19話 ACT5-3
リンカからフルスイングのビンタをくらいHPゲージを少しだけ減らしたシキ。
「これで一旦チャラでいいわ」
フルスイングビンタですっきりとした顔をしているリンカ。
ペナルティとしての家来で話がついんたんじゃなかったのか?
理不尽な流れを感じつつも、余計な事は言うまいとシキはリンカからのチャラ宣言をありがたく受け取る事にする。
「ところであなた、今ログインしてきたってことはリアル世界に戻れるの?」
核心を突くリンカの質問に一瞬どう答えようかを悩むが、しばらく一緒に行動すると決めた以上嘘をついてもしょうがない。
「戻れる。今、AHにいるプレイヤーはリアル世界にログアウト、または実体にリンクできないんだろ?」
「そうね」
「だとすると俺の置かれている状況は相当特殊事例だよな。
知り合いがPKされてるんだ。
もちろんリアル世界に戻ってこれなくもなってきてる。
その知り合いを探しに俺は、今の危険な状況かもしれないAHにログインして来てる。
だからあまり目立たないようにはしたいからしばらくはリアル世界にはログアウト及び実体にリンクしない」
シキの説明を聞いたリンカは腕を組みながら色々考え始めた。
「そう。知り合いの事や気になっている事ももう少しちゃんと聞かせてほしいわ。あなたご飯食べた?」
「そういえば、ずっとバタバタしてて腹減ってることすら忘れてたな」
「この後一緒にご飯どう?
色々やりたい事はあるだろうけど、今日はもう遅いしご飯食べた後は休んで、次の日に色々行動しましょうよ」
色々な事がありすぎてシキはすっかり時間感覚をなくしていたが、言われてみれば外は暗い。
そもそもリアル世界に戻ってきたタイミングで結構な遅い時間だった気がする。
っとすると、夜、いきなり女の子の部屋に現れるプレイヤーって・・・。
シュチュエーション的にもそうとうヤバイ。
勝気なSっ気キャラのリンカにいきなり攻撃を食らうわ家来にされるわビンタされるわで散々と思っていたが、逆に気弱な女の子だったら完全にチカンになっていたかもしれない。
リンカの性格に少しだけ感謝をする。
食事を取りにシキはリンカに連れられ部屋を出る。
部屋を出ると向かい側にも扉があり、共有部分らしき廊下を中心に、両サイドの壁に一定間隔で扉があった。
この建物自体がプレイヤーの住む場所になっているようだった。
リンカの部屋は建物の2階で、そこから1階に降りると集会所とロビーになっている。
集会所とロビーのこの景色は以前サラとカフェした時に来た事があるその場所だった。
上の階は人が住む構造になっているのか。
壁側にはボードがあり、クエストの紙が貼ってあり、クエストを品定めしているプレイヤーがいた。
呑んで騒いでいるプレイヤー達もいれば、食事しているプレイヤーもいて、全体的に活気づいている。
「俺はAHではコーヒーを一回飲んだ事あるくらいしか経験がないんだけど、元々呑んだり食ったりってのは結構するものなのか?」
「そうね。やっぱり食べるのも飲むのも立派な娯楽ですから。
リアル世界に比べて物価も安いわ。
データで素材が作られていることを考えると原価もあってないようなものなんじゃない。
だから普通に飲み食いだけを楽しんでいるプレイヤーもいるわ。
VBCの仕様にももちろん則っているので、しっかり味覚も味わえるし、酔うこともできるのよ」
「ちなみにこの全体的雰囲気からすると、AHから出られなくなっていること自体、そんなに大問題になってないのか?」
「そう!!そこなのよ。
元々AHで遊んでいるプレイヤーはリアル世界が好きじゃない人も多いし、一時的なバグだと思っているプレイヤーも多いの。
そもそも運営からは一切なにも通知が来ていないので、そのうち戻れるでしょ。的なノリの人が多いかも。
今は戻れない状況を言い訳に楽しもうぜ。ってくらいで楽しんでいるプレイヤーばかりだわ。
危機感がなさすぎるよ。まったく」
AHから出られない状況と運営から何も通知がない状況とそこに甘んじているプレイヤーの思考については他の説明よりもすごく力説をするリンカ。
きっと、今の状況は絶対によくないと思っているのだろう。
ロビーにある酒場のメニューは結構豊富で、リアルな世界にもある定食からファーストフードから高級食材を駆使した料理まである。
リンカの言うとおり値段はそんなに大きな変化はない。
もちろん仮想世界のゲームならではの骨付き肉などもあった。
他のテーブルで用意された骨付き肉を見て冒険好きなら一度は想像してしまうだろうかぶりつける骨付き肉。
これは、プレイヤーがはまってしまう理由もわからなくないな・・・。
シキはA5ランクの骨付き肉を、リンカはシーフードパスタを頼んで、食す。
「う、うお。これ、激ウマじゃね?」
「ふふ、あなたここでの食事初めてだもんね。VBCが基本的なプレイヤーの趣向を汲み取って提供される料理だから、プレイヤーの好みの味付けになっているのよ。
どんな料理を頼んでも味付けは自分の一番好きな味付けになっているから、ハマっちゃうかもね」
「まじか?それはやばいな」
シキはその後骨付き肉を何度かお代わりをしつつ、リンカがシーフードパスタを食べ終わるタイミングにあわせて食事を終わらせる。
一息つき、コーヒーを飲みながら、一服する。
「あー食った。食った。すげーな。この満腹感。でも実体には栄養いってないんだよな?」
「栄養にもいってるわ。実はその仕様ができたのもつい最近なんだけどね。
今、VBCの技術は凄まじい勢いで進化してて、特に第一線のエンジニアと企業はアバターのみで生きていけるような世界を目指しているみたいよ。正式発表しているわけではないけれど。
VBCに関しては法整備も全然できていないので、テクノロジー先行で環境が用意されていって、モラルが各々に委ねられているのは知ってるわよね?
プレイヤーや消費者達が自分達の責任において判断していかないといけないのだけれども、人にはそれができないからこそ法律があると思っているの。
だから私は、今の世界が少し怖い。
現にこういったバグも起こしていて私達はAHを出られないわけだし。
人が創造した世界で人は生きていけるのかしら。
今は唯一あなただけ実体をリンクできてっ」
リンカが続けて言葉を発しようとした瞬間にシキは左手でリンカの口を押さえて耳打ちする。
「どこで誰が聞いているかわからないから内密に頼むな。結構大事になって、目をつけられると困るからな」
口を押さえられたリンカは顔を赤くしてシキの左手をのける。
「ちょっと、びっくりするじゃない。口とか押さえないでよ。言ってくれれば、気をつけるわよ」
「悪い、悪い。俺に置かれてる特殊な環境の情報共有を誰としていくかは結構シビアに見てるんだよ」
「そうなんだ。私には普通に話してくれたからオープンなのかと思っちゃった」
「それは信用したから喋ってんだよ。ステータスを見せる。ってそういうことなんだろ」
シキの言葉で少し嬉しそうにするリンカ。
そうじゃないそうじゃない。と自分で少し思い改まったのか両手をブンブンさせたあと再度真面目な表情に戻して会話を続ける。
「そう、そんなことより、あなたの知り合いの事や気になっている事を教えて。信用してくれてるなら話せるわよね?」
うれしいと思った事を恥ずかしがって隠したり、畳み掛けてくるような言い回しで問い詰めてきたり、リンカのキャラクターの面白さを感じたシキは少し笑いそうになるのを堪える。
この子は確固たる自分を持っていて、どんな時も自分の気持ちにブレのない子なのだろう。
「何がおかしいのよ」
「いや、なんでもない。俺は一旦リアル世界に戻った後、いろいろ準備してからこっちに来てる。
俺の中では今回、リアル世界にリンクできないバグはあえて運営側か運営側に近い奴らが仕掛けているんじゃないかって思ってる。
さっき目立ちたくないから行ったり来たりはしないようにしている説明をしたのも、理由もそこにあるんだ」
リキの受け売りになってしまっているが自分の考えを伝える。
リンカを信用してはいるが、サラの親父、リキの存在はまだ隠しておくことにする。
自分が信用する人、信用する他の人を自分が信用するかどうかはまた別の話である。
シキを信用してくれているリキにとってリンカが信用できる存在かどうかは今すぐに確かめる事はできない。
シキの判断でリキに迷惑をかけたくない気持ちもあった。
ただサラとの間で起きた事を伝える事は結果どう転ぼうともリキに迷惑をかけることではない。
そう思ったシキは、
プレイヤー掲示板情報にはなくシキが出現させたレアイベントクエスト。
レアイベントクエスト後にエリア探索後、現れた鉄仮面。
瞬間移動や波動という公式にないゲームデザインの攻撃や動きをする鉄仮面が、おかしい発言をしながら戦いが始まった事。
レベル50近くあったサラでもスナイパーのスキルを全力で打つけたものの、わずかしかダメージを与えることはできなかった事。
シキは参戦するがもちろん状況は変わらず、サラの判断で途中逃げたりもしたが逃げ切れなかった事。
シキは自分が食い止めてサラだけを逃がそうとしたが、結局、サラに庇われる形で最後サラは体を貫かれた事。
話していて自分の無力さを晒しているようで悔しさや苛立ちを隠しきれなかったが、その後シキは無理やりサラにログアウトさせられて袂を分かってしまった経緯を改めて詳細に伝えた。
シキの経緯説明を聞いた後、リンカは少しだけ間をおいて自身で噛みしめるようにしてから話し始めた。
「そうだったんだ・・・。今ね、少しづつだけど話題になってきている帰化プレイヤーって言葉あるの」
「帰化プレイヤー?」
「本来であればプレイヤーはHP0になって死んだら、近場の教会に死に戻りするはずなのよ。
ただ、ちょうどあなたとそのサラって子がプレイヤーキラー、いえ、公式のAHのゲームデザインにはない攻撃や動きをする鉄仮面と戦っていた時くらいから、教会で死に戻りがされていないプレイヤーの話が結構出てるの。
教会で死に戻りしないプレイヤーはその場でまた息を吹き返してプレイヤーを敵視し始めてさらにPKを仕掛けてくるの。
今、AHはこういった状況に少しづつなっているの。ただ公にはなっていないの。情報通にしか入ってこない状況。そして実体にリンクもできなくなってる状態も発覚してきてる」
「っで、死に戻りしないでその場で息を吹き返してプレイヤーをPKしようとしてくるプレイヤーが帰化プレイヤーってことなのか?」
「そう。
帰化プレイヤーになってしまったプレイヤーは洗脳されているのかわからないけど、プレイヤーをPKする事を使命感のように感じているみたい。
だからあなたとサラって子に近づいてきたPKらしき鉄仮面も多分、帰化プレイヤーだと思う。
後、残念だけど、サラって子も帰化プレイヤーになってしまっていると思うわ」
リンカの話を聞きながらマティの事を思い出す。
マティは完全にプレイヤーキルされたわけではなかったが今の話に酷似している部分も多い。
そして、サラと最後に分かれてしまった時を思い出すシキ。
PKの鉄仮面に対する怒りよりも、サラを救えなかった自身の弱さに怒りを感じる。
「リンカ・・・、俺はサラを絶対にリアル世界に連れ戻す。
サラが帰化プレイヤーになってるんだったらその呪縛を早く解いてやる。
サラを救って、さっさとAHからおさらばしてやりたいけ。
だけど、きっと同じような目に合ってる奴らがいっぱいいるのをサラが知ったら、あいつはその状態を良しとはしないだろうな」
サラだったらきっと
「シーちゃん、このままリアル世界に戻るなんて無理。
私を救ってくれたようにほかの人達も救おう」
なんて無茶ぶりをしてくる姿を想像できる。
想像すると少しだけ笑えてくる。
本当、シキを目にかけるところも含めて、お人好しである。
お人良しは損する事ばかりでシキは巻き込まれないようにするタイプだったが今回に関しては、サラのお節介ともに言えるAHへの誘いがなかったら完全に蚊帳の外だったことを考えれば、サラのお節介は感謝すべきだ。
大事な人が辛い目にあっている時になにもできない自分のほうが辛い。
「・・・うん。帰化プレイヤーの話をしてよかった。私も帰化プレイヤーの真相を暴いて解決したいの」
「帰化プレイヤーってのが存在し始めて、プレイヤーも実体リンクできないようになってて、プレイヤーを帰化プレイヤーにどんどんさせていきたい犯人側の思惑があるのは、この話を聞けば誰だってわかることだよな。
だから俺はサラを救うだけじゃなくて犯人達を見つけて、その思惑を阻止して、帰化プレイヤーをプレイヤーに戻す方法を得たい。
それがさっきも言ったけど運営側か運営側に近い人間が関わっている考えが的中した時は最悪だな。
このAH自体が呪われたゲームってことになるからな」
シキは自分の考えを整理するかのように、すべきことを言葉に並べて意思をリンカに伝える。
リンカはシキをみて気を許した表情になる。
「大丈夫、まかせて。あなたのやりたい事と私のやりたいことは一緒だと思う。
私も救いたい人がいるの。
家来宣言なんてしちゃってたけど、本当は信用できる一緒に行動する仲間がほしくて・・・。
家来とかなしで一緒に行動してくる?」
リンカはリンカで成し遂げなくてはいけない事があるのはやりとりから思うところはあった。
出会ってから今に至るまで数時間の間柄ではあるが、この勝気な性格も自分を鼓舞しているところがあるのかもしれない。
凛としつつも、誰かが支えてあげないとどこかで壊れてしまいそうなリンカをシキは目的が一緒だからという理由以外だけではなく行動を共にすべきだと本能的に感じている。
そして絶対に言わないがさきほどまでの勝気な態度から、応援を求めてくるかわいさのギャップを感じてしまったことは心の中にだけ留めておくこととする。
「もちろん。まだレベルも装備も完璧じゃないけどよろしく頼むな」
「大丈夫。パーティー組んでれば経験値もシェアできるしあっという間よ」
リンカが改めて手を差し伸べてくる。その手をシキは少しだけ照れながらも握り返す。
「当面よろしくね」
次回も明日の21時投稿です。




