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バルケインはただ幸せに鋼を叩きたい  作者: ロヂャーさん
人魔事変
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キレちまったよ

「短ぇ依頼、ね、そりゃ、ぱっと倒せれば早いけどよ」

と、筋肉質の鍛冶師バルケインことバルは小さく独り言を言う。


山脈近くの岩場の奥地、洞窟の最奥。

吹き抜けから降り注ぐ陽光で煌びやかに輝く氷柱の様な水晶が壁にビッシリと敷き詰められた眩いばかりの空間。


そこには高さ数メートルはあろうかという巨体が一体、大量の金貨という名の絨毯に半ば寝そべるように座している


水晶の色の反射する薄青い鱗で全身を覆い、老木の様な長い角、肉食獣の様な爪と牙、うねる鬣が背中まで生える竜種。


羽は無いためトカゲに近いが、彼らにそんな事は間違っても言ってはならない。


財と誇、それから酒、これだけは竜から取り上げてはいけない。

それをしてしまったが故に街が一晩で滅んだと言う話はあまりにも有名で、何処でも聞けるほどありふれた話だ。


居ると知りながらそこに近づくなんて愚か者のする事。

ましてや喧嘩を売ろうなどという者は居ないだろう。


そう、依頼でもされない限りは。


「……」

サンドラは白目を剥き、トゥルーテは平静を保ちつつ、顔が引き攣り震えが出始める。


「だ、大丈夫なんですか?」


「とりあえずは、対話でどうにかなるか、だな」


対してバルは緊張した様子もなく、ずかずかと歩み寄って声をかける。


「おい、人語は解せるな

ここらの街道で行商人が竜に襲われたって話なんだが、そいつぁお前か?」


何処までも無遠慮に、単刀直入に切り込んだのは目の前の竜の片足程度の大きさしかない人間のバル。


トゥルーテとサンドラは彼の竜に対する態度を見てオロオロとして止めるとも促すともつかない動作を繰り返すばかり。


(そ、そ、そ、そんな喧嘩腰で大丈夫なんですか?バルさぁん……)


