act.86 エルフの起源、爆発へのカウントダウン
「それでは続きを。強化人間、これは魔王討伐のために行われた、人間のアップグレード。そして、人類の更なる進化を目的とした研究のようですね」
魔王を倒すために人間を強化、進化させる研究……言っていることはわかるが、荒唐無稽で理解することはできない。古代の人間たちは一体どんなことを考えていたのだろうか。
「読み上げます」
マキナは言葉を止めてエルフリーデを見やる。目が合ったエルフリーデは俯き気味に頷く。
「成果の一つがハイヒューマンの創造。以後彼らを通称エルフと呼称」
「……」
長い沈黙が流れる。エルフ族とは、人間が人間による人間のための研究結果で生まれた存在である。マキナの説明が真実であるのならばそうなる。
エルフリーデはこのことを誰よりも早く勘付いていたのだろう。人類によって生み出された新しい人類。自分自身がそんな真実に晒されれば、彼女のように取り乱してしまうのも無理はないと感じてしまった。
「ハイヒューマン。エルフは長命で病気に強く。三大欲求であり、平和の世に争いの種を生む性欲をできる限り排除することに成功。次世代は優秀な遺伝子を選定した上でDNAを採取。【セフィロト】にて生成。このプロセスにより、更なる進化と人口の操作を可能にする」
淡々と無感情に読み上げていくマキナ。彼女はただ目の前にある文字を読んでいるだけにすぎない。飛び出すのは聞いたことがない単語ばかりで、わずかに聞き取れる内容もまた荒唐無稽。
だがイグナールとモニカ、ヴィクトリアもそれを黙って聞いていることしかできなかった。下手な説明を求めるのも怖かったからだ。それは全て、当人であるエルフ族、エルフリーデを気遣ったものだろう。
当の彼女はというと……目元に涙を浮かべつつも、毅然とした表情をしてマキナを見つめていた。
「なお、先に生まれた個体においては記憶の操作を行い、今計画と進行中の作戦の存在を秘匿するものとする」
記憶の操作、計画の秘匿。エルフたちが彼らを生み出した人間たちによって秘匿されたこととは、間違いなく人魔大戦のことだろう。
これはエルフリーデが研究を始めたきっかけであり謎だった。それが今究明されたことになる。これは彼女にとって喜ばしいことなのか、知らないままでいた方が良かったことなのか。
どこまでいっても他人事でしかないイグナールたちにとって、事実に触れてしまったエルフリーデの気持ちを汲むことも、かけてやれる言葉も、どこを探しても見つけることはできない。
「なお、第四期強化人間エルフの研究と検体、およびセフィロトを第六研究施設に移動。第三期強化人間の研究と検体を第七研究施設に移動。計画【雷電の射手】は第七研究施設にて第二段階へと移行」
雷電の射手……マキナが読み上げる情報の中で、イグナール本人に関係がありそうな情報が飛び出した。
「その計画【雷電の射手】というのは何なんだ?」
「検索してみます」
端的に答え、カタカタと小気味良い音を鳴らしながらマキナが操作する。しばらくするとビーという音と共に、箱が発している色が赤色に染まる。
「申し訳ございません。私には権限がないようです」
「……そうか」
バージスの研究所でもあったことだ。今更深くは落胆しまい。しかし逆を返せば、古代の人間たちにとってはおいそれと外には漏らせない重要な情報だということだ。
それに重要なヒントは得ることができた。第七研究施設……実際にその移されたであろう研究所を訪れてみるのが一番だろう。
「マキナ、その計画が移された第七研究施設はどこにあるのかわかるか?」
「はい。先日訪れたバージス近郊の第二研究施設のさらに西へと向かった先にございます」
西……バージスよりも西に位置するとなると……。
「すまないモニカ、地図を取るぞ?」
モニカに断りを入れて、彼女のカバンを開き地図を取り出す。以前モニカがメモをしていた地図だ。そこに新たな情報である研究施設の番号をマキナに聞きながら書き足していく。
「やっぱり……」
予想通り、第七研究施設とは魔界の中にある研究施設だ。
「ほう、こんなもんコンチネント大陸のいたるところにあるんじゃのう」
イグナールの後ろからヴィクトリアが地図を覗き見る。
「ほう、妾の国の中にもこんなもんが隠れとるのか」
ヴィクトリアが言っているのは北の大地、シュネー王国の領土内に存在する第三研究施設だろう。
「マキナ、ここではどんな研究がされておったんじゃ?」
「概要だけですが、兵器開発目的とした施設のようでございます」
――ビービー!
突然、部屋の中が赤く光り始め、けたたましい音を響かせ始めた。
「第四研究施設、情報漏洩の対策のため、この研究施設は破棄されます。繰り返します。この研究施設は破棄されます」
「な、なんだ! 何が起こったマキナ!」
「どうやらシルバリオが最後の防衛機能を作動していたようです」
「簡潔に!」
「まもなくここは爆発します」
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