32 みんなで道を作る!③
強い海風が、吹き抜けていく。
潮の香りと湿った土の匂いが混じる中、リタたちはシャベルを肩に担ぎ、谷間を見下ろしていた。そこは、拠点と港をつなぐ道を作るための最後の難所。
雨のたびにぬかるみ、足を取られる泥のくぼ地だった。
「ここをととのえれば、海と拠点が一本の道で繋がるんだな。道が繋がれば交易をしやすくなる。いっそう気を引き締めなければならないな」
フレイアが袖で汗を拭いながら言う。
すでに服は汗で湿っていたが、その表情には疲れよりも喜びが浮かんでいた。
「このあたりは他よりも水はけが悪いからな。袋に土を入れて高さをかさ増ししても足りそうにない」
エリオットが膝をつき、地面に指を差し入れて感触を確かめる。
「西にある斜面から流れ込む水がここに集まってる。道に土のうで土を盛るだけじゃ、不十分だな」
「何か策があるの?」
シンディが問いかけると、エリオットは紙に案を書き出す。
「斜面の水が道に来ないよう排水溝を周囲に掘って、土のう袋の下には砂利を多めに敷こう。水の逃げ道を作れば、ぬかるまないはずだ」
「いいんじゃないかい。やってみよう!」
「そうだな。やってみる価値はある」
サラとゴードンはさっそく土にスコップをさす。エーデルフリートも袋を両脇に抱えてやる気を見せる。
「おーっし、やるぞー! あと少しで完成、楽しみだな、ミィ」
『クックックッ。このゼルフェインのために力を尽くすが良い人の子ら……ぎゃふん!』
見ているだけなのに偉そうなことを言うぴーたんに、シンディがチョップをかました。
「みなさん、がんばりましょうー! 休憩が必要ならいつでも言ってください!」
ルーシーはみんなのためにお茶とお弁当を運ぶ。
五日後の夕暮れ、最後の土嚢がぬかるみに据えられた。リタが深く腰を落とし、しっかりと地固めする。
「よし……これでええな、道の完成らわ!」
声に出したその瞬間、周囲から歓声が上がった。
サラが誰よりも早く歩いてみせ、しっかりと地面を踏みしめて頷く。
「崩れないわ。ほんとに、できたんだね……!」
「土の道だけど、おれたちみんなで作った道らて!」
リタは大きく伸びをして、これまで作ってきた長い道をふり返る。
皆が道を眺める中、ぴーたんがふんぞり返って宣言する。
『クックック、ふはーーーっはっはっはっ! この道を『キングゼルフェインロード』と名付けよう!」
「却下だ!」と即座にフレイアのツッコミが入る。
それからリタたちは道の完成を報告するため、手紙をしたためた。
本土との交信用の伝書鳥の足に結んで飛ばす。
ぴーたんは相変わらず『これは我が帝国の大動脈……』とブツブツ言っていたが、リタはその横で満足げに笑った。





