59話 ACT16-1
時は同じく、ブラックホールに身を投じ、その先で待つガインの元にたどり着いたマリア。
シキ、リンカと同じ場所にいるにも関わらず、ここには、マリアとガインしか存在しないように感じる空間だった。先ほど6人がいた場所と同じように、四方すべてが森林の壁に覆われていて、草木が生い茂る公園の中央のような造りだが、隔離された世界にガインとマリア二人だけが存在しているような感覚。
1対1の各自、各場所での戦いに乗るべきであるとシキ、リンカには言っていたものの、二人の動向が気になってしまっているマリアは、時間の経過や距離に対する意識が二人よりは高くなっている。
早く、この戦いを終わらせなければ。
ガインはそんなマリアの思考を読んでいるかのように、逆に落ち着いた様子で話しかけてくる。
「ほう。貴様が来るか。先ほどの小童が来るものだと思っていたが」
「貴方の余興に合わせるなら、そうなのかもしれませんね、ガイン」
「ふ、裏切り者の貴様にとって、余興をしている暇などないと?」
「裏切り者という表現には語弊がありますよ。私は元から、貴方たちの仲間になったつもりはないです。帰化プレイヤーでもない。この時だけを、ただただ、ひたすら待って潜っていただけですから」
「そのようだな。そこまで信念、いや怨念と言うべきか、小童にはない義が貴様にはあるようだな」
ガインの想定を超えた発言をしていたつもりだったが、予想外にガインの中での想定とされた返答をされた事に少し驚くマリア。だが、ここは優位に話を持っていくべきである。余計な反応は相手に見透かされる。
「そこまでの理解があるのであれば、敵ながらに敬意を払います。そうです、私には貴方達EG及び帰化プレイヤーを消滅させる為の使命があります。だから貴方には、ここでAHから去ってもらう事になります」
「片腹痛いわ。貴様らのような、利害に塗れた勢力を駆逐するために、本来であれば結成されたと言っても過言ではない我々EG。我が勢力拡大においては、まだアーリーステージにあると思っていたが、貴様のような刺客に狙われるとまであれば、すでに俺様が思っているよりも、EGは、既存勢力においてのポジションを得ているのかもしれんな」
「どう思うも、貴方の自由です。ただ、少し思い描いていたシナリオとは違ってきましたが、プロセスにおいて最適な動きのプランではなくなっただけの事で、私の全力で貴方を屠る事には変わりません」
「ふ、ここは電脳世界、AH。議論を優先させる世界でもあるまい。来い。我が剣が貴様の義を幻想へと導き、想いを絶ってやろう」
大剣を出現させ振りかざすガイン。
「【速度上昇】」
スキル発動と共にガインの目の前から消えるマリア。
「あまい」
ガインの背後に現れ、一発必殺のダガーを突き刺そうとしたマリア。
ガインは、マリアの突きを避け、大剣を大きく横斬りする。横斬りされた大剣を受ける事なくマリアも瞬時に移動し、空を切った大剣は地面を滑らせる。大剣によって振りかざされた風圧は、そのまま斬りつけた波動をその先の敵へ放たれる【スラッシュ】が起こるほどの威力だった。
ガインの頭上に飛び上がったマリア。
「【ダガースロー】、ダブル」
投げつけられた2つのダガーがガインを襲う。瞬時に放たれたダガーの攻撃も、ガインはその大剣を片手剣を扱うように軽々しく下から斬り上げる。2つのダガーは、大剣の前にかき消された。
しかし
マリアはこの瞬間を狙っていた。
背後を取ったが、その間合いですら、横斬りをしてきた大剣、そして頭上からの投げつけたダガーも下から斬り上げられた。
だがその二つの大剣の攻撃には、明らかに一発目と二発目の大剣のモーションのスピードが違っていた。
そう二発目のほうが、ダガーをすべてかき消すまでのモーションが遅かった。大きく下から振り上げた動き始めた時点で、すでにガインの背後に入りこんでいたマリアに対して一発目のようなスピードで大剣が振りかざせないのは、マリアだけではなくガインもわかっていた。
この間、わずか数秒の世界である。
「貴様・・・・・・」
「これで、終わりです」
「【エクスプロージョンバックキル】」
