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思い出の定着  作者: 椎名未来
一章
2/7

メロンパンが好きだった話二

          



東北にある大学でも、夏は夏。ぜんぜん過ごしやすいだろうなんて考えてるのはアマちゃんだと俺はいいたい。

そんなわけで、冷房こわれてんじゃねぇのか用務員のジジィは何してやがるという大教室で、聞いてるだけで寝ててもいいとか、話したらそれだけで単位落とすぞとか、隣の人とは席を一つあけなくちゃだめだよとか、まぁとにかくいろんな教授の集中講義をのりきって現在十二時ぴったりに学食で飯にありついている。


 本日のメニューはリーズナブルな大学食堂ほこる塩ラーメン。無駄に多い野菜と独特のしなった麺が人気の一品。これを食べずしてこの大学のなにを語れるというのであろうか。いや語れない。で、

「なんでお前とメシ食ってんだろうかなぁ」

 俺がズルルと麺を啜った後、しなしなのもやしを口に入れる。俺はどっちかっていうと麺食なのでご飯系は二割り程度の頻度でしか食べない。

「なにそれー。なんか不満?」

 そのあんまり食べないご飯系にカテゴライズされる牛カルビ丼とサラダを俺の向かいの席で食ってる栞が言う。

まぁあんまり認めるのは癪だけど、結構可愛い系ではなく美人系なので別段黙って座ってれば俺も気分的にはいい。黙ってればだけど。……ちょっ癪だけど。

「どうせくにぴーも午後大脳病理学一般のやつ、一個あるんしょ? 私も同じ。ほーらどこにも不思議なことはないじゃなーい?」

「ありまくり」

 ていうかくにぴーって。

「お前、あー……早川さんとか鈴鳴さんとかどうしたんよ? あいつらと食えばいいじゃん」

 俺はトレイの横にある三つあるコップのうちの一つを開ける。俺はかなり食事中に水分を摂取するので三つでたりるかどうか微妙なところだ。

「みんなさぁ、午後のヤツ、どれもとってないからちょうど合わなくって。先にカラオケいっちゃったよー。今週中には実家かんえだってさ。そっちは? あの、ぼさーっとしたやつとなんか理屈っぽそうな人。いたら暇だから一緒に食べたりしてないんよー?」

「それは大いに残念無念ハラキリ切腹だが、人の名前くらい覚えとけよ。誡のやつは別んとこで食うって。午後サボんだと。飛鳥もそれに同じく」

 俺が最後の麺を口にいれ、どんぶりを持ってずぞーっとスープを一気飲みする。そしてまた水を飲む。まぁこんなんであんまり腹は膨れないけど。

「ふーん。みなさん不真面目だにー。その点ではくにぽんは大真面目だね」

「ぽんとかぷーとかいうなよ」

「あーはーー。いーまさらじゃーん。もう何年付き合ってと思ってんのよくにぴー」

 俺はコップを置いて、食堂のカレンダーで日付を確認して、腕を組んでしばし黙考したあとにうんと頷いて、

「十一年と十ヶ月」

「マジメに計算すんな」

 突っ込みを頂いた。

「ていうかさぁ、」

 カレンダーを見たついでに少し気になったこと思い出した。

「盆明け早々に授業っつーのもだるいなぁ。このへんは教授の謀略だと思うんだが」

 栞は俺と違ってこのクソ暑いのに湯のみの緑茶を啜って、んーと唸る。

「そうなんだよねー。うちも父さんとかお母さんとか今の時期いろいろ忙しいから私も手伝いたいんだけどね」

「あーやっぱそうなんか。まぁこっちもねーちゃんが落ち込む時期なんでいろいろ忙しい、ってわけで俺は終わったら院のほうに顔だしてくっから」

 ……?なんか栞が眉を顰め、汚いもの、例えば一週間あらっていない男物のトランクスとか、をみるような目で見てきた。

「……邦彦、あんた気遣いってもんないのね」

 俺は少しにやりと笑って、

「身内だからな。気遣いはほんのちょっとのほうがちょうどいいんだよ。ていうかきーつかうから今日顔出すんだろ。もっともお前には気遣いなんかゼロに近いけどなー」

「はーやだやだ。そんなだからこの前の彼女にも逃げられなんじゃない」

「んー……お前前から思ってたけど何気に食うの早いよな。太るぞ。確かこの前四十キロ、」


 手刀が飛んできた。軌道は首。目の視界で捕らえてはいたが避けれないほどじゃない。が、ぎりぎりでかわす。


「気遣いないからいってやったのにー」

 俺は口に残った麺を啜って顔を引いたままにこっと笑った。

「……ご近所で地元民って嫌よねー。からかう相手がくにちゃんしかいなくなるからなぁ」

 これってからかいなのか。それだったら驚きだ。

「そりゃお互い様。皆様お家が恋しいのよ」

 あっそ、といって栞が立ち上がり先に早々にトレイを返してきた。

「先いくからね。希未さんにちゃんと気ー遣いなさいよ」

 はいはい、と俺はコップの水に口をつけ、栞が俺の横を通って、

「ぶっ!!」

 一瞬なにが起こったがわからなかったけどすんごい衝撃が首筋にきて、すこし目がくらくらしてあと少しでブラックアウトしそうになったので水を噴出した。俺は急いで後ろを振り返るとにこにこ笑いながら栞が学食の出口に向かって早歩きで逃げていた。

