21 クシェル島の地図を作る。エリオットはひ弱さん?
リタたち四人は島全体の地図を作成することになった。地図があれば効率的な開拓が可能になり、モンスターの出没エリアの把握にも役立つ。
島のおおよその形の地図はあるが、中央部分は人が踏み込んだことがないため未知の領域。
今はただの白地図だ。
島の外周探索を始めて三十分。
真っ先にエリオットがバテた。
リュックを背負ったまま膝をついて肩で息をしているから、リタとシンディがエリオットの分の荷物を半分持つ。
エリオットはぴーたんに乗って移動することになった。
「くそぅ……。島がこんなに広いなんて。紙の上だともう少し狭そうなのに」
「はっはっはっ。兄さん屋敷にいた頃は石像みたいらったからなぁ。食事のとき以外部屋におったろ」
『軟弱なり人の子よ。カピバラの我より弱いとは』
「う、うるさいな……っひえ、クモが!」
ぴーたんにまで言われる始末だ。
顔にクモがくっついてのけぞり、ぴーたんから転げ落ちそうになった。シンディが背中を支えてなんとか体勢を立て直す。
「これからは力仕事が増えるでしょうから、体力作りしないとね。がんばりなさいな、エリオット」
「……明日からランニングでもしてみようかな……」
普段から体を動かすことがなかったから、体力も筋力も妹のリタより少ない。対するリタは前世の記憶を取り戻す前から使用人に混じって庭園の手入れなどをしていたから、令嬢のわりに体力が有り余っている。
「エリオット、体力がないなら、ペース配分はきちんと考えるべきだ」
「うぐ……」
フレイアのアドバイスはリタたちの言葉よりくる。エリオットは泣きたい気持ちになった。
山道を進む途中、リタが何か踏んずけた。
「なんだこりゃ」
視線を下げると、ぷるんとした半透明の物体が起き上がった。
例えるならバケツで作った寒天。
「スライムか! みんな下がれ!」
フレイアがすぐに警告を発した。
スライムがぽよんと跳ねて分裂し、三匹になった。
シンディが前に出て呪文を唱える。
「大地よ、鋭き刃となりて我が敵を穿て! グランド・スパイク!」
一体の核を破壊して、スライムの体が崩れる。
「さすがは魔法使いですね。私も負けません!」
フレイアが剣を一閃して、スライムを切り裂いた。
スライムは核が壊れたために、へにゃりと平たくなってしまった。
リタはスライム肉を摘んでつついて、シンディに聞く。
「シンディ。こいつ食えるかね?」
「食べれなくはないけど、美味しくはないわよ」
「おれの口には合うかも知れねぇし。どれどれ」
「あっ」
シンディが止める間もなく、リタはスライムを一口ちぎって口に入れた。たしかに味は殆どない。けれど歯ざわりに覚えがあった。
「ゼリー……いや、この弾力は……コンニャク」
「うわ。リタ、お前何食ってんだ。そんなもん出せ」
「いや、兄さん。これは食える。茹でて味噌だれかけたら田楽になるわ」
リタはスライム肉を切り取って革で包むと、リュックに詰めた。
「……………リタがなんでこの島で生き残れたのか、わかった気がする」
エリオットの諦めたような呟きに、フレイアが深く頷いた。
地図に情報を書き込みながら進んで二時間ほどが経過した。
『この先は水の湧きでる源がある』
ぴーたんが言うままに草をかき分けていくと、泉に行き着いた。
泉の少し上に湧き水の源がある。
「ええな、このあたりのは川で汲むより更にきれいな水らわ」
「地図に記録しておこう」
エリオットは真剣な表情で泉の位置を描き込み始めた。
今日のところはここまでにして、一旦拠点に引き上げる。
体力作りも兼ねて、エリオットは帰路を自分の足で歩くことにした。
おうとつの激しい下り坂は、容赦なくエリオットの体力を奪う。
ものの十分でエリオットは汗だくになった。
「無理しないほうがいいのではないか?」
「む、無理なんて、していな…………ケホ、ケホ」
エリオットより長く歩いているのに、フレイアは涼しい顔をしている。
女性といえど軍人として鍛えているため、フレイアにとっては軽い運動だった。
フレイアにかっこ悪いところを見せたくないと思っても、エリオットは引きこもりで本の虫。
この四人の中で一番体力がないのは事実だ。
水筒の水を飲んで喉を潤す。
足は産まれたての子牛のようにカクついている。
「はぁ……。僕が住んでいたあの領地も、遠いご先祖様がこうやって苦労して拓いたんだな」
疲れきっていて汗も滝のように流れている。
でも、嫌な疲れじゃない。
見たことを地図に記録して、領主がこの情報をもとにして開発計画を立てる。
この島を村にする礎になるのだから、細かなところまで記していきたい。
「兄さんからその言葉を聞くなんて思わなかった」
リタの記憶にある、屋敷にいた頃のエリオットは、両親に教えられた思想を受け継いでいた。
監獄島での出会いと過ごした時間は、きっとエリオットのあり方を根底から変えてくれた。
「なんだよ、リタ。悪いか?」
「んーにゃ。おれはええと思うよ、今の兄さん」
「………ふん」
兄妹のやり取りを、シンディとフレイアは静かに見守った。
休憩を挟んで、一行はまた歩き出す。
地図作りはまだまだはじまったばかりだ。





