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20話 ACT5-4

AH(アストラルホライズン)から出られない事がわかっているプレイヤーはみんな住まいの確保をしているわ。

 あなた、このままだと野宿になるだろうからまずは部屋を借りないとね。

 私の部屋をみてもらって分かる通り、この施設はそんなに大きなアパートメントではないから家賃も大したことはないわ。

 このアパートメントで部屋を借りちゃいなさいよ。」


 シキはリンカに言われるがまま酒場で食事を終えた後、受付の女性の元へ行き部屋を借りたい旨を伝える。


「うーん。参りましたね。明日からリンカさんの向かいの部屋が空くのですが、今日までは全部満室みたいです。リンカさん、シキさんを泊めてあげてはどうですか?」


「え??、何言ってるの?そんなの無理に決まってるじゃない。なんとかならないの?今払っている人の分より多く払うから追い出しちゃってよ」


 無茶苦茶な交渉をする奴だな・・・。


「いいよ。俺は別にその辺で一晩明かしても問題ないから」


 同じ目的を持ちパーティーを組んだとはいえ、今日いきなり知り合いになった人、しかも異性である。

 一緒の部屋で一晩明かす選択肢はありえないだおう。

 なんなら第一印象だけで言えればノゾキ魔としての勲章をもらっていたくらいだし。

 変に気を使わせるのも申し訳ないのでシキはサッとその場を去ろうとする。


「ちょっと待って」


 腕組みしながら目をつぶって「うーん。うーん」と言いながらリンカは悩んでいた。

 悩むような選択肢があるのだろうか。

 まさかとは思うが・・・。 


「わかったよ。今日は私の部屋に泊まりなさい」





 本当に色々な事がありすぎて一つ一つを整理していくのが大変である。


 そして今最も整理ができない状況に出くわしている。

 一つの小さな部屋で一つのベッドで今日初めて会った子と肩を並べて寝ていることである。


 リンカから部屋に泊まる事の許可をもらったシキは「気にしなくていい」と言って一度は断るが、「私に恥をかかせる気?」と凄まれてそのままリンカの部屋に連れて行かれた。

 勝気の強い女の子は自分が誘った手前断られるのはプライドが許さないようだ。


 とは言えリンカ自身も緊張しているようだった。

 部屋に入った途端に会話も少なくなる。


 この沈黙・・・。


「ほら、さっさと着替えてさっさと寝るわよ。あっち向いて」


「あ、あー」


 お互いがお互いを見ないよう着替えをする。

 AH(アストラルホライズン)ではアバター切り替え機能によって自分の好きな寝間着も用意できる。

 リンカはピンクのロングワンピースの寝間着になり、シキは黒の上下スウェットの寝間着になる。


 アバターにはそもそも汚れるといった概念はないのでシャワーを日常的に浴びることはない。

 もちろん気分的にすっきりしてたく浴びたりすることはあるが。


「それじゃ、俺はここで。お休み」


 椅子に座って寝ようとするシキ。


 部屋が暗くなる。リンカが電気を消したようだった。

 お休みを言う事もなく電気を消したリンカはベッドに移動した後またしばらくの沈黙がある。

 このままお互いに眠りにつくのかと思った矢先。


「もういいからそういうの。椅子で寝ると疲れ残るからベッドで一緒に寝るわよ」と言われる。


 そして一緒に寝る事に。


 そんなに大きくないベッドでリンカは奥で壁側を向いてシキには背を向けて寝ている。


「お、お邪魔します」


「変な言い方しないで」


「わ、悪い・・・」


 緊張して動くことすらままならない中、この硬直状態では椅子よりちゃんと眠れないんじゃないかと思いつつ目をつぶり、しばらく静かな時を過ごす。


「ねえ、、、シキ」


 しばらくするとリンカも眠れないのか声をかけてくる。初めて名前で呼ばれたようにシキは思った。


「ん?なんだ?」


「そのサラって子は彼女なの?」


「あ、いや、彼女とかではない」


「ふーん」


 サラの存在が気になったのか。

 もしくはサラの為にもうリアル世界に戻ってこれなくなるかもしれないAH(アストラルホライズン)にログインしたシキとサラの関係が気になったのだろうか。


「幼馴染なんだ。俺はアナログ人間でリアル世界では結構浮いている奴でさ。

 別にその事自体を俺は気にした事はなかったんだけど、サラは浮いている俺を世間の輪の中に入れたかったみたいだな。V

 今色々と振り返るとBCヘッドセットを俺に使ってもらうキッカケをAH(アストラルホライズン)を通じて探していたように思えるな」


「・・・、いい子ね」


「そう、むちゃくちゃいい奴なんだよ。

 そんないい奴が俺なんかを助けたが為に帰化プレイヤーになってるかもしれない。

 絶対にサラを救わないと俺は自分を許せなさそうだよ」


「うん」


「リンカには感謝してる」


「なんで?」


「多分、俺一人で右往左往するのが目に見えてたから。実際、リンカの中で一緒に行動しようと思った気持ちの中に俺の事を考えての部分もあっただろ?」


「・・・」


 何かを言いかけて言わないリンカにこれ以上言葉はかけないほうがいいと思いシキはそのまま会話を止める。

 リンカの救いたい人。

 リンカにとってすごく大事な人なんだろう。

 リンカも本当はもっと色々と話したい部分もあるだろう。

 リンカの言葉を受け止めてあげられるくらいに強くならないといけない。


 そんなことを思いながら、改めて自分がやるべきことは誰にも負けない強さを手に入れてサラを助ける事だと誓う。

 少しだけリンカにサラへの思いを話したことで気持ちがやわらいだのもあり、そのままウトウトして眠りに入る。





 チュチュチュと鳥のさえずりが耳に入り、閉じている瞼の上からも明るさを感じ始めて少しづつ意識が戻ってくる感覚。

 目が覚める。

 

 体がいつもより暖かく安心した気持ちになっている原因は、瞼をゆっくり開けた時にわかる。


 お互いの寝相が共に悪かったのか、リンカはシキが仰向けで寝ている上にうつ伏せになり乗っかっていてる。

 シキはリンカを包み込むように抱きしめながらの姿勢で寝ていた。


 うぉーーー!!この状況はやばい!!


 シキはゆっくりリンカを起こさないように仰向けの姿勢から横になるように体を傾ける。


 起きるなよ。起きるなよ。


 その思いは虚しくお互いが横向きになった時に、リンカは目を覚ましてしまう。


「うーん。おは、はぁ!!」


 その言葉とともにリンカは自身の体を捻らせその反動をつかい掌底でシキを突き放し、さらに体を丸めてベッド上でドロップキックでベッドからふき飛ばす。


「ぐは!!」


 ベッドから見事にふき飛ばされ、地面に落とされるシキ。

 

「ちょっと待て、何か勘違いしているぞ」


「あなた、やっぱり変態だったのね」


 まくらを抱きしめてベッドの上で割座で座ってシキを睨みつけるリンカを説得するのには相当に時間を要した。


 しかし、俊敏力が尋常じゃないな・・・。




 

 しばしのシキの状況説明で納得はいってなさそうであるが受けれてくれたリンカをなだめながら支度をする。


 シキとリンカは部屋を出て下のロビーに降りて受付で部屋の空き状況を確認し、シキの部屋を確保する。


 部屋の作りはレイアウトセンスがシキになかったので、素材は質素なものにしつつもベッド、デスク、テーブル、棚の数と位置はリンカに完全にあわせて手配してもらった。

「あなたがサラって子におんぶにだっこの理由がわかったわ」と嫌味とセットで。


 これでヒヤヒヤはもうしなくて大丈夫だ。とシキは肩をなでおろす。


 酒場で軽く朝食をとり、集会所兼アパートメントを出て歩く。

 リンカに連れられシキが向かった先は駅だった。


「帰化プレイヤーにつながっているかどうかわからないけど、帰化プレイヤーに関連しそうな噂を耳にした街があるの。

 まずはそこにいくわよ。しばらくはそこで情報収集しながら滞在ね」


 リンカが耳にした噂の街、イース街。

 特殊スキルを手に入れたいプレイヤーを募っていて、AH(アストラルホライズン)の中でもガチ勢と呼ばれる強くなって活躍することを一番の楽しみしているプレイヤーが中心に集まっているようだった。

 

 そもそもAH(アストラルホライズン)では特殊スキルや特殊ジョブに対する明記は公式でも発表されていない。

 そのため特殊ジョブや特殊スキルに関する情報は掲示板での半信半疑な情報提供が多少あるところから始まっている。

 本来であればスルーされてしまうような信憑性のない情報源でも特殊ジョブや特殊スキルの話題となると盛り上がり方は他の情報とは違い、たしかな情報がないまま少しづつ広がり始めた。


 そんな中、特殊スキルを得られる街としての情報が出回り始めたのがイース街のようだった。


 駅で切符を買い、昔懐かしの雰囲気を漂わす汽車に乗り移動していく。シキとリンカは向かいあう四人席に対面に座る。


「リンカの救いたい人も帰化プレイヤーになったのか?」


 移動時間、昨日の夜聞きたかった事をシキは問うてみる。


「いきなりね?私のことをもっと知りたくなった?」


 頬杖をして窓をずっとみていたリンカはシキの質問がうれしかったのか、笑顔で少しからかい口調で返してくる。


「それはもちろん、これから一緒に行動していくんだしな。色々知りたい」


 シキのまっすぐな目を少しだけ合わせてリンカは照れながら、窓の外をみて話し始める。


「そうね、私の救いたい人は実はAH(アストラルホライズン)で離れ離れになったわけではないから本当にこの世界にいるのかはわからないんだ。

 ただ突然リアル世界からいなくなっちゃって、時間のほとんどをAH(アストラルホライズン)に使ってる人だったからこの世界にいるのかと思って来たんだけど、フレンドリストからも消えていて、色々調べまわっていたら帰化プレイヤーの存在を知ってたの。

 だから帰化プレイヤーの動向を探りながら、その人に会えたらなんて思ってる。

 帰化プレイヤーではないのかもしれないしこの世界にもいないかもしれないけど・・・。

 昨日あなたには色々聞いたのに自分は言わなくてごめんね。

 私の場合、あなたと違って断定しにくい情報を並べているだけだから」


「気にすんな。リンカの気持ちを優先するほうがいい」


「あ、ありがと・・・」


 照れ臭そうに言うリンカ。


 どんな人なんだ?とシキは聞こうと思ったが、大事な人の詳細を避けてリンカが喋っていたように思えたので、それ以上聞くことはしなかった。


 列車は《イースの街》に着き、シキとリンカは降りる。

 街の作りはびっくりするくらい《アルバの街》と似ていた。

 リンカ曰くAH(アストラルホライズン)は建物の位置とか景観への美しさを重視しているので、結果として作りが似てしまう傾向にある。

 中世ヨーロッパという表現にふさわしいヨーロッパテイストの作りの美しさにシキは感動をしていた。


 仮にリンカの情報通りだった場合、特殊スキルや特殊ジョブを得ている帰化プレイヤーが相当数いるとなると街全体が戦闘状態になっていてもおかしくはなさそうだが。

 この穏やかな街の中では到底、その状態を想像することはできない。


 駅の近くの《アルバの街》と同じく集会所兼アパートメントに入り、受付にしばらく2名滞在したい旨を伝える。

 カップルと思われたようで最初ダブルベッドの1部屋を紹介されたが、全力でリンカが否定する。

 照れているのを受付に面白がれたりしている姿をシキはただただ横ですこしニヤニヤしながらみていた。


「ちょっと、あなたもちゃんと言いなさいよ」


「そうなんですよ、こいつ、照れ屋で」


 受付の人への弁解をリンカに求められたシキは、受付の人が喜びそうなコメントでリンカを指差し返答したところ、フルスイングビンタをくらった。




 

「全く、何考えてんの?」


「冗談だろ、冗談」


 手続きをすませビンタを受付の人に笑われながら部屋に案内される。

 部屋も位置も《アルバの街》と同じように2階で向かい合った部屋だった。

 また部屋の家具等は、《アルバの街》で借りていて部屋をそのままデータ移管できるようで全く同じ部屋を再現されている。


「少し部屋でゆっくりしたら下の酒場で情報収集してみましょうか?

 あと、鍛冶屋にいってこの地域でとれる素材とかを確認してすこし装備品を揃えましょう。

 レベル上げも兼ねつつ。

 あなたの今の見すぼらしい装備品もなんとなしないとね」


「しれっとディスるのやめてくれ」


「さっきの仕返し。10分後にロビーでね」


次は明日の21時に投稿します。

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