17話 ACT5-1
シキはホロジェクターグラスを外し一目散にベッドで寝ているサラを起こす。
「サラ!!」
揺らしても起きないサラを見て最悪の状況を想像するシキ。
再びホロジェクターグラスをつけようとするが、そこにサラの父親リキがいて止められる。
「シキ!!、落ち着け!!」
目の前にリキがいる事にすら気がつかなかったシキ。
「オジさん、サラがやばいかもしんねー」
興奮したシキはリキからはさらに信じられない言葉を耳にする事になる。
「サラも含め、AHにログインしている連中は全員やべーことになってんだよ」
リキから耳を疑う言葉を聞くことになったシキだったが、「とにかく落ち着け」と何度も言われ少しづつ落ち着きを取り戻していく。
シキが落ち着いてきたのを見計らってリキはシキに状況確認を求める。
「シキ、ちょっと向こうで何があったか、状況説明してくれ。
今やこっちじゃAHで今のサラと同じように実体のほうで反応がないプレイヤーが続出してんだ。
アバターに意識がいってても今みたいに体揺らしたりすれば、普通は意識に実体が揺らされている感覚が伝わるもんなんだが。
完全にリンクが遮断されちまってるようになって目を覚まさねーんだ。
最初は俺もバグかなんかだとは思って調べてたんだが・・・。
情報掲示板とか見てるけど、今の所だとお前ぐらいなもんだぞ。
実体にリンクできてるのは。
何があったんだ?」
シキはログアウトする直前に鉄仮面を被った相当頭のおかしなプレイヤーに襲われた事から話し始める。
鉄仮面をいわゆるPKと呼ばれるプレイヤーとも違うとサラは断言していた。
シキにとってはサラがなぜそこまで断言できたのかの理由の全ては理解できなかったが、シキに対して特別視する鉄仮面の話しぶりとサラ曰くシキにだけ起きていた現象を結びつけると鉄仮面がたまたま現れたPKではないのは理解できた。
シキ自身が当初からレベルアップが人より早かった事。
リアル世界での特性が活かされたのか、選んだ戦闘職のジョブと違う動きをした事で特殊なスキル発動を身につけた事。
シキしか遭遇しなかったレアイベントクエストが発生した事。
レアイベントクエストがキッカケかどうかわからないがそこでまた新たな特殊なスキル発動を身につけた事。
そしての特別な状態にあったシキを狙ってきた鉄仮面の圧倒的な強さにシキとサラはなす術もなく、ただのゲームのプレイ以上の危険を感じたサラは、心臓を貫かれそうになったシキを身を呈してかばい強制ログアウトさせた。
そしてログアウトした今、サラが目を覚まさない。
シキの話を聞きリキはしばらくの間黙って考え事をしていた。
「シキ、ちょっと、そこ座れ」
リキは改めてシキに経緯を説明する。
シキとサラがAHにインしてから3.4時間たったくらいの時に、BC連動、情報掲示板のスレッドにて、家族、恋人、友人がAHに行ったまま戻ってこないやりとりが増えているのを発見。
スレッドの内容を深く見ていくと、実体のほうへのアクションを仕掛けても全員が寝ているような状態になっている状況も同じだった。
リアル世界の人達は、AHにインすることもできず、本人との連絡がとりようがないとのこと。
気になったリキもAHにログインしようとするができない。
開発運営会社のアノテスに問い合わせするも原因調査中とのことで進展がない。
そこでリキは情報収集を引き続きしながら、どうにかAHに潜入しようとハッキングを試みていたところ、シキがこちらに戻ってきた。
これがリキが把握している事の経緯の全てである。
「シキ、、、あんまりよくない話かもしれんが、俺はその話を聞く限り、ハッキングとかそういった類じゃなくて、運営開発会社アノテスか内部の人間が絡んでいるんじゃねーか。と思ってる。
しかもサラの最後の行動を考えると、もしかしたらゲーム内で死ぬこと自体、結構やべーことなんじゃねーかとサラが思ったように思えるな。
普通のゲームプレイならただ死に戻りするだけだしな。
わざわざ急いで強制ログアウトまでさせた理由がただの死に戻りならみえてこねー」
「まじか・・・。したらサラは相当やばい状況なのか?」
「そう思っておいたほうがいいだろうな。
ただ、今、目の前にいるサラは普通に寝ているだけで、生きているから命に別状があるとは思えない。
とは言え、この体にリンクできねー以上、もちろんまともな状況であるとは言えねーしな。
そもそも話戻るが、ゲームシステムの仕様を考えて、プレイヤーのパラメーター改ざんならまだしも、特殊ジョブや特殊スキルの付与なんて、一介のハッカーやハッキング集団だったとしても簡単にできることじゃねー。
そう考えればこの異常事態を起こしているのは、当事者達であると考えるのは自然だろ。
それに最新技術のVBC領域を追求している研究者なんてマッドサイエンティストばかりだからな。
なんかしでかすんじゃねーかとは正直思っていたが・・・」
「でもってアノテスに問い合わせするも原因不明と言う回答しかこないと・・・」
「そうなんだよ。ってことは、答えは二つに一つで、会社グルみか研究開発チームの謀反かだな。
ただそれを俺達が追求しても、たかがしててるだろ。
国もVBCの規制関係は追いついてから頼りにならねー」
「じゃー、どうすんだよ?」
「そうだな、もう少し時間が経てば、戻ってこれないプレイヤー達の日常生活への影響を及ぼす可能性が高いから世論が動き始めるかもしれねーが、それまで指くわえて待ってるわけにはいかねーだろ。
だから、俺とシキ、お前でなんとかするしかねーってことだよ」
「まー、とにかくやるっきゃないってことだよな?
オジさん、ぶっちゃけ、俺には何をどう動いていいかわからないから、指示してくれ。
俺はそれに従う」
「さすがよく言った。俺の未来の息子になるかもしれないだけあるな」
ガハハと笑ってシキの背中を叩くリキ。
いや、オジさん、、、あんた、自分の娘が結構やばい状態にいるのわかってる?
それと昨日まではサラとイチャつくの嫌がっていた気がしたが。
っとツッコミたいところは盛りだくさんではあるものの、リキの目は笑ってはいない。
少しでも落ち込んだ雰囲気を払拭したいのだろう。
子供が、ましてや溺愛している娘だ。
心配で心配でしょうがないはずである。
状況の逼迫具合を認識しても尚、シキの気持ちが自分の危険を顧みずにサラを助ける事に定まっているのはリキの気持ちが少し救われたように見えた。
今、リアル世界で起きている問題を認識しながらログインできるのはシキだけである。
決意新たなシキが万全な状況でAHに戻れるよう準備に入る。
まず、ホロジェクターグラスでAHの挙動の確認をする。
AHとハードは個別IDで紐付いていて、セキュリティを強化しているものあり、このホロジェクターグラスでのAHのログイン自体はシキしか使えないようになっていた。
ログアウトもすぐできる状態になっていた。これも現時点ではシキにしかできないことである。
ただし、支配されているAHのシステム自体の監視は厳しくなっているだろうから、ログイン、ログアウトを頻繁にしていると存在をバレる可能性がるので、戻らないとまずい時以外はやめようということにリキと決める。
特殊なスキル発動コマンドを持っていることは極力言わないようにもする。
ホロジェクターグラスとシキのプレイヤースキルが一連の状況に大きく関わっている可能性を考えつつも、どう考えてもVBCヘッドセットの性能を考えるとホロジェくターグラスでこのままプレイし続けるのはゲームプレイ上無理だろうと判断し、ホロジェクターグラスのマスターチップをリキが抜き出しVBCヘッドセットに組み込む。
「もうさすがにこの段階でVBCが嫌だなんていわねーよな?」
「もちろん最優先はサラを救うことだ。あーだこーだ言ってらんねーよ」
「よくいった。無事にサラを戻ってこさせたら、俺は、サラをお前にやることを認めてやるよ」
「ったく、さっきから話飛びすぎだろ。サラ本人の気持ちを考えろって。
サラが俺に対してどうであれ、俺はサラを最優先で救うのは変わらない」
シキの言葉にリキはニンマリする。
シキからの安心できる言葉がほしかったのかもしれない。
1時間ほどリキがVBCヘッドセットを弄り、VBCヘッドセット改を完成させる。
「シキ、VBCヘッドセット改の説明をしておくな。っとはいえ、大した違いはなくて一部追加機能をいれてみただけな。
完全に向こう主導の侵されている世界にいくからどこまで通用するかわかんねーけど、今の所お前しか持っていない機能が2つある。
特殊なスキル発動をバンバン生み出せる機能の追加コマンド。
厳密には思考コマンドとゲームプログラムが一致した時にしか挙動がされないってのが、AHのゲーム仕様になっているが、如何せんガイドラインどおりになっていないのを逆手にとって、お前の思考コマンドに関しては、プログラムが返答しなかったとして発信し続けてみつかった時にしっかり記録しておける処理を施しておいた。
それによって今後、何か自分にしかおきない何かが起きてもしっかりコマンドに追加されていくようになる。
ただ、正直これはただの希望的な追加処理でしかねー。
特にホロジェクターグラスのOSプログラムからは検知できなかったし、お前の身体能力との同期の結果生み出されたものって事を前提で考えて、特殊なスキル発動が安定してしっかりできるように改めてそこはコマンドプログラムを入れた形だ。
つまりなんの根拠もねーってことだよ。
あと、メッセージボックス機能も向こうが干渉できないように、または干渉してきた時はシキや俺にすぐわかるようにしておいた。
メッセージボックスは、俺のVBCと連動させておいた。何かあればそこでやりとりな。
2つ共どこまでちゃんと使えるかどうかはわからねー。どこまでいってもデバッグなしの追加仕様だからな」
「OK、わかった。それじゃ、行ってくる」
「お、おう!!シキ」
「なんだよ」
「なんか、悪りぃな。その、そんなアブねーところにまたお前を送り出しちまって・・・」
リキには、シキの決意を確認し、サラを助けに行けることを喜ぶ反面、また危険な目にあわせてしまうかもしれない罪悪感があるのだろうか。
さっきまでの一連のやりとりがリキなりのエールだったのかもしれない。
「何言ってんだよ。サラ連れて戻ってきたら、マジでもらうぞ」
「あ、あー、あいつにもよろしく伝えてくれ」
そう言ったリキはもしかしたらもう娘に会えないかもしれない覚悟を持っているようにも捉えられた。
「よろしく伝えた返答は、サラの口からちゃんと元気な声でオジさんに届けさせるよ。
んじゃ、いっちょ気合いれてくるわ」
シキはリキへの励ましと共に自分自身に対しても活を入れ、VBCヘッドセットを起動しアバターリンクを開始する。
次は明日の21時に投稿します。




