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65話 ACT17-3

 倒れこんだリンカの元にサラが近づいてくる。


 リンカのHPは、先ほどの背後の体を突き刺してきた【スピア・ステルスシュート】と、さらに正面から突かれた槍によって、本来の槍攻撃を二つ受けただけでは1/3まで減る事はなかったが、完璧なカウンター攻撃と相まって1/3ほどまでに消費していた。また、1/3ほどHPが残っていれば、すぐに動き出せるが、アバターとはいえ、体に背後と正面両方から槍が突かれてはすぐに動き出せる状況ではなかった。


「あなたには、ここで死んでもらいます」


 倒れているリンカの胸ぐらを掴み、さらに槍を出現させて、頭にそのまま突こうとせんばかりの体勢になる。


「惑わされる自分が嫌なのね。キルするならさっさとすればいいのに。ちなみに、その頬をつたっているモノは何なのかしら?」


 サラは、リンカの指摘に動揺し、掴んでいたリンカの胸ぐらを離してしまう。そう、サラの頬をつたっているモノは涙だった。サラは、自分の中で、行動の整合性がつかなくなっている事に気がついていた。今まで感情に左右される事などなかったはずなのに。そもそも今まで。とは・・・。リンカの言う通り、考えれば考えるほど、サラには、詳細な映像として残っている記憶がない。


 なぜ・・・。


 そして、考えれば考えるほど、顔が分からない誰かとの思い出だけが頭の映像としてよぎる。


 頭の映像によぎるその人が、先ほど一緒にいた・・・、リンカが指摘する・・・、シキ?


 再び、頭を押さえ始めるサラ。


 リンカは、この瞬間を見逃さす、距離を空けてHP全回復薬を飲み干す。一瞬、この間合いで、混乱しているサラへの攻撃後に、距離を空けてHPを回復させる事も考えたが、先ほどのバトルで分かった事は、圧倒的な戦闘力差である。


 仮に、戦力差を埋めるだけの戦術があったとしても、リンカにはサラをキルする意思がない。このような心情を踏まえても、どう考えても分が悪い。分が悪い中でも一筋の光が見えるとすれば、サラが完全にシキの事を忘れているわけではない事で、情緒不安定になっているこの状況をどう活かすかである。できれば、さきほどのように対話にもちこんで行きたい。


 だけど・・・。


 封じられたように見える、記憶を掘り下げる言葉を発し続けることは、再びサラの猛攻撃を起こす可能性もある。そうなった時にリンカは、防ぎきるだけの策があるだろうか。


 どうしていいか分からない状況で、只々時間だけが過ぎ去っていく。頭を押さえていたサラも、その痛みから、解放されたのか頭から手を離し、リンカを見つめてくる。


 一呼吸置いてからリンカに話かけるサラ。


「あなたの言う通りかもしれません、私は、今の私は、最近の記憶以外で覚えている事がありません。無理に思い出そうとすると頭に激痛が走ります。そして、シキさんの事を考えるだけで、胸が・・・、苦しく・・・なります」


「・・・、そこまで自分の気持ちの異変に気づいていてるのなら、もうどうしたらいいか分かるんじゃないの?」


「ただ・・・、気持ちと行動のコントロールの制御ができないです」


 サラの中で、失われた自分を取り戻したい気持ちが強くなってきているように見える。だが、必要以上にシキの事を思い出させるような発言を控えるようにすべきである。言葉を選んで話すリンカ。


「サラさん、バトルモードを止められる?」


「それが難しそう・・・です・・・。ご、め」


 ごめんなさい。の言葉を言い切る前に、飛び出しリンカに向かってくるサラ。再びサラの右手に出現された長槍は、リンカの心臓を狙って一突を狙ってくる。ただし、そのモーション自体が、すさまじいスピードを出しているわけではない。リンカは長槍の突きを内側にくぐるように避け、サラを短剣で右横切りを入れる。少しのダメージを与え、さらに前蹴りを入れることで距離を離す。サラは冷静さを失っているようだった。


