20 開拓メンバー顔合わせ!
リタたちクシェル島の開拓メンバーが揃い、それぞれ簡単に自己紹介をすることになった。
まずエリオットが一歩前に出る。
「僕はエリオット。リタの兄だ。君たちは、リタが遭難したとき一緒にいたんだろう。リタから話を聞いている。ありがとう。きっとリタ一人では生き残らなかっただろう。リタが生きてここにいるのは君たちのおかげだ」
エリオットは背筋を伸ばして、エーデルフリートたちに頭を下げる。
「こっちこそ、リタにはすごくお世話になったよ。ありがとね。あ、俺はエーデルフリート。デルって呼んでもらってかまわない。そんで、肩に乗ってるのがぬいぐるみのミィ。よろしくねー」
エーデルフリートの肩でミィがピョコンと跳ねる。
「あたしはシンディ。このカピバラは使い魔のぴーたんよ。よろしく」
『キュルルぅ。リタによく似ているなエリオットとやら。このゼルフェイン・セインツロウ・ガブリエルと対面することができた僥倖をかみしめ……ぐすぴーー。ぐごーー』
シンディが指パッチンで睡眠魔法をかけて、ぴーたんは床の上でいびきをかきはじめた。
「うふふ。ごめんなさいね〜エリオット。ぴーたんの発言は無視してくれて構わないから」
「…………シンディ。転がしたままでいいのか、これ」
初めて主従ボケとツッコミを見たエリオットは若干引いている。
「五分くらいしたら起きるから問題なしよ。ルーシーも挨拶なさいな」
名指しされて、ルーシーは元気よく手を挙げる。
「ルーシーはメイドです。よろしくです!」
「よろしく。ルーシーはウサギ獣人なのか。草食系獣人は肉や魚を食べないというのは本当だろうか」
「はいー。お野菜以外は消化できないので、おなかをこわしちゃいます」
「そうなのか。勉強になるな。百聞は一見に如かずとはよく言ったものだ」
ミズローズ家の屋敷はオルドレイクが差別主義者だったので獣人はいなかった。舞踏会以外であまり外に出る機会もなかったため、エリオットは人間以外の種族とと会うのはこれが初めてだった。
次にサラがお辞儀をする。
「アタシゃサラだ。よろしくたのむよ」
ふくよかで朗らか、快活。なぜ監獄島にいたのかわからないくらい明るい笑顔を浮かべる人物だ。
フレイアが右手を持ち上げ敬礼する。
「私はフレイア。監視兵としてここに配属されました。モンスターが出たときにはすぐに呼んでください」
最後にゴードンが敬礼する。
「オレはゴードン。監視と護衛を兼ねている。何か困りごとがあればいつでも頼ってくれ」
年は五十そこそこ。背丈は二メートル近く。鍛え上げられた筋肉がついていて、リタの前世の知識で言うならレスラーにいそうなシルエットだ。
必要なことしか話さない姿勢から、とても生真面目なのがうかがえた。
受刑者のリタ、エリオット、サラ。
監視兵のフレイア、ゴードン。
表向き監視役のエーデルフリート、シンディ。
メイドのルーシー。
計八名で生活していくことになる。
住まいとして領主が用意してくれた建物はシェアハウスのようになっていた。
玄関に入ってすぐの場所は共用スペース。
食堂はキッチンとテーブルセットがあり、調理器具や調味料も揃っていた。
こちらの世界の冷蔵庫、氷魔法の魔導具まで設置されている。
魔導冷蔵庫を開けてみたらなんと壺入り味噌や醤油があった。
「こ、これは味噌と醤油!? オーキナ国の調味料だよ。アタシの旦那が商売で取り扱っていた。領主様はこんなものまで提供してくれたんかね」
「サラ。この二つはオーキナの調味料なんけ。おれはこの世界に味噌と醤油があったことに驚いとる」
