威力の水弾は、志鳳の左肩と競技場を包む結界を貫通した。


『ぁ……ぐぅ……!』


 壊れた水鉄砲を捨て、間髪入れずに左手でカッターナイフを振るう。


『再演──凝り固まった流血(クロテッド・ゴア)……!』


 光の壁に押し出された志鳳が、私から距離を取る。カッターナイフの軌道上にあった竹が、まとめて断面を晒した。


 彼に与えた傷の数は多いが、致命傷だけは上手く外してくる。これだから、勘の良い知覚系は面倒だ。


 とはいえ、追い詰めている事は間違いない。志鳳の髪に絡み付いた光の輪も弱々しくなり、目からも集中力が薄れている。


『タヴに勝っただけの実力はある。だけど、頑張ってもどうにもならない事も、世の中にはあるんだってば』


 ラジコン飛行機に律術で動きをプログラムし、志鳳を狙って飛ばした。


『っ……!師匠っ!秘伝──時代遅れの覇者エンシェント・ダイノソー!』

 

 腕を広げた恐竜が割って入るも、私の増幅に押し負けてマナに戻る。


『一瞬の時間稼ぎ。往生際が悪いってば』


 自分の戦いを危うくしてまで、王に尽くす忠臣振りは評価するが、流石にここからの逆転は……。


『──閃いた』


『なーんて、楽に行くわけないってば』


 私は自身の浅い考えを嘲笑った。


『再演──予定調和の運命フォールス・シャッフル


 侵蝕。版図。花唇。戦渦。擅権。


 様々な英雄を間近で見て、憧れながらも対等になれなかった凡人の私だからこそ、戦いながら気付いていた。


『ありがとう、バーティカルバー。君の稼いだ一瞬のおかげで』


 この男は間違いなく、簡単に終わる器ではない。


『ザインに勝てる』




『誰が誰に勝てるって?』


 志鳳が今から私を倒すつもりなら、おそらく接近戦を狙ってくる。そして、これが最後の足掻きになるだろう。


 鍬を構える。器仗はどれだけ増幅しても壊れないから扱いやすい。


『再演──傅膏(ヤザタ)