 帰化プレイヤーとなったことで、矢を放つスナイパーから、槍を放つスキルを手に入れたとはいえ、近接戦闘に強くなったとは言い難い。ましてやリンカは近接戦闘を得意とするソードマンである。初動の攻撃で近接攻撃を仕掛けける判断をするのこと物語っている。


 そうだとしても、リンカにとっては悔しい話だが、圧倒的に戦闘力差は変わらない。しかし逆手に取れば、最大出力でぶつかったとしても、サラをキルする事はないと考えることもできる。


 それであれば・・・・・・。


 言葉を掛け続ける事で、サラの何かを取り戻したい気持ちと交差するか一方で、今、このタイミングでバトルにおいても、冷静さを失っているサラに対して。最大出力を仕掛けて戦えない状態まで持っていけたとすれば、それが一番理想に近い形となる。


 リンカの中で上がった二つの考え。


 今、このデジタルワールドのAH(アストラルホライズン)の世界だからこそすべきなのは、サラの行動を制御することである。実体の人間同士のやりとりではない。いくら感情に訴えかけたところで強力なプログラム制御の前には、帰化プレイヤーという人体ハッキングに近いような仕様が起きている以上、限界がある。


 すべき事は、、、、


 最大出力の特殊な最大スキル発動で、サラがバトルをできないほどのダメージを与えることである。


「【攻撃力上昇(オフェンシブアップ)】、【集中(コンセントレーション)】、【攻撃回避(サンドオーバー)】」


 ファイター職スキルのパッシブスキル発動をすべて網羅するリンカ、最大限に攻撃力を上げ、クリティカルヒット力を上げ、自身への攻撃回避を極力までに高める。今まで、ここまでのパッシブスキル連携はした事がない。いや、正確には、敵とのバトルシーンにおいてはした事がない。

  

 なぜならば、その後の反動がとても高く、その後の正常な状態をキープできるレベルを、はるかに損傷するレベルの体調パラメーターの現象を起こしてしまう事は経験済みである。死に至るレベルではないが、もはや戦闘不能判断になるのは不可避だ。


 だが、それでも、ここから先の戦いを考えても、リンカに求められてる一番の大所は、ここだと、判断出来る。マリアの為すべき事。シキの為すべき事。そしてリンカの為すべき事。最終的な目的地に辿りつく為にすべき事は、為すべき事を為すべき者が為す。ために、障害を最大限取り払うことが、繋ぐ者の為すべきことである。


 シキがマリアの作戦に完遂させて、勝利への障害となっている心のシコリは、帰化プレイヤーサラ、いや、EG(エンペラー・ゲート)サラの奪還である。その奪還を果たす事がでれば、シキはなんの心の障害もなく、EG(エンペラー・ゲート)を倒せるはず。


 だから、ここはリンカがなんとしても、クリアしなければいけない課題である。


 リンカのパッシブスキル連続発動に、サラも意識し始める。おそらく二人の戦いにおいて、次の攻撃から始まるバトルでケリがつく。

 

 リンカとサラとの戦いとは別で、サラは、内側にある何かと、何かが戦っている。そう、きっと、それは、サラの本当の心が足掻きなのである。


「リンカさん」

 

 叫ぶサラ。


「な、なに?」


「全力で・・・、私を・・・、倒して」


 サラのその言葉、その表情、倒して。と言ったそのサラの表情は、リンカは今まで見た事がない、きっと、シキが知っている、シキの大好きなサラの本当の表情なんだと思う。


 あんなに可愛い笑顔で言われたら・・・、さらに覚悟を持って、やるしかないじゃない。


「サラさん、ありがとう。よく、がんばったわね。あなたの言葉が、声が、聴けてよかった。あなたを全力で倒すわ」


「・・・」


 リンカの応答に再び、表情を失い、言葉も出ないサラ。分かっている。サラは押し込められた感情を。本来出せる事がない、本当の自分を出す事が、できたんだと。


 あの子の、あそこまでの、がんばりに応えない訳にいかないじゃない。


 飛び出すリンカ。


 これが、リンカの、最初にして、最後でありたい、最大の攻撃。

次回も月曜日19時に投稿します。

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