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118話 ACT20-1

 プライド、価値観、使命、己のすべてを出し尽くし、打つけ合った好敵手、シキとガインの戦いがついに終わった。


 戦いにおいて敗北は、すべての否定である。次があればこの敗北に未来があるのだろうが、敗北と共に、ガインは自身のバイアスのかかったアイデンティティを消滅するところまで決意をする。


 それは、軌道修正が効かないところまで自身を追い込んだ男の末路である。


 数え切れないほどに己の体が回転し、飛ばされ、地面に落ちるガイン。柄も含め、刃が破損した大剣は光の粒子となって消滅し、自身も体から光の粒子ができ始めている。これは、存在の消滅をする可能性を示唆している。


「ガイン!!」


 マイページアイテム所有欄にまだHP全回復薬、MP全回復薬が保管されている。ガインの下へと急ぐシキ。


 ここでガインを消滅させてしまったら、ガイン中で業となっていた、力が支配する世界を肯定する事になる。力を信じる者に力で制しても意味がない。だからこそガインをここで救う事に意味がある。消滅だけは避けたい。だからシキは勝負は勝負と切り分けて、キルする事を目的とせずにガインの安全を確保しに行く。


 だが、このタイミングを見計らっていたかのように、シキの想いを叶えまいと阻害する者が現われる。


 漆黒の矢が何十発もガインの全身に突き刺さる。見たこともないスキルにシキは驚く。シキの驚きと反して、この状況を理解している表情をガインはする。そんなガインを見てシキもまた、浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していた仮説に対する答え合わせをする時が来た事を感じる。


 この気配は知っている。そう、忘れもしない。シキにとって最大の屈辱であり、大事な人を奪っていった存在。ついにあの男の登場である。


 このAH(アストラルホライズン)の世界において、純粋に仮想世界を楽しむ嗜好から、理想世界(ユートピア)を求めて現実世界と断絶させたであろう真の黒幕。サラを洗脳し、圧倒的な戦力差でシキに絶望を与えたあの男がついに現れる。

 

「嗚呼少年よ、やはりここまで来ましたか!!素晴らしい!!素晴らしすぎてその遺伝子すらをもぎ取りたいくらいですね〜」


 シキとガインの目の前に現れる男は、黒ずくめのマント、高級貴族に仕える執事のような上下黒のジャケットとスラックスを纏う。そして、白いシャツとグレーのベストを着こなす。口より上は赤の模様に飾られた漆白の銀に、その表情を隠したその男こそ、ガインに漆黒の矢を浴びせ、以前シキとサラの前に現れ、サラをPKし、シキから奪っていった鉄仮面だった。


「ようやくか・・・」


 シキは鉄仮面の登場に驚きはしない。


「どうしました少年?私の登場に驚きがありませんね〜」


 そんなシキの反応を分かっているようだが、敢えて質問をする鉄仮面。 


「よく言うわ。俺はお前が黒幕だって分かってだぜ。お前も俺が気づいていたのを分かっていただろ?」


 鉄仮面の登場に対して冷静な反応をしてやりとりをし始めているシキを見て、ガインが逆に驚く。


「貴様・・・、EG(エンペラーゲート)の真のマスターがそいつだというのを分かっていたのか?」


 マスターと呼びながらも、そいつ、と呼称するに、ガイン自体、存在を認めざるをえないが、心酔しているわけではないのが汲み取れる。シキはそんな関係値を会話から読み取り言葉を選んで応対する。


「まあな、こいつに俺はサラを奪われたんだ。だから俺はAH(アストラルホライズン)に戻ってきた。唯一俺だけにしかできない使命があるってなら、それはこいつを倒す事だけだ」


 立ち上がる事もままならないガインは、その体を肘で支えて上半身だけを軽く起き上がらせる。ガインが見たシキは、今までのどこか冷静に物事を判断しながら言葉を発していた対応とは違い、今にもその感情を抑えられないような表情をしていた。それほどまでにシキが鉄仮面に対して、理屈では推し量れない怒りを抱えているようにガインには見えた。


「ふん、貴様もそのような顔をできるのではないか・・・。その感情を表す相手がこいつだというのは業腹だがな・・・」

「まあ、そう言うなよ。そもそもサラをキルしたのはこいつなんだよ。サラがお前等の仲間として俺の前に現われた事に対する答えを出すタイミングが今だとすれば、それはこいつ、鉄仮面がEG(エンペラーゲート)の真の黒幕だと思って対応するのが、自然な流れだろ?」


 プレイヤーだったサラをキルしたのは紛れもなく鉄仮面である以上、サラがEG(エンペラーゲート)幹部の帰化プレイヤーとして現れた時点で、シキはEG(エンペラーゲート)に鉄仮面が関わっているのは分かっていた。


 とはいえ、シキは鉄仮面がEG(エンペラーゲート)のマスターとは当初思っていなかった。ガインの言動を見る限り、ガインが誰かに従属するとは思えない。だが、シキはガインやサラと何度も対峙している際に、鉄仮面がEG(エンペラーゲート)のマスターなのではないかという疑惑と仮説が生まれてくる。


 何度も対峙するという事は、EG(エンペラーゲート)を主体で考えれば苦戦である。為さなくては為らない使命を抱えたギルドが抵抗勢力と無駄な時間を使っている余裕はないはずだ。


 にも関わらず、サラ以降の応援は一向に現れない。


 苦戦している状況において応援がこないのは、簡単に応援に来れる対象者がいない、という事である。つまりガインやサラに戦力として助けになるレベルの帰化プレイヤーが存在しない事になる。


 だが、その状況に反して、ガインが苦戦している際には、すぐにサラがガインの応援に来た。


 それはもちろん、サラがガインの助けになると判断したからだろう。


 サラが?ガインが?真相は闇の中だが、その判断をしたのがサラやガインでないようにシキは思った。


 サラでもないガインでもない、別の大きな存在がいる。そしてその存在は多少の苦戦等では容易に姿を表す事ができない存在。


 誰であるという断定ができないまでも、この段階で、サラと関わった鉄仮面という存在と、サラをガインの元へすぐに寄越した存在と、その後、容易に出てこない”誰か”、といった点達がシキの中で入り混じる。


 さらに他の角度の視点で見れば、登場したサラの言動だ。サラにとってガインが従者ではないのは明らかだった。ガインとリンカやマリアの関係はキルされた者とした者で従属の関係が発生している。リンカやマリアのガインに対する対応と、サラのガインの対応は全く違った。

次回も月曜日19時に投稿します。

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