27 シンディはエーデルフリートの呪いについて研究する。
朝から雨が降り続いていた。
ずっと地図作成や測量で働きづめだったから、ちょうどいい休息日になっている。
しかし、シンディだけは違った。
「デルの呪いについて研究をするわ!」
そう宣言したシンディは、テーブルに分厚い魔法書や薬草を並べ、真剣な眼差しで調べ物を始めた。
リタたちは興味津々でテーブルの周りに集まる。
「せっかく休息なのに、俺の呪いについて研究するって、いいのシンディ?」
「いいわよ。だって、島には女性が何人もいるのよ。それにあなた小鳥に触れただけでもマンドラゴラになってるから、生活しづらいでしょ?」
シンディは、昨日の探索で採取した薬草の束を取り出す。
そのうち一つは、紫色の小さな花をたくさんつけた草だ。
「これ、ロビタ草っていうの。負の魔術に対して反作用を持つ希少な薬草らしいのよ。大陸じゃかなりお金を積まないと手に入らないようなものね。この島に自生していて助かったわ。これを使って、あなたの呪いを抑えられないか試してみるわ」
テーブルの上には、紫色の小さな花をつけたロビタ草が並べられていた。シンディはすり鉢で花を丁寧にすりつぶし、濃い紫の汁をしぼりだす。
「この汁を使って、あなたの腕に呪文を書き込むわ。一定時間だけ呪いを弱める効果があるはずよ。ほら、袖をまくって」
「……痛くない?」
「大丈夫よ、ちょっと染みるかもしれないけど」
エーデルフリートは少し不安そうに腕を差し出した。
シンディは細い筆を取り出し、ロビタ草の汁をつけると、エーデルフリートの腕に魔法陣のような模様を書き始めた。
「おお……なんかくすぐったいような……でも、少し熱い感じもするな……」
エーデルフリートが呟く。
「呪いそのものを消すことはできないはけれど、これが書かれている間は発動しないはずよ。ただ、汗で滲んだり雨に当たったり服でこすれたり……魔法陣が欠けたら効果はなくなるの」
シンディが書き終わると、エーデルフリートはおそるおそる手を握ったり開いたりして、体の違和感を確かめた。
「……なんか、いつもより軽い気がする」
「試しにリタと握手でもしてみたら」
「おれの出番か」
じっと横で見ていたリタが目を輝かせる。日本になかった不思議なものを見るのが楽しくて仕方がないのだ。
これまでは肩にちょっと手が触れたくらいでもマンドラゴラ化していた。
けれど、リタとエーデルフリートが握手しても、何も起こらない。
「……平気だ! 呪いが打ち消されてるんだ! やったあ!!」
「やった! 成功ね!」
シンディが満足げに笑った。
「ただし、効果は時間制限付きね。今のところ、半日くらいしか持たないと思うわ。定期的に書き直す必要があるわね。」
「まあ、それでも何もしないより全然マシだな!」
シンディがエーデルフリートのために呪文を書いているのを見て、エリオットが興味を持つ。広げた魔法書のページを読んでつぶやく。
「なるほど……魔力を込めた薬草で、呪いの反作用を起こすのか……。シンディ。勉強すれば僕も魔法を使えるようになるだろうか?」
「え?」
シンディが驚いたように顔を上げた。
「エリオットは魔法を使えるようになりたいの?」
「僕も使えるようになったら、シンディだけに負担がいかなくて済むかなって。学びたいんだ。魔法のこと」
シンディはしばらく考え込んだ後、うなずいた。
「知識をつけるだけなら問題ないわ。でも、実践は……正直、魔力が弱いと限界があるのよね。魔法を使えるかどうかは、生まれ持った魔力量に左右されるから。半年学んでゴーレムを操れるようになる人もいれば、何年学んでも種火も出せずじまいという人もいる。生まれた性別を変えることができないように、魔力も固定。努力で埋めようがない部分なの」
「それでもいい。できる範囲で学びたい」
エリオットの目は真剣だった。
「僕は力が弱い。だから知識面でみんなをサポートしたい」
その言葉に、シンディは少し考えてから笑った。
「いいわ。だったら、まずは基礎魔法の理論から教えてあげる」
「ありがとう、シンディ」
エリオットは嬉しそうに微笑んだ。





