13話 ACT3-7
【イベントクエストクリア:《汚水洞》で上級ポイズンウーズを撃破】
ここでシキとサラのマイページのイベクエクリアのテロップが流れる。
流れ終わると同時に
【イベントクエスト:マティと母親を情報をポイズンウーズの毒から救う】
と新たなイベントクエストが発生する。
《ウーズのコア》を手に入れたシキ、サラ、ミティだったがまだまだ予断は許されない状況だった。
上級ポイズンウーズとの戦いで侵されてしまった毒素はシキが毒消しを飲んでみたが、やはり治る事はなく、マティも変わらず気を失いながら毒素によってHPゲージを減らしている。
色々と解決しなければいけない問題はあるにせよ、今はとにかく《汚水洞》からの脱出である。
「転移石を使うよ」
サラは黒い石を地面に投げつけると割れた反動で周りに電気を起こし小さなブラックホールのような穴を生みだす。
「ここに飛び込んで」とサラに言われるに合わせてミティはマティを抱きかかえたまた飛び込み、続いてサラも飛び込む。
シキも続きざまに飛び込もうとした時、
「・・・アァ・・・シヨ」
わずかに聞こえた音に反応し振り返るが誰もいない。
モンスターの奇声?
「シーちゃん何やってるの?閉じちゃうよ。早く来て」
サラの声のほうへ振り返りシキは小さなブラックホールに飛び込む。
飛び込んだ先は完全な暗闇で宙に浮いているような感じだった。
近くにサラやミティやマティがいる事は気配でわかるが正確な位置はわからない。
完全な暗闇に少しだけ気持ちが落ち着く。
落ち着くとともに気がつく減り続けるHPを気にしながらHP回復薬を飲みそうこうしているうちに暗闇の中に現れた外への道に向かうと《アルバの街》の教会の前に戻ってきた。
「さっきどうしたの?シーちゃん」
先についていたサラから飛び込むのが遅れていた事を気にしているような面持ちが汲み取れたが、今話するべきことでもないと思ったシキは「少しだけ周りを最後に見てた」となんともないような返答をしておく。
「ふーん」と明らかに信じていない様子のサラには気がつかないフリしてあわせるが、シキには伝わる。
本当、勘が鋭いよな・・・。
シキ、サラ、ミティ、マティは教会に入りNPCの神父に全員のHP全回復をお願いをして奥の集会室を借りそこの長椅子にマティを寝かせつける。
サラは《ウーズのコア》をシキから受け取りアイテムショップに行き上級ポイズンウーズの毒素を解毒する薬を調合してもらいにいく。
シキはサラを見送った後、HPゲージの減りだけは注意するようミティに伝えて少しだけ横にならせてもらって目を閉じる。
サラは教会を出て背にして街の歩道を左に走って行くとアイテムショップにつく。
アイテムショップに入りサラはNPCの調合師に《ウーズのコア》で上級ポイズンウーズの毒素を解毒するアイテムの調合をお願いする。
調合師から少しの間待つように言われ待機している時に色々な違和感について考えた。
マティの豹変。
上級ポイズンウーズの異様な攻撃スタイル。
そもそもこのイベントクエストをビギナーであるシキが遭遇することへの違和感。
ビギナーが遭遇できるレアイベントクエストとしてはハードルが高すぎる。
特にレベル制限がないレアイベントクエストであれば何かフラグがあるはず。
一部把握できていないがシキがしてきた行動を考えてみる。
不意に好きだと言ってしまった事も思い出し、悶えて恥ずかしくなる。
シキと一緒にいる時間を増やしてくて始めたAH。
あの頭の固いいシキに「うん」と言わせてやっと一緒にプレイできたのは嬉しいけど・・・。
タイミングがたまたま重なったのか、もしかしたらシキが何かしらのフラグを立ててしまったからなのか、今までと何か違う事が起きているように感じるのが不安。
シキの攻撃スタイルやパターンのイレギュラーもただ単に喜んでいるだけでいいのかな。
色々な想いや懸念が交差しているサラだった。
調合師から《ウーズのコア》と毒消しを調合した《ウーズの浄化液》を渡され急いで教会に戻る。
「戻ったよ」
サラが戻ってきたのをみてミティがシキを起こす。
「シキさん、起きてください」
横になっていたが完全に眠りにつくことはできなかったシキは声を掛けられたタイミングですぐに目を覚まし起き上がる。
「うっし」
「シーちゃん、疲れた?」
「そうだな。イベントクエストって毎回こんな大変なのか?」
「そんなことないよ。後で話そうとは思ってたんだけど、今回のイベントはレアイベントクエストだからかなり大変なほうだと思うよ。とりあえず、これ飲んで」
シキとミティに《ウーズの浄化液》を渡し、シキは自分で飲み、マティはまだ目を覚まさないためミティが少しつづ口に含ませ飲ませていく。
シキとマティの紫色だったHPゲージが緑色に戻る。完全に毒素が抜けたようだ。マティは目を覚まし始める。
