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バルケインはただ幸せに鋼を叩きたい  作者: ロヂャーさん
貧乏職人と不幸少女
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洞穴にて

(無理だよ、こんなの

いくら切れたってバターナイフだよ?

もうちょっと私向けのもの無かったの?

ショートソードでもいいのに!)


トゥルーテは心の中で悪態をつきながらバターナイフを両手で握りしめながらガタガタ震えている。


広々とはしているが、逃げ場らしい逃げ場のない洞窟。


眼前には曲り角の巨大な大鬼、オーガ。


後方には倒れた神官の治療にあたるバル。


その遥か後方に残りのパーティメンバーが転がる。


「っとに信頼されてねぇのな、トゥルーテ

定石通り真後ろで構えてりゃ上も抜かれなかっだだろうに」


全くもって、その通りだと思う。


どうあれ、今は自分がやらなければならない。


どうあってもこの状況をどうにかできるのは自分しかいないのだ。


それでも。トゥルーテの頭には恐怖と不安がぐるぐると渦巻いていた。




数十分前、一行は目的地であるオークの洞穴に潜っていた。


ランタンに松明と灯りは十分。

負傷、疲弊ともになしで即日の攻略が可能と判断した。


崖の土を真横に掘って糞尿等で固めた洞穴。


オークが住むのにしてはいささか道が広過ぎるように思えたが、他の特徴が全て当てはまる。

場所はこことみて、まず間違いないのだろう。


壁からは異臭と言える酷い臭気が漂い、皆鼻口に布を被っていたが、バルだけはなにもしていなかった。


トゥルーテは仲間といくらかオーク退治を行っていた。

当初、虫も蝙蝠も大量に沸きそうな空間に何も見当たらないのをずっと謎に思っていた。


だが、いつか酒の席で聞いたうんちく、オークはその手のものを残らず食べ尽くす程の頑強な胃と食欲を持っているのだと聞き、最近では気にもとめなくなっている。


順調に歩を進める中、度々バルは口にした。


「もう少しゆっくり進め、見るべきを見逃す」


しかし、リーダーは「オークの穴は慣れている、それにあんたが居れば大丈夫だろ」と、真面目に取り合わなかった。


皆この臭いから逃れたくて、早く仕事を終わらせようとしていた。


それが狙いだったのかはわからないが、とにかく間違っていたことは間違いない。


それからは、バルは最後尾でしばしば遅れながら続いて、はぐれないように度々止まらされたパーティからの反感をかっていた。


(この空気感は良くない)


仲間たちは匂いでイライラしてリーダーと一緒に彼を責める構図が出来上がっている。


私たちよりも多くの冒険をしているはずのこの人の言葉に誰も耳を傾けられない。

これはとても良くない。


トゥルーテはそれをつぶさに感じ取って、たびたび心配そうに後ろの彼にすがるように振り向いた。


しかし、彼は目が合った自分に対し「参ったな」と言うように肩をすくめるだけで、何をかしてくれるわけではなかった。


どうにかしたいが、自分が口を出してどうこうなるものでもない。


彼女のやきもきする感情は時を追う毎に強くなっていった。




「おかしい」

そのときは突然訪れた。後ろからのバルの声に皆止まる。


「何が?」と苛立たしげに問うリーダー。


「臭いが薄れた、度々掘り返されている」


「それが何?」


しばしの沈黙を経て、やっと口を開いたバル


「お前は冒険をやめた方がいい、少なくともリーダーは務めるな」


何処までも冷静に口にするバルにリーダーは食って掛かろうとする。


「何ふざけたことを……」


と言ったまさにその瞬間、脇の道が勢いよく崩れた。


土煙とともに見知った化け物がどうと押し寄せる。


下顎から飛び出しす大きな牙を持った二足歩行の大柄寸胴の怪物。

武器を持ったオークが3体。


パーティはバルと前後に分断されることになった。


「クソ!」と、後ろにフォーメーションを組もうとしたその時。


バルはオークの顔面に膝を当てながら前に怒号を飛ばす。

「前見ろタコ!」


そこには巨大なメイスを構えた化け物。

緑の肌、曲り角を左右の頬まで伸ばした巨大な鬼。

オーガが眼前に迫っていた。


慌てて体制を建て直し、盾を前にして陣形を整える。


バルがいなければ完全に挟み撃ちにされていた。


トゥルーテはオーガの持つメイスの初撃をぎりぎりのところで防いだ。

騎士団時代に暴徒十数人を抑えた時と同等かそれ以上の衝撃が一度に襲う。


ビリビリと手足が痺れるが大きな後退はしていない。

走り込みの威力も加味して、これ以上の大威力はそうそう出ないだろう。


想定よりずっと強いオーガという化け物が出たことを除いてセオリー通り。


このまま攻撃を受け続け、その隙をパーティーが突いてくれれば、切り抜けられる。


もしくはバルの助けを借りる時間を稼げる。彼女は少しだけ、肩の力が抜けた気分だった。


しかし、攻撃を防ぎ切れるという信頼を彼女は得ていなかった。


半歩なら良かった。


2歩神官は後ずさった。


オーガは攻撃を防がれた事によりプライドを傷付けられ、大いに激怒していたが、ふと嫌な笑いを見せる。


そして近寄って2撃目となる横薙ぎを敢行する。


しかし、巨大から放たれる攻撃はトゥルーテの遥か上を通り抜ける。


この時、何故オーガはあんなに大きく攻撃を反らしたのか、彼女は肉のひしゃげる音がするまでわからなかった。


「何やってんだ馬鹿!」


そう言いながら一気に残りの二人が盾から離れた。


本当は誰に言ったのかわからなかったが、彼女は自分に言われた気しかしなかった。


そしてほんの数秒トゥルーテが逡巡する間に、二人は遥か後方に吹き飛ばされていた。




最悪のパターンだ。抱えて逃げることは不可能。


神官がこの状態では回復も出来ない。


目の前まで詰め寄られてはポーションも渡せない。


どうすれば。と一瞬の硬直


そこに一歩遅れてオークを片付けて駆け寄るバル。


「貸せ」とだけ言う。


咄嗟に両手に構えていた盾を渡してしまう。


お互い半拍、考える。


トゥルーテは気付いた。どう考えてもナイフを渡して危機を乗り越えるところに決まっている。


「あっちが」と声をあげ始めたと同時


「やれ!」と盾を持って神官の方に駆けていく。


待ってと言いたくて後ろに踏み込んだ瞬間、背筋をメイスの突起がかすめる。


奇跡だ。この一瞬の移動がなければやられていた。


冷や汗と体の震えを振り切ってそれに対峙する。


そして時は現在に至る

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