63話 ACT17-1
リンカがブラックホールから飛び出したその先に、待っていたのはサラだった。
話合いの末、各々にとって、適切な対戦相手を選んだ事に、なんら異論はない。たが、リンカにとって、サラが最適な、戦いやすい相手であったかどうかは、判断が難しいところである。どこかでバトルに集中しなくてはいけない自分と、どこかで色々な思いが駆け巡る自分がいる事に、リンカは気づいている。
対してサラは表情が汲み取れない。シキから聞いていたサラのキャラクターとは程遠いように感じる。シキが、自身を知っているような振る舞いを見せた事に対して、戸惑う気持ちすらなかったのだろうか。それとも、そんな感情すらもなくしてしまったのか。
「こんにちは、サラさん」
「ええ、こんにちは。リンカさん。でしたか?」
「そうね。名前を覚えてくれていて光栄だわ。あなたはサラさんという自分の名前とEGの次期ギルドマスターだという事以外は覚えているのかしら?」
「・・・・・・。それは、どういう、意味ですか?」
意外や意外に、反応を示してきたサラ。リンカにとって、サラが、自身で理解できていない状況への"興味"が存在しているのが、理解できたのは、大きな収穫である。このまま、いきなりバトルに入ってしまうのは、惜しい。
「そのままの意味よ。だって、あなた、シキの事、知らないのでしょう?」
「ええ」
「なぜ、シキはあなたの事を知ってるのだと思う?」
「人違いでは?」
「それじゃ、私は?」
「あなたも、私を知っているのですか?」
「いいえ、正確には知らないわ。でもシキからあなたの話は聞いていたし、シキから聞いていたサラさんの状況を考えると、あなたがそのサラさんだと私も思っているわ」
「・・・」
「だから、質問してみたの?あなたは、今、私が質問した事柄以外の記憶があるのかしら?と」
「・・・・・・」
目をつぶり始め、眉間にしわを寄せて考え始めるサラ。少し、左手で頭を抱え始めたかと思いきや、右手で空を振り払うようにしたその瞬間。
サラの右斜め頭上から、突如として現われて長槍が、リンカに向かって飛んできた。
「ちょっと、あんた」
飛んできた長槍をジャンプして交わす。文句を言い、一旦臨戦態勢に入り、サラに向かって迫ろうとするが、留まるリンカ。本来、ただ、純粋な敵がそこにいるのであれば、これがバトルの開始であり、リンカは短剣を出現させて、サラへの間合いを詰めて、攻撃を仕掛けるところではあるはずだが、リンカはそれをしない。その理由は、サラの苦しそうな顔から窺える。
「あなたと会話をしていると、頭が痛くなります。あなた達は、一体何なのですか?」
「何なのも何も、あなたはシキの幼馴染で、あなたは、シキの事が大好きで、シキをこのAHに連れてきた張本人でしょう?」
「私が、あの人の事を、好き・・・?」
「知らないわよ。聞いていて、そう思っただけ。後、詳しくは知らないけど、あなたはシキを庇ってキルされて帰化プレイヤーになったみたいよ。シキがあなたにとって、大事な人なんじゃないかしら?」
「あの人が、大事な人・・・」
「そこまでは、まあ、いいとしても、帰化プレイヤーになったサラさんは、なぜ、EGイース支部のギルドマスター候補になったか。よね?」
「なぜ。って・・・・・・」
右手で頭を抱え、さらに、両手でも押さえ始めるサラ。
「そう、あなたは洗脳されているの。今、私の言葉を聞いて、苦しそうなあなたを見ていると、それは、あなたの本当の気持ちや感情を、封じ込められている何かと戦っている自分が、いるからじゃないの?」
「もう・・・・・・、黙って・・・、ください」
再び、サラの頭上から現れた長槍が、リンカに向かって飛んでくる。リンカは短剣を出現させて、今度は、刃の先を短剣で弾いていく。先ほどよりも、長槍の圧もスピードも落ちているように感じた。ここぞとばかりに追求を止めずに言葉でも攻め込む事を決めたリンカ。
「いいえ、黙らないわ。私は、私達は、サラさん、あなたを倒す事が目的じゃないもの。元に戻ってくれるならそれが一番。だから苦しいかもしれないけど、考えて。そして、思い出して」
「・・・・・・。るさい」
その瞬間、リンカに向かって飛び出すサラは、右手には槍を持ち、槍を持って突きにきた。
「あぶな・・・」
サラに対して、近接攻撃のバリエーションはないものと思っていたリンカは、サラから見て、右サイド背面に向かって、突きを避ける事で手一杯である。次なる行動をどうとっていいかわからず、右手に持つ短剣を動かす事もできなかった。サラは、そんなリンカの隙を、突かんとばかりに右サイドへ蹴り上げる。リンカはその蹴りによって、宙をまたぎながら距離を置く事になる。距離を置いたリンカだったが、そこへ、サラの追撃は止まらない。
「ここで散りなさい。【ランス・アローレイン】」
蹴り上げられ、宙にいるリンカに、仕掛けられたサラの特殊スキルは、スナイパーとしての弓から放たれた矢、ではなく、槍だった。槍を矢のように放つスキル。放たれた槍はさらにその数を数十の数に分裂し、雨ならぬ、下から迫ってくる槍の針地獄のようだった。
「まずい!!、【スラスト】」
本来、相手方から攻撃を回避するスキルは、砂を巻き起こし視覚的、物理的にも攻撃対象から外れる事ができる【サンドオーバー】が適切であるが、範囲攻撃において自分の周りほとんどが攻撃対象となっている場合には、【サンドオーバー】の効力は意味をなさない。その為に、リンカは少しでも自分への致命的なダメージを減らす為に、突きのスキルである【スラスト】を放つことで、ダメージを可能な限りの最小限に食い止めた。
【スラスト】を放ち、【ランス・アローレイン】を掻い潜るように地に足をつけたが、そこからさらに長槍が襲ってくる。リンカは自身の寸前まで来ていた長槍の刃の先を短剣で弾く。だが、そこからリンカの反撃の隙を与える事もなく、息つく暇もないままに、長槍がリンカを襲ってくる。ひとつひとつが重い長槍を短剣で弾くのは、中々に重い対応だが、追い詰められる程度ではない。
長槍を弾きながら、見える、先のサラの表情は俯いているようで、よく見えない。だが、その先の彼女の気持ちが憎悪に満ちているとは、リンカは思えなかった。
きっと、混乱してるはず。
なんとか、近くまで行きたい。だが、凄まじい勢いで、次から次へと襲ってくる長槍を、なんとかしなくてはいけない。追い詰められるレベルではないとはいえ、弾く上での腕や身体への負担はそれなり大きい。
HPは・・・・・・。まだ2/3程度残っている。回復薬を飲む隙すら与えてもらえないが、今のダメージ程度であれば、もう一発ほどリスクをとる事は可能だ。
リンカは【集中】を掛けていく。
今だ!!
少なくとも、長槍は通常攻撃において、連続で発動する事ができないのを、リンカは、今までの攻撃でわかっている。だから隙をつくとすれば長槍を弾いて、長槍を新たに発動するその間を狙って、【集中】がかかった状態で、サラの元へ間合いを詰めていく。
間合いを詰めてくるリンカに放たれる長槍をさらに早いタイミングでリンカに迫る事になる。迫ってくる長槍と、攻め込む自分。互いに迫っているのであるから接触タイミングが早くなる。リンカにとって不利な状況になるであろうその瞬間を狙って、最大出力まではいかないが、パッシブで高めた状態にあわせた【スラスト】放ち、長槍を吹き飛ばし、さらにサラに詰め寄っていく。
「いい子だから、一回おとなしく、なり、ま、しょうね。【パリィ・・・】」
完全にサラの間合いまで入り込んだリンカが、特殊なスキル発動、突きのカウンター攻撃である【パリィスラスト】を発動しようとした瞬間。
自身の体が動かなくなり、さらに背後から体を突き抜ける槍の存在に気づく。
「【ベアトラップ】、【スピア・ステルスシュート】」
「え・・・」
基本職アーチャー、上位職ハンターのスキルである【ベアトラップ】、足にとらばさみの罠を仕掛けて攻撃を封じる。そして相手に気づかれず攻撃を仕掛ける【ステルスシュート】の特殊スキル、槍の【スピア・ステルスシュート】。この二つのスキルにより、目の間にいるサラへの攻撃があえなく失敗するリンカ。
「お願い。もうこれ以上、私を混乱させないで」
そう言ってサラは長槍を出現させ、真正面のリンカに突き刺す。
「そんな事言って・・・、あなた・・・」
リンカの言葉はここで止まり、サラは突き刺した槍から手を離す。サラの手から離れた槍、とらばさみ、背後から突き刺された槍、すべてはその姿を消し、リンカはそのまま倒れ込んだ。
次回も月曜日19時に投稿します。