「てめ! 首に手刀は反則、っていうか死ぬだろが!」

「さっきのお返しー」

 そういって右手ををひらひらさせながら階段を上っていった。あー……ったくもう。手加減しらねぇんだから。マジで首すじが痛い。


 葉山栞。俺と同じ十九歳。東北大学医学部の一年で俺とご近所の幼馴染。断っておくけど異性の幼馴染なんていう甘い響きになんのメリットもなく、まぁアレはそれなりに美人だし? まぁもてるそうだし? そのへんはみとめるけど俺をからかう、時には殺す勢いで俺にちょっかいだしてくるというどうにも頭の中にはディズニーとミニーが同棲してんじゃねーのかというちょっとガキっぽいところがあるのが難点。

 聞くところによると俺だけ、のようだけど。まぁ当たり前。出会いが出会いだし。

俺と栞は小学生の時、空手をしてた。初めの出会いは別の小学校にいた当時道場のちびっ子最強だった栞を練習試合で負かして、なんでか俺の小学校に転校してきて、お決まりのセンセーの挨拶の途中に取っ組み合いの喧嘩が勃発して、それをとめようとしたセンセーが流れ弾の拳をくらって、鼻血をだしながらなきべそかいて、

「暴力児童の相手はできません! クラスを変えてください!」

 と校長センセーにいったのは今のその小学校でも語りつがられてる伝説。いや、噂?

 はぁっ、とつまらんこと思い出した俺はため息をついてトレイとなにもはいっていないコップ五杯を戻しに立ち上がった。



 ねーちゃんは別に文型ってわけじゃないけどどうやらそっち系はあってたらしく、途中で転部して現在は人類生物学の専攻で院生をしている。……まぁ気持ちっつーのはだれでも変るもんだし。

 俺が授業中に居眠りしていた栞の頭を支えていた腕おもいっきりはずして机にガンっとぶつけてやった後、そのまま大学院がはいってる研究室にいった。

 このへんまでくるとさすがに機械工学とか一緒なもんだから廊下はかなり雑多な感じ。エレベーターで四回までいって、「第四実験室」とプレートがかかってる真新しいしろい扉をノックする。そして失礼しまーすといってドアをあけると、

「うわっ!」

 なんだこれ……。すげぇ暑い。半端じゃなく。しかもなんか麻酔のような変なにおいがする。

 デスクとコンピューターが置かれている目の前の部屋じゃなくて奥の部屋か……。

まさかまた……。

 俺は実験室といわれればそうかもと思えるし、倉庫ですといわれればそうかもとおもえる鴫原研究室に入っていく。

壁にはいろんなものがしきつめられ、それでいて新築の部屋を汚く見せたくないのか整然と整理されている。その部屋の実験台の中央で変な形のフラスコにつながれ、ほかにもアルコールランプでこぽこぽいってる器具の前で、パイプ椅子にのけぞって寝ているかのような男性がいた。見る限りねーちゃんはいない。

「ん? おや」

 気配に気づいたのか、男性、柏尾正樹さんがその端整な顔を不精ひげとねむたそうなめで見てくれた。

「おおー、邦彦君。なに? お姉さんに会いに来たのかい」

 そういってよいしょっと体勢をもどし、フラスコに溜まった透明な溶液を水で薄め、少ししてちびちび飲み始める。

 俺は柏尾さんの向かいに腰をおろしてげんなりしながらいった。

「……なにしてんすか」

「なにってー……。酵母菌つかってのアルコール発酵?ほらー、これならお酒かわなくていいじゃん」

「だからこんなに暑いのか……」

 発酵に必要なのは養分と温度。室内が三十度ってのも頷ける、が、その留守番の研究員がかってに酒つくって酔っ払ってるっていうのは頷けない。

「……ふぅ。よくねーちゃんはこんなとこ辞めませんよねぇ」

「まぁあれも好きだからねぇ。俺もなんでこの研究室いるわかんないんだけどねぇでも、」

 ………ん?

「でもなんすか?」

「あ、いやなんでも・・あ、来たよ。ほれ」

 柏尾さんの指先にしたがって目線を出口のむけるとコンビ二の袋をぱんぱんに両手にさげたねーちゃんが俺をみてぼけーとしていた。



          

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