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act.42 閑話お悩みモニカちゃん④

 上着を脱ぎ、この前買ったばかりであるフリルの着いたシャツのボタンに手を掛ける。動きやすさを重視した短めのスカートを下ろし、紐の長さで調節しつつも、苦しくなってきたブラを外す。


 そろそろ新調する必要があるかもしれない……。


 普通の生活をするのであるのならば、あまり必要性はないのかもしれないが、戦闘などで激しく動くことの多い場合、胸を固定する下着がないと一部分が擦れたり、胸自体が激しく上下するためとても痛い。


 ヴィクトリアが着用していたようなビスチェでもいいのだが、モニカはまだまだ成長期であるため、今のような幅広く調節の利く下着の方が経済的に優しい。


 きつく締められた乳房が解放され、上半身全体が楽になる。森から吹く優しい風が蒸れた谷間を優しく撫で、気持ちがいい。最後にパンツの紐に手を掛ける。


 暗い森の中、松明の灯りの下で、ヴィクトリアの前へ裸体を晒すことになる。いくら同性と言っても、ここ数年自分以外の誰かに肌を晒したことはないので、とても恥ずかしい。


 そんなモニカの心に呼応するように、水浴びのために呼び出した水弾がスライムのように、うにょうにょと動き出す。


 そして、カバンから紅色の魔石を取り出し、炎の魔法を使って水の温度を上昇させる。昼間ならそのままでも気持ちがいいかもしれないが、夜ではさすがに風邪をひいてしまうかもしれない。


 だが、魔石に含まれる魔力も心もとないので、せいぜい人肌くらいまでだが。


 大方の準備が済んだので、巨大な水弾から小さな水弾を二つ作成し、ヴィクトリアと自分自身の前に浮かべる。


「まずは体を綺麗にしないとね」


 小さな水弾を手ですくって自分の体に掛け、今日一日の汗や汚れを流す。ヴィクトリアもモニカにならって体を洗っていく。そして、ようやくヴィクトリアと共に水弾の中に入っていく。


「はぁぁ……気持ちいい……」


 立ったままで、水の温度も最適とは言えないものの、体が水に洗われる感覚はとても気持ちがいい。一方は暗い森に晒されているとは言っても、三方はヴィクトリアの作った土壁のおかげで守られている。


「木に囲われた中での水浴びも乙なものじゃのう。まぁ、上を見上げても木なのが少し残念じゃが」


 見上げるヴィクトリアに倣って、モニカも頭上へと視線を向ける。空に輝く満天の星々が見えないこともないが、木々によって部分的にしか見えない。しかし、普段屋内での入浴しかしないモニカとしては、十分感嘆に足る光景であった。


 水弾の中で体をさすり、森の中で普段では味わえない入浴を享受する。立ったままの入浴なので、いつもよりは水に体を委ねることはできないが、それでも気持ちがいいことには変わりはない。


 しかし、入浴に浸って本来の目的を忘れてはいけない。そもそも入浴の提案が先で、ヴィクトリアの魅力を探るのが後付けであるのだが、優先度というものはいつも変化し続けるのだ。


「ねぇ、ヴィクトリアは故郷でどんなことをしていたの?」


 彼女の魅力を探る第一の方法。ヴィクトリアの普段の生活からヒントを探す。直接的な質問を控え、単なる世間話として自然に聞き出す。我ながらいい方法だとモニカは思う。


「ふむ、季節にもよるが……ゴーレムを使っての農耕の仕事じゃな」

「貴族なのに?」


 ヴィクトリアの家系は貴族である。モニカの家も貴族ではあるが、彼女とは少しばかり事情が異なる。モニカのイメージでは、家が治める領地の管理等はするものの、直接的な労働とは無縁だと思っていた。そういった労働は領民、つまるところ農民の仕事だろうと考えていたのだ。


