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act.87 失われた右腕と、記されし雷鳴


 情報を守るために施設を爆発させるなんて無茶苦茶な話だ。などと愚痴を言っていても仕方がない。負傷したモニカをマキナが抱え上げ、必死になって階層を上る。


 自分たちの安全も問題ではあるが、さらなる問題は外に出た時だ。どれだけの規模で爆発するのかは不明だが、ルイーネ遺跡こと第四研究施設を取り巻く人々の避難も必要だ。幸い各階層に魔物の姿はなく、順調に駆けあがっていく。


 そして第一階層まで辿り着き、久しぶりの日の光に当たる。


「皆下がれ! 遺跡が爆発するぞ!」


 外に出た瞬間、開口一番に叫ぶ。いたのは入り口から出てくる魔物に備えていたギルド員十数人だけだった。

 彼らは初めイグナールの言葉の意味を理解しかねている様子だったが、こちらが必死になって逃げてくる様を見て、冗談の類ではないと思い至ったようだ。


わらわたちは大丈夫じゃ! 早く逃げい!」


 マキナが抱えるモニカの姿を見て手伝いに来てくれようとしていたギルド員たちを制止し、退避を促すヴィクトリア。


 彼らの目からは、華奢な少女が人一人を抱えて走っているので、手を貸そうとしてもおかしくない。だが心配無用だ。マキナの身体能力ならば、それくらいは造作もないことなのだから。第四研究施設を出て、真っ直ぐルイーネの町までの道を走る。


 イグナールはチラリと後ろを振り返り、皆が後ろに付いて来ているかを確認した。その瞬間、ルイーネ遺跡が大きく膨れ上がるように吹き飛んだ。その振動が地面を伝って、今もなお走るイグナールたちに襲い掛かる。


「キャ!」


 イグナールは倒れずに済んだが、少し遅れていたエルフリーデが、振動に躓いたような格好で地面へと倒れてしまう。

 施設の爆発に巻き込まれずには済んだが、油断はできない。次に建物の破片などが襲い掛かってくる。イグナールが反転して彼女を守ろうと駆けだそうとした時、エルフリーデの後方の地面が膨れ上がり、巨大な土壁となった。


 ヴィクトリアの魔法だ。爆発で生じた爆風を土壁が防ぐ。周りの木々はそれの影響で大きくしなり、一部の若木が根ごと持ち上げられて倒壊し、辺りに焼ける臭いを残す。

 ヴィクトリアの機転が無ければイグナール一行もこの熱を持った爆風に晒され、ただでは済まなかっただろう。


「何とか落ち着いたか……」


 しばらく土壁に隠れ、落ち着いた頃に立ち上がり周りを見渡す。辺りは爆発の威力を示す惨憺たる破壊具合である。しかし、ギルド員たちへの被害はなさそうだ。


 爆発が収まり落ち着いた頃、俺たちはそのままルイーネの町へと戻った。ルイーネ遺跡こと第四研究施設がどうなったかは少し気になるところではあるが、それよりもモニカの治療を優先した。

 彼女は笑いながら「大丈夫だよ」とは言っていたが、青くなった顔を見るとこれ以上引き延ばすわけにはいかなかった。


 そしてルイーネの町にいる医者にモニカを見てもらったのだが、彼女が自分に施した治療痕を感嘆しながら観察した後、「自分にできることはもうない」と言ってその日の内に返されてしまった。

 それほどまでにモニカの回復魔法は秀でたものなのだ。


 なんせイグナール自身がよくわかっている。偶然にも雷に打たれて全身を焼かれたにも関わらず生還し、傷跡もなく治して見せたのが彼女なのだから。


 だからできることと言えば、モニカが安静にできる宿を取ることと、栄養のある食事や治療薬を持って見舞いに行くくらいだった。金銭の部分はエルフリーデが依頼料に上乗せしてくれたので、特に不自由もなくルイーネに滞在できている。


 モニカが十二分に回復してからこのルイーネを後にする予定だ。なんせ次の目的地は、ヴィスティーア山脈を越えて行かなければならない。

 目指すはケーニヒ王国、王都カイン。


 イグナールとモニカの故郷である。ケーニヒ王国領には第五研究施設もあり、イグナールが一番気になっている計画【雷電の射手】を移された第七研究施設は魔界の中にある。


 なので一度その地に踏み入れ、無事に戻って来た両親に、魔界で得た知見を教えてもらう必要があると考えた。


 それとはまた別の意味合いも含まれているのだが……。


第四章 紫電の遺跡 ―完―

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