「・・・、おねい、、、ちゃん」
「マティ!!」
目覚めたマティを強く抱きしめる。
「・・・、おねいちゃん、、、心配かけてごめんね」
「本当だよ、馬鹿」
シキとサラも顔を見合わせて安堵する。
マティの洗脳状態もなくなっているようでマティ自身がそのことに触れることもなかったので覚えていないのだろう。
ミティもその後シキとサラに目で訴えかけてきたがその事については言うのはやめようと首を横に振る事でその考えは伝わったようだった。
あとは母親に《ウーズの浄化液》を飲ませてあげればコンプリートである。
シキ、サラ、ミティ、マティは神父にお礼をして教会を出て道路を渡り立ち並ぶ建物の奥に入っていきミティとマティが住んでいる一軒家に到着する。
「「お母さん」」
ミティ、マティと二人が同時に声をかけて家に入る。
「はぁ、はぁ、はぁ」とベッドの上で苦しそうに寝ている母親に《ウーズの浄化液》を渡し飲んでもらう。
母親もみるみる毒気に侵された表情から顔色のいい状態の表情に変わっていくのをみて四人は各々表情を見合わせてほっとする。
顔色が良くなり閉じていた目を開けたミティとマティの母親はそこにシキとサラがいることを認識したようで起き上がろうとしていた。
「すいません、うちの子達が・・・」
この状況における経緯を母親なりに悟ったようでシキとサラはお礼を言われる。
「いえ、そんなことありませんよ。ミティちゃんもマティちゃんも小さいのに立派ですね。お母様からしたらそこが心配なのかもしれませんが」
「そうなんです。本当にこの子達は」
「ごめんなさい・・・」
マティが母親に謝り母親に抱きつく。ミティも抱きつきたそうだったので母親はおいでと二人を抱きしめる。
【イベントクエストクリア:マティと母親上級ポイズンウーズの毒から救う】
ここでシキとサラのマイページのイベクエクリアのテロップが流れる。
「コンプリートだな」
「お疲れ様、シーちゃん」
「サラもな」
じっとお互いを見つめ合う合間が少しだけ長かったのもあったのか、サラが恥ずかしがり目を逸らす。
サラとの距離感もこのAHを通じて変わりつつあることを感じ始めてはいた。
シキにとってサラは改めて大事な存在であることに気づかされている。
何度も何度もお礼をされたことはシキにとっては新鮮な出来事だった。
NPCのイベントとは言え困っている人を助ける事の自分の存在価値を得た気がしていた。
「シーちゃん、満たされた顔しているね」
そんなシキの表情を汲み取ってかサラはニコニコしている。
相変わらずのサラの汲み取りスキルにシキは顔を綻ばせる。
「リアル世界であんなに心の奥底からお礼言われる場面てそうそうないしな。リアル世界より濃厚な人間関係が作れそうってのが不思議な話だよな」
「うん、そうだね。リアル世界に色々な事情や都合が多すぎるよね。
もっと細かい事気にしないで素直の心で向き合っていけたらいいんだけど、対人関係で利害が及ぶ事が多いから中々そういうわけにもいかない。
その点AHは利害が絡むような事情や都合に巻き込まれる事が少ないからきっと素直になりやすいんだよ」
サラの言葉からはリアル世界の都合を考慮しながらもどこかで色々な矛盾を解決するための可能性が見出せない悲しさが入り混じったように聞こえる。
AHは自分の理想とするライフスタイルをこの世界で築いていきましょう。と最初のナビゲーションで言われた言葉を思い出す。
仲間と共に。という言葉もついていた。
リアル世界でできあがってしまった希薄な人間関係を取り戻していきたい気持ちがAHの運営には意図としてあるのだろうか。
シキの中で、この2日間の経験が考えさせられる出来事はすごく多かった。
「今日はこの辺にしましょう」とサラの言葉に従って、シキはAHをログアウトしホロジェクターグラスもシャットダウンし取り外す。
サラもログアウトし意識リンクを実体のほうへ戻し二人はサラの部屋に戻ってくる。
今日は金曜日。
土日もしっかりAHで遊ぼうね。とサラに念を押されシキは家に戻り色々な思いにふけりながら食事して風呂に入り寝る準備をして倒れこむように眠りについた。
サラもシキと分かれた後、食事して風呂に入り寝る支度をする。
シキが偶然なのか必然なのか遭遇したレアイベントクエスト。
あのレアイベントクエストの出現フラグが存在するのかどうかを調べておきたかった。
またリキにホロジェクターグラスとAHのアプリの特異性が存在するのかどうかを確認してみる。
明日に備えて色々情報収集を行ってひと段落したところで眠りについた。
13/13です。
本日は21時にもう一度投稿して、明日からは毎日21時に投稿します。
第一章で15万文字弱ですが書き溜めていますので、よろしければお付き合いください。