「他の領地なら、領主がそういった仕事を積極的にやるとは聞かんのう。しかし、昼に話した通り、わらわのクレヴァリー家が治める領地では王国の食料の大部分を生産しておる。人がいくらおっても足らんのじゃ。それに、妾の家系は代々土属性魔法使いが多くてのう。労働力としてゴーレムを使役するのは当たり前になっておる。妾自身も幼少の頃からよく手伝っておった」


 幼い頃からゴーレムを作り、使役していた。ヴィクトリアの魔法が洗練されているように思うのは、普段の仕事から来ているのだろう。


「何か趣味はないの? お休みとかは?」

「趣味は……強いて言うなら狩りじゃのう。父上が存命の時はよく森へと狩りに行ったものじゃ。獲物を追って森の中を駆けるのはとても気持ちがいいぞ」


 狩りか……失礼かもしれないが、貴族のお嬢様というよりも狩人の方が彼女のイメージにぴったりとはまるように思う。それに、弛みのない引き締まった彼女の体がどうやって出来上がったのかが分かった。


 モニカも旅の中で絶えず歩き、戦闘も経験しているが、基本的には防御と回復が主な役割だ。護身術程度の槍の扱いも身につけているが、イグナールやディルクのような近接職と比べるとお粗末もいいところである。


 今度イグナールの横で槍の練習をしようかな……。


わらわからもモニカに聞きたいことがあるのじゃ」

「私に答えることができるかわからないけど……」


 こちらの質問に気持ちよく答えてもらったのだから、できうる限りは答えるつもりだ。しかし、マキナやこれからの旅のことはイグナールと相談してみないことには難しい。イグナールの力に関しても例がないことであるが、マキナのことはもっとわからない。


「ずばり……イグナールとはどこまでいっておるんじゃ?」

「え?」


 全く考えてもいなかったことで頭の中が混乱する。私達に関する多種多様な質問を想定して、言えることと、言えないことを分別し、答えを考えていた頭に、斜め上からアクアボールを叩きつけられた気分だ。


「え、あ、えっと! べ、別になんもないよ! 私達そ、そんな関係じゃないし!」


 今のところは……である。


「なるほどのう……」


 モニカの動揺を見て得心がいったとばかりに腕組みをし、頷くヴィクトリア。


「イグナールが鈍感なばかりかと思っておったが、こちらにも問題があるようじゃな」


 彼女の言うイグナールが鈍感なことには激しく同意するが、こちら――モニカにも問題があるというのは聞き捨てならない。


「ど、どういうことなのヴィクトリア⁉ 私の問題って何なの?」


 ヴィクトリアの言動に少しムッとするモニカ。恐らくイグナールを思うモニカの気持ちには気がついている。そして、その気持ちが彼に伝わらないのは単にイグナールが鈍いだけではないというのだ。


 まったく、これまでどれだけの努力をしてきたと思っているのだろう。私だって何もしなかったわけではないのだ。今だってイグナールの言葉の端々から、自分のことをただの幼馴染や旅の仲間としか認識していないと分かっている。


 その状況を打破するために、こうしてヴィクトリアから女の魅力を学ぼうと頑張っているのに……。


「よいか、モニカ? 妾の見立てでは、イグナールは今お主を女として意識し始めておる」

「そんな……まさか……あれだけ大切な仲間とか友人だって言ってるのに?」

「それはお主に向かって言っておるのではない。自分自身に言い聞かせておるのじゃ。じゃが、悲しいかな、奴はモニカの気持ちには気が付いておらん。じゃからイグナールの心境としては、女として意識するのは大切な仲間に失礼じゃと考えておる」


 驚きで声が出ないモニカ。それにしても彼女――ヴィクトリアは、この短い期間でどうしてそれだけのことを看破して見せたのだろうか。


「ど、どうしてそんなことがわかるの?」


 その疑問が半ば反射のように言葉となって口から漏れる。


「周りは大人ばかりの環境で育ったからのう。相手を観察して見抜く力が余計に育ってしもうただけじゃ。百発百中とまではいかんが……まぁ、言い換えれば疑り深いとも言えるのう」

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