貴族の子ルニスとその後
サイバーパンクなシティ走り回ってたら投稿が遅れました、申し訳ありません。
数日後、フレズガルド家。
「ふッ!ふッ!せいッ!」
ルニスが庭で剣を振る。
その姿を館の窓からから見守る者達が居た。
ルニスの父、ベルガッド。
ルニスの姉、アレイヤ。
「あのルニスが自ら素振りとはいえ鍛錬をするとはな、相手をしてやったらどうだ?」
「何でも今は1人でやりたいと」
「ふむ……今回の一件で何か思うところがあったのだろうな」
「多分、そうでしょう」
「しかし、ルニスがあんな無茶をするとはな……誰に似たのやら」
ベルガッドが視線をちらりとアレイヤへ移す。
お返しとばかりにアレイヤも横目でベルガッドを見た。
「あら、意外とお父様かもしれませんよ?」
「ハハハ、そう言われると反論できんな!」
「ハッ!やぁッ!」
今回の一件で自分の未熟さを思い知った。
自分ならやれると思った。
だが敵を前に腰が抜けて自分は何もできなかった。
「ふッ!せいッ!」
思い浮かべるのはあの時の冒険者――自分もいつかあの領域にたどり着けるだろうか?
速く、鋭く、しなやかな動き。
目にも留まらぬ斬撃。
輝く銀の髪。
宝石のような黄色い瞳。
瑞々しい褐色の肌。
艶やかな唇。
抱き寄せられた時の匂い。
目の前に見えた二つの……。
そして僅かではあったが、顔から伝わる確かにあった柔らかな……。
「うおぉぉぉぉ!煩悩退散!煩悩退散!」
ブンブンブンブンブン……
「大丈夫なのか?あれは」
「……さぁ……?」
父とルニスを見守りながらアレイヤは思考を巡らせる。
ルニスがワッカ平原を歩いているところを保護された後、改めて調査が行われ、入口がほとんど埋まっているダンジョンが発見された。
子供くらいしか通れない程の隙間しかない入口。
地面を掘り、入口を露出させ、ダンジョンの調査をする事となった。
「不測の事態に備えて」という建前のもと、アレイヤは興味本位でその調査に捻じ込ん……同行した。
ダンジョンの中は異様な光景が広がっていた。
生きているモンスターは殆どおらず、全身を削られた死骸がいたる所に落ちていた。
この死骸を作り出した元凶は2階層にいた。
剣で斬られた、触手のモンスター。
剣だ。
このモンスターは誰かが剣で倒した。
バラバラになった触手のモンスターを観察し、組み立て、動きを推測し、このモンスターとの戦いをシミュレートする。
精神を研ぎ澄まし、ありとあらゆる方向からの攻撃に備える。
向かってくる触手を斬る。
斬られても構わず振られる触手を斬る。
そうやって少しずつ少しずつ間合いを詰めて、本体を叩く。
触手に触れてはいけない、一瞬でも気の抜けない戦い。
「このモンスター、強いな」
しかし、この斬られた触手の間隔を見る限り、このモンスターを倒した人物は自分よりもはるかに大きく踏み込んでいる。
殆ど走っていると言っても良い。
その上、触手に付いていた血はモンスターのものだった。
つまり、その人物はそれだけ踏み込んでいながら無傷でこのモンスターを撃破している。
しかも当時、このダンジョンは子供くらいしか入る事ができなかった。
自分にはできないレベルの戦闘を、子供が?
幼少の頃から武に関しては「神童」だの「優秀」と言われてきた自分を基準とするなら、この人物は間違いなく「化け物」だ。
――その「化け物」がこの街に居る。
「この果物、なかなか美味いな!皮を剥かれ、切り分けれれていてどんな見た目かは分からんが……確か、ラセンリンゴといったか?」
「あー、ラセンリンゴ……」
「どうだ?アレイヤ、お前も食べるか?」
「……いえ、私は遠慮しておきます」
「そうか……」
「さて……君は一体何者なのかな?」
アレイヤはモンスターの近くで回収した千切れた白い布をこっそりと見ながら、小さな声でそうつぶやいた。
次回は閑話休題の回にしようかと思っています。
 