「立ち去れ、ここにあるは我が財、欠片でも持ち去ろうものなら命を覚悟するがいい」


限りなく尊大な振る舞い、それでも彼はわざわざ言葉を使って忠告してやった自分を寛大と考えるであろう。


なにせ、人は吹けば死ぬ。そのほうが言葉を介するよりも余程早く事が済むのだ。


「そんな事は知らん、行商人を襲ったのはお前かと聞いている」


当たり前だが、バルは相手の寛大さなど微塵も感じていない。


「たかだか馬車数台の為にやってきたと言うのか、酔狂な事だな」


バルは露骨に舌打ちをする。

「で、お前か?」


「見かけぬ果実を運んでいたので頂いた、それだけだ」


「最後にもう1つ、青い龍に知り合いは居るか?」


「……、そのような知り合いは居らぬ」


「おーけぃ、誤解があるといけねぇからな、んじゃ、本題に入ろう

話は簡単、俺らに討伐されるか、大人しくすると約束するかだ」


竜は息を強く吹いた。

これ以上話を聞く気は無い、それに相手への攻撃が兼ねられている。


普通の人間はこれだけで死ぬ。


多少鍛えたと言えど、バルもまた人間。

しかし、対策はいくつもある。


とりわけ今回は優秀な盾があった。


(セン)!」

トゥルーテは剣を真横にして思い切り扇ぐ。


そうして出来た突風は竜の伊吹を完全に相殺し、更に跳ね返し、竜の首を仰け反らせた。


この技には詠唱も無ければ自然の一部でもない。

何故なら、祖父の創った流派にそんな馬鹿げた技は無いからだ。


対竜剣技とでも名付けるべき最初の剣技。それは彼女のオリジナルであった。


「成せば成る、ってヤツです」

「ま、技っつっても、人に教えたって誰も出来んがな」


馬鹿力、それに圧倒的な剣速が可能にする非現実的技。


「貴様!貴様!」

当たり前だが、彼女は竜のプライドを傷つけた。


「おい、ここの主は何処にいる?」

バルは全てを見透かして言う。


「……!」

「お前は若い、それでも俺よか10倍は生きてるだろうが、この場所の大きさと比べて小さいし、財の量に対して幼すぎる」


「そうなんですか?なんかすっごく強そうじゃないですか?」


()の格ってのはな、デカさでも綺麗さでもねぇ、気配のヤバさで測らねぇといけねぇんだ、つまり、こいつは()であって()じゃねぇのさ」


竜は2人目掛けて高速で爪を叩き込んでいく。

言葉はもう要らない、殺すと言う意思が完全に形になっている。


金属が歪む音と同時に衝撃音が響く。

大きな土煙が上がり、次第に収まっていく。


「草木もねぇ、待つ必要もねぇなら、ちょっとは本気出せるかな」

そこには真っ赤な髪、真っ赤な肌、真っ赤な瞳を携えるサンドラが黒い剣で爪を完全に受け止めていた。


「ここは、私に任してくんねぇかな、最近、ちっとも勝ってなくて、自信なくなりそうなんだよ」


彼女は思い切り爪を受けた剣を叩き上げて弾き、ついでとばかりに切り返し、黒剣の赤熱する刃で爪先を切り落とす。


溶け落ちたように爪の断面は真っ赤に光って滑らかになり溶断剣(メルターソード)の名に恥じぬ働きをしていることが分かる。


「こいつの切れ味、やっと試せたぜ」

彼女はそこから剣をゆっくりと正眼に構え直し、息を一つ。


「ウラァ!」

と言う掛け声とともに斬りかかっていく。




「いい構えになりましたね」

トゥルーテはサンドラの様子を見てうんうんと頷く。


「あぁ」

これにはバルも納得せざるを得ない。


「まぁ、まだまだなんですけどね」

そう言うと同時に、しっかりと構えたサンドラの体は竜の尻尾に弾き飛ばされていく。


それでも立ち上がり、まだまだと構え直す。

驚くことに、竜に何擊かもらっても、彼女の体に傷はついていなかった。


直撃は全て回避、防御し続けたというのもあるが、周りの水晶たちよりも、サンドラの体が頑丈なのだ。


手伝いますか?

大丈夫だ、私で何とかするから


そうやり取りしたのはしばらく前。

言ったはいいが、こと現在に至るまで、相手には手傷こそ与えているが、通打らしいものは入れられていない。


そこへ更にサンドラは爪を喰らい、立ち上がろうとした所を踏み潰される。


いい加減、彼女が傷を負わないことに竜も頭に来はじめている。


思い切りの力を込めて地面にめり込ませる。


「終わりだな」

竜は勝ち誇って、全体重を込めた。


流石に助けないといけないかとトゥルーテが踏みいろうとする所をバルは制する。


「でも……」

「そうじゃない、今行ったら、多分死ぬ」


そう言った直後、トゥルーテも納得の変化を感じた。


空気が熱くなってきていたのだ。




「いい加減、うぜぇな」


そう、言った数秒後、チリチリと肉のやける音がし始め、咆哮に似た絶叫とともに竜は足を離す。


ゆらゆらと立ち上がるサンドラ。


その姿はいつかに見た白目が真っ黒になった状態。

鱗が光り輝くと同時に、赤熱した黒剣の刃がオレンジ、白と、更に熱を上げていく。


一瞬のたじろぎを見せた竜だったが、このような矮小な者に驚いた自分を恥じると共に怒りが込み上げた。


竜は強者、強者なのだ。


そうして、尚も竜は怒りと共に全力の爪を叩き込もうとする。


「うぜぇ」

サンドラは剣を手放す。


次の瞬間、ズンという大きな音と共に巨大な爪が降り注ぐ。


片ややったか、片ややられたかと思ったその土煙の蓋を開けてみれば、竜の爪はサンドラの爪によって貫かれていた。


腕ごと、深々と、溶けて貫通している。


「あっつあっつ!!」

「やばいやばいやばい!サンドラのバカ!」

と言いながら洞窟の奥へ逃げていく2人を余所に、サンドラの怒りは冷めやらない。


そのままもう片方の腕を竜の爪に打ち込んで、竜の絶叫とともにメキメキと裂いていく。


さらに飛び上がって、その爪で竜の首をぶち抜く。


「うぜぇ!うぜぇ!うぜぇ!うぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇ!!」


その言葉と共に更に熱が上がってき、既に声も出せなくなった竜だったものの頭蓋は溶解していく。


全てが終わる頃には、神秘的な光景、金銀財宝は溶けた黒い塊になっていた。




(もったいねぇ)

そう思ったところで、全ては完全に後の祭りというものであった。


洞窟からの帰り道、「スッキリしたー」と伸びをするサンドラを尻目にバルは大きくため息をぶちまける。


(わかる、わかるけど)

トゥルーテはいたたまれないバルの頭を切り替えさせることにした。


「でも、ここの本当の主ってどうしたんでしょうね?」


それは何某かの義務感が、そう聞かれると彼もまた頭をそちらに回し始める。


「あぁ、多分だが、成長して狭くなって、明け渡したとか放棄したかとかだろう

この様子じゃよしんば戻ってきても人の仕業とは思わねぇだろうから、ある意味1番良い結果かもな」


「なるほど、とりあえず、目標は達成した訳ですし、お酒でもどうですか?」


「悪かねぇ、何にせよ帰りの馬車拾って、それからだがな」


「あ、トゥルーテお金貸してくれ、全部溶けちった」


「……」


その後、サンドラが財布を持つのを禁止されたのは言うまでもない。

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