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67話 ACT18-1

 しかし、リンカの想いは虚しく散る事になる。


 出来る事ならばそのまま倒れててほしかったサラは、まだ戦える事が証明できるように、槍が弓矢のようにリンカに降ってくる。


 倒れこんでいたリンカは、自身の頭にちょうど向かってくる槍を体を反転させる事で交わす。


 ダメだったんだ・・・。


 本来動けるような状態ではないが、気持ちで体を起こすリンカ。


 決死の想いで立ち上がるリンカとは対照的に、リンカへ走って近づいてくるサラ。悲しさが窺える瞳と、何かの焦りを考えているその表情は、もちろん自身が劣勢に追い込まれているわけではない。サラの中で、この戦いをやめたい自分と、そうでない自分の攻防戦が、心理的に行われているからこそ、今すぐにでもケリをつけなければいけないと体のほうが指示しているような動き方だった。


 ふらふらになっている状態のリンカへ近づき、出現させた長槍でリンカの止めを刺す。


 終わっ・・・。


 その瞬間。


 子供の頃感じた、どこか懐かしい抱擁感、でも、初めて触れられるような逞しい腕に、抱えられ、自身の存在に終わりを告げようとしていた、長槍の刃の直線上から視線が移る。


 リンカを左手で抱き抱えたその男は、行き先のない長槍の柄に、お決まりの気で覆われた刃を手刀を振りかざし、柄を切り捨てる。


「・・・、シキ」


 サラの長槍を柄から切り捨てたシキは、サラを蹴り飛ばして距離を離す事も考えたが、やはり気持ちが、体を動かせなかった。自己嫌悪に陥りつつも、まずは、リンカを抱えて後ろに飛び出す形でサラから離れ、距離を空ける。


「悪い、遅くなった」


「なんで・・・、ここに・・・。マリアさんのところへは、ちゃんと行ったの?」


「いいから、今、気にする事は、そこじゃないだろ」


「だって・・・」


 いつも通りのツンケンな態度すら出てこないリンカを見ると、相当に憔悴しきっているように見える。リンカをここまでにしたサラへ、その怒りをぶつける事をシキにはできない。やはり、この状況を作ってしまったすべては、あの忌まわしい鉄仮面との戦いで、サラを救えなかった自分への怒りしかない。


「立てるか?」


「無理かも・・・」


「だったら、座っとけよ」


 抱きかかえたリンカをそのまま地面に座らすまで、屈み込むシキ。


 この状況を好機と見て、距離を離されたとはいえ、攻撃できるはずのサラ。


 リンカを座らせた後、HP全回復薬を飲ませて、サラに向かって立ち上がるシキ。


「よう、サラ」


「なんですか?話かけないでください」


 冷たくあしらうサラ。


「シキ、サラさんは自分を取り戻しつつあるから、今のサラさんの言動に惑わされないで」


「わかってる。俺の知ってるサラは、こんな奴じゃないからな」


「な・・・、あなた達に、私の何が分かるというのですか?」


 シキは、自分がここに来るまでの間、リンカとサラで、どんな言葉が交わされたのかは知らない。ただ、きっとリンカはそうしたであろう事を、リンカやサラの状態を見れば察する事ができる。


 戦意喪失から呼び戻してくれた時のリンカやマリアの気持ちを、反故にするわけにはいかない。今、目の前にいるサラは、自分の知っているサラではない。シキはサラを救うために、二度とリアル世界に戻ってこれないかもしれないAH(アストラルホライズン)に再度ログインしてきたのだ。


 すべてはサラを救う為だけに。


 目の前にいるサラではないサラを倒して、サラを救う。


 それしか、シキに残された道はない。


 その決意すらできなかったから、各人の戦いにて、シキがサラの所へ向かう事を、リンカやマリアから拒まれた。その結果が、ボロボロになっているリンカである。結果、この状況を作っているのもシキ自身なのである。


「サラ、俺が、お前を元に戻してやる」


 その言葉と共に、シキはサラの元へと間合いを取る。


「【マジックアロー】」


 言葉と共に宿された気の塊を覆った右手拳は、サラの鳩尾を狙ってボディアッパーとして繰り出される。サラは、マジックアローのボディアッパーを防御する術として、長槍を出現させ、続いて柄を盾代わりにし、自身と共に吹き飛ばされるが、ダメージを防ぐことができた。


 ここで、吹き飛ばされたサラは、空中で、弓を長槍を出現させ


「【ランス・アローレイン】」


 弓から放たれた長槍は、無数の雨となりシキに襲い掛かる。


「【ファイアーボール】」


 無数の殴りかかるように振ってくる雨の長槍は、シキに投げつけられた巨大な炎の塊により、すべて吹き飛ばされ、散り散りになった。


 この威力に、サラはおろか、リンカも驚きを隠せない。通常発動される【ファイアーボール】の何倍もでかい炎の塊を、軽々しくスキル発動するシキはもはや、通常のプレイヤーランクとは違う領域に行ってしまったようだった。


 着地するサラ。続けての攻撃を、シキもサラもどちらも仕掛けない。先ほど、リンカがサラに感じた完全なる戦闘力差を、今度はサラが、シキに感じていた。


 この戦いはあまりに分が悪すぎる。さきほどまで、ガインと戦っていたシキに対して、そこまで脅威を感じていなかったサラだったが、このわずかの間に、ここまでの戦闘力を感じてしまうのは、何が起きたのか。を理解することはできなかった。それ以前に、今も気を抜いてしまうと、自分でない何かに自分の精神が消されてしまいそうになる。自身の精神状態をコントロールをしながら現状の状態を維持するのも中々に苦しい。


 だが、今の精神状態が、本物ではないと、サラ自身、気づき始めてはいる。今の自分とは別人格がいるわけではない。だが、今の自分の感情とは違う何か別の感情、それが、今の感情へと、アラートを鳴らし続けている。それは分かっている。分かっているが、今、目の前にいる敵を倒すことで、押し込んでいる感情を消し去れるとサラは信じている。


「サラ」


「やめてください。話しかけないで」


 長槍を次々を出現させてシキへの攻撃を仕掛けていくサラ。その攻撃自体は、サラが、ドンドン困惑していく自分を、打ち消す為に発動させているのだと、シキもリンカも理解している。


 ただただ、無作為にシキに向かって飛んでくる長槍をスキルを発動するまでもなく、両手で次々を弾きながらサラに近づいていくシキ。本気で相手を屠るつもりがあるのであれば、こんな攻撃の仕方はしていこない。

 

 自分のステータス状態とスキルを、相手のステータス状態とスキルを探りながら。最適な状態で発動しあうことで、バトルの勝敗を決める戦略要素が高いのがAH(アストラルホライズン)のゲームプログラムである。


 ついには、長槍を出現させて投げつけるだけの距離すらなくなったサラの元へ近づいたシキは、サラの両腕をつかむ。


「どうしても俺の事を思い出せないなら。戦う選択肢しかないなら・・・。そう、思った。だけど、サラ、もう、今は、帰化プレイヤーとしての制御もできなくなってんだろ?だったら、ここで俺も戦い以外の道を選ぶから。お前もがんばれ。リアル世界で、何にも期待しないで、誰も信用しないで過ごしてきた俺を、誰もが、なりたい自分になれる世界だって言って、連れてきたのは、他の誰でもない、サラ、お前なんだよ」


「な、離して・・・」


「俺を見ろ」


「は、な・・・」

次回も月曜日19時に投稿します。

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