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32話 ACT9-1

 吹き飛ばされたシキは距離こそ離されたが倒れることなく持ちこたえた。

 以前のシキであれば完全に吹き飛ばされて倒れていただろう。

 シキは以前と違う自分に強くなった意識を持つ。

 ただ、以前感じていた鉄仮面独特の恐怖感は変わらずひしひしと伝わって来る。


「お前、なんでここにいるんだ?」


「嗚呼少年よ。己の非力さより羽虫を失ったその事実を受けて力に得ることができたかな?」


「て、めー」


「はい、すいません。嘘です。私は鉄仮面ではありません」


 シキが鉄仮面に向かって攻撃を仕掛けようと向かう瞬間に鉄仮面の格好をするアバターは両手を肩のところまであげ急に口調を変え始める。


「は??」


「は?じゃないですよ。僕はシキさんのシャドウですよ」


「シャドウ?何言ってんだよ。どうみたって鉄仮面じゃねーか?」


 目の前にいる鉄仮面の姿をした明らかに鉄仮面とは違う言動をする目の前のシャドウと名乗るプレイヤーに困惑するシキ。

 シャドウというのは、その言葉の通りプレイヤーのシャドウ、分身や影を意味するものであるはずだが。


「それではですね。まず僕ことシャドウがなんたるかを説明していきますね。

プレイヤーと呼ばれる人はVBC(バーチャルブレインクラウド)経由で具現化されたアバターに意識リンクで意識を移した後、AH(アストラルホライズン)にログインさせている人物を指します。

シャドウはその理論を少し応用させてもらった技術でして、《時と補正のエリア》という空間に限りですが、AH(アストラルホライズン)側がプレイヤー情報を取得させてもらい、取得した情報で生み出した複製アバターにAH(アストラルホライズン)が生み出したAI、ここでいうと僕ですね。僕の意識を複製アバターにリンクさせて生まれたものです。

簡単にいうとAH(アストラルホライズン)が用意したチートみたいなものですね。

しかもAH(アストラルホライズン)側が取得したプレイヤー情報という概念に基づき、シキさんの目の前にいる鉄仮面の姿をした僕のように、シャドウの本来であるプレイヤー、今だとシキさんですね。シキさんが保有している鉄仮面の情報をアウトプットする鉄仮面として再現できてしまうわけです。ちなみにこんな風にも」


 そう言うと鉄仮面の姿をしていたシャドウは、サラの姿になる。

 鉄仮面の姿でいきなり出現し、一旦鉄仮面の真似をしながらファーストコンタクトをとってくる行動の時点で、相当な苛立ちを覚えていたシキだったが、サラの姿になる事でさらに怒りが増してくる。


「お前、さっきから悪ふざけがすぎるぞ」


 サラの姿を見せられる事は今のシキの心情を考えれば精神衛生上いいものでない。サラ本人でないならもちろんであるし鉄仮面の姿の後にサラの姿を見せてくるのであれば尚更である。

 自分の無力さや非力さを言葉にされずとも言われているようなものだ。


「そうですよね。ムカつきますよね。わかります。

 でも僕はわかっていながらそうしているんです。

 シキさんのデータを持っているんですから。

 ご本人ですら気づいていない気持ちや深層心理の指摘をするのも僕の役目です。

 そして怒りがヒートアップしてもサラさんの姿をしている限りは攻撃されないこともわかっています。

 だからこんなことしちゃうかもしれません」


 そう言って笑いながらサラの姿で自分の胸を揉み始めるシャドウ。さらにシキの怒りに触れる。


「【ファイアーボール】」


 サラの姿をしたシャドウに向かってシキはソーサラースキルの火の玉【ファイアーボール】を掌から生み出し投げつける。

 【ファイアーボール】をスナイパースキルの気の塊が付いている矢である【パワーシュート】を放ち打つけて消すシャドウ。


「深層心理指摘するのとムカつかせるのがつながってねーだろ。これ以上ふざけたことしてるとマジで殺すぞ」


「すいませんすいません。さすがに悪ふざけしすぎちゃいましたね。

 ただそう言いつつも、避けるかスキル打つけるかでダメージ受けずに済むような攻撃しているのもわかっていますよ。自分の腹の中が探られているのは気持ちのいいものではありませんが認めましょう」


