29 みんなで道を作る。②
道の施工がはじまって、はやひと月。
仕事に慣れたことで日に日に作業が効率的になり、拠点から海辺までの経路の半分が道になった。
途中何度か雨の日があったが、道になった部分はぬかるむことなく、快適に歩くことができる。
成果が目に見えるとやる気も増すというもの。
今日も今日とてみんなは道路建設に力を入れていた。
エリオットは土を掘っていた手を止めて、額から滴る汗を袖で拭う。
筋肉がついて背も伸びて、さすがは成長期といったところだ。屋敷にこもって本を読んでいた頃と比べたら別人だ。
「今日はここまでかな。リタ、そっちはどうだ」
「でぇじょぶらよー。これで終いだ」
リタも麻袋に詰めた土を平らに並べて、一息ついた。エリオットを見上げて笑う。
「あはは。兄さん、顔に泥がついとるよ。ほれ」
リタはタオルで兄の顔についた泥を拭き取る。
貴族として暮らしていた頃は僅かな汚れがつくのも嫌がっていたが、ここで生活するうちにそんなことを言わなくなった。
みんなが同じように仕事に専念して泥にまみれているのだから、自分は汚れたくないなんて言ってもしかたない。
「兄さんここに来てから背が伸びたの。見上げると首が痛い」
「……父上と母上が今の僕を見たら気絶するだろうな。色々な意味で」
物資を運んでくるユージーン家からの遣いが監獄島の話をしてくれたが、「ミズロース夫妻は相変わらずらしい」と笑っていた。
エリオットが与えられた役目を受け入れて仕事を頑張っていると聞いたら少しは「子供に恥じない親にならねば」と考えてくれるかと思いきや、「由緒正しいミズロースの人間が底辺の仕事なんて」と嘆いているらしい。
ミズロース夫妻が反省する日は遠そうだ。
ゴードンとエーデルフリートがスコップと台車を片付けて集合した。
「こっちも終わった。日が暮れる前に戻ろう」
「サラたちも終わったかな。リタ、見に行ってきてよ」
「わかった」
サラとフレイアは現在畑作業の方に割り振られている。
道路建設と並行して、畑を拡張中なのだ。
伯爵家の要望で、野菜の種類を充実させていく。
これまで原生イモとニンジンだけだったところに、葉野菜やトマトといった野菜も作付した。
他にも種を仕入れたものの育てられずにいたという野菜も植える予定だ。
リタが畑の方に行き、シンディがゴーレムを召喚して今日作った部分を均していく。
「何度見てもシンディの土魔法はすごいな」
「あら。ありがと、エリオット。あなたも少しだけ使えるようになったじゃない。水魔法と相性がいいなんて貴重よ」
エリオットは毎日仕事が終わってから、シンディに魔法を習っている。
土と火の属性とは相性が悪いため使えないが、その代わり風と水の適性があった。
右の手の平に意識を集中して、精霊に呼びかける。
「水の精霊よ、ここに」
コップ一杯くらいのわずかな水が空中に浮かび、弾ける。
まだ習い始めてまもないから、今はこれで精いっぱいだ。
「うーん、だめだ。何が足りてないんだろう」
「練習あるのみよ。感覚をつかめれば雨を降らせるくらいになるわ」
「それができたら、わざわざ川まで水汲みに行かなくて良くなるな」
現在の畑作業は川に水を汲みにいってそれをまいている。労力がかかるから、少しでも楽になればとエリオットが考える。
けれどシンディはそれを止める。
「前にも教えたけど、それはだめよエリオット。魔法に頼りきりになると人は考えることをやめるわ。あたしの故郷では、誰もが魔法でやればいいだろうと言って自分で畑作業をしなくなっていたから。それに、水魔法での水やりに固定してしまったら、あなたがいなくなったあとにどうするのよ」
高齢化の進んだ農村だからというのもあってか、動くのを厭う老人たちはシンディに労働を押し付けたがった。
ここの人間はそうなることはないが、何でもかんでも魔法で解決という考えは根本から間違っている。
「そう、か。うん。そうだよな。何か正しい使い道を考えてみる」
「そうなさい。それに、道路を作り終えたら、川から拠点までの水路を引けばいいのよ。そうすれば何度も山に入らなくてよくなるでしょう。料理に使うにかしても、洗濯するにしても」
「ああ」
シンディは、いっそ実の親よりも親らしいことを言う。
魔法の師匠というだけでなく、エリオットはシンディを尊敬した。
島の開拓は、これからも続く。みんなで力を合わせながら進んでいく。





