30話 ACT8-4
次の日
前日のリンカとのハプニングモーニングから打って変り、穏やかな朝を迎えるシキ。
AHにログインしてから6日を迎える。
とても6日間とは思えないほどに色々な事がありすぎた事をふと一人での時間を少しばかりか過ごすことで思い出す。
まだ何も解決していないが、リンカとの出会い、マリアとの出会いが為すべき事を示しているようにシキは感じていた。
リンカとマリアに出会わなければサラを救うにはどうしたらいいのかを暗闇の中、模索していただろう。
EGなる帰化プレイヤーギルドの先にサラにつながるものがあるのだろうか。
ふと出来た時間で考えてしまう事は考えたところで解決する事のない事ばかりだった。
リキとの連絡手段であるメッセージボックスもほとんど使っていない事を思い出しAHにインし直してから今に至るまでの情報を送っておき、またシキのやりとりログ情報を自動でリキ宛のメッセージボックスに送っておく設定もしておくことにする。
激動の時間を過ごす中で細かい情報共有の漏れでリキに迷惑をかけることは避けたかったシキなりの配慮ではあった。
リンカにフレンドチャットで話しかけ、部屋の前で待ち合わせし酒場に降りて朝食をとる。
朝食を済ますと鍛冶屋に向かって、鍛冶屋のオヤジ店主に武具一式を受け取り装備。
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シキ装備
武器 ジャイアントベアーナックル
盾 なし
頭 なし → ジャイアントベアフード
体 村人の服 → ボアレザースーツ
腕 なし → レッドボアレザーアーム
靴 村人の靴 → ケルピーブーツ
アクセ1 なし
アクセ2 なし
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元々の武器としてドロップしていたジャイアントベアーナックルはすでに装備されていたので、それ以外の武具の装備も終える。
アバター切り替え機能によりシキはシンプルにナックルもベアフードもケルピーブーツも表示させず、ブラックのレザースーツとレザーアームのシンプルな格好を選ぶ。
アバターはどんな服装であれそれにより動きづらいと言ったことがないように挙動補正はされているものの、シンプルでシックな格好のほうがシキの中でしっくりくるものがあった。
「これでついにモブっぽさはなくなったな」
「そうね。逆に今までよくその装備品でやっていたわね」
「本当だよな」
もう上級職になるシキのあべこべさに二人は可笑しくなって笑ってしまった。
これからの戦いに向けてさらに意識を集中していかなければいけない事はシキもリンカもわかってる。
だからこそちょっとした事で笑いあえる時間というのが貴重な時間であるからこそ二人はリラックスした時間を楽しんだ。
教会に向かう途中でシキはふと気がつく。
「マリアと会っておかなくて大丈夫か?」
「そーね・・・。うん。大丈夫」
リンカの性格を考えると自分がまだマリアと会っていないという事実は気にならないだろうかと思って聞いてみたが、いざ聞いてみて反応を見るとそれよりも現時点でリンカ自身がマリアから求められていない事に対してのプライドのほうが大きいのかもしれない。
マリアが求めるレベル40になり、可能性があるならば特殊なスキル発動を得られた時に出会うのがリンカの理想なのだろう。
シキは自分自身の課題はもちろんの事、リンカの成長にも一役担えるよう意識をしていこうと思った。
鍛冶屋を出て教会に向かうシキとリンカ。
「《時と補正のエリア》用にアイテムをショップで揃えておかなくて大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。《時と補正のエリア》は時間短縮型のレベルアップエリアだからアイテムを使わなくてもHP、MP及び全部の消費したステータスをすぐに回復できるクリスタルが常備されているのよ。
また今日から3日間集中してレベルアップ及びトレーニングしていくけれども《時と補正のエリア》は簡単な寝食ができるスペースが与えられて食事はルームサービスで持ってきてくれるので、文字通り缶詰になれるわ」
缶詰という言葉に反応したシキは前回のリンカの部屋に泊まらせてもらった時の事を思い出してしまう。
さすがに今回はベッドが一つとかはないだろうが、気をぬくとせっかく作り上げてきた信頼関係を壊してしまう可能性がある。
気のせいかもしれないがAHにはこういったトラップが多いような気がする。
説明をしているリンカ自体はその事に気付いている様子はなく説明をしつづけていたので、シキは突っ込んだ質問をしてみる。
「リンカと俺は同じ部屋?」
「・・・、なんでその質問になるのよ?」
リンカにジト目で睨まれるシキ。
「あ、いや、また迷惑かけるとよくないと思ってな」
シキがそう言うとリンカは、二人で一緒のベッドで寝た次の日のことを思い出し顔を赤くする。
「余計な事思い出させないでよ。共通スペースはあるだろうけど寝室は別になっているに決まっているじゃない」
「わ、悪い。そうだよな」
寝室が別である事に一安心する。
「私も使った事はなくて聞いた事があるくらいなので確かな情報ではないかもしれないけど、どういうロジックになっているのか分からないけれど、パーティー毎にその空間と住居コテージが割り当てられているみたいよ。
ちなみに《時と補正のエリア》を使いなさいよと簡単にマリアって子は言ったと思うけど、《時と補正のエリア》は基本1プレイヤー10日間までしか使えないって制限もあるの。
だから今回使う3日間はそれなりに貴重な消費となるわ。
もちろんこのタイミングで使うのはすごくいいタイミングだとは思うけど、大事に使っていきましょうね。ってことね」
《時と補正のエリア》の存在が改めてプレイヤーにとって大事なカードである事を認識する。
教会につき、礼拝堂の奥にいるNPCの神父に話しかけ、基本職ウィザードから上級職ソーサラーへのジョブチェンジを依頼する。
マイページを開いている状態で目を瞑り、胸に手を当てて神父がシキの頭に手を当てる。
「汝、我を知り、時として艱難を玉にせよ」
神父の唱えにあわせて回りが光に包まれ、マイページに書かれたシキのウィザードというジョブがソーサラーに切り替わる。
「おーーー!!なんかすげーな」
「進化したって感じでしょ?こういう演出は大事よね」
テンションのあがるシキをみて笑顔になるリンカ。
サラもそうだったが仲間の成長を喜べる関係という”大事な事”を教えてくれたのもまたAHだった。
ログインした時にナビゲーションに説明された。
『なりたい自分に必ずなれる世界。仲間とともに自分にとっての理想のライフスタイルをこの世界で築いてみましょう』
という言葉をふと思い出すシキ。
ナビゲーションの案内に込められた製作側の思いが今回の事件に結びついていない事への切望も同時に混在してしまう。
サラの思いもリンカの思いもマリアの思いも、そしてシキの思いもできることであれば制作側の思いと同じ方向に向いていたいと願うばかりだった。
設定や背景の深掘りに時間を使いたく、しばらくは週1,2の更新頻度になります。
次回は28日19時に投稿します。