 シャドウが指摘している内容は図星である。

 無論、シキも本能的に動いているところもあり指摘されて気づく事ではあるが。

 認めざるをえない。

 わざとシキを怒らせるような行動をあえてするシャドウの口車に乗ってしまうのもシャクにさわるので、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


「ったく・・・。俺のすべての情報を元に具現化した存在の割には、ずいぶん性格やしゃべり方が違うように見えるな」


「はい。あくまで僕は僕です。意識がリンクしているアバターはVBCがAH(アストラルホライズン)に提供しているシキさん情報を元に作られていますが、意識自体のAIは別物です。

 そして僕の求められている存在定義は《時と補正のエリア》でシキさんを成長させる事です。

 成長させる為に最善となるように最適化されています。

 シキさんにとって居心地のいい存在がシキさんの成長につながるかどうかと言えばそうではないでしょう。僕はきっとシキさんにとって居心地のいい人とは一番遠い場所にいる個性になっていると思いますよ」


「その物言い喋り方、俺の感情を逆なでするような対応は、まさに《時と補正のエリア》から求められているミッションにあわせた”仕様”ってわけだ」


「そういう事だと思います。《時と補正のエリア》にステータスとしてのレベルアップを求めるプレイヤーが多いみたいですが、心身共に自分を磨き成長するのが《時と補正のエリア》でありシャドウの存在価値ですから。僕と触れ合って色々思うところも含め感じてもらって成長に役立ててもらえたらいいと思いますよ」


 シャドウは一通りの説明を終えるとサラの姿からまた鉄仮面の姿に変わる。


「っで、鉄仮面の存在が俺の成長には役立つと?」


「そうかもしれないですし、そうじゃないかもしれません。

 ただ僕がそうしたほうがいいと思ってする事はシキさんにとっての成長につながる事ですから。

 その事が都合の悪いこととシキさんが受け取っているのであれば、シキさんは都合の悪い事で成長につながる事を避けている傾向にあるのかもしれませんね」


 曖昧な返答をするシャドウにまた少し苛立ちを覚えながらもシキは戦いに集中する。


「そうか。ご丁寧にありがとよ。じゃ、その都合の悪い存在を排除させてもらって成長させてもらうわ」


 シキはそう言うと鉄仮面の姿をしたシャドウに飛び込み右ストレートで殴りかかろうとする。

 しかしシャドウから波動を食らうのはわかっている。

 シャドウが「こりないですね」と掌を向け波動を出した瞬間。


「【マジックアロー】」


 シキは右ストレートに【マジックアロー】をかけ、【マジックアロー】と宿した右ストレートとシャドウの波動を打つける。【マジックアロー】を宿した右ストレートと波動の威力は互角のようでお互いの塊が打つかりあって消えた。


 そしてその瞬間にシキはさらに踏み込みシャドウに右顔面に向かって左フックを打つける。


 しかしその左フックに対してもシャドウは右顔面をかばうように左の掌を出し、そこから波動をさらに放ちシキの左フックを吹き飛ばすが、シキはその反動を使って右フックで今度はシャドウの左顔面に食らわす。


 右フックのフルスイングを左顔面に受けて倒れこむシャドウ。


「なんでもかんでもお見通しってわけじゃなさそうだな」

 

