9話 ACT3-3
《汚水洞》についたシキとミティ。
《汚水洞》は淀んだ池がまばらにあり足元の悪い湿った土で道が出来ている溜まった洞窟となっていて、何か体に良くなさそうなガスが充満している。
シキとミティは《汚水洞》エリアに入ってから自身のHPゲージを確認するとわずかであるがHPゲージを減っているを確認できている。
「これは結構やばいな。俺、一切アイテム持ってないんだけどミティ持ってる?」
「すいません。私も急いで出てきてしまったので、HP回復薬は5個しか持っていません。2つか3つシキさんにお渡ししましょうか?」
状況を考えるとミティのほうが危なさそうなので半分という選択肢はないがさすがにHP回復薬0個というのは心もとないので1つだもらう事にする。
シキの近接戦闘のバトルスタイルを考えるとHPゲージの消費をそれなりに避けられないので一旦ウィザードのスタイルで攻めていくかどうかを考える。
ただMPも半分ほど消費している状態なのでそこまでスキルを乱発できるわけではない。
少しバトルパターンを考えていたシキのところへ通信が入る。
(シーちゃん、どこにいるの?)
AHにインしたサラはパーティーチャットを使って話しかけてくる。
パーティーチャットとはパーティーのメンバー間でやりとりできるチャットである。
ビデオチャットとして画像と音声または音声だけでのやりとりはもちろん文字だけの意思疎通を取る事もできればテレパシーのように思考だけの会話もできる。
今回は音声だけでサラからのチャットアクションがあった。
当然今はミティもパーティーに加わっているのでサラのチャットの内容が聞こえる。
「ひゃ!!」
突然の音声チャットにびっくりしたミティの声にサラも反応する。
(ごめんなさい。パーティーの方がいたんだ。フレンドチャットで話しかけるね)
サラは一旦パーティーチャットを切りフレンドチャットに切り替える。
フレンドチャットはパーティーチャットと違って突然コンタクトを取られる事はなくマイページ上にコネクトのアイコンが立つ。
サラからのフレンドチャットのコネクトをオンにしたシキはサラと個別の音声チャットでやりとりする。
(おう、サラ。急遽クエストに参加することになってて)
(ふーん。ちょっと私がいない間にもう新しいパートナーの女の子をパーティーに入れてクエストまで始めちゃってるんだー。チャキさん)
明らかに不機嫌そうに返答してくるサラ。
完全に勘違いしているなこれは・・・。
(おいおい、チャラいと俺の名前を合体させるな。全部がイベクエなんだよ。なんていうかそのちょっと、説明をしづらいんだけど)
目の前にミティがいるので説明に困ったシキの空気を読んでかサラから思考のチャットコネクトのオファーがくるので、音声から思考チャットに切り替える。
(これだったら会話じゃないから周りを気にしないで話ができるでしょ?)
思考チャット切り替えによりシキはサラにレベルアップ中バトルで困っている子を助けてからイベントクエストに発展した内容だけを説明をする。
細かい説明も本当はしたいがそこに長い時間を使ってしまうとマティの安否がわかっていない状態なので説明は後からさせてほしい事も伝える。
(わかった。とりあえずそこに行くから待ってて)
サラはそう言うと思考チャットのコネクトも切れる。
コネクトが切れて少しすると、目の間にちょうど人を囲むような電気がパチパチあらわれ、ピチピチバチバチいったあと黒い空間が現れ、ポンっとサラが登場する。
「おわ!!そんな移動できんのかよ?」
「うん、できるよ。すごいこのアイテム高いけど」
ジト目で見てくるサラ。
今すぐここにこなければいけない原因を作ったのはシキだよね?と言わんばかりに。
いやいやそれを言われても・・・。
少し返答に困ったシキを横切り近くにいるミティに声をかけるサラ。
「こんにちは。私はサラ。シキの嫁でパーティーも組んでます」
「おいおい、嫁って」
「なんだよ」とその言葉を続けることはできないくらいサラに睨まれるシキ。黙って聞いている事にする。
「初めまして。私はミティって言います。シキさんから説明を聞いているかもしれませんが、困っているところを助けてもらって」
ミティはその言葉に続きシキに話した内容と同じ内容を一から説明しようとしていたので、シキは軽くサラには説明しているから概要で大丈夫だと言う。
「では」となぜマティが一人で《汚水洞》に向かってしまったかの説明は省き、妹マティを見つけて家に連れ戻し上級ポインズウーズを倒し《ウーズのコア》を手に入れたいところまでをミティから説明する。
事情を聞きつつ、ミティからシキの嫁発言による嫉妬のようなものを見られなかったからかサラはシキのほうを向いてニコニコする。
・・・こんな小さい子に対してその牽制多分いらんだろ?
サラ本人に言う事はないが心での中でツッコんでおく。
そんなシキの心を読んでいるかのようにサラは一言クギを指す。
「よかった。変な虫だったらどうしようかと思って来たら小さい子だし、シキにそんな嗜好があったらどうしようかと思っちゃった」
「おいおい。俺の事を一体なんだと思ってるんだよ」
「え?、変態」
「ちょっと待て。今までの付き合いで一体どこをどう見てそうなるんだよ」
「小さい時からたまに私を見る目がちょっと変だったのシーちゃんバレバレだよ。私にはいいけど、他の子にしたら抹殺だよ」
「あ、左様ですか・・・」
冗談か本当かわからないが、なんとも反論しづらいサラのコメントにこれ以上深堀をするのをやめておくシキ。
他の子は駄目だけど、サラにはいい。って事だけ一応都合よく覚えておきますか。
サラもミティとフレンドになる。
すでにシキとパーティーになっているサラはミティとフレンドになったことで【イベントクエスト:《汚水洞》でミティの妹マティと合流】のテロップがサラのマイページにも表示される。
ミティがNPCであることをこのタイミングで本当に諸々を信じたサラは牽制含めシキへの態度を少し恥ずかしがっているようだった。
AHではすべてのやりとりの経緯がログ(記録)として残るため、ログ情報を任意のプレイヤーに共有することもできる。
ミティから聞いた母や妹との関係や母が毒にかかってしまった細かい経緯に関してはシキとミティのやりとりログ情報をサラに渡し3人は《汚水洞》の中に入っていく。
サラがHP回復薬、MP回復薬、毒消しを10個づつ持っていたのでシキ、ミティはHP、MP回復薬、毒消しを3個づつ分けてもらう。
《汚水洞》の奥に進んでいくとケッコやコボルトのゾンビバージョンが現れる。
シキは様子見もかねて助走をつけケッコに右ストレートをぶつける。
「ゴケー」と倒れれるもの立ち上がるケッコをみてシキは通常のケッコをよりも強い事を認識する。
立ち上がりざま攻めてくるケッコとコボルトが攻めてくる攻撃が同時のタイミングとなってしまいシキは相打ちを意識して攻撃を仕掛けようとする。
だがミティのダガーを投げつけるスキル【ダガースロー】がケッコに飛び、サラの連続ショットスキル【ダブルショット】がケッコとコボルトに命中する。
ケッコは散り、ダメージを受けてノックバックしたコボルトの頭にシキはハイキックを打つけ「ワォーン」と鳴く声にあわせて散っていく。
「ミティちゃん、やるやるー」
「はい。ありがとうございます」
「ってシーちゃん、なんで素手の近接戦闘のバトルスタイルになってるの?」
三人は小走りで移動していく。
そういえば説明していなかったことを思い出したシキは移動しながら草原でレベル上げしていて最中にこのスタイルを思いついた事を伝える。
「そうなんだ。やっぱりウィザードじゃないほうがいいのかな?」
サラはシキがウィザードとは違うジョブを選びたいのかと思ったのか少しだけ小さい受け答えをしたことのをみて、次に現れたファントムと呼ばれる青白い炎の塊ようなモンスターに
「【マジックアロー】」
掌から【マジックアロー】の塊を生み出し、ファントムに向かって投げつけて爆発させ一発で倒す。
「こんな技も生み出せた。なんでかは分からんけどこのやり方のほうが与えるダメージが強くなるんだよ」
「え?それすごいよシーちゃん。独自スタイルができたね。私のおかげだね」
喜ぶサラみてなんて浮き沈みの激しい奴なんだと思いながらもその笑顔をみれたことに悪い気はしない。
「独自スタイルは嫌いじゃないな。当面はこれでいこうかと思う」
「うん、いい。いい。ね、ミティちゃんもいいと思うでしょ?」
「え、は、はい」
進むにつれてミティの顔色が悪くなっているのを見てシキとサラはマティの安否がわからない上にこの環境だとよくないことを想像しているのがわかる。
「まだ、マティとコネクトはできないか?」
「はい、できないです」
「そうか。この洞窟は幸いなことに一つしか道がないからとにかく先を急ごう」
「はい」
さらに奥へと進むと100mほど先にポイズンウーズの群れが現れる。さらに近づき5mほど距離を縮める。パッと見の目視だけでは正確な数字を把握できないほどの数十ほどポインズウーズの群れの中に一人倒れている女の子を発見する。
9/13です。
次は12時に投稿します。