【結社】に関する隙間
国際異能連盟に登録した異能者は、四つの組合の一つを選んで入る事になるが、更に小さな括りとして結社という区分もある。
四大組合の最高戦力は、厳密に言えば結社に分類される。
ベリスに本拠地を置く、聖蹟連合の最高戦力──前衛を束ねる結社、神聖喜劇。
チュリパに本拠地を置く、破綻枢軸の最高戦力──中衛を束ねる結社、残体同盟。
桜国に本拠地を置く、花蓮会議の最高戦力──後衛を束ねる結社、断章取義。
ダリアに本拠地を置く、球状星団の最高戦力──はぐれ者を束ねる結社、淫祠邪教。
また、超越者を中心に親衛隊を加えた派閥も、公式には結社の一種だ。
正式な結社を設立する場合、連盟に申請して、1結社につき最低1名から最高100名までの異能者を登録できる。
結社員になったからと言って、義務のようなものは少なく、単独での自由な活動も容認される為、帰属意識は高くない。
異能者1名だけの個人結社を設立したり、複数結社の掛け持ちも許される、かなり緩い制度だ。
逆にメリットとしては、他の結社員と情報交換や技術交流を行えたり、結社外の者よりも優先して互いに協力を要請できる。
「うっし、清掃完了」
その言葉を合図に、宙を飛び回りながら窓拭きに精を出していた人間の生腕達が、跡形もなく消え失せた。
少年のような見た目の小柄な男性が、幾重にも結んだ橙色の長髪を揺らし、充実感のある笑顔で志鳳を見上げた。
「いやー、志鳳ちゃんが手伝ってくれると、掃除が捗って助かるぜ」
稜鏡の双菊離盃。
極度の綺麗好きであり、清掃活動に人生を懸ける断章取義の超越者。
シグネットは人体。生物系のシグネットの中でも、かなり複雑で珍しい代物だ。
生物系とは、特定生物を具現し、自在に操作できるシグネットの総称である。
生物系の異能者曰く、別に魂や生命を創造しているわけではなく、生物を規定する因子を擬似的に再現しているだけ、らしい。
特定物質を具現する物質系と違い、シグネットの産物が自己判断で動く長所があるが、精神系の干渉を受けてしまう短所もある。
「そういや、志鳳ちゃん。何か用があって本部まで来たんじゃねぇの?」
二人は先ほどまで、花蓮会議の本部の廊下を掃除していた。
当然、多くの異能者から注目されたが、超越者に話しかける身の程知らずはいない。彼らは雲の上の存在なのだ。
しかし、好奇心は抑え切れないのか、遠巻きに眺める者はいる。
これが断章取義のボス──常に周囲を威圧している玄松夕鶴ならともかく、志鳳と離盃は敵対しなければ温厚だ。
「そう。鹿苑を待ってる」
「ん?ボクの話をしてたところだったり?」
そこに偶然、幸薄そうな錆色の髪の超越者──紅葉谷鹿苑がふらふらと歩いてくる。
「おー、鹿苑ちゃん。完璧なタイミングだぜ」
「なんか、この場所で会える予感がしてた」
「志鳳ちゃん、実は過去だけじゃなくて、未来も知覚してたりしないよな?」
「それは……残体同盟のタヴとキャラが被るから嫌。ただでさえ僕は、超越者の中では影が薄い方だから」
「他の連中が濃過ぎるだけな気もするぜ」
そう言う離盃も充分に濃い部類なのだが、本人に自覚はない。
基本的に超越者は皆、自分が一番の常識人だと思っている節がある。
超越者がその気になれば、力尽くで世界の常識そのものを変えられるので、ある意味では間違っていない。
「鹿苑。これ、杜鵑花から」
「ああ、整備を頼んでた器仗だったり?」
器仗とは、術式の行使を補助する祭具だ。
剣の柄に似た掌サイズの祭具で、術式を構築する際の手間と時間を省略できる。
また、注いだマナを固めて、柄から好きな形状の刀身を伸ばせるので、前衛タイプの異能者には特に重視される。
サラートの使う大槌のように、少し変わった武器を形成する事も可能だ。
「ごめん。杜鵑花がどうしても手を離せなくて、僕が代理で持ってきた」
現在、杜鵑花は整備士として、遺失支族との交戦でボロボロになったプレイスホルダーの義体を修理している。
志鳳は彼女を手伝えるほどの技能を持たないので、代わりに雑用を引き受けていた。
「まあ、彼女も職人だから、忙しい事もあるだろうね。ボクは別に気にしなかったり」
そう言って、鹿苑は器仗を握り、携帯していたペンを逆の手で軽く放る。
『口伝──織り成す芸術』
鹿苑が術式を発動すると、大量の細長い繊維が出現し、ペンを縛り上げた。
数度、同じ術式を試し撃ちして、彼は満足そうに器仗を仕舞う。
「マナを術式に変換する時の効率と速度が、ボクの要望通りに調整されてるね。細部にも粗がない、丁寧な仕事だったり」
「ん。杜鵑花は凄い」
友人を褒められて、志鳳は無表情ながら嬉しそうに胸を張った。
「およ?何だか廊下が綺麗になっておるの」
そこに、クリーム色の髪をカチューシャで留めた小柄な女性──舞萩猪尾が通りかかる。
「うわー、床も窓もピカピカっす!」
更に明るい金髪の女性──弱竹美虎も現れた。
「どうせ離盃クンの仕業っしょ?」
ホスト風の青みがかった銀髪の男性──菖蒲酒八橋まで出てくると、離盃が口笛を吹く。
「おいおい、断章取義が勢揃いだぜ。記念撮影でもするか?」
「おっ、撮るっすか!?」
美虎が軽口を真に受けて、撮影用の祭具を取り出した。
「イケメンに撮って欲しいっしょ」
「妾はセクシィな感じで頼むかの」
「ノリが良過ぎる」
「え、本当に記念撮影する流れになってたり?」
個々で関わる事はあっても、複数人が集まる機会は少ない。だが、面子が揃えば意外と盛り上がる。
「そもそも、何の記念なんだぜ?」
「発案者がそれ言うんだ……」
それが、断章取義という結社である。




