19 リタたちは再び集う。
「もういいわよ。わがままを聞いてもらってありがとう、フレイア」
クリティアの合図で、フレイアは自分の耳をおさえていた手を離した。
簡潔に、「グレアス国とユージーン伯爵公認のもとに、リタにはあの無人島……クシェル島の開拓という刑務が充てがわれた」とだけ説明する。
島がどんなところかその目で見ているから、フレイアは話を聞いて顔を曇らせた。
「……そんな。せっかく無人島を出られたのに、君はそれでいいのか、リタ」
「ああ。大工を呼んで住むとこを作ってくれるっちゅうし、食料も国から定期的に送ってくれるっちゅうし、国に貢献するんに変わりねぇなら開拓しよて思ったんらよ」
「……うーん。やっぱミズばあちゃんだわ。肝が据わりすぎている」
クリティアは苦笑いするしかない。
リタの答えを聞いてフレイアは決意した。
「クリティア様。あなたに裁量権があるのならば、私をそこの監視兵にしてください。モンスターが出る地の開拓なら、剣も必要になってくるはずです」
「たしかに戦える人間がいるのは助かるけれど、あなたこそ、それでいいの? ここよりもずっと危険よ」
「だからこそです。私は民を守るために剣を取ったのです」
フレイアの決意はかたく、最終的に監視兼護衛としてフレイアも無人島に行くことになった。
リタ以外にもそちらの刑務につく者はいないか看守から問われて、エリオットとサラが名乗り出た。
監視兵はフレイアの他にもう一人、伍長のゴードンがくることになった。
ちなみに、オルドレイクとカトレアは「化物のうろつく島になんか行きたくない。監獄島のほうがマシ」と言って監獄島に残った。
そしてクリティア来訪からさらにひと月。
リタたちは船に乗せられ、ユージーン領のクシェル島に降り立った。
「おおー。変わらんなぁ」
もしものとき自分の身を守れないと困るということで、この島にいる間は手枷無しになる。
ゴードンは大男で、見かけによらずとても几帳面だ。
ゴホンと咳払い一つして両手で手紙を持って読み始める。
「ユージーン伯爵からの手紙によると、オーキナ国側で選んだ監視者は先に到着しているとのことだ。友好国オーキナとの国交をこれからも良好に保つために尽力するように。自ら志願したのだから、やっぱり怖いから逃げようなどとは思わないようにな。モンスターが出たらおれとフレイアで対処する。受刑者の君たちは危険なのですぐ退避するように」
エリオットとサラは神妙な顔でうなずく。
こうもトントン拍子に事が運んだのは、いろいろな思惑が絡み合った故である。
グレアス王国にとって罪人はタダで使い倒しても許される奴隷のようなもの。
モンスターのいる島を開拓したい、罪人を開拓要員に貸してほしいというユージーン伯爵の申し入れは願ってもないことだった。
未開の島を開拓するのに『死んでも困らない人材』を派遣して、恩を売ることができる。
しかもクシェル島へ送る生活物資や食料はユージーン伯爵が責任を持って用意する、クシェルに常駐する監視兵の給金もユージーン伯爵が払うと言う。
罪人をうまく片付けられる上に人件費削減も叶う。
グレアス王国にとってメリットしかないため、すぐに打診に乗った。
「オーキナからの監視者っちゅうんは、どんなしょらろっかね」
「この先に建てた小屋で寝起きするように、と書かれているからそこにいるだろう。ついてこい」
ゴードンを先頭にして向かうと、そこはリタたちの拠点があった場所についた。
あのときの即席テントは撤去されて、代わりに木造小屋が二棟建っていた。
「家を作ってもらえたんらな。これなら野宿よりええのう」
「リタ。お前本当にここで野宿していたのか……? 冗談きついぞ」
「そうらよぉ兄さん。そこに拾った布団をしいて寝転がっとった」
エリオットだけでなく、サラもドン引きしている。
「あんた本当に、よく半月も生きていたねぇ」
「はっはっはっ」
「行軍の訓練で幕を張って寝起きすることはあったが、まさか軍人でもない女の子が野宿するとは……」
フレイアが驚き半分感心半分であたりに視線をくばる。
畑の作物はさすがにふた月も放置したから、しなびている。
森の中からバケツを抱えた人影が出てきて、リタたちに気づいた。
「リタ!!!!」
「ルーシー!?」
見間違えるはずもない。
この島で苦楽をともにしたウサギ獣人の女の子、ルーシーだった。
ルーシーはバケツを抱えたまま走ってくる。
「リタ、リタ! ルーシー、ここでメイドとして働くことになりました!」
「はぁ!? 家に帰れたんらろ。なんでまたここに」
「ルーシーがお願いしたのです! クリティア様から、リタがここの開拓を頼まれたと聞きました。だから、ルーシーは望みました。リタに、みんなに、お仕えすると」
「みんなって」
答えはすぐにわかった。
小屋の中から、シンディとエーデルフリートが出てきた。
ぴーたんとミィもいる。
「シンディ、デルも。どうして」
「見ての通りよ。ユージーン様に雇ってもらったの。リタだけじゃ無茶をするでしょうから」
『クックックッ。このゼルフェイン・ロルフ・オーベルジュ様の冒険第二章が幕を開け』
「俺も俺も! 無人島開拓絶対楽しいから、俺もここに置いてって頼んだんだ。よろしくねー」
『我の決め台詞を邪魔をするでないわ! 小童!』
一度バラバラになった漂流メンバーが、自らの意志でまたここに集った。
あのときは未来がわからないまま、助けを待つためだけに日々を送った。
これからは、人が住みよい場所にするための開拓の日々を送る。
「ありーがとうね。また会えて嬉しいわ。ルーシー、シンディ、デル、ぴーたんもミィも。みんなでええ島を作ろうて!」
「はいです。ルーシーも、がんばります!」
「がんばりましょ」
「任せろー!」
『我の活躍はこれからだ。刮目せよ!』
ルーシーがリタに飛びついて、シンディもエーデルフリートも駆け寄ってくる。
こうして、再びリタの無人島生活が始まった。
1章 終幕
2章 無人島開拓! に続く。
次回から2章突入です。