「知らないのかいリタ。フローレンス子爵令嬢のクリティア様が数年前に広めた長期保存のきく調味料だよ。WASHOKU本のレシピもとても良くてね」
サラが鼻息荒く教えてくれる。それでリタは色々と察した。
(玲奈は孫ん中でいっちゃん酒豪だすけな……。洋食文化の国でも和食を食いたかったんらな……)
ひ孫の玲奈は日本食をこよなく愛する女だ。
子どもの頃から焼き鳥、串かつ、煮豚といった酒に合いそうなものを好んで食べていた。
さらに拠点の中を見て回る。
奥の扉を開けてみると二段ベッドが並んでいた。ベッドとベッドの間は仕切りカーテンがある。
「おお! ええんかね、こんなに好待遇で」
リタはベッドの布団をばふばふ押してみる。囚人に充てがわれたものとは思えないほどに、綿がたっぷりつまった良い品だ。
タンスの引き出しを開けてみたら、着替えが入っていた。
サラとエリオットも部屋の中を見て驚く。
「監獄島と全然待遇が違う。見ず知らずの伯爵様がアタシたちにここまでしてくれるなんて」
「ユージーン伯爵は領民思いな人で名高いからな。クシェル島を開拓する僕達も領民として扱ってくれるということだろう。器の大きさが違う」
隣の部屋も同じ作りの、複数人向けの寝室だ。
それぞれ男性陣と、女性陣で部屋を分けて使えるようになっていた。
感動している面々に、シンディが種明かしする。
「リタが監獄島に行ったあと、ユージーン伯爵令嬢から海からここまで結界を張ってくれって頼まれたのよ。それで大工を呼んで家を建てて……完成したのが五日ほど前のことね」
「そうそう。俺たちも大工さんの手伝いしたんだよ。人手が多いほうが早く終わるし、スジがいいって褒められたんだよー。俺、もしかして大工の才能あるかも!」
「あきゃー。デルが大工け。んだば物置小屋がほしいときデルに頼みゃ作ってくれるんかの」
「ごめんむりー。犬小屋すら作れないのに。運ぶの手伝ったり板を支えたりしてただけだよ」
エーデルフリートはてへっと頭をかいて笑う。いつも通り、調子に乗っただけだった。
「こっちの建物が台所と寝室……隣の建物は何があるが?」
「備品小屋ですよー。換えのシーツや農具、工具がしまってあります」
「いたれりつくせりらなぁ」
刑務、服役とは名ばかりだ。
「ここまでしてもらったのだから、領主様のために仕事に励まないといけないな」
「そうらな兄さん。ゴードンさんや。都市開発計画はあるんらろっか」
無秩序に家を建てたり畑にするのは開拓とは言わない。
長期的に見て人が移住できるような村にするには、どこを住宅地にしてどこを畑にするという設計図が必要になる。
「モンスターがいるから地図も何も存在しない、まずは測量からはじめてほしいと話があった」
領地とはいえ、これまでずっと手付かずだった島。全体像も地形も何もわからない場所の計画図は書けない。
「道がないし大人数で行ってもはぐれかねないな。僕は少人数で測量に向かったほうがいいんじゃないかと思う」
「地図を書けるしょがこん中におるんか?」
「地図を書くのは僕がやる。戦えないから、そこは戦える者に任せることになるけれど」
エリオットはかつて屋敷にこもり、あらゆる本を読んでいた。領地運営に役立つかもしれないと、地図の読み書きも得ている。
使い道がなかった知識をこんなところで使うことになるとは想像したことがなかった。
フレイアが測量班に名乗りを上げた。
「なら、私が護衛につこう」
「おれもついていくわー。二十日とはいえここにいたから、最低限方向感覚はあるすけな」
「あたしも行くわ。ゴーレムを使わないと渡れないところもあるから」
エリオット、リタ、シンディ、フレイアの四人が地図を作るため、島の調査に向かうことになった。