 シキのすべての行動をお見通しだと言っていたシャドウに一発攻撃を当てられたことのはシキにとって大きかった。

 そして鉄仮面の姿をしている以上はシキと同じ格闘技術は使えないように見える。

 鉄仮面の姿をしている時に波動を出せる半面に鉄仮面以外の攻撃パターンはを引き出す事はできないようだった。


「やりますね。さすがのプレイヤースキルです。ではこれではどうでしょう?」


 言った瞬間に消えるシャドウ。

 消えたシャドウはシキの背後に周り波動を打つけてくる。

 防御が間に合わず飛ばされるシキ。

 さらに飛ばされた先にシャドウはすでに移動していて波動を放たれる。

 その後も瞬間移動をひたすら繰り返さし、波動の連続攻撃がシキに浴びせられる。


 四方八方すべてから瞬間移動で死角に現れて波動を食らい続けたシキは倒れこみすぐさまHPゲージが赤色までになり瀕死状態になる。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「鉄仮面さんの実力を舐めてはいけませんよ」


 あと一発ほどでシキはキルされる状態であるがシャドウは追加の攻撃はしてこない。

 ふらふらの体で立ち上がるシキ。


「余裕こいてんな」


「いえいえ、余裕こいてるわけではないです。

 僕の目的はあくまでシキさんを成長させることですので、キルする事ではありません。

 この後、追加攻撃してシキさんがキルしてしまって帰化プレイヤーになってしまいますからね。

 こちらを飲んでください」


 シキはシャドウからHP全回復薬とMP全回復薬を投げて渡され、飲む。


「その楽しそうな上から目線をどうにかしてやりてーな」


「楽しいのがバレてしまいましたか?弱者を圧倒的な力でねじ伏せるのは楽しいですよ。

 その逆の立場であるシキさんには怒りしかないでしょうけど」


「早い段階でその立場を逆転させてやるよ」


 全回復したシキはすぐにシャドウへの近接攻撃を開始する事なく、距離を置き仕掛ける攻撃について考える始める。以前鉄仮面と戦った時に感じた圧倒的戦力差でねじ伏せられた時とは違い戦ってはいけると確信したものの、現段階でもそれなりの戦力差を感じている。

 特に先ほど受けた瞬間移動と波動の組み合わせ攻撃は、ただただ嬲られるだけなのがわかっている。


「くくく。悩んでますね。大丈夫ですよ。キルされるわけじゃないんだから。

 どんどん攻めてがんがんやられてを繰り返していけばそのうち対等なほどの強さにになっていくのではないですか?」


 馬鹿にするようなシャドウの笑いや表現に対していちいち反応をしないよう意識を集中させるシキ。


「【フロストボルト】」


 (ひょう)ほどの大きさをした氷の無数の塊が敵に襲いかかるアイススキルをシャドウに放つ。

 シャドウはため息をつきながら【波動】を放ち打つける。

 その後もシャドウを中心にした円状を移動するかのようにシキは少しづつ周りながら移動し【フロストボルト】を放っていく。


「何がしたいんですか?近接戦闘がシキさんの持ち味なのに勝てないからと言って、打開策の見えない惰性的な中距離攻撃ばかりしてきて、、、残念です」


 シャドウの呆れた対応も気にせずにシキは今度は両手で【フロストボルト】を放ち続け、それをまたひたすら【波動】で捌きつづけるシャドウ。


 ちょうど一周を回るくらいタイミングで異変が起きる。シキの移動に合わせて向きを変えていたシャドウが足をからませて倒れてしまう。

 倒れてしまった時にシャドウが気づく。

 シキが【フロストボルト】の攻撃で狙っていたのはダメージではなく確率で付与される凍結状態であったこと。


 シャドウが倒れてる瞬間をシキは見逃さす【マジックアロー】を帯びた拳を倒れたシャドウを地面ごと叩きつけるように打ちおろす。


「ぐは!!」


 渾身の一撃を受けたシャドウはその場を離れようとするが凍結状態がまだ解けずマウントポジションをとられたシキにひたすら殴られ続ける。


「おらおらおらおらおらおらーーーーーー」


 HPゲージが0になるまで殴られ続けたシャドウは光の粒子となって散っていった。


次回は月曜日の19時に投稿します。

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