シキとガインが全力攻撃でぶつかりあった後と同じ、背後からのマリアの一撃必殺の特殊なスキル発動、【エクスプロージョンバックキル】。確率で一撃必殺を起こす敵の背後に瞬間移動し攻撃する【バックキル】に、爆発を仕込ませたダガーで相手に大ダメージを与える【エクスプロージョンダガー】の威力を持つこのスキルは、シキとの戦いの時のカウンターほどの的確さではないにせよ、一発で屠るだけの威力は持ち合わせている。
再び【エクスプロージョンバックキル】はガインの背後を突き刺した瞬間に大きな爆発に包まれ、マリアは爆発のタイミングにあわせて、その身を爆発のダメージが及ばない距離まで移動する。
前回のタイミングでは確実に仕留めた感触を持っていた。にも関わらずサラの参入によりガインはキルされる事なく、生還した形となった。
今、この状況はマリアとガインの二人のみ。誰か別のプレイヤーの助けが入る環境ではない。一発でキルまで持っていく事ができれば御の字だが、シキの時ほどのカウンターではない為、一発キルではないにしろ、相応のダメージを食らわせておければ、マリアとしては、それでもよい。
弱ったタイミングでの攻撃バリエーションは豊富にある。アサシンは相手の虚を衝いて暗殺していくジョブである。とにかく万全な状態を切り崩す事が何よりも戦術上大事であり、単独のバトルにおいては早々に油断させて万全状態を切り崩すスキルを発動する事が正攻法である。
今この状況においては、成功法が上手くいったと判断して問題ない。
マリアの思惑は、爆撃直後に自身の距離を測ってダメージの被害を防ぎながらも、すぐに確信を焦るかの様にガインの元へ近づき追撃をしていく事に意識を向けていく。
イケる。
「だから、言ったであろうが。あまい。っと」
爆発の埃が散らないうちに、ガインの間合いに入ったマリアに浴びせられたガインの言葉は、相応のダメージを与えられたと確信したマリアの気持ちを揺るがせた。
まずい。。。。。。
「【パリィ】」
ガインの間合いに入ったマリアを完全に捉えていたガインの大剣は、カウンター攻撃である【パリィ】のスキルと共に横斬りを浴びせてくる事になり、マリアはその攻撃を完全に受けてしまう。斬りつけられた体は実体であれば。そのまま体が二つに裂かれてしまうほどであったが、もちろんアバターである為、体は自身の体を完全に斬られ、そのまま振り抜けられたとしてもダメージとしてもは残るものの、体が二つに裂かれる事はない。
しかしながら、自身の体を通り抜けていく大剣の切れ味の感触は、実体で経験するとこのような感覚なのかと錯覚してしまうほどに、気持ち悪いほどに、感触として残っていく。
ガインの驚異的な攻撃力で与えられたダメージによって、マリアのHPゲージは1/3程度までに減らされた。油断した上にカウンター攻撃を食らったとはいえ、これほどまでのダメージを受けてしまった事もまたマリアにとっては想定外だった。
このまま連続攻撃を受けたら間違いなくキルされてしまう。マリアは可能な限りその身をガインから離し、距離を離していく。
距離を離していくマリアをガインは追撃する事もなく、ただ見つめていた。それだけガインには余裕がある事がまた、マリアにとっては腹ただしかった。
HP全回復薬を一つ飲む。一向にガインが動く気配はない。マリアもまた動かなかった。正確には動けずにいた。アサシンというジョブの特性上、真っ向勝負で戦いを挑むジョブではない。ましてや相手はバーサーカーのジョブを持ち、しかも特殊スキルまで保有している帰化プレイヤー。1対1においては、さきほどのような相手の油断や隙を誘う攻撃から大ダメージを与える攻撃パターンが通じないとなると打つ手が見えなくなってくる。しかし、そんなはずはない。どれだけのVIT、防御力を持とうとも、相手の隙を狙った暗殺攻撃がキルするまではいかなくとも、相応のダメージすら与えないとなるのは、まずはその原因を見つけて、取り払うところからしなくてはならない。
動き出したいが、次なる手が見えていないマリアは、動き出す事ができなかった。
「ふ、なぜ俺様がダメージを受けていないのか気になっているようだな」
心を読んでいるかのように、マリアの思考に入り込んでくるガイン。圧倒的な優位性を持つガインに対してマリアは、自身の読みの甘さを痛感させられる事になった。
次回も月曜日の19時に投稿します。