 対する志鳳は右手に光の剣を構えている。先程までより少しだけ気配が力強い。


 この感じ……妙覚に入ったか。羨ましい勝負強さだ。


 私は志鳳との間を結ぶような道を作り、ローラースケートを加速させる。


『何を企んでるのか分からないなら、何をする暇も与えずに終わらせるまでだってば!』


 一瞬の戦いを支配する。私の増幅した身体能力であれば、それができる。


『しっ……!』


 志鳳が光の剣を振った。器仗と器仗が衝突し、力の差によって彼の器仗だけが弾き飛ばされる。


 この戦闘中に取りに行くのは無理だろう。勿論、本命の攻防はここからに決まっている。


 五感が増幅されている私は、直ぐに違和感に気付いた。志鳳の左手に何かが握られている。


 剣だ。さっきまでは持っていなかった剣を握っている。


『しかも、あの剣は遺物……!』


 道具と馴染み深い私には直ぐに分かった。あれは普通の祭具ではない。


 そして、遺物の具現なんて真似ができる異能者は1人しか知らない。


『ナイスパス、アイン』


 合点が行った。どんな効果か知らないが、確かに遺物は逆転の切り札になる。


 しかし、おそらく彼の挙動から推察するに、人体に直接触れないと効果のないタイプの遺物だろう。だったら。


『当たらなければ良い!』


 下の戦闘の余波か、私達の間に軽い火柱が立ち上った。私は何の躊躇いもなく、炎の中に飛び込む。


 増幅のシグネットを重ねがけした私の身体が、この程度で傷付く事はない。


 私の右手が振るった鍬が、志鳳の右手に握られた遺物の剣を吹き飛ばす。


『ナイスアシスト、杜鵑花』


 そして、いつの間にか左手に握られていた、全く同じ遺物の剣に斬られた。


『遺物の剣がもう1本!?』


 遺物の具現は神業だが、そこまではアインのシグネットが成長すれば可能かもしれない。でも。


『同時に複数の遺物を具現するなんて、流石にあり得ないってば!』


 仮にアインが第0位階だったとしても、個人のマナで成せる事じゃない。命や魂を削りでもしないと、そんな真似は不可能だ。


 増殖のシグネット?いや、あの変態女の気配はしない。


 それなら、片方は……。


『本物……!?』


『五感に頼り過ぎ。マナの感知に集中してたら、気付けたかもしれないのに』


 強化された視力が、鎌を担いだ幕楽とレンチを持った杜鵑花を捉える。


 炎のシグネットで私のマナ感知を誤魔化し、引力のシグネットで遺物の剣を投げ渡したのか。


 狭い競技場で超越者と上位者が暴れている今、そこに紛れ込んだ遺物の発するマナに気付けなかった。


『でも、まさか……』


 志鳳が形成していたマナの足場が形を失う。


『僕が聖剣を当てるより早く、致命傷を負わせられるなんて……思わなかった……』


 あの瞬間、私は遺物のトリックに気付けなかった。ただ反射的に鍬を振るい、圧倒的な身体能力の差で後出しを成功させた。


 遺物に斬られた後だから分かる。予想される効果は斬った相手の弱体化。私が弱体化したところで、瀕死の志鳳にはもう何もできない。


 つまり、私の勝ちと言える。


『詰まらない勝ち方。なんだか、負けた気分だってば。やっぱり、誰かの期待に応えるなんて、私には無理だね』


『違……ザイン……。責任感が強い、だけ……。一番辛い、のに……』


 志鳳の頭から光の輪が消え、墜落していった。完全に死亡したらしい。


 蘇生が可能な異能者にとって、戦死はさほど重い出来事ではないが、それでも思うところはある。


『一番辛い、ね……』


 そんな弱音を吐ける身ではないが、私だって非道な手は使いたくなかった。


 世界が好きだ。文明が好きだ。人間には誰1人として、死んで欲しくはない。


 だけど、そこまでやらないと遺失支族には対抗できなかったのだ。誰かが手を汚す必要があるなら、私がやる。


 私は人々を慈しみ、恵みを与え続ける豊穣神──恩寵のザイン・ラムールだから。


 


『口伝──呪われた椅子(バズビーズ・チェア)


『ぇ……?』


 背中に刃物を突き立てられた。そう認識した私は、痛みより先に驚きを感じた。


 これまで、私の五感を掻い潜って完璧な奇襲を成功させた者など、誰もいなかったからだ。


 全身が麻痺してシグネットが解ける。落下を始める体を誰かに抱えられた。


 当然、優しさなどではなく、確実にトドメを刺す為の動きだ。ただでさえ遺物の力で弱体化している私に、抵抗する術はない。


 私は素直に観念し、せめて芸術的なまでの奇襲を成功させた人物が誰か知りたい、という好奇心で視線を動かした。


 それは、私も知っている人物だった。雰囲気が変わり過ぎていて今まで気付かなかったが、冷たい表情をしていると一目瞭然だ。


『橙髪の暗殺者……!』


『位階は強さの絶対指標じゃない。良い言葉ね、恩寵』


 彼女は作業のような冷淡さで、私の体に追加でナイフを刺していく。


『勘違いしないでね。あの時の上からの指示は、貴女が手に入れた機密情報の隠滅だったの。暗殺命令じゃないわ』


 それだけ言って、用は済んだとばかりに私を空中に放り出す。


『さよなら。口伝──呪われた椅子(バズビーズ・チェア)


 彼女が指を鳴らす音が聴こえると同時に、私は内側から多数の術式を受けて、致命傷を負った。不思議と悲鳴は出なかった。


『恩寵様、我が王からの伝言です』


 意識を失う直前に、閑話のような何かに語りかけられる。


『これにて、終演(カーテンコール)。どうぞ』


 私は思わず笑った。あの無表情君、意外とキザな奴らしい。


『──後は任せた。壟断が蘇生したら、そう返しといてってば』


 私は自分がチャンスを生かせない人間だと知っている。だから、あっさりと他者に託す事ができる。


 期待されるのが苦手なのに、他人には期待するなんて、我ながら身勝手な人間だ。代わりに豊穣神として祈っておこう。


 梧桐志鳳。アイン・ディアーブル。あと、橙髪の……名前、聞いとけば良かった。まあ、良いや。


 ──貴方達の旅路に恵みがありますように。